2013-05-30

大恐慌の足音・企業は生き残れるか?第13回〜テレビ局・新聞社の苦境〜

今回はマスコミ(テレビ・新聞)の経営状況を扱います。
これまで電機業界、自動車業界、小売業界、飲食業界を扱ってきましたが、比較的財務内容が良い企業ですら、市場縮小の外圧を受けて商品やサービス向上、経費の削減はもちろんのこと、一段の「リストラ」を進行させていることが分かりました。
その中で、マスコミ業界は各業界からの広告料収入に拠るところが大きい業界ですが、市場縮小の影響をどの程度受けているのか?調べていきたいと思います。
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■広告費の推移
電通が毎年発表している「日本の広告費」より、その推移を見てみます。
下記、2006年〜2012年までのグラフをご覧下さい。
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マスコミ業界でも代表的なテレビと新聞に着目すると、テレビ+新聞の総広告費は2006年3兆147億円を頂点に、2008年のリーマンショックを境にして急減。直近の2012年は2兆3,999億円と、2011年に比べれば若干上昇の兆しが見られますが、
それでもリーマンショック前と比べれば、回復と呼べるまではほど遠いレベルです。

次に、テレビ、新聞、ネットの媒体ごとに絞って見てみます。
最も広告収入が大きいテレビですが、総広告費の減少とほぼ同じ傾きを示しています。民法テレビキー局が2012年3月決算で軒並み売上が増加した発表を記憶されている方は、意外に思われるかもしれませんが、中身については後述します。
新聞は、2006年9,986億の広告費が、5年後の2012年には6,242億と、3,600億のダウン。約37%のダウンですから、減少の大きさが目をひきます。
それに対して、ネットは2006年4,826億から、2012年には8,680億へと急成長しています。2009年にネットの広告費が新聞を逆転したことは、注目に値します。
■テレビ:民放キー局5社の好決算と実態
さて、さきほど少しふれましたが、なぜテレビは広告費が減少しているのに、好決算の発表が続いたのでしょうか?
一部テレビ局の有価証券報告書を元に、その理由を探ります。
1.フジテレビ
2011年は東日本震災や自粛ムードが影響して、減収。
2012年は、復興需要やアメリカの好景気など材料が影響して、2011年と比べて放送事業が増収です。
しかし、増収の要因において、見逃せない点は「のれん代」の計上。連結対象会社にするための買収のやりとりで、対象会社を実質の資産価値より安価で買収しており、その実質価値分と買収価格との差額を利益計上することで、増益の結果を導き出しているのです。
放送事業は一環して売上減が続いています。にも関わらず、増益が達成できたのは、会計処理の仕方が大きな効力を発揮したと言えるでしょう。
2.TBS
全体の売上げは、2007年の3200億から、2011年は2040億と3分の2まで落ち込んでいます。経常利益も260億から140億へ減少し、売上と共に大きく落ち込んでいます。
特に、本業である放送部門の利益は当初160億が、直近は赤字状態です。生み出された経常利益の内、半分は映像文化部門(映画、DVD、文化事業)で生み出し、残り半分を不動産(主には赤坂サカスの開発)で生み出しています。
3.テレビ朝日
売上は2005年から下がり始め、特に2009年から2010年にかけて大きく減少しましたが、それ以降は2007年レベルにまで回復しています。テレビ放送の売上は若干下がっており、2005年と比較して95%程度です。
テレビ放送とは対照的に、その他事業が1.5倍になっています。通販を除いては、映画とDVD販売が好調。全体に占める割合は15%程度と、経営に与える影響はまだまだ小さいですが、放送事業と比べて伸び率には顕著に差が出ています。
4.日本テレビ
売上が5年で400億減(11%減)ですが、利益はむしろ直近300億の増加です。
売上の減少は、丸々テレビ放送の売上減に相当します。
11%減少分の内、電通や博報堂には5年で120億の売上減少で6.7%に相当。残り4.3%は他の中小広告代理店の売上減少です。
テレビ放送が事業の中心で、他の事業にはまだ手を出していません。
※不動産で売上38億規模
以上、テレビ局の有価証券報告書に目を通してきたところでは、程度の差はあれ、テレビ放送の本業部分が各社伸び悩み、その減少分をイベントや不動産収入、或いは会計処理によってカバーしながら売上増や収益増を達成していることが分かりました。
■新聞:発行部数や収入構造から見える実態
次に、新聞について見て行きたいと思います。
大手新聞各社は上場していませんので、ここでは日本新聞協会が発表するデータ群から実態を探って行きたいと思います。
◇新聞の発行部数と世帯数の推移
2002年 総発行部数53,198,444 1部当たり人数1.73
2012年 総発行部数47,777,913 1世帯あたり部数2.09
(※総発行部数とは、一般紙・スポーツ紙・セット部数・朝刊単独部数・夕刊単独部数の合計値)
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◇新聞の総売上高の推移(単位:億円)
2001年 総売上高24,890 販売収入12,858 広告収入8,687 その他3,345
2011年 総売上高19,529 販売収入11,643 広告収入4,403 その他3,483
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◇新聞・通信社従業員総数(単位:人)
2002年 57,105
2012年 44,962
以上、比較し易いように10年スパンでのデータ比較にしましたが、新聞の発行部数は10年間で約1割の減少。売上高の推移で広告収入に着目すると、何と10年間で半減してしまっています。
 
実際に、NHK国民生活時間調査より、特に働き盛りで最も新聞を読む人が多いといわれる30〜40代を見ると、
     1980年 2000年 2010年
30代男   81% → 41% → 23%
40代男   70% → 58% → 41%
と、たった30年間の間に急速な新聞離れが起きていることが分かります。
◇まとめ
総広告費の落ち込みから、テレビ・新聞という媒体ごとに経営状況を見てきました。
利益は計上しているものの、実態としてはテレビや新聞の本業(放送事業・総発行部数)の落ち込みが止まらず、むしろ進行中であることが理解できました。
この本業の落ち込みの原因はどこに求められるのでしょうか?
以下、内田樹氏「腐ったメディアの方程式」君達は自滅するだろうより引用

そもそもメディアは、本能的に変化を好みます。
社会が変化しなければ、メディアに対するニーズがなくなるからです。だからメディアは、有名政治家が失言したり、朦朧会見することを望み、乱が起きることを待望し、あらゆる社会システムに「改革」を要求して、社会制度の変化を無条件に良いことだとして、常に変革を求めます。
しかし、はっきり言って、医療、教育、司法などの現場で地道な下支え的仕事に携わっている人たちの実感からすると、メディアにはもう、かかわってほしくないというのが偽らざる本音なんです。
〜中略〜
いま、若い人たちが新聞を読まなくなり、テレビを見なくなり、雑誌を買わなくなっている。一人暮らしの20代の人で、宅配の新聞を取っている人などほとんどいない。それはネットに客を奪われたからではなくて、「偽善的な定型」に安住したメディアの報道に胡散臭さを感じ取っているからだと思います。

昨今、マスコミ離れが顕著になってきています。
社会の役に立とうと事実収束や課題収束を強める大衆にとって、偏向報道や捏造報道を繰り返して、何の反省もないマスコミとの意識の差は年々乖離しています。
新聞社は、減り続ける発行部数に対する危機感から、紙面からネットへと方向転換を進めていますが、それも単に媒体を乗り換えればしまいという問題ではなく、大衆の期待に根本的に応えない限りは不要の存在になっていくものと思われます。
つまるところ、マスコミがどこまで大衆の期待に応えて役に立つ情報を提供できるか?が本業の衰退という経営数値にも表れていると捉えるべきであり、そこを転換できない限りは、この大不況の中で生き残ることは難しいと言えるでしょう。

List    投稿者 wabisawa | 2013-05-30 | Posted in 未分類 | No Comments » 

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