2007-02-20

シリーズ「不動産投資ファンドの成長は続くのか?」2

【第2回:プライベートファンドの現状】
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(↑↑東京の夜景。オフィスビルがマネーゲームの舞台に・・・)
 
前回の「J−REITの現状」に続き、今回は「プライベートファンドの現状」についてまとめます。
 
■まず、プライベートファンドとは、

特定、または少数の投資家を対象に資金を集めて運用するファンドを私募ファンド(プライベートファンド)という。特定、とは「適格機関専門家」と呼ばれる専門的知識を持つ投資家。少数、とは50人未満を指す。
1998年末の投資信託法の改正で、私募ファンドが設立できるようになる(それまでのファンドは公募のみ)。
ほとんどの私募ファンドは専門的知識を持つ投資家を対象としているため、公募ファンドと違って運用上の制限がほとんどなく、デリバティブ取引などを積極的に活用しているものが多い。証券取引法や投資信託法では、私募ファンドは目論見書の作成・交付は不要とされており、運用やディクロージャー面での規制が緩和されている。ただし、投資先企業の発行済株式数の5%超を保有した場合の「大量保有報告書」の提出義務はある。
参照『運用は何でもアリ、の私募ファンド』

一般にプライベートファンドの対象は幅広く、あの村上ファンドもプライベートファンドを主体としたものですが、ここではその中の『不動産プライベートファンド』を取り上げます。

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■不動産プライベートファンドの市場規模は、’03年末に1.0兆円規模だったものが、’06年末では6.1兆円と3年で6倍にも拡大しました。下図にその推移グラフを示します。グラフからわかるように、不動産プライベートファンドの実態はJ-REITの規模を上回るものになっています。
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引用『不動産プライベートファンドに関する実態調査 2006年
(注)これらのデータは、アンケート、ヒアリング、公表データを基にした推計ですが、外国籍のファンドは含まれていない為、不動産プライベートの規模はさらに大きいと判断されます。
 
■プライベートファンド6.1兆円の内訳を運用資産額で見てみると、オフィスが約1.9兆円(45.1%)、賃貸住宅が約0.7兆円(17.5%)、以下商業施設、物流施設、ホテルの順になっています。なお、運用資産額ではオフィスが圧倒的に多くなっていますが、物件数では賃貸住宅が全体の約49%を占めています。保有不動産の過半は東京23区内で、運用資産額で1.8兆円(全体の64.4%)にもなります。都市部オフィスの不動産ファンドが加熱気味と言えるでしょう。
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引用『不動産証券化協会、「第1回会員対象私募ファンド実態調査」集計結果
 
■ところで、J-REITとプライベートファンドの関係ですが、J-REITは不動産プライベートファンドが投資を回収する「出口」としての役割を果たしています。
 
資金を集めて取得(投資)した不動産の運用益で成り立つ不動産プライベートファンドですが、プライベートファンドには一定の期限(3〜5年が多い)もあり、運用益が上がったところでいずれは資金を回収(=現金化)する必要があるため、売却先(=出口)が必要になります。その一つがJ-REIT。公募によるJ-REITによって不動産を証券化することで取得した不動産を手放し、資金を回収(現金化)するわけです。
 
今まで「J-REIT成り」「自社REITへの売却」が行われてきましたが、利益相反という点から厳しい目が向けられてきており、代わって「外部ファンドへの売却」や「自社の後続ファンドへの売却」を出口戦略とする企業が多くなってきています。
 
■一部では、そろそろ頭打ち(あと1〜3年)といわれ、金融庁も不動産バブルを警戒して不動産ファンド向け融資への監視を強めていると報道される一方で、外資による大規模な投資計画も動いています。以下に、最近の関連記事(日経新聞)を示します。
 

『不動産ファンドが投資加速、モルガンは最大2兆円』【日経2月1日】
 国内外の不動産ファンドが投資を加速している。外資では米モルガン・スタンレーが日本で新たに最大2兆円規模の投資に踏み切るほか、米大手のブラックストーン・グループも参入を決定。国内勢の運用資産も約11兆5000億円と、1年前に比べ約5割増えた。ただ、優良物件を巡る取得競争の激化で都心部では過熱感も出ており、資金力や運用実績でファンド間の格差が広がりそうだ。
 モルガンは近く、世界の不動産に投資する新ファンドの資金調達を完了する。機関投資家などから総額80億ドル(約9600億円)を集め、現段階では世界の不動産ファンドで最大規模だ。同社は東京都心部のオフィス空室率低下などから「今後も賃料上昇が見込める」としており、総資金の最大4割程度を日本に振り向けるとみられる

外資は日本の超低金利が続く限りは、まだまだ運用益が上がると読んでおり、たとえ競争が激化しても資金力で勝ち抜く戦略に打って出たという所でしょう。外資等が大規模に参入すれば一時的にでも市場が刺激され不動産価格が更に上昇する可能性もあります。未熟な日本市場を高値(=バブル)に誘導することで高利益を目論んでいるのかも知れません。(戦略分析は、いずれそのうち・・・)
 
■J−REIT、不動産プライベートファンドも過熱気味と言われながら、あと数年は拡大する勢いにありそうです。さて、その結果、日本はどうなるのか・・・?
 
現在のJ−REITや不動産プライベートファンドの実態を押さえた所で、次回以降は少し過去に遡って、「不動産ファンドの始まり」から「日本における不動産ファンド発達の経緯」を、日本の政策や外資の戦略を中心に全体像を構造化する予定。是非、お楽しみに!
 
楽しみな方は、トリプルクリック!
              
(by コスモス)

List    投稿者 cosmos | 2007-02-20 | Posted in 04.狙われる国の資産7 Comments » 

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コメント7件

 コスモス | 2007.03.08 22:21

【あとがき】
 
REITの歴史では政府の優遇政策がセットになっているところがミソです。市場のお金を動かすためのネタに無理矢理にでも不動産を流動化(証券化)する、その為に政策を変えていくという発想が凄い所。
 
お金が動けば、儲かる所と損をする所が必ず出てきます。市場に平等などは御座いません。強いものが勝つという勝者の自由とその搾取の構造、それが資本主義の正体です。そこをオブラートに包みながら陰で旨くコントロールしている意志を読み解く必要があります。
 
国家はそこをオブラートに包み込むために、GDPを成長させ続ける必要があるのです。そうしなければ、敗者ばかりが増えてしまい、資本主義の幻想は崩れてしまうからです。国家が赤字国債をリスクを顧みず大量に発行し続けなければならない理由はそこにあります。アメリカも然りです。しかし、その基本構造は各国とも同じですから、少々のことには目を瞑っている訳です。
 
アメリカを見てみると、国家と市場が一体で、市場が国家に寄生している関係が良く分かります。既に市場の方が国家を動かしているのが実態でしょうが(勿論、陰でですが・・)。寄生物である市場が国家の養分を吸い尽くしてしまったならば、寄生物である市場は別な国家へと目を向けることになります。それが中国であり、インドなのかも知れません。(日本には既に限られた養分しかありませんが、美味しい所が残っていますよね。楽に吸い取れるし・・・)
 
市場という表現を使いましたが、アメリカの意志は限られた巨大資本が握っているといっても過言ではないでしょう。そして、アメリカ市場は既に世界に展開されていますので、その意志が世界各国に及び始めており、日本ではそれがとても分かりやすく表出してきています...。

 yamasyo | 2007.03.09 16:30

REITという仕組みが世界各国に広がってきたわけがようやく見えてきた感じです。
見かけの景気がよくなるもので、国にとって都合がよいし、大資本にとっても都合がよいからのようですね。
結局、最後にババを引くのは、REIT株に投資する一般庶民なのでしょうか?

 現役雑誌記者による、ブログ日記! | 2007.03.16 15:57

米国経済は端境期。日米の中央銀行の過剰流動性に対し警戒感

オフイス・マツナガです。TBさせていただきます。米国経済は端境期。日米の中央銀行の過剰流動性に対し警戒感 という、米国のレポートを掲載してみました。

 Financial Journal | 2007.03.22 21:10

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 コスモス | 2007.03.22 23:21

ババを引くのはREITに投資する庶民なのは間違いありませんが、言ってみれば投資者はリスクを承知でのことですので、そうなっても自業自得・・・・
本当に可哀想なのは、マネーゲーム化した市場の影響を被る本当の一般庶民。(私を含む・・・涙)。

 hermes bags 2013 | 2014.02.02 11:34

hermes victoria uk 金貸しは、国家を相手に金を貸す | シリーズ「不動産投資ファンドの成長は続くのか?」3

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