2007-12-10

原油価格高騰の謎。

昨今の原油価格高騰の原因の一つとされる、原油先物市場への投機資金の流入。
先物取引市場の原油価格が高騰し、それに引きずられるように現物取引価格も高騰してる今の状況は、サブプライム問題やドル安局面での代替投資先として(「株式」や「債券」から「原油」や「金」といった)現物市場へ向かう投資心理と、ニューヨーク・マーカンタイル取引所におけるWTI原油先物市場がもつ特殊性が引き起こした「原油バブル」だと考えられる。
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さて、その特殊性とは一体どういうものか?
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商品先物取引は、農産物や鉱工業材料等の商品を将来の一定日時に一定の価格で売買することを現時点で約束する取引である。
取引形態には先物取引先渡取引がある。
両者の大きな違いは、
先物取引・・・差金決済をする。
先渡取引・・・現物決済をする。
差金決済とは、商品を受け渡す代わりに反対の売買取引をして、生じる損益だけを受け渡すことである。
また、先物取引の一般的な特徴として「証拠金取引」が存在する。
これは、購入もしくは売却する代金全額の現金は不要で、少ない証拠金を担保にして取引が出来るというものである。
このため、株式の信用取引などと同じように、用意する現金に比べて大きな利益、大きな損失が生じやすく、投資額からみるとハイリスク・ハイリターンな取引であるといえる。
また先物取引は、もともとは予測できない将来の価格変動に対するリスクヘッジ機能と、価格調整機能をもつものとされている。
リスクヘッジ機能とは、商品の現物取引を行っている者が、将来の価格変動によって損失を被らないように保険を掛ける意味合いを指す。
先物価格と現物価格が同じように変動する前提において、例えば一年後に売る予定の商品を、先に先物市場で売りに出し、一年後に反対売買(この場合は買い戻し)を行って、その時点での先物取引の損益と現物取引での損益を相殺する事である。
(例)

具体例として、ある商社が金地金を半年後に10 キログラム調達して、メーカーに納入しなければならないケースを考えてみましょう。今現在の金価格は2,000円/グラムですが、納入価格は2,100円/グラムで、実際に金地金を納入するのは半年後だとします。金地金の価格がずっと2,000円/グラムのままであれば、このビジネスは十分採算がとれる(100円/グラムつまり10キログラムで100万円の利益が得られる)のですが、半年後には金価格は採算のとれない水準まで上昇してしまうかもしれません。かといって今から金地金の現物を10キログラム購入して半年間保管するのでは、2,000万円もの資金を半年間も寝かせておくことになりますし、また地金の保管費用も無視できません。そこで、現時点において10キログラム分相当の金先物のポジションを買い建てておくのです(以下では先物価格と現物価格は同じ動きをすると仮定して、2,000円/グラムで先物の買いポジションを建てたとします)。
このとき、半年後に金価格が2,500円/グラムに値上がりした場合には、どのようになるでしょうか。ヘッジをしていなければ、時価2,500円/グラムで金地金10 キログラムを調達して、当初の約束の2,100円/グラムで納入しなければならないので、現物取引に係る手数料等を無視しても、400円/グラム、つまり10キログラムで400万円の損失が発生してしまいます。しかし2,000円/グラムで買い建てた先物ポジションは、先物価格も現物価格と同じような動きをするので、その先物価格も2,500円/グラムあたりまで上昇しているはずです。したがって、この買いヘッジのポジションを転売して差金決済すれば、500円/グラム(=2,500円/グラム−2,000円/グラム)、つまり10キログラムで500万円の利益が先物市場から得られることになります。この先物取引から得られた利益500万円で、現物取引で発生する損失400万円をカバーすれば、差し引き全体として100万円の利益(当初の思惑通りの利益)が確保されたことになります。
反対に、半年後、金価格が1,500円/グラムに値下がりした場合には、先物取引では500万円(=(1,500円/グラム−2,000円/グラム)×10キログラム)の損失が発生しますが、現物取引では1,500円/グラムで調達して2,100円/グラムで納入すればよいので、600万円(=(2,100円/グラム−1,500円/グラム)×10キログラム)の利益を上げることができます。全体としては差し引きで、この場合もやはり100万円の利益が確保されたことになります。

東京工業品取引所「2.ヘッジ取引の概要」より抜粋
http://www.tocom.or.jp/jp/nyumon/tougyou/hedge01.html
価格調整機能とは、公開の市場で多数の参加者が競り合うことで価格が決定されるので、理論上、その時点での最も公正な価格が決められることを指す。
また、先物価格を指標として生産者が生産調整を行うことがあるため、将来価格が高い場合は、生産量が増えて結果的に価格が下がり、将来価格が低い場合は、逆の現象が生じる。このため、商品価格の乱高下が減り、価格の安定化をもたらすと考えられている。
しかし実態は、証拠金取引によるレバレッジ効果がもたらすハイリスク、ハイリターンな取引に投資資金が流れ込み、需要に見合わぬ価格変動を引き起こしている。
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この様な事が起こるのは、取引量の多さから世界の原油価格最有力指標となっている、ニューヨーク・マーカンタイル取引所におけるWTI原油先物市場というところが、原油という「現物」を必要としない多くの者たちの集まりであるからだと考えられる。

国際エネルギー機関(IEA)は日本政府の要請を受け、原油高騰の要因とされる投機資金の実態について本格的調査に乗り出す。甘利明経済産業相が7日の閣議後の記者会見で明らかにした。
経産省によると、ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の原油先物相場では、米国産標準油種のWTIが1日に5億バレル取引されるが、現物取引は30万バレルしかない。ファンドの資金流入も相当あるとみられており、原油価格高騰の一因とされている。

産経新聞より抜粋
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071207-00000958-san-bus_all
先物取引が持つといわれるリスクヘッジ機能価格調整機能は、現実の需要とは無関係に、儲けを貪る投資家達によってすっかり歪められてしまっている。
需要と供給のバランスとは別の要因で価格が高騰していく今の状況は、明らかに「原油バブル」と言えるのではないだろうか。

List    投稿者 minezo | 2007-12-10 | Posted in 06.現物市場の舞台裏4 Comments » 

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コメント4件

 サラリーマン活力再生 | 2008.03.04 11:57

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 bb東京 | 2008.03.31 23:03

すばらしい内容でした
私は嫌でもグローバルを受け入れざるを得ないし
受け入れたほうがこの苦しみから避ける事に思います
一時的に今より混沌となるけど、、

 ohmori | 2008.04.05 1:32

bb東京さま、コメントありがとうございます。
「恫喝」みたいなものだと思うんですよね、
グローバリズム。
便乗しなければやばい、
便乗すればやりすごせる。
という錯覚を起こさせる。
で、そのまま大多数が便乗させられるとどうなるか?
ここを予測・仮説立てしていくことが僕たちの課題かと。
そう感じませんか??
あと、今のアメリカの惨状を見たら、このまま行くとどうなるか、だいたいわかってくると思います。

 wholesale bags | 2014.02.09 17:17

金貸しは、国家を相手に金を貸す | 多国籍企業はなんで多国籍なのか?

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