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中国分析 ~「虎もハエも同時に叩く」習近平が向かう先~ なぜ江沢民一派が検挙されるのか?

◆「反腐敗」という名の元に粛正される中共幹部・江沢民一派

習近平 [1]

「虎もハエも同時に叩く」 と公言した中国の習近平国家主席。 腐敗撲滅のために、同志である太子党幹部の王岐山を共産党中央規律検査委員会に据え、無制限の捜査権をもってして次々と共産党大物幹部を挙げている。
かつて中国の司法・公安部門のトップであり、莫大な石油利権を持つ周永康 元政治局常務委員に始まり、6月には元解放軍のNo2・徐才厚。そして、8月には中国軍制服組元トップの郭伯雄までもが収賄容疑で調査を受けている。

また、これらの大物幹部以外でも、大臣や次官クラスの高官を次々と検挙し、これまでに摘発された汚職官僚や党員の数は、5万人以上とも言われている。 まさに「虎(大物幹部)もハエ(下級官僚)も同時に叩く」「腐敗との闘いにおいて、個人の生死や周りからの評価は気にしない [2]」と述べた通り、習近平は有言実行を貫いている。

従来であれば、中国共産党内部には、『刑不上常委』(刑は常務委員には及ばない)という不文律があった。しかし、今回、習近平はこのタブーを破り、聖域に踏込み、暴走とも思えるほどの徹底ぶりを見せている。
その裏にはどんな意図があるのだろうか?

まずは、失脚した人物の基礎情報から・・・

○周永康(72歳)

syueikou [3]

2012年まで中国共産党の序列9位の中央政治局常務委員。現役時代は法務公安部のトップに君臨し、全国250万の警察組織を率いた。

青年時代は、文化大革命に感銘を受け、毛沢東=権力者に憧れる。北京石油学院を卒業後、国内油田の石油技師などに従事。1985年 党中央に抜擢後、自身の妻の叔母の夫である江沢民に接触。1996年 江沢民から中国最大の国有石油会社「中国石油天然気総公司」(CNPCの前進)の党書記兼社長に任命されて以降は、石油利権を握り不正蓄財を重ね、江沢民の忠臣として政治献金を遂行。江沢民一派を“石油閥”と言われるまでに成長させた中心的存在。
今回の収賄容疑で差押えられたその資産は、預金・債権・不動産・絵画・金銀等、900億元(約1兆5,000億円、約150億ドル)相当と見積もられている。また、周永康側近や親族含め300人近くの関係者が拘束されている様子。
また、大紀元 [4] によれば、収賄のほか、クーデター(政変)容疑でも拘束。習近平が国家主席となることに反対し、薄煕来と共謀の上、習近平暗殺を企てていたとも伝えられている(ゆえに習近平の政敵であった薄煕来も失脚→2013年10月に無期懲役の実刑)。

 

○徐才厚(71歳)

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(左:薄煕来と右:徐才厚)

軍事委員会の前副主席。1963年、人民解放軍に入隊し瀋陽、吉林、済南などの軍区で重要ポストに就く。2002年、江沢民の党総書記辞任後も、党中央軍事委員会主席の座を手放さなかったが、胡錦濤政権時代の2004年、江沢民徐才厚制服組の最高位といわれる中央軍事委副主席、総政治部主任に昇進させ、軍における自身の影響力を残し、胡錦濤政権を牽制した。中共においては軍の力が政治に与える影響が大きく、いわば江沢民支配の代理人を担った。
総政治部主任は、将校の人事に関与する役職のため、部下の昇進の見返りとして賄賂が横行。中将クラスになると昇格のためには、一千万元(約一億六千万円)以上の賄賂を中央軍事委メンバーに渡す必要がある。官職売買で100億元以上を懐に入れたと言われる。尚、徐才厚摘発の原因は汚職ではなく薄熙来英国人実業家事件と言われている。
2013年3月の全国人民代表大会で引退するも、2014年6月30日、習近平国家主席が主宰する中央政治局会議で、徐才厚の党籍を剥奪することを決定。収賄などの疑いで軍事検察機関に送致される。
逮捕時、日本円で1枚に1,700万円入ったキャッシュカードを800枚(136億円)持っていたという噂もある。

この徐才厚と経歴が酷似している、もう一人の軍幹部である郭伯雄も徐才厚と並び、軍における江沢民派のもう一人の代理人となった。

中国軍制服組元トップ、郭伯雄氏も収賄容疑か

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2014.8.12 22:30

香港の人権団体、中国人権民主化運動ニュースセンターは12日、中国人民解放軍の最高指導機関である中央軍事委員会の郭伯雄元副主席が、収賄容疑で当局の調査を受けていると伝えた。副主席は制服組の最高ポスト。部下の昇進を手助けした見返りに賄賂を受け取った疑いがあるという。共産党総書記が兼務する軍事委主席の下で、郭氏と共に副主席を務めていた徐才厚氏は6月に収賄容疑で党籍の剥奪が決まった。同センターは、軍人事は郭氏と徐氏の同意が必要だったと指摘。収賄の詳細な内容には触れていない。(共同) MSN [6]

○その他

「犠牲者第1号」となったのは、李春城四川省党委副書記だった。「李春城は四川省に愛人を200人も囲っていた」「隠しマンションも100軒保有していた」などという報道を連日、官製メディアが行って失脚させたのだ。李春城は、周永康を通じて「四川省利権」江沢民献上していたキーパーソンだった。

続いて、中国の富の6割強を握る国有企業群を統轄する蔣潔敏国有資産監督管理委員会主任が、昨年9月、就任わずか5ヵ月余りで失脚した。蔣主任は元中国石油社長で、やはり「国有企業利権」を江沢民に献上するキーパーソンだった。 ゲンダイ [7]

多くのメディアでも言われているように、上記の人物の共通項は、ほとんどが江沢民一派であることだ。習近平も含む太子党閥の幹部は、一人も摘発の対象になっていない。また、摘発された幹部の中には「共産主義青年団幹部」(共青団派)の経歴を持つ人=胡錦濤一派もあまり含まれていない。これは明らかに、粛正の対象を選別した権力闘争だ。

koutakumin [8]

 (江沢民)

江沢民派(NHK) [9]

(画像はNHK [10] より)

共産党内部は、江沢民が上海閥と太子党、胡錦濤が北京閥の団派と2大勢力に分かれていると言われる。(参考:連載!『中国は誰が動かしているのか?』5 欧米の闇勢力と中国内部派閥の関係は? [11]

中国の政界では若い政治家が抜擢される2つのルートが存在する。1つは、有力な政治家の子弟であるなど、良家の出身の場合(一般に「太子党」と称される)。もう1つは、いわゆる「団派」と呼ばれる、中国共産主義青年団の出身者である。中国共産主義青年団の中央書記処第一書記を経た大物政治家には、胡耀邦(フー・ヤオバン)元総書記、胡錦濤(フー・ジンタオ)国家主席、李克強副首相などがいる。中国共産主義青年団出身者で抜擢された政治家の大部分は一般家庭の出身であるため、比較的庶民に近いと見られ、こうしたことからも中国の政治情勢を読み解く際に「太子党」VS「団派」の構図を使って解説されることが多い。一部のメディアや海外メディアの多くは、今回の省レベルの団委書記の人事に注目し、「太子党」VS「団派」の構図に基づいて、中央での太子党優勢の状況に対抗し、「地方で逆襲の挙」が行われていると報じるメディアさえある。しかし、より理性的な分析をする人々は「団派」にこだわり過ぎるべきではないと主張する。中国の各レベルの政府高官は若い時はほぼ100%が中国共産主義青年団員だからである。また、中国共産主義青年団は垂直的な組織ではなく、各省・市の団委書記は各省・市の共産党委員会が任命している。そのため、地方の共産主義青年団委員会と中央の共産主義青年団委員会の関係よりも、同レベルの共産党の各級委員会との関係のほうがより緊密だからである。(翻訳・編集/HA)
レコードチャイナ [12]
しかし、引用文中にもあるように、太子党と団派という見方のみで共産党を括るべきではないだろう。
というのも、国家主席になる前の習近平は、江沢民後押しを受けていたためだ。7年前、国家主席だった胡錦濤は、自身の後釜として同じ団派の李克強現首相を強く推していた。一方の習近平は、江沢民派の曽慶紅らによって後押しを受け、その後の2012年、国家主席の座を掴んだ。つまり、かつて支援されていた江沢民一派(習近平も太子党/上海閥)を習近平が追い込んでいる~恩を仇で返す~形になっている。
そして、習近平が一大勢力である江沢民一派を追い出せるのは、(かつて敵方であった)胡錦濤一派と手を結んでいると見なすことができる。
習近平王岐山を使って旧江沢民派をおいこむ一方で、胡錦涛派からの「犠牲」は少数にとどまっている。
陰に描かれるのは太子党の習近平派と旧胡錦涛派の呉越同舟、こうなると軍を握っている方に力点が偏重する可能性がある。
つまり、これまでは江沢民派+太子党の「連立政権」だったが、これからしばし「習近平主導の太子党」+前胡錦涛派の「連立」になるだろう。
宮崎正弘の国際ニュース・早読み 周永康失脚の次は? [13]
kokinto
(胡錦涛)

◆2.江沢民と共産党の背後にいる金貸し

では、なぜ江沢民一派に固執するのだろうか? 習近平胡錦濤一派と手を組む理由はどこにあるのか?
主席が江沢民派勢力を党内から一掃しなければならない理由は実に簡単である。自身、江沢民派の後押しによって今の地位についたが、2012年11月の党大会で習近平指導部が誕生した時、「氏擁立」の功労者を自認する江沢民派はその勢いに乗じて、新しい最高指導部の政治局常務委員会に自派の大幹部を大量に送り込んだ。その結果、7名からなる常務委員会に江沢民派幹部が4名となり、習近平指導部が江沢民派によって乗っ取られたようなものだった
(中略)
その一方、胡錦濤前主席の率いる共青団派は主席の江沢民派潰しに助力していることの理由も実に明快である。
2012年11月までの胡錦濤政権の十年間、胡錦濤主席自身と共青団派はずっと、党内と軍内最大勢力の江沢民派に圧迫されて散々虐げられていた。なりふり構わずの江沢民派幹部の猛威を前にして、胡錦濤主席は忍耐と我慢を重ね、時に泣き寝入りを余儀なくされることもあった。
当時の胡錦濤主席はどうしてそれほどまでに江沢民派を恐れていたのだろうか。その理由は実は二つあった。一つは江沢民派大幹部の周永康が「中央政法委員会主任」のポストに就いて中国の警察力を一手に握っていたからだ。そしてもう一つ、前述したように、江沢民は「引退」してからも、徐才厚郭伯雄という二人の軍人を中央軍事委員会の中枢に送り込んで、彼らを代理として軍の指揮権を実質上掌握していたからである。つまり胡錦濤政権時代の十年間、軍と警察の両方は実際、胡錦濤自身によってではなく、江沢民派によって牛耳られていた。だからこそ主席はずっと、江沢民派に忍従する以外になす術はなかった。
別の意味で言えば、胡錦濤政権時代の十年間、江沢民の代理人として「胡錦濤虐め」に直接に関わったのはまさに警察トップの周永康と制服組トップの徐才厚郭伯雄であった。したがって、政権になってから、胡錦濤前主席と彼の派閥が主席の江沢民派撲滅作戦に加担したのはむしろ当然の成り行きであり、その腐敗撲滅運動の最大のターゲットになったのは周永康・徐才厚・郭伯雄の数名であったことの理由もまさにここにあった。 Wedge [14]
つまり、習近平と前国家主席の胡錦濤とは、対江沢民という面で利害が一致したのだ。前政権から続く共産党内部の派閥闘争の清算が今回の粛正の動機の1つと言える。
だが、それだけではないだろう。江沢民一派は、かねてからロスチャイルド家と親交が深い。上海は、旧くはアヘン戦争後に、サッスーン商会が上陸した場所であり、蒋介石の国民政府を支えた浙江財閥の本拠地でもある。ロスチャイルドによるアジア支配のためのHSBC(香港上海銀行)も設立されており、上海閥=江沢民一派とロスチャイルド傘下のロイヤルダッチシェルとも関係がある。彼らの取引関係は日経のニュースでも取り上げられているほどだ。
米オバマ大統領のグリーン政策で成長したものの経営が事実上破綻した米EV(電気自動車)ベンチャー、フィスカー・オートモーティブを巡る中国自動車大手の買収合戦が大詰めを迎えている。
 民営大手の浙江吉利控股集団と国有大手の東風汽車集団の一騎打ちの様相だが、その裏で蠢くのは、中国の自動車業界の秩序を作り出した江沢民元国家主席と200年以上の歴史を持つ金融財閥ロスチャイルドの影だ。
「フィスカーの件ならば、ジェニファー・ユーに聞けばすぐに分かるよ」。自動車業界に詳しい外資系投資会社幹部は漏らす。ジェニファー・ユーとは何者か。中国名は兪麗萍氏。創業者がユダヤ系とされる欧州の金融大手ロスチャイルドの中国部門の代表で、江氏が息子のようにかわいがっている男性の妻といわれる。
2013/3/28 11:00 日本経済新聞 [15]
一方で、上海閥・江沢民ロックフェラーとも関係を持っている。石油閥繋がりだ。
江沢民曽慶紅ら上海閥は、裏側で巨額の冨と私服を肥やすためには何でもする人達だ。裏で大きくアメリカのロックフェラー家の支援を受けてきたし、自分達自身が「石油党」でもあり、大きな資金を隠し持っているだろう。それゆえになかなか強力である。
「上海閥とロックフェラー」(副島隆彦著 世界権力者・人物図鑑より)
つまり、習近平胡錦濤一派が追放している江沢民一派の背後には、金貸しであるロスチャイルドロックフェラー両者が存在しているのだ。江沢民一派の駆逐には、ロスチャイルド vs D・ロックフェラーの力学も影響していると見ることができる。
ロスチャイルド(&J・ロックフェラー)の力がD・ロックフェラーに勝っているという現在の状況認識の中で、江沢民一派の追放が何を意味しているのか? 考えられるのは、
 1)共産党の金貸し・ロスチャイルドシフト、即ちD・ロックフェラーとの縁切り
 2)金貸し支配=ロスチャイルド支配からの脱却・抵抗
のどちらかと思われる。1)の場合は、習近平胡錦濤一派がロスチャイルド金融ネットワークと手を組むということになる。2)の可能性は低いが、BRICs包囲網による脱米・脱ドル、脱金貸しの方向に進むことになる。
改・太子党団派最新図 [16]
【団派・北京閥 と 太子党・上海閥 と 金貸しの構図(仮説)】

◆3.習近平+胡錦濤が向かう先

対立する国内共産党勢力を排除した後、習金平自身が派閥を広げ、中国をコントロールしていくのだろうか?
今後、当シリーズでは以下の内容について追求していく予定です。
○BRICS開発銀行の目的
 7月に計画が発表されたBRICS開発銀行。打倒IMFを想定した構想であり、米国資本を抜きとした経済圏の構築。 IMFの最大出資国は米国であり、明らかに脱米、ドル基軸通貨体制からの離脱の動きと見られる。
○ロシアへの急接近
 脱米を視野に入れれば、当然新たな大国との政治的・経済的関係が急がれる。隣国であるロシアと天然ガスの購入契約を結んだ中国。習近平&胡錦濤とプーチンとの関係はいかに?
○シルクロード経済ベルト構想とは?
 ロシア、中央アジアの人口集中地域を拠点とした経済ベルト構想。
続きは次回へ。
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