迫りくる大暴落と戦争刺激経済-5~バーゼルⅢで日本は米国債を買わせられる~
トランプ大統領の大幅減税や経済強化によって財政赤字の膨張が加速している。それを量的緩和政策(QE)でしのいでいる。赤字国債は公の数字の10倍の20兆ドル(2000兆円)だという。これをFRBが引き受けた。やってはいけない違法行為をやった。
その後、FRBは徐々にその保有量を減らしているとのこと。海外勢が大量保有している。アメリカのヨーロッパ出先機関ともいうべきBIS(国際決済銀行)による画策「バーゼルⅢ」によって、「株を買わずに米国債を買え」と各国銀行を誘導しているとのこと。関係者にとっては、米国債リスクの方が圧倒的に大きいことを承知の上、誰も口にできない構図とのこと。日本は地方銀行が餌食にされそうだという。これは暴落に向けた布石だといって間違いない。
『迫りくる大暴落と戦争“刺激”経済』(副島隆彦 著)からの紹介です。
*************************************
■「米国債『大増発』時代へ 長期金利に再び上昇圧力 市場『8割増』の見方」
米財務省が米国債の大幅な増発に乗り出した。そのために米長期金利の上昇(債券価格の下落)圧力が一段と高まっている。大型減税に伴う歳入減や国防費の増加で、財政赤字の膨張が加速する。その一方で米連邦準備理事会(FRB)は国債保有を減らしている。2018会計年度(17年10月~18年9月)の国債発行額は、前年度比8割増の1兆ドル(100兆円超)に及ぶとの推計がある。ただでさえインフレが意識され、金利が上昇し易い。その中で幕を開ける『米国債膨張(減税のこと)で、債券バブルに崩壊の足音が聞こえ始めた。
□大型減税に加え、歳出上限上げ合意
米上院の与野党指導部が2月7日、2018~19会計年度の歳出上限を、計3000億ドル程度引き上げることで合意したことも、金利上昇につながった。トランプ政権が検討した国防費の大幅な増額が現実味を帯び、米国債の増発懸念が強まった。
もともと大型減税による歳入減により、財政赤字の拡大に拍車をかけることは確実だった。米議会予算局(CBO)は、「減税は10年間で1.8兆ドルの赤字拡大をもたらす」とはじいており、この大半を国債増発で賄わざるを得ない。それに今回の歳出増が追い討ちをかける。
□FRBの保有圧縮も響く
国債の大増発は、FRBが過去の量的緩和で買い込んだ米国債の保有額を減らしている。このことも、ボディーブローのように効く。18会計年度の連邦予算は3702億ドル、19年度は8820億ドルが不足する。その分を、国債増発で穴埋めする必要がある。このうちFRBによる保有縮小の影響は、それぞれ1750億ドル、2870億ドルと決して小さくない。
好景気のもとでインフレの見通しが強まり、FRBの国債保有が減るなかで、トランプ政権は大規模な財政拡張に乗り出す。財政出動は景気対策の一環として実施されるのが普通だった。(ところがトランプ株高による)世界同時好況の中で、大規模な需要刺激に動くと、景気過熱によるインフレ圧力の拡大など、大きな副作用を伴う。
米国債は邦銀を含め、海外勢が大量に保有している。あらゆる資産運用の基準にもなる。このため、新興国から(起きる、米国債売りによるアメリカからの)資金流出を始め、金利上昇(引用者による加筆説明。そのまま米国債を持ち続けていると、新しく安い米国債との関係で損が出てしまうので、売る。すると思うように売れなくて金利が上がる)が金融市場与える影響は大きい。これまで世界の市場の安定を支えてきたのが「米(国)債バブル」だ。国債大増発時代の始まりは、世界の景色を一変させる衝撃度を持っている。(日本経済新聞、2018年2月8日)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この記事の末尾にある「米(国)債バブル」は、2008年のリーマン・ショック(NY初の巨大金融危機)の時につくられた巨額の米国債発行残高のことだ。これが原因だ。有識者達は、このことに触れようとしない。
リーマン・ショックに直面した、当時のバーナンキFRB議長が、”火消し”として、政府資金(どこにもないのに)を際限なく投入した。量的緩和政策(QE)と称して、おそらく本当は総額20兆ドル(2000兆円)ぐらい、米国債を大量に政府(米財務省)から引き受けた。買い上げた。それだけのドル資金を、米政府に渡した。やってはいけない違法行為をやったのだ。米政府は、これで、一瞬はほとんど破綻(倒産)した大銀行、保険、証券をすべて一律で救済した。この時の「クオンティテイティブ・イージング・マネー」(量的緩和マネー)のことだ。第4章で後述するリチャード・ヴェルナー氏がこのQEというコトバを作った。彼がQEの生みの親だ。
バーナンキは、2008年から翌年にかけて「QE1」「QE2」と立て続けた表面上は、わずか2.3兆ドル(230兆円)を出した。本当はその10倍の20兆ドル(2000兆円)だった。これでニューヨークのすべての大銀行、生損保、証券(投資銀行)を救済した。例えばシティバンク(シティグループ)に4000億ドル(40兆円)公的資金投入、とされたが本当は、その倍だろう。AIGと言う世界最大の総合保険会社に1兆5000億ドル(150兆円)とされたが、本当は、その倍だろう。AIGと言う世界最大の総合保険会社に1兆5000億ドル(150兆円)とされたが、本当はその倍だろう。そうやって20兆ドル(2000兆円)が本当に掛かったのだ。そしてその主に重荷(負担)が今のアメリカ政府(財務省とFRB)にのしかかっている。私はあの時(2009年)に自分の本で、「民間第銀行の毒が、政府に回ったのだ」と書いた。
さらにバーナンキは2012年から追加緩和として、毎月400億ドル(4兆円)の国債を買い続ける「QE3」をやった。FRBがドルを刷り散らしてお金をつくって、政府(財務省)が銀行業界に突っ込んでようやくアメリカは生き延びたのだ。あれからちょうど10年がたった。
この量的緩和政策を、イエレンFRB議長が、「2017年9月には終結させます」と弱々しく宣言した。しかし実際には止められない。裏口から出し続けている。その10月から保有米国債を段階的に減らし始めた。誰がそれを買って(引き受けて)いるのだろうか。一体、どうやってFRBの米国債残高を無理やり減らしているのか分からない。FRBが米国債を放出すると、債券市場でその中古の米国債がだぶつくので長期金利は上がる。市場は既に昨年からインフレ懸念で金利上昇に敏感になっていた。アメリカはこれからも、この先も米国債をなんとしても世界中に売りつけなければならない。それに新しいバーゼル合意である「バーゼルⅢ」が決まった。
■バーゼルⅢで日本は米国債を買わせられる
「バーゼル合意」は、スイスのバーゼルにあるBIS(国際決済銀行)という不思議で奇妙な国際機関(ということになっている)が勝手に決めた国際的な取引をする世界中の民間銀行に対する規制である。これまでバーゼルⅡに、さらに規制を強化したバーゼルⅢが決まったようなのだ。次の記事のとおりである。但し「バーゼルⅢ」という言葉は、なぜかこの記事の終わりの方に一つだけチョコンと出てくるだけだ。どこか後ろめたいのだろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
国際展開する大手銀行の健全性を担保する新しい資本規制が、2017年12月7日、最終合意した。自己資本比率の算定の根幹になる貸し出し資産の計算法で、より厳しくリスクを見積もる水準で、日米欧の金融当局が折り合った。2022年以降、段階的に導入する。
日本の3メガバンクは、過去最高水準にすでに自己資本を積上げており、大規模増資などを迫られる事態にはならないようだ(引用者注。ということは日本ではこれから地方銀行、地銀が狙われる、ということだ)。
新規制は銀行が経営危機に陥った際、損失を穴埋めできる十分な自己資本を持たせるのが狙い。自己資本比率は、最低8%を維持する他、さらに最大2.5%分に当たる自己資本比率を確保して余裕を持たせる。一方で自己資本への算入条件を厳しくする。
新たな規制「バーゼルⅢ」は、08年の金融危機をきっかけに枠組み作りが始まった。各国の銀行監督当局で構成するバーゼル銀行監督委員会は、1998年以降、段階的に規制を強化しており、今回は3段階目に当たる。(日本経済新聞、2017年12月8日)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この「バーゼルⅢ」で何をやるか、というと、民間金融機関の自己資本規制を強化する。銀行が資金の運用として株を投資用に買うと、バーゼルが、「それは危ない投資だから買うな」という。
バーゼル規制で、株式はリスク投資だ、コアなキャピタルにならないことになった。それでは、何を買うんだといったら、国債買いが推奨されることになる。国債は、ソブリン(王様、君主のこと)・ボンドといって、国家が発行する紙幣(お札)の信用と同じぐらいの高い信用がある、ということになっている。だから当局は、米国債を換え、買えと誘導するのだ。本当にふざけた話しだ。米国債を買わせるために、バーゼルⅢをやるのである。株価買うな、国債は安全だという。あいた口がふさがらない。今や、国債そのものが暴落する可能性が出ていて、国債はまさしくリスク資産なのである。日銀黒田は、2015年2月12日の政府の経済諮問会議で、急に手を上げて、ペロリとこのことをしゃべってしまった。その発言は、議事録から削除された。
「バーゼル・クラブ」というのは、正式には「バーゼル銀行監督委員会」といって、第一次世界大戦でドイツが負けた時の賠償金で、できた組織だ。アメリカはドイツに払わせた賠償金をそのままヨーロッパに残した。スイスに。それを元手にしてできている国際機関だ。だからアメリカの言うとおりに動くようにできている。もう本当に悪いやつらで、私はこのことは言っておかなければいけない。バベルの塔(タワー・オブ・バベル)にひっかけて、虚栄の党の意味でその本部ビルの形から「タワー・オブ・バーゼル」と呼ばれている。
日本の銀行員の幹部たちは皆、このことを知っているのだけれども、怖くて言えない。「バーゼル規制で1989年に日本のバブル(好景気)は無理やり潰された。それ以来、日本の経済はひどいことになった」と頭のいい人は皆、知っている。それで、ますますこれから米国債を買わされる。アメリカにさらにお金が流れ出してゆく。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.kanekashi.com/blog/2018/11/5948.html/trackback