新エネルギー ~合成燃料の可能性と世界経済への影響~
現在、環境問題の観点から再生エネルギーへの関心が高まっている。
特に、火力発電に使われている化石燃料を、燃焼時に排出される二酸化炭素の対策だ。そのため、燃焼させても二酸化炭素を排出しない水素やアンモニアに置き換えようという動きが強まっている。しかし、長距離を移動する航空機や大型輸送トラック、船舶などの電動化や水素化は電池の高性能化やインフラの整備、リサイクルの問題など多くのハードルを越えなければならない。そのため一部の用途については、まだしばらく、ガソリンやジェット燃料など液体燃料が必要になると予想されている。
そこで、現在注目されているのが合成燃料だ。
■合成燃料とは
・二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を原材料として製造する石油代替燃料。石油と同じ炭化水素化合物の集合体で、ガソリンや灯油など、用途に合わせて自由に利用できる。
合成燃料は、再生可能エネルギー由来の水素と、発電所や工場から排出される二酸化炭素や大気中の二酸化炭素を使って製造することから、従来の化石燃料と違い、ライフサイクル上で大気中の二酸化炭素を増やすことがない、カーボンニュートラルな燃料と言われている。
■合成燃料のメリット
・エネルギー密度が高い 長距離を移動する飛行機やトラック、船舶は、水素・アンモニアを利用したり、電動化するハードルが非常に高い。その理由のひとつがエネルギー密度。水素やアンモニアなどのガス燃料は、液体燃料と同じ体積から得られるエネルギー量が大きく劣る。電動化についても同様で、現在の飛行機やトラックほどの距離を移動するには、電池の高性能化が必要。しかし、体積あたりのエネルギー密度が高い液体の合成燃料なら、こうした問題をクリアできる。
・従来の設備が利用できる 従来のガソリンやジェット燃料の代わりに合成燃料を使うことで、これまでの設備がそのまま利用できる。
・資源国以外でも製造できる 化石燃料の産地といえば、中東や北米、ロシアなどが有名だが、水素と二酸化炭素で製造できる合成燃料なら、これまで化石燃料が存在しなかった場所でも製造できるうえ、枯渇リスクもない。日本でもガソリンや灯油を製造できる可能性がある。
・環境負荷が化石燃料より低い 合成燃料は原油に比べて硫黄や重金属の含有量が少ないため、より環境負荷を抑えることができます。
■歴史
カーボンニュートラルの実現とエネルギー問題の解決に有効な合成燃料。2022年4月、政府は合成燃料を「グリーン戦略」における重要な技術の1つに選定した。現在、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」(2022~2028年度)の下、商業化に向け、官民連携による合成燃料の製造技術の研究開発が進められている。
この「CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」は、製造プロセスをすべてゼロから開発するわけではない。このプロジェクトの背景には、JOGMECが民間企業と共同で、1998年から2012年にかけて取り組んできた日本独自のGTL技術「JAPAN-GTLプロセス」が生かされている。GTLとは、「Gas to Liquids」の頭文字をとったもので、ガスを液化することを意味する。
GTLと合成燃料の違いは、原料の違いにあります。GTLの原料が天然ガスである一方、合成燃料の原料が水素と二酸化炭素という点だ。つまり、合成ガスを製造したあとの流れはそのまま転用できる。約10年前に確立したJAPAN-GTLプロセスにおける原料以外の部分を最大限に活用しつつ、原料が変わったことに伴う合成ガス製造技術や、製造効率を飛躍的に高めるための革新技術を新たに開発し、合成燃料の早期商業化を目指している。
JAPAN-GTLプロセスの開発プロジェクトでは、まず、1998~2000年度にかけて、JOGMECと民間企業3社が共同で実験室レベルの研究をスタートさせ、日本独自の合成ガス製造技術とFT合成技術を開発した。2001~2004年度には、JOGMECと民間企業5社と共同で、北海道苫小牧市にGTLパイロットプラントを建設し、日量7バレルの液体燃料の製造を成功させた。
さらに、2006~2012年度には、民間企業6社と共同で、新潟県新潟市にGTL実証プラントを建設し、日量500バレルの液体燃料の製造を達成させた。500バレルとは約80キロリットルだが、小型ながら一定の生産規模であり、実証プラントは、開発プロジェクトを通して、3,000時間連続運転を実現した。
GTLは、天然ガスから液体燃料を製造する技術であり、製造される液体燃料の環境負荷が石油由来の燃料に比べて低いという利点を持ちます。石油由来の燃料との競争では、資源量も多く相対的に安価な天然ガスと資源がタイトになりつつある原油との価格差が拡がればGTLが経済的に有利になる期待があった。
しかし、2011年以降、石炭等に比べCO2排出量の少ない天然ガスへの需要が急激に高まり、天然ガス価格と原油価格の価格差は狭まりながら上下に変動し続ける状況になった。CO2排出を抑えて持続可能性を高めた社会を求める流れと共に、上述の経済状況の中で、JAPAN-GTLプロセスは商業化の機会が得られない状態が続いた。
このような中、2050年カーボンニュートラルという大きな目標が掲げられ、改めてCO2の循環利用を模索する動きに注目が集まるようになった。CO2を出さないクリーンな水素と組み合わせて合成燃料を作る技術の検討が始まり、JAPAN-GTLプロセスが再び脚光を浴びることとなった。
■今後の追求ポイント
緊迫するウクライナ情勢をめぐり、日本政府は日本が輸入している液化天然ガス(LNG)の一部を、欧州に融通すると発表した。米国などからの要請に応えたもので、ロシアから欧州へのガス供給が滞った場合に備えるという。なぜ、ウクライナ危機で問題になっている天然ガスの資源問題。
大気中の気体から資源調達が可能になれば世界情勢は大きく変わる。資源国ではなかった国も他国への依存が減る。
カーボンニュートラルに向けた各国の資源開発の動向に注目したい。
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