2012-12-30

大恐慌の足音・企業は生き残れるか? 第3回 〜ソニー〜

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 10月19日(ブルームバーグ):ソニー は約2000人の早期退職を募集し、岐阜県の工場を閉鎖する。1万人削減を柱とする今期(2013年3月期)のリストラ計画の一環。
 19日の発表資料によると早期退職と工場閉鎖に伴うコストは、4月発表の計画に盛り込んだ750億円の構造改革費に含まれている。一連のリストラで、来期には年間約300億円の固定費削減を見込む。
 早期退職の半分は本社を含む間接人員が対象。異動も合わせると本社人員は、今期中に2割減る見込みだとしている。
Bloomberg ソニー:早期退職2000人、岐阜県の工場閉鎖−1万人削減の一環で

 企業は大不況を生き残れるかを検証する今回のシリーズ、パナソニックとシャープ(その1その2)を見てきました。第三回目の今回は同じ大手家電メーカーでも、金融や医療器具にも手を広げているソニーについてみていきたいと思います。

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 冒頭の記事には、テレビ不振などによる業績悪化をふまえ、大規模なリストラに踏み切ったことが報じられています。その他、ニューヨークの本社ビルの売却や、前期の役員報酬13%カットなど、次々と暗いニュースが出てきています。一方で、この状況を打破するため、医療機器分野への投資が決定されています。

 10月1日(ブルームバーグ):ソニー は9月末に発表したオリンパス との資本・業務提携を通じ、成長分野と位置付ける医療事業で2020年に2000億円以上の売り上げを目指す。平井一夫社長が1日の記者会見で語った。
(中略)
 1日の会見で平井氏は「メディカル事業を中核事業に躍進させるには、(医療機器)本体に進出することが不可欠」と判断して提携に踏み切ったと説明。オリン パスとさらなる関係強化も図る意向を示した。部品の相互供給で合意したカメラ事業では、両社のブランド統合や、レンズと本体を接合するマウント部分の共通化は難しいとの認識を示した。
(後略)
Bloomberg ソニー社長:20年の医療売上高目標2000億円以上−オリンパス提携で

◆ソニーの経営状況分析
 それでは、ソニーの財務諸表を見ていきましょう。ソニーについては、金融部門としてソニーフィナンシャルホールディングス(以下ソニーFH)が別で上場しているので、両方の有価証券報告書を扱いたいと思います。
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 第1回にあるように、短期的な企業体力を示す流動比率は、120%以上あるのが望ましいと言われています。表を見てみるとソニーは既に100%をきっており、現在80%程度しかありません。つまり、1年以内の返済義務に対して、支払い原資が8割しかなく、余裕がないとみることができます。
 では、自己資本比率はどうかというと、製造業では最低20%が必要だといわれていますが、2011年には20%をきってしまいました。長期的にみても、余裕はなさそうです。
 ところで、ソニーはグループ企業をたくさんもっています。ソニーミュージックやソニー映画、ソニー損保など、様々な分野で事業を行っています。家電企業のイメージも強いですが、実態どのようになっているか、セグメント別の売上高(2011年)を見てみたいと思います。

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※CPS(コンスーマー・プロフェッショナル&デバイス)分野…テレビ事業、ホームオーディオ・ビデオ事業、デジタルイメージング事業、パーソナル・モバイルプロダクツ事業、ゲーム事業など。
※PDS(プロフェッショナル・デバイス&ソリューション)分野…プロフェッショナル・ソリューション事業、半導体事業、コンポーネント事業など。

このグラフを見てみると、やはり家電を含めエレクトロニクス部門が7割をしめていますが、意外と金融や映画なども大きな割合を占めていることがわかります。
 売上や経常利益を見てみると、大赤字にはなっていなさそうです。もう少し詳しくみるため、ソニーの連結(ソニーミュージック、金融部門などを含む)と単体(≒家電部門)、そしてソニーフィナンシャルホールディングス(以下ソニーFH)の売上高と経常利益を見てみましょう。
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 まず、ソニーの連結(ソニーミュージック等のグループ企業も含める)と単体(≒家電部門)の売上をそれぞれみてみると、両者ともに減少しています。経常利益で見てみると、ソニー単体は2008年以降ずっと赤字。連結の方がまだマシ、といったところです。一方ソニーFHの売上を見てみると、逆に近年伸びてきていることがわかります。この金融部門はソニーの連結に含まれていますので、構造としては金融部門が成長している一方で本体の単体である家電部門が足をひっぱっていると見ることができます。
上の表から、ソニー本体の売上に占めるソニーFHの売上を見てみましょう。
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 徐々に拡大し、今では2割弱にまで成長していることがわかります。
◆エレクトロニクス企業としてのソニーの軌跡 
 上で、今や家電部門はソニーの業績の足をひっぱっていると書きました。いつからそのようになってしまったのでしょうか。ソニーは、井深大と盛田昭夫1946年に設立された「東京通信工業」を前身とし、日本初のテープレコーダーやトランジスタラジオを製造・販売し、エレクトロニクス企業として世界トップにたちました。エレクトロニクス企業としての軌跡を見てみます。
①オーディオ分野
1950年(昭和25年)国産初のテープレコーダーの試作に成功、発売。
1979年(昭和54年)ウォークマンを発売し大ヒット。
1982年(昭和57年)コンパクトディスク (CD) を発表。
1984年(昭和59年)世界初の携帯CDプレイヤー「ディスクマン」を発売。
1992年(平成4年)ミニディスク (MD) を発表。
ソニーの原点であるオーディオ分野では、1979年のウォークマンや1992年のミニディスク(MD)が画期的でしたが、2000年代に登場したアップルのiPodなどMP3プレーヤーに負けてゆきました。
②オーディオ・ビジュアル分野
1960年(昭和35年)ポータブルトランジスタテレビを発売。
1965年(昭和40年)家庭用VTR ビデオコーダーを発売。
1968年(昭和43年)世界初のトリニトロン方式によるカラーテレビを発売。
1989年(平成元年)コロンビア映画(現、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)を買収。
2005年(平成17年)薄型テレビのブランド名をWEGAからBRAVIAに変更。
2006年(平成18年)世界の液晶テレビの出荷におけるシェア率で初の1位。
テレビ部門は1960年のトランジスタテレビで軌道に乗り、1989年にはコロンビアを買収。そして、2006年には液晶テレビで世界一に立ちます。しかし、近年はサムソン等の韓国、台湾・中国企業との価格競争に負けつつあり、映画部門の利益も落ち込んでいます。
③ゲーム機器
 1990年代前半に任天堂と共同で計画していたCD-ROM対応型のスーパーファミコン開発の契約が決裂したので、「PlayStation」に単独で取り組みます。
 1994年に当時としては最先端の3D映像技術を武器にした家庭用ゲーム機のプレイステーションでハードウェア市場に参入。セガや任天堂と激しい市場競争を繰り広げ、ファイナルファンタジーシリーズの効果により、発売から3年でゲーム市場における首位の座に立ちました。2000年に発売したPlayStation 2でも、セガのドリームキャストや任天堂のニンテンドーゲームキューブ、マイクロソフトのXboxなどの競合商品を相手取り優位を維持し、ゲーム業界のリーダーでありつづけました。
 しかし、2006年に発売06年発売のPlayStation 3は、任天堂のニンテンドーDSや、Wiiとの普及競争に苦戦に陥っています。
 少子化で、子供の数が減り、その上に、ゲーム離れが始まり、2000年代後半からは、ゲーム機の市場は縮小過程に入ったと思われます。縮小する市場の中、トップ企業の座を任天堂に奪われつつあり、ソニーのゲーム機部門にも暗雲が立ち込めています。
 以上、オーディオ部門、オーディオ・ビジュアル部門、ゲーム部門と順番にみてきましたが、かつてはどの部門でも業界をひっぱる存在だったソニーもいまや欧米やアジア諸国の製品に負けつつあります。
◆保険屋としてのソニー
 ソニーFHはソニー生命(1979年)、ソニー損保(1998年)、ソニー銀行(2001年)を統括するソニーの子会社として2004年に設立され、2007年には東証1部上場しました。中心となっているソニー生命が設立された当初、日本の生命保険業界は国の厳格な管理下に置かれており、長く異業種の参入を許していませんでした。その中、アメリカ最大手のプルデンシャルと組んで拡大していったソニー生命は、背景に電化製品の落ちこみもあり、着実に売り上げを伸ばしていきました。ソニーFHになってからも、ネームバリューに助けられ年々売り上げを伸ばしています。ソニーが金融部門を有した理由は様々いわれていますが、公式には以下のように言われています。

 一般事業会社が「金融部門」を保有したのには“わけ”がある。それは盛田昭夫の事業拡大計画の一角であり、夢でもあった。1970年代、ハード部門とソフト部門をクルマの両輪として拡充させ、さらに「企業として伸びるためには金融機関が絶対必要だ。これは資金調達のためだけではない。企業の信用やバランスを保つ大切な存在となる」という盛田の強い意思から発している。(ZAKZAK

◆まとめ
 以上、ソニーの分析をしてきましたが、成績をみる限りパナソニックやシャープと比べるとまだマシなようです。家電部門が落ち込んでいるのは同じですが、近年伸びている金融部門で何とか延命しているかたちです。このまま保険屋になってしまうのでしょうか?しかし、金貸しの力が衰弱している今、金融業界も期待できなさそうです。一時しのぎでいろいろな部門に手を出すのではなく、長期的に見れば技術力を磨くしかないでしょう。
 次回は、業界を変えて、三菱自動車についてみていきたいと思います。お楽しみに

List    投稿者 banba | 2012-12-30 | Posted in 未分類 | No Comments » 

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