2008-08-07

<食料価格高騰はなぜおこるの?>その5 穀物メジャーって?②世界の食料・食品を支配

昨日は、穀物生産・輸出とロジスティックス(物流ネットワーク)の重要性を見てみました。
本日は、穀物メジャー本体に迫ります。 
 
米国を本拠地にして、世界中で穀物、食物、食品ビジネスを展開している巨大な会社が、通称「穀物メジャー」です。 
 
現在は、下記の4つの会社を指して、4大穀物メジャー(食品メジャー)と呼ばれています。 
 
最大のカーギル社の数字を見てみましょう。2007年度(2006年6月〜2007年5月)では、売上10兆円、純利益2580億円、66カ国に企業活動を展開し、従業員数15万8千人です。
2007年度はまだ穀物価格の上昇途中でしたが、2008年度では、純利益で4000億円に超える見込みです。
カーギル社の創業は1865年。コーンベルト地帯のミネソタ州で穀物買付・輸送・販売からスタートし、150年かけて、物流を制し、食品材料(大豆搾油、コーンスターチ等)、食肉製造等の下流部門まで進出し、売上規模10兆円の巨大会社になっています。
*なお、カーギル社は今もって、株式上場せず、オーナー会社の形をとっています。 
 
第2位のADM(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド)は、売上5兆円、純利益2380億円、60カ国、27,000人です。 
 
日本の商社の中で、食料部門が強いのが丸紅。丸紅の食料部門の売上は1.4兆円、純利益は102億円(2007年度決算)。利益額の水準が違いますね。 
 

表はポップアップ。クリックすると読めますよ 
 
では、穀物メジャーが、世界の穀物(食物)貿易と価格を支配している「力の源泉」がどこにあるか見てみます。 
 
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支配力その1 圧倒的な物流の支配 
 
最大の穀物港であるニューオーリンズ港をみます。
カーギル社とADM社は20年間で船積施設の独占を完成させました。
輸出エレベータの船積能力でみると、カーギル社は85年のシェア16.3%から05年の29.4%へ拡大。ADM社はもっと急で、85年の8.9%から05年の35.9%へ拡大。05年段階では、2社で65%を占めています。
保管スペースでは、カーギル35%、ADM32%、2社合わせて80%近くとなり、より独占状態です。(下図参照) 
 
Cargill02.JPG 
 
引用先:農林金融2007・2「米国産トウモロコシの日本向け輸出の物流と価格構成」
リンク 
 
支配力その2 世界に張り巡らした情報収集 
 
カーギル社は、カナダと国境を接する北部州ミネソタ州のミネアポリスに本社をおいています。
カーギルは、地方都市に本社をおいていますが、情報収集は、人工衛星を使い、世界中からデータを集め、分析しています。気象衛星のデータから、世界中の気候・作柄を解析しています。
(人工衛星そのものを所有しているとの話も伝わっている。)
情報収集・分析の能力は、米国農務省にも匹敵する。或は、米国農務省の調査分析の一部は、カーギルと一体になっている可能性さえあります。 
 
◇カーギル本社(古い屋敷をそのまま使っている)
Cargill01.JPG 
 
◇本社の玄関先
Cargill03.jpg 
 
*上の写真は、「大地を守る会のエビちゃん日記」さんから借用しました。
米国・コーン視察レポート(1)−カーギル本社から 
 
支配力その3 隠れた価格形成力 
 
穀物メジャーは、米国の穀物流通の7〜8割を握っていますので、シカゴ商品取引所では、圧倒的に強い存在です。
穀物メジャーが、「商品取引所に取引を立てるか、穀物購入者と相対で売買するか」の裁量権をもっています。シカゴ商品取引所での価格上昇をコントロールする力をもっているといえます。 
 
支配力その4 米国の農業政策・通商政策への関与/メジャーの政策=米国の農業政策 
 
穀物メジャーの経営層が、米国の農務省やUSTR(米国通商代表部)の高官に就任したり、退官した後に、経営陣に就任する(米国の官民の回転ドアですね)。例えば、以下のケースです。 
 
●レーガン政権の農務次官であったダニエル・アムスタッツは、カーギル社で長く飼料穀物の輸出を担当し、その後カーギル・インベスター・サ−ビスの社長を務める。
●カーギル副社長であったウイリアム・R・ピアーズは、ケネディ、ニクソン両政権の通商代表部を務める。
●ニクソン政権の農務次官であったクラレンス・パームビーは、1972年の米ソ穀物交渉の直前に、コンチネンタル副社長に就任。(コンチネンタル・グレーン社・現在は穀物から撤退。) 
 
上記のような高官レベルだけでなく、政策スタッフや調査スタッフとして、穀物メジャーの社員が活動し、WTOへの米国通商政策に関与し、2国間の貿易要求をしてくるのです。 
 
支配力その5 穀物下流部門への進出で市場支配 
 
穀物メジャーは、穀物単体の輸出を目指すだけではなく、穀物を原料とした加工部門へも積極的に進出し、相手国に深く入り込んで行きます。 
 
例えば、所得拡大で食料油(大豆搾油)の需要が急拡大した中国。WTO加盟による自由化で、大豆輸入の緩和を行いました。そして、需要拡大に合わせて、大豆の輸入を急ぎました。
その結果、大豆の国際価格が急上層し、中国の大豆搾油企業は、あわてて、高値の大豆を購入。しかし、大豆価格はその後急落し、多くの搾油企業が倒産しました。
一方、米国のカーギル、ADM、バンゲは中国に大豆搾油工場を進出させ、価格の安定した大豆によって、一気に、中国の大豆搾油市場を掌握してしまいました。大豆加工工場能力の8割を外資系・メジャー系が握ったといわれています。2003年〜2005年の出来事です。 
 
参考:農林金融2008・3「高まりつつある中国の米州大陸への食料依存」
リンク 
 
日本でも、倒産におちいった食品専門商社の「東食」を、カーギルが救済買収し、現在は、カーギル・ジャパン・東食ユニットとなっています。 
 
以上のように、穀物メジャーの世界食物支配力は圧倒的な強さをもっています。彼らとどのように戦えばよいのでしょうか? 
 
穀物メジャーが躓いている領域があります。例えば、BSE(狂牛病)です。日本、香港、韓国で、基準外の牛肉輸出が発覚し、カーギルの牛肉加工部門が痛手を負っています。
また、遺伝子組み換え大豆、トウモロコシの混載問題も批判されています。 
 
輸入国・消費国の圧倒的多数が、食品の基準を要求すれば、彼等はその市場基準に縛られます。実際、カーギル社は、特別プログラムとして、「非遺伝子組み換えのトウモロコシ」の日本向け調達を行っています。 
 
あるいは、今回の金融危機で体力の弱った米国企業(食物メジャー)に対して、資本出資を行い、必要な生産地と流通ネットワークを確保することも考えられます。(バブル時のロックフェラーセンター買取よりは、役に立つ買取だと思います。) 
 
日本が動かなくても、中国及び産油国の資金はそのように動きそうです。(既に、サウジはアジアで食料開発プロジェクトに資金を出しています。) 
 
次回は、期待を込めて日本の商社(食料部門)、JAグループ、食品専門商社の現状、力を扱ってみたいと思います。 
 

List    投稿者 leonrosa | 2008-08-07 | Posted in 06.現物市場の舞台裏4 Comments » 

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コメント4件

 会社員 | 2008.12.14 2:36

>この「金貸し支配」と金貸しが作り出した「経済至上主義」を突破する基盤は、’70年先進国で貧困が消滅して以来、若者たちが生み出してきた新しい意識潮流(仲間意識や課題収束)の中にある。
この閉塞を突破する可能性が、若者たちの意識潮流にあるというご意見は、斬新と思いました。
具体的に、どのような意識に可能性を見ていらっしゃるのか、もう少し詳しくお教え願えませんか?

 匿名 | 2008.12.16 21:57

>金貸しは、金を生み出し続けるシステムを通じて、政界及び産業界に強い影響力を持ち続けてきた。この結果、世界中に「経済至上主義」が蔓延し、環境破壊や各国の財政破綻などが噴出し、解決する兆しさえ見えなくなってしまった。
金を生み出すことで社会がまわることにかわる、仕組みが必要ですね。そうすれば、環境破壊も財政破綻が一気になくなりそうです。新しい意識潮流から考えた必要な仕事がひつようですね。

 tamimaru | 2009.01.13 22:48

コメントありがとうございます。
>この閉塞を突破する可能性が、若者たちの意識潮流にあるというご意見は、斬新と思いました。
具体的に、どのような意識に可能性を見ていらっしゃるのか、もう少し詳しくお教え願えませんか?
若者達が生み出してきた、新しい意識潮流の最先端は、課題収束という流れを生み出しています。
具体的には、仕事収束や勉強収束として現れていますが、今後この流れは、事実追求に向かい、市場に強い影響力を持つ金貸し構造の脱却から、市場を越えた新しい経済の仕組みを生み出していくのではないかと期待しています。
年を越しての亀レスご容赦ください。

 tamimaru | 2009.01.13 23:15

コメントありがとうございます。
>金を生み出すことで社会がまわることにかわる、仕組みが必要ですね。そうすれば、環境破壊も財政破綻が一気になくなりそうです。新しい意識潮流から考えた必要な仕事がひつようですね。
まず、市場をバブル化させて来た、幻想価値は不要。これは、若者を中心にすすむ事実収束の流れが突破口を作ってくれそうです。そんな中で、「必要か否か」を考える事で、お金の使い方もかわっていきそうですね。
レス遅くなりましたが、本年もヨロシクお願いします。

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