2023-04-25

宇宙開発が推進されているのは何で?part3 宇宙の軍事利用、最新動向

前回は、近年の宇宙開発ブームが民間主導=平和的経済的な開発に見えながら、その背後に、ロシアによるウクライナ侵攻や、中国による台湾統一など、世界で国家間の対立が高まり、軍事的な目的による宇宙開発競争が再燃していることをお伝えしました。今回は、この状況を受け世界各国の宇宙開発の動向を、軍事面中心に調べてみました。

まず、近年のロケット打ち上げ回数の世界ランキングです。現在、ロケットの打ち上げ能力を持っているのは、以下の7か国しかありません。その中で、中国がアメリカと1位2位を争っているのは意外でした。また、インドが日本を上回り欧州と同等の打ち上げ能力を持っているのも驚きでした。韓国は2022年に初めて衛星の軌道投入に成功しました。これ以外に、北朝鮮、イラク、ブラジルなどがロケットを打ち上げていますが、衛星の軌道投入にはまだ成功はしていないようです。(北朝鮮、イラクは成功したと発表しているが世界的には認められていない)

続いて、各国の宇宙の軍事利用を見てみましょう。

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■中国

1950年代から宇宙開発を推進し、2019年に無人探査機「嫦娥(じょうが)4号」を世界で初めて月の裏側に着陸、2020年に「嫦娥5号」が月のサンプルリターンに成功。2021年5月火星探査機「天問1号」が火星着陸に成功している。また同年4月には、中国宇宙ステーション「CSS(China Space Station)」のコアモジュール「天和」の打上げを行い、同年10月には有人宇宙船「神舟13号」と「天和」のドッキングを成功させ、2022年11月に実験モジュール「夢天(Mengtian)」が天和とドッキングし宇宙ステーションが完成した。(写真)

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中国は、従来から宇宙空間の軍事利用を否定しておらず、衛星測位システム「北斗」は航空機や艦船の航法やミサイルなどの誘導用、2021年に打ち上げられた「遥感」システムは電子偵察用として、軍事利用の可能性が指摘されている。また、「長征」シリーズなどの運搬ロケットについては、中国国有企業が開発・生産を行っているが、同企業は弾道ミサイルの開発、生産なども行っているとされる。対衛星兵器は、2007年の衛星破壊実験のほか、2014年にも破壊を伴わない対衛星ミサイルの実験を行っている。このほか、衛星攻撃衛星や電波妨害装置(ジャマー)、レーザー光線などの指向性エネルギー兵器も開発しているとの指摘もある。

■ロシア

1991年の旧ソ連解体以降、ロシアの宇宙活動は低調な状態にあったが、近年は、再び宇宙開発を活発化させている。2030年までに、観測、気象、通信、測位などを行う600機の衛星による衛星コンステレーション構想「スフェラ」を計画しており、また、2025年以降、国際宇宙ステーションから撤退し、独自の宇宙ステーションの開発計画を明らかにしている。

また、シリアにおける軍事作戦に宇宙能力を活用しており、2019年の国防省の会議において、本作戦の経験で、軍用衛星の再構築が必要との認識に至った旨明らかにした。2021年に5機目となる早期警戒衛星「ツンドラ」の軌道投入に成功し、ミサイル防衛能力の強化が進展している。また同年、ロシア国防省は、軌道上にあるソ連の人工衛星を破壊する実験に成功した旨発表した。組織面では2015年に空軍と航空宇宙防衛部隊が統合され創設された航空宇宙軍が実際の軍事面での宇宙活動や衛星打上げ施設の管理などを担当している。

■アメリカ

米国は、世界初の偵察衛星、月面着陸など、軍事、科学、資源探査など多種多様な宇宙活動を発展させ続け、2020年5月にはスペースX(Space X)社が世界初となる民間有人宇宙飛行を成功させるなど、世界最大の宇宙大国である。

2020年「国防宇宙戦略」において、「今や宇宙は、明確な戦闘領域である」との認識を示し、中国やロシアを最も深刻で差し迫った脅威と評価した。2021年6月に米宇宙軍は、通常2から5年かかる衛星開発から打上げまでを11か月で実現している。また、2021年には、ミサイル防衛庁が、宇宙状況監視能力を有する新型ミサイル防衛用レーダー「長距離識別レーダー(LRDR:Long Range Discrimination Radar)」をアラスカ州に設置したと公表している。

組織面では、2019年空軍省の隷下に人員約1万6,000人規模の宇宙軍を新たに創設した。

■欧州

欧州における宇宙活動は、EU、欧州宇宙機関(ESA:European Space Agency)、欧州各国がそれぞれ独自の宇宙活動を推進しているほか、相互の協力による宇宙活動が行われている。

EUは、2021年から2027年の中期予算計画の宇宙政策に148.8億ユーロを割り当てたほか、2021年EUの宇宙プログラムの執行を担うEU宇宙プログラム庁を発足させた。今後はEU・ESAが計画している衛星測位システム「ガリレオ」、地球観測プログラム「コペルニクス」、欧州防衛庁による偵察衛星プロジェクトなどが、欧州における安全保障分野に活用されていくものとみられる。

NATOは、2019年首脳会議において宇宙を陸・海・空・サイバーと並ぶ「第5の作戦領域」であると宣言している。2020年には、ドイツのラムシュタインに新たに宇宙センターを設立することが合意された。

■インド

インドは、有人宇宙ミッション、通信、測位、観測分野などの開発プログラムを推進している。自国周辺の測位が可能な測位衛星として地域航法衛星システムを運用しているほか、2017年には、低予算で104機の衛星を1基のロケットで打ち上げることに成功するなど、高い技術力を有している。2021年2月には、有人宇宙政策を発表しており、インドで初となる有人宇宙船「ガガニャーン」計画を開始した。また、2019年3月、モディ首相は、低軌道上の人工衛星をミサイルで破壊する実験に成功したと発表している。(写真はインドの「GSLV Mk III」ロケット)

■韓国

韓国の宇宙開発は、2005年に施行された「宇宙開発振興法」のもと、2040年までのビジョンを提示し、①宇宙ロケット技術の自立、②人工衛星の活用サービスと開発の高度化、③宇宙探査の開始、④韓国型衛星航法システムの構築などに重点をおいている。また、2021年10月に韓国国産ロケット「ヌリ号」を打ち上げており、2027年までに5回の打上げを計画している。

組織面では、朝鮮半島上空の宇宙監視能力を確保するため、初の宇宙部隊である「空軍衛星監視統制隊」を2019年に創設した。同部隊は2020年に「空軍宇宙作戦隊」に名称が変更された。韓国国防部は、宇宙関連の能力を強化するため、監視偵察・早期警報衛星などを確保していく計画であるとしている。

■北朝鮮

1998年に白頭山1号(テポドン1号)を発射。人工衛星の「光明星1号」を衛星の軌道投入に成功したと発表した。しかし他国の宇宙開発機関や軍事機関によって、軌道上にあるとされる衛星の存在は一切確認されておらず、国際社会では、光明星1号が軌道に投入されたとは看做されていない。

2011年金正恩氏が権力の座について以降ロケットの開発が加速、「北極星」「ムスダン」「火星12号・14号」はいずれも金正恩政権下で開発された新世代のミサイル。2012年にスタートした「宇宙開発5か年計画」の最終年度にあたる2016年には「光明星4号」を発射し、通信衛星を軌道に進入させている。しかし、衛星が正常に機能せず、地上との交信ができなかったことから国際社会では失敗したものとみなされている。

2021年1月に発表した「国防5か年計画」で軍事偵察衛星の設計が完成し、近い期間の内に運用すると主張。2023年4月18日金正恩総書記は、国家宇宙開発局を視察し、初めてとなる軍事偵察衛星が今月の時点で製作・完成したとして、計画された期間内に打ち上げられるよう最終準備を急ぐ方針を明らかにした。

■参考

・防衛白書:宇宙空間に関する各国の取組

・打ち上げ回数でついに世界一「中国の宇宙力」本当の実力

・2022年の世界のロケット打ち上げ回数は186回で記録更新、SpaceX 61回・長征53回

・22年は日本のロケット成功数ゼロ18年ぶり世界に出遅れ

・世界各国のロケット打ち上げ回数、2021年は過去最多に

・各国初の軌道投入の年表

・中国の宇宙開発

・中国宇宙ステーションが完成

・ロシアの宇宙開発

・インド宇宙研究機関

・韓国、国産ロケット打ち上げ初成功 宇宙事業の道開く

・衛星ロケットも潜水艦弾道ミサイルも気が付けば、韓国が北朝鮮を抜き、「世界第7位」!

・北朝鮮 キム総書記 “軍事偵察衛星完成 打ち上げへ準備急ぐ”

・北朝鮮の「ミサイル技術」、金正恩政権で急速に進化

List    投稿者 noda | 2023-04-25 | Posted in 10.経済NEWS・その他No Comments » 

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