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反グローバリズムの潮流(イギリスのEU離脱、EUの本音はイギリスのEU離脱阻止か?)

eWorld190124-thumb-720xauto-150842 [1]イギリスのEU離脱、イギリスの国会でEUとの合意案が否決され、このままだと合意なき離脱に突き進む可能性が高いことを、前回 [2]はお伝えしました。その後、イギリスの国会で、バックストップ案を見直す議決が採択され、問題はバックストップ案の見直し1点に絞られました。何故バックストップ案の見直しをEUは認めようとしないのか、調べてみました。

バックストップ案の問題を理解するには、イギリスの北アイルランド問題を理解しなければなりません。アイルランド島にはアイルランドと言う独立国と、イギリス領の北アイルランドがあります。そして北アイルランドにはイギリスからの独立、アイルランドとの統合を求めて戦ってきた長い歴史があります。それが、現在では平和協定を結び、アイルランドと北アイルランドの間は国境管理が廃止されているのです。紛争を再発させないために、イギリスもアイルランドもEUを離脱しても国境管理は廃止したままにしたいのです。

一方で、イギリスがEUを脱退すると、EUに加盟しているアイルランドと、EUを脱退したイギリス領北アイルランドの間で、貿易や人の行き来に何らかの制約を設ける必要が出てきます。そうしなければ、イギリスはEU加盟に伴う義務だけを放棄して、自由貿易と言うメリットだけを享受できることになってしまいます。

これに対して、イギリスはEU離脱の移行期間中に、特別な税関・通商合意をして、ヒトとモノの行き来は自由にしたままに出来ると主張しています。しかし、その具体策が今は無いので、もし移行期間に特別な税関・通商合意が出来なかった場合の安全策(バックストップ)を、EUやアイルランドから要求されています。合意ができるまでイギリスはEUの関税同盟内にとどまることとされているのです。これでは、EUを離脱したことにならないと、イギリス国内では大きな反対が起こっている訳です。

イギリスが同意なき離脱に突き進めば世界経済が混乱する事は明らかで、EUがもう少し譲歩しても良さなものですが何故EUは譲歩しないのか。鍵は、特別な税関・通商合意をして、ヒトとモノの行き来は自由にしたままに出来る、というイギリスの主張にありそうです。

良く考えてみれば、これが実現したら、EUの制約を受けることなく、ヒトとモノの行きだけは自由に出来るのですから、EUを離脱する国が続出する事は間違いなさそうです。これが実現したら、EUは崩壊します。バックストップ条項とは、イギリスのEU離脱を骨抜きにして、実質的なEUの権限をイギリスに対しても残す方策なのです。

EUは、バックストップ条項をイギリスが認めるまで協定の見直しには応じず、EU離脱期限の延長に持ち込むつもりだと思われます。そして最終的にはイギリスの国民投票のやり直し、EU残留を狙っているのではないしょう。

このままでは、EUもイギリス国内も、それで合意されず、結果的に合意なき離脱と言う、最悪の結果に終わる可能性が高そうです。

 

■英議会でのEU離脱協議の内容 不透明感高まる離脱の行方2019年1月24日 [3]

離脱に関する内容をまとめた草案でいくつか重要な事項が決められた。まず、「移行期間」が2019年3月29日から2020年末までと定められた。移行期間は、1度だけ延長が認められる。また、英国の対EU債務の解消(清算金)に関しては、390億ポンドで合意に達したとみられる。

最も重要なのが、EUがアイルランド国境問題に関する「安全策」(いわゆるバックストップ案)を定めたことだ。安全策とは、英国領である北アイルランドを一定の期間、EU関税同盟に残す措置を言う。安全策の意思決定権はEUにある。そのためメイ政権内では、EUとの離脱案を受け入れることはできないとの主張が増えた。メイ首相はEUに譲歩を求め、安全策の発動期間を1年限定とすることなどを求めたが、EUは要求を拒否した。この結果、1月15日、英下院で離脱協定案が否決された。

国民投票の再実施に問題となるのが、英国の法体系がコモンローであることだ。これまで、国民投票のやり直しを求めた判例はない。仮に国民投票が実施できたとしても、反対派の有権者らが英国政府などを相手取り、当初の結果に従わなければならないことを求める裁判を起こす可能性もある。

欧州大陸の各国にとっても、ハードブレグジットのリスクは大きい。ドイツをはじめとするEU残留国(27カ国)の対英純輸出は黒字だ。中国経済の減速を受けてドイツを中心にユーロ圏の景況感は悪化している。ドイツやイタリアを中心にポピュリズム政治家への支持も増えている。フランスでは、マクロン政権への批判が高まっている。その中で、ハードブレグジットが現実のものとなり、物流が大きく混乱することはユーロ圏経済のさらなる減速につながるだろう。政治リスクが高まることも考えられる。そのため、離脱期限の延期を検討するEU加盟国が増えている。

ただ、時間的な猶予を設けたからといって英国がEUとの離脱協定案を受け入れる保証はない。メイ首相は合意なきEU離脱の可能性を排除していない。また、英国議会は首相を信任した。一方、欧州委員会としてもドイツなどの政治基盤が弱体化する中で、英国に譲歩することは避けたい。譲歩すれば、EUあるいはユーロ圏からの離脱を主張する政治家の台頭につながる恐れがあるからだ。

■なぜイギリス国民はEU離脱を選択したのか? 今後の展開は? 混迷を極めるブレグジット問題を解説2019年1月24日 [4]

メイ首相は離脱案の代替案を出すと言ったにも関わらず、僕には「私たちが言っても議会に通る見込みはないから、議会で合意できる話を持って来てください」と言っているように聞こえます。「議会で話し合って、落としどころを見つけて、代替案を持って来てください。それである程度合理性があるものであれば私たちはEUと話をします」というかたちにしているわけです。

僕は、合意なき離脱はできないから、EUとの話し合いをもとに離脱期限を数カ月ほど後ろ倒しすることが数少ない現実的な選択肢だと思います。EU側も必死で「合意のない離脱だけはやめてくれ」と言っていますので、イギリスが離脱期限を後ろ倒しにしたいと言えば、それを受け入れると思います。

■英 離脱再交渉要請へ 下院可決 EUは拒否表明2019年1月30日 [5]

英下院は29日、先に否決した英政府と欧州連合(EU)が合意した離脱協定案をめぐり、離脱後の混乱を避けるための安全策に関する条項の見直しを求める議員からの提案を可決した。これを受けてメイ首相はEU側との再交渉で歩み寄りを求め、見直し案の2月13日ごろの議会承認を目指す。

ただ、EUのトゥスク大統領は、安全策の入った離脱協定案が「最善かつ唯一、秩序だった離脱を保証する手段」と強調。1月29日、再交渉を拒否する考えを改めて表明した。ロイター通信によると、アイルランド政府も再交渉を受け入れない意向。フランス大統領府も同様の考えを示した。

下院ではこのほか、与野党議員による複数の提案が審議され、「合意なき離脱を拒否する」とした別の提案も可決。一方、政府の離脱案が2月26日までに議会で承認されなければ、離脱延期を下院に提案するよう首相に要請する内容の野党議員の提案は否決され、離脱の主導権は首相が維持する形となった。

■英EU離脱、最大の障害「バックストップ」とは何か2019年1月30日 [6]

英国とアイルランドは、1998年にベルファスト合意を結び、英領北アイルランドとアイルランドの約500キロに及ぶ境界線では国境管理が廃止された。また、アイルランド島全域が同じルールや機関により運営されることになり、北アイルランドは英国内でも特殊な位置づけになっている。英国のEU離脱(ブレグジット)により、国境で検問が導入される可能性がある。

メイ首相は、20─44カ月の移行期間中にEUとの間で交渉する特別な税関・通商合意により、英国とEUの全境界で円滑な往来が実現するため、アイルランド国境を通過する物品に対して厳格な検査を行う必要性は生じない、と主張している。

では何が問題なのか、アイルランド政府が、EUの支持を受け、この将来的な通商協議が失敗に終わった場合に備えた「保険」を求めていることだ。その保険とは何か。厳格な国境管理を回避するのに必要な「代替的な取り決め」が取り交わされるまでの間、英国はEUの関税同盟内にとどまるとしている。

■英国EU離脱で、北アイルランドの本当に「マズい」状況。鍵を握るアイルランド首相はどういう人物か2019年1月31日 [7]

北アイルランドでは、一応の冷たい平和は保たれているものの、プロテスタント系で王党派で英国に所属意識をもつ人と、カトリック系で共和派でアイルランドに所属意識をもつ人に分裂している。2017年3月より、政治危機が訪れている。北アイルランド議会(90議席)の選挙が行われたのだが、両派は一つの政府をつくるのに失敗して、いまだに無政府状態である。

ブレグジット問題で大きな鍵を握るのは、実はアイルランドである。アイルランドの首相レオ・バラッカー首相は、たくさんの特徴をもっている。まず、若い。40歳。41歳のマクロンと同じく欧州の若いリーダーだ。父親がインド人、母親はアイルランド人である。彼は父親と同じく医者である。そしてゲイであることを公表している。所属政党は、中道右派である統一アイルランド党である。バラッカー首相は、英国とEUが交渉を離脱交渉を始めたときから、「アイルランド島を北と南に分ける国境を設けていはいけない」とEU内で主張して積極外交を展開し、加盟国の支持を得たのである。

対立の始まりは、1937年のアイルランドの独立である(1922年とも言う)。1972年には、北アイルランドのロンドンデリーで、デモ行進中の市民27名が、イギリス陸軍落下傘連隊に銃撃され14名が死亡、13名が負傷するという「血の日曜日事件」が起きた。アイルランド統一を目指すカトリック系の武装集団「IRA」が、あちこちでテロを起こすようになった。30年間の争いの間、3200人以上の人が亡くなり、4万2000人以上の人が負傷した。1998年、「聖金曜日の合意(ベルファスト合意)」でやっと平和が訪れた。

アイルランド首相は、断固としてバックストップを維持することを主張している。EUの中には、合意なき離脱は本当にマズいので、メイ首相が新たなプランを議会で通過させられるように、少し手加減したらどうかという意見が出始めているという。しかし、アイルランドはEU加盟国。EU側は、公式には「再交渉はない」という態度を崩していない。EUの意志を変えさせるには、アイルランドの意志を変えさせなければいけない。それもできないのなら、メイ首相と政府が、言わずとも残留派なのか、強硬離脱派なのか、はっきりと態度を決めることだ。そうすれば、EU側の態度は変わる可能性がある。でもやっぱり無理だろう。

■EU「ブレグジット協定は再交渉しない」 アイルランド国境の扱いでこう着2019年1月31日 [8]

欧州議会で演説したEUのバルニエ首席交渉官は、アイルランドと英・北アイルランドの国境で厳格な国境検査を避けるには、バックストップが「現実的な解決法」だと強調した。

バックストップが発動すると実質的にイギリス全体がEU関税同盟にとどまるほか、北アイルランドがそれ以外のイギリス各地と別扱いになることが問題視されている。また、イギリスとEU双方の合意がないとバックストップから離脱できないことから、この状態が恒久化するとの懸念もある。

メイ首相は、バックストップの代替案をいくつか持っており、それをEU首脳と協議したいと話している。代替案としては、国境を行き来する物品の検査を避けるための「貿易業者認可」スキームや、各種規則の「相互承認」、そして「技術的」措置などが挙げられる。しかしグレッグ・クラーク・ビジネス・エネルギー・産業戦略相は民放ITVの番組で、「技術的な解決策」が整っているとは思っていないと語った。メイ首相はほかにも、バックストップに期限を設けることや、双方の合意なしに一方的に離脱できる条項を盛り込みたいと考えているが、どちらも過去にEU側から拒否されている。

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