2010-06-17

日本の税システムを考える−8 一般取引税で社会が変わる!?(4)

日本の税制の抜本的転換を提言する「一般取引税を導入して夢のジパングへ」(馬場英治氏)を紹介するシリーズの第4回。
前回までの記事はこちら。
第1回
第2回
第3回
今回は前回記事に続き、馬場氏が提唱する電子的実取引税の利点について検証してみる。
馬場氏は上記論文の中で、実際に企業に電子的実取引税を適用すると従来の税制に比べてどう変わるか?という試算を行っている。電子的実取引税3%を導入すれば、国家全体では税収約75兆円と、現在の45兆円に比べ30兆円もの増収になる。ところが、この試算によれば、現在の消費税と法人税の仕組みに比べ、殆んどの給与所得者と法人において実質減税になるのだという。
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「一般取引税を導入して夢のジパングへ」p.15より

◆すべての人に恩恵が行き渡る
(前略)給与所得者の場合少なくとも所得の10%は確実に源泉徴収されているので,大幅な減額になることは確実である.低所得階層の場合は収入のほとんどが直接消費に回っていると考えられるから少なくとも5%の消費税を納付していたことになるので,これまで所得税非課税であった階層ですら多少なりとも減額の恩恵を受けることになる.

法人の場合を解析してみよう.
ごく大雑把に式を立てると,
法人税額=収入(売上)×利益率×所得税率
取引税額=Σ(入金×取引税率)=収入×取引税率

と見ることができるから,利益率×所得税率<取引税率の場合(その他の条件をまったく無視すれば),納税額が増加する可能性がある.法人所得税率を30%,取引税率を3%とすると,利益率が10%以下の企業では実質増税になる可能性がある.
(中略)
しかし,次のような条件下では「すべての企業」で減額になると主張することが可能である.

商品価格は税制が変わったにも関わらず不変という状態になっている(と仮定する).
業者Aは仕入れ原価(内税)525円の材料Mに加工費450円+利益50円を上乗せして正価1000円で販売していたとしよう.業者Aの付加価値税は25円,商品価格は内税で1050円となる.業者Aの利益率は5%で分岐点10%よりも小さい.所得税率30%とすれば,納税額15円で税引き後利益は35円である.
税制改革後も同一商品を同一価格で販売したとすると,業者Aは1050円×0.03=31円の取引税を納税した後,手元には1019円のキャッシュが残る.従来通りの価格で仕入れと加工ができるとすれば,この業者の手元には1019−(525+450)=44円の利益が残る.この利益には所得税はかからないので従来の税引き後利益35円より9円も多い.同様のことは業者Aに原材料Mを卸している業者Bについても当てはまるから,すべての企業で所得が増加すると言える.

整理してみよう(下記の消費税は上記引用中の付加価値税と同義)。
(現行制度の場合)
商品価格1050円=正価1000円+消費税50円(消費者がAに払う)
           =材料費500円+加工費450円+Aの利益50円+消費税50円
仕入原価 525円=材料費500円+消費税25円(Aが消費者から受け取った50円からBに払う)
Aの納税額合計  =法人税+消費税=(利益50円×30%)+(50円−25円)
           =法人税15円+消費税25円
           =40円
Aの税引後利益 =利益50円−法人税15円
           =35円

(一般取引税の場合)
商品価格1050円=材料費525円+加工費450円+Aの利益75円
Aの納税額合計  =1050円×3%(一般取引税率)
           =31円
Aの税引後利益 =利益75円−31円
           =44円


要は、同じ1050円の商品を売る場合、現行制度の納税額=法人税15円+消費税25円に対し、一般取引税では31円となり、その差9円が法人の税引き後利益増となるわけだ。当然ながら、ここだけ見れば国の税収は9円減ることになる。このことを一般式にしたのが次の引用部分だ。

取引税導入以前と導入後の販売価格が同一であるという等式を立てて,税引き後利益と税額の部分だけに着目すれば以下の式が成立する.
付加価値税+所得税+税引き後利益1=取引税+税引き後利益2
ここで,税引き後利益1,利益2はそれぞれ税制改革の前と後で手元に残る利益である.
つまり,
付加価値税+所得税−取引税=税引き後利益2−税引き後利益1
であるから,付加価値税+所得税>取引税ならば,つねに利益2の方が利益1を上回ることになる.この不等式の両辺を収入(売上)で除して,消費税率+利益率×所得税率>取引税率を得る.従って,消費税率>取引税率ならばつねに利益2は利益1を上回ることになる.

正確には、上記の付加価値税(消費税)は、ある企業が納税した分だけ、即ち、預かり消費税−仮払い消費税なので、消費税率(付加価値税÷収入)は5%より小さくなる。いずれにしろ、これだけでは国の税収トータルは激減しそうなものだが、試算では逆に税収30兆円の増加になるという。これは一体どういうことだろう?

「すべての納税者」が減額の恩恵を受けるとすれば,誰がその埋め合わせをするのか?という当然の疑問が浮かぶ.その答えは「これまでなんらかの形で税を免れていたすべてのセクター」ということになる.

この“すべてのセクター”がどこなのかが、この一般取引税(電子的実取引税)の性格を決める一つの要素であると思う。そして、その一つが、企業−銀行間の“融資”ではないか、ということを、るいネットに書いた。⇒こちら
従来の税制では、融資やその返済に伴う資金移動は無税であったが、この電子的実取引税の性格(ゼロトレランス=例外なし、アノニミティ=匿名性)に照らせば、企業融資関連の全銀ネット上の資金移動も当然課税対象となり、これが実際の経済活動の中でかなり大きなウェイトを占めているのではないかと想像されるからだ。
<追記>静かなる革命2009の記事中のコメントによれば、銀行と企業間の融資や返済は「金融取引」として、電子的実取引税の対象からは除外するという考え方のようだ。だとすると、税収70兆円の財源は主にどこから捻出されているのかが改めて気になるが、全国銀行協会の内国為替取引の統計データを見ても詳細は分からなかった。
ここまでこの一般取引税を紹介してきて、この税の大きな思想は、実体経済とマネー経済の分離、そして金貸し=銀行の経済支配力の制御ではないかと感じた。
次回は引き続き、この税の導入による社会への様々な影響を、著者の馬場氏が考察した部分について紹介、検討してみる。

List    投稿者 s.tanaka | 2010-06-17 | Posted in 03.国の借金どうなる?1 Comment » 

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コメント1件

 hermes bags keywords3 | 2014.02.01 20:05

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