2012-04-29
近代市場の成立過程(2)〜近代市場の誕生前夜・富豪の台頭⇒現代通貨制度の原型が形成される〜
「近代市場の成立過程」シリーズ第二弾です。
近代市場の成立過程(1)プロローグより
>歴史上、近代市場の主舞台は言うまでも無く西欧。その原点は、十字軍の遠征によってイスラム世界とヨーロッパ世界の力関係が逆転し、ルネサンスが興った11〜15世紀頃にあると考えられます。
これを踏まえ、今回は、十字軍遠征の前後の状況を押さえ、その過程でどのような変化が起こったのかを明らかにしていきたいと思います。
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■ 北イタリアを拠点とした両替商の広域ネットワーク
十字軍遠征の前夜の状況として押さえておきたいのが、両替商の広域ネットワークです。北イタリア諸都市(ジェノヴァ、ヴェネツィアetc)は、それ以前からすでに交易都市の拠点として栄えていました。
ローマ教皇による徴税制度「十分の一税」が、それを両替商の広域ネットワークへと発展させることになります。
※ローマ教皇紋章
旧西ローマ帝国および西ヨーロッパ世界では、8世紀前半までには生産物の10%を教皇に収める慣習が根付いていました。
これに目を付けたイタリアの両替商は、農業生産性が上がった11世紀頃からイングランド・フランドル・シャンパーニュなどヨーロッパ経済の先進地帯や主要都市に進出をして、十分の一税の徴税・輸送業務や為替業務をも合わせて行うようになります。(これが後の銀行業の母体となります。南ドイツのフッガー家や北イタリアのメディチ家は、両替商から銀行家へと発展した典型例です)
これによって、それまでの交易ネットワークに加え、北イタリアを拠点とした両替商(金融)のネットワークがヨーロッパ主要都市に発展していきます。
■ ローマ教皇権力絶頂期⇒十字軍遠征の開始
この頃になると、ローマ教皇の権力は強大なものとなり、戴冠によって神聖ローマ皇帝を任命するようになりました。教皇と神聖ローマ皇帝の権力が拮抗し、教皇と皇帝との間での権力闘争が頻発します。
その後の叙任権闘争etcを経て、教会権力は絶頂に達します。「カノッサの屈辱」は有名な事例ですね(教皇が皇帝ハインリヒ4世を破門し王位を剥奪⇒ハインリヒ4世が教皇に許しを乞うため北イタリアのカノッサを訪れた)。
※カノッサの屈辱
一方で、東ローマ帝国はイスラム圏セルジューク朝からの度重なる侵略に頭を抱えている状況にありました。そこでこの時の皇帝アレクシオスは、ローマ教皇に傭兵の提供を要請します。
それを受けたローマ教皇ウルバヌス2世は、1095年、大義名分として異教徒イスラム教国からの「聖地エルサレムの奪還」を訴え(目的を摩り替え)、キリスト教徒に対し、イスラム教徒に対する軍事行動を呼びかけます。
「聖地エルサレムの奪還」という大義名分によって正当化されたこの十字軍遠征⇒ユダヤ・イスラム圏への略奪戦争は、その後約200年間に渡り9回も繰り返されることになります。
(この大義名分で戦争を正当化する手法は、「民主主義」を掲げ戦争を正当化する現在の米国と全く同じ構造ですね)
※イスラムと十字軍
その結果どのような状況が生まれたのでしょうか。
■ 金融ネットワークが東方に拡大⇒北イタリアに財が集積
この9回にも及ぶ十字軍遠征により、陸路・海路の中継点となった北イタリアの諸都市(ミラノ、ヴェネツィア、ジェノバ)は仲介貿易によって大きく繁栄。
特に王の支配を受けない自治都市の一つでローマ教皇庁の財政を一手に処理していたフィレンツェでは、元々の金融ネットワークを東方にも拡大し、十字軍遠征によって略奪した財を集積していきました。(13世紀はじめには20人を超える大富豪家が誕生していたようです)
※フィレンツェ
■ 通貨発行⇒貨幣経済の浸透
さらに各富豪が通貨発行権を手に入れ、自らの金融ネットワークを駆使して通貨を流通させることにより、北イタリアを中心に欧州主要都市で貨幣経済が浸透していきます。これにより、流通を司る富豪たちが教皇を凌ぐほどに力を持つようになっていきます。富豪たちが政権に入り込むetc影響力を持つようになったのもこの頃です。
特に7世紀頃から鋳造されていたフィレンツェ共和国発行のフローリン金貨は、西ヨーロッパにおける大規模な取引で優位に取引できる金貨として急速に浮上し、欧州の主要な基軸通貨となっていきました。このようにして現在の中央銀行、基軸通貨制度の原型が形成されます。
※フローリン金貨
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以上、200年に渡る十字軍遠征により生じた状況変化をまとめます。
1.東欧、イスラム圏への交易・金融網の拡大
2.イスラム圏から収奪した財が北イタリアに集積(欧州・イスラムの力関係の逆転)
3.集積した財を元に通貨発行⇒貨幣経済の浸透
4.財⇒通貨発行権を持つ財閥の台頭
5.現在の中央銀行、基軸通貨制度の原型が形成される
この過程を経て誕生した富豪(金貸し)たちが中心となって、次のルネサンス全盛の時代に入っていきます。
次の記事では、このルネサンスの幕開け的事象であり、知識階級の公用語であるラテン語でなく、トスカナ地方の日常語(大衆向けの言葉)で書かれた書物という点で革新的であった、フィレンツェ出身、ダンテの『神曲』を扱います。
ご期待ください。
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