2007-10-25

【消費税】社会保障目的税というゴマカシ

消費税引き上げの議論が本格化してきた。
 
07年10月24日読売新聞より。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071024-00000006-yom-bus_all

経済財政諮問会議の民間議員が25日の会議に提出する基礎年金の国庫負担に関する試算が明らかになった。
 
 それによると、政府の方針通り、現行の「保険料方式」を維持して、2009年度までに国庫負担を現在の3分の1から2分の1に引き上げる場合、消費税率に換算して1%分(2・5兆円)の財源が必要となる。一方、すべてを税金で賄う「全額税方式」を採用した場合は、消費税換算で5〜7%の財源が求められ、現在5%の税率を10〜12%に引き上げる必要があると試算している。


また17日の発表(毎日新聞)では、
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20071017-00000133-mai-bus_all

2025年度時点で現在より財政を悪化させないためには14兆4000億〜31兆円を増税か社会保険料の引き上げでまかなう必要がある。消費税増税ですべて対応すると、25年度時点で消費税は11〜17.25%(6〜12.25%の税率アップ)に引き上げなければならず、政府・与党の税制改正論議に影響しそうだ。


とある。要するに、これだけ消費税引き上げないと年金は払えませんよ、そのかわり増税分は社会福祉目的税として還元しますよ、ということらしい。
 
しかしこの説明には大きなごまかしがある。それは何か?

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年金をはじめとする社会保障費の財源がすでに厳しいという状況は、その原因はともかく、多くの国民は承知している。だから増税するならその分を社会保障に充てて欲しい、それならやむをえない。。。という意識になりやすい。しかしこの論理には大きな問題があるようだ。
 
「超」整理法の著者、野口悠紀雄氏は次のように述べている。
http://www.noguchi.co.jp/archive/diary/dr_051119.php

(略)
結論をあらかじめ述べれば、「社会保障目的税化」とは、消費税増税を行ないやすくするための方便である。そして、歳出削減努力を弱める効果を持つ。しかも、それを人々の錯覚を利用して行なおうとしている。したがって、望ましくない提案と評価せざるをえない。


方便とはどういうことだろうか?

現在の一般会計の姿を概算で言えば、社会保障費の総額は約20兆円、消費税の税収は約10兆円である。また、歳出と歳入の総額は約80兆円である。
この現状を、普通はつぎのように解釈する。つまり、「社会保障費は歳出総額の約4分の1なので、消費税のうちの2.5兆円と他の歳入項目(所得税、法人税、公債金収入など)のうちの17.5兆円によって賄われている」。
しかし、この現状を、つぎのように観念することも可能だ。すなわち、「消費税の税収10兆円は全額社会保障にあてられている。それ以外に、他の歳入のうちの10兆円が社会保障費にあてられている。そして、他の歳入の残り60兆円は、他の歳出にあてられている」。この解釈を具体的な形で示すには、一般会計の中に「社会保障特別勘定」を設け、右の収支対応関係を示せばよい。
消費税の税収が社会保障費の総額を超えない限りにおいては、つねにこのように説明することが可能だ。しかし、いうまでもないことだが、これは、単に解釈(あるいは表現)の仕方を変えているだけのことである。そして、解釈を変えたところで、実態には何の差も生じない。つまり、「金に色目はない」のだ(英語では、このことを、Fund is fungibleという)。
ところが、消費税増税に対する人々の反応は、どちらの表現をするかで変わってくる。「消費税は地方の道路建設など自分の生活に関係の薄い使途にあてられているのではなく、社会保障という、生活に密着した目的に使われている」と観念することで、増税に対する抵抗感が弱まる効果があるのだ。


確かに、実態は同じなのに、違う目的に使われていると考えると腹が立つが、全部還元されるなら増税も仕方ないか、と錯覚してしまいそうだ。

しかし、実際には、つぎのようなことが起こりうる。
将来のある時点で、社会保障費が30兆円にまで増加するとしよう。他方で、このときまでに消費税を増税して税収を30兆円にしたとしよう(中間報告は、「社会保障の財源を原則として社会保険料と消費税に限定する」としているので、最終的にはこのような状態が目指されているのであろう)。この増税の過程で、「消費税は全額社会保障費にあてられている」と説明することは可能である。そう説明すれば、増税に対する抵抗感は和らぐだろう。
しかし、この増税の結果、現在社会保障にあてられている消費税以外の歳入(所得税、法人税、公債金収入など)は、社会保障以外の目的にあてることができる。だから、例えば道路予算を10兆円増やすことができる。あるいは、歳出は増やさずに、公債発行額を減らすこともできる(財務省の目論見は後者であろう)。


「目的税」とは聞こえがよいが、今まで他の税収から調達して補っていたのを減らして、他に回すことができるようになるだけなのだ。
 
よく政府の発表で「不足財源をすべて消費税でまかなうとすると○○%必要」という表現が見られるが、現実にはありえない設定である。
 
高負担・高福祉といわれる欧州各国でも、社会保障費の財源は5〜6割が個人保険料と事業主保険料で、残りを税金でまかなっているのだが、財源全体のうち消費税が占める割合はスウェーデンでも12.5%である。社会保障を消費税でまかなっている国などない。
http://passe051201.at.webry.info/200609/article_2.html
 
これらは一例だが、増税の議論をするにおいて、明らかにされていない事実が多すぎる。特に消費税となると、生活と密接であるために感情的な対立に陥りやすく、増税派もごまかしの説明ばかりでまともな議論が期待できない。
 
税金の問題は、富をどう再分配するのか、そして社会をどう統合するのかという問題であるが、正確な情報が共有されていなければ課題共認すらできない。だから自分の都合を優先した主張ばかりが横行して収集がつかなくなってしまう。増税が必要かどうか、反対かどうかの議論の前に、まず社会がどのような状況になっているのか、それを明らかにしていきたい。
 
 
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List    投稿者 kknhrs | 2007-10-25 | Posted in 03.国の借金どうなる?3 Comments » 

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コメント3件

 NS | 2007.12.24 14:20

地球温暖化→京都議定書は、今や、政府(国)の無能ぶりを明らかにするキッカケになればと傍観者的に見ています。もう、国家には任せられない!!
ちなみに、CO2削減における国の方針は出されているのでしょうか?

 まいたけ | 2007.12.25 15:01

CDM自体、ザル法みたいなものなので、審査が甘く前から問題になってました。審査が甘いということは、CDMでCO2が下がっても、その他の環境や社会問題を引き起こす可能性があり、実際にCO2が下がるのかどうかわからない事業も承認されてきました。その意味で、却下が増えたことは審査が改善された可能性があります。あと、原子力と温暖化対策をかけあわせ、原子力を強引に推し進めようとする日本政府の無能ぶりは相変わらずですが、温暖化対策でも無能振りをいかんなく発揮しているため、今回の地震のもう何年も前から、日本は排出権売り込み先のターゲットになっていて、これから確実に本格化します。結局は税金なので、泣くのは国民です。
この動画まだ途中までしか見ていないのですが、日本の温暖化対策をどう進めればいいか、かなり参考になると思います♪
http://www.youtube.com/watch?v=mkFLvo0VHQk&feature=related

 wholesale bags | 2014.02.10 21:15

金貸しは、国家を相手に金を貸す | CO2排出権市場の日本は蛙?

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