2009-08-14

政府紙幣の可能性を探る〜減価する貨幣の実例〜

ここでシルビオ・ゲゼル氏が提案した減価する貨幣を導入した実例を紹介します。
◆オーストリア・ヴェルグルの 「労働証明書」

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シルビオ・ゲゼルが提案した減価する貨幣については、彼が亡くなった直後、大恐慌が深刻化する中でドイツやフランス、オーストリアなど各地で、 地域通貨として減価する貨幣を導入し、地域経済の立て直しに成功した例が出てきました。
その中でも最も有名な、オーストリア西部のチロル地方の ヴェルグルという小さな町で、1932年から翌年にかけて実施された 「労働証明書」について紹介したいと思います。
減価する貨幣になると、経済は一体どうなるの??
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ヴェルグルは アルプスのふもとにある小さな村に過ぎませんでしたが、19世紀中ごろにオーストリアを東西に結ぶ鉄道路線と、アドリア海のトリエステからドイツ・ミュンヘンまでを結ぶ鉄道路線が交差することになり、交通の要衝として栄えるようになりました。
19世紀終わりには繊維工場が建設されたことからこの街の人口が増え始め、1900年の648人から1910年の4427人にまで成長しました(ちなみに、2009年現在の人口は1万2千人程度です)。
しかし、1929年ニューヨーク証券取引所発の 株式大暴落による世界大恐慌は、この街にも大きな影響を与え、労働者が激減しました。
                1930年 →1933年
鉄道交通関係労働者数  310人 →190人 (失業者120人)
セメント工場労働者数    60人 →  2人 (失業者 58人)
繊維工場労働者数     400人 →  4人 (失業者396人)
5千人弱の人口しかいない小さな町で 5百人以上もの失業者が発生してしまった場合、どれだけ経済的に深刻な影響が発生するか想像に難くないことでしょう。
このような経済危機の中で1931年に町長になったのが、ミヒャエル・ウンターグッゲンベルガーです。
彼は若いときにさまざまな仕事をして経験を積みながら、労働組合の活動を通じてシルビオ・ゲゼルの理論を学びました。
そして町長として念入りに根回しをして減価する貨幣への理解を高めた上で、翌1932年7月5日に会議が行われ、 減価する貨幣として地域通貨を発行することが決まり、7月31日から流通が始まったのです。
この会議が行われた1932年7月5日時点でのヴェルグルは、以下のような状態でした。

・失業者の数は400名(そのうち失業保険も切れた人が200名以上)にのぼり、ヴェルグル広域圏では失業者数は1500名に達していました。
・銀行に対して町役場は130万シリングの借金がありましたが、その借金の元金を返すあてはなく、それどころか利息さえも5万シリング滞納していたのです。
・また、11万8千シリングの地方税が未納状態でしたが、最悪の景気状況であった当時のヴェルグルで、この地方税を回収することはほぼ不可能でした。1932年の上半期の街の税収は3千シリングしかなく、町役場は経営破綻状態だったのです。

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この会議で発行が決まった、「労働証明書」という名前の地域通貨には、シルビオ・ゲゼルの減価する貨幣の考えが応用されました。
減価する期間と率は、毎月1%とし、具体的には、新しい月になるたびに額面の100分の1のスタンプを貼らないと使えないお札が、1、5、10シリングという3つの額面で発行されたのです。つまり毎月貨幣の価値が1%ずつ減少していくのです。
ウンターグッゲンベルガー町長自身が、地域の貯蓄銀行から3万2千シリングを借り入れ、それをそのまま預金として預け入れ、それを担保に3万2千シリングに相当する「労働証明書」を発行し、7月31日に千シリングが、町役場の職員の給料として支払われました。なお、この労働証明書にはシリングの担保があるので、2%の手数料を払えば誰でも「労働証明書」を国の紙幣である「シリング」に交換したり、逆にシリングを労働証明書に交換したりすることができたのです。
この「労働証明書」は驚くようなスピードでヴェルグル町内を 流通しました。
3日後には町役場の職員が、「労働証明書」を千シリングしか発行していないのに、もう5100シリングもの税金が入ってきました。労働証明書がどこかで偽造されているはずです!」と町長に報告したのですが、町長はそれを聞いてにんまりと笑ったそうです。
つまり、減価する貨幣により お金の流通がそれだけ促進されたので、同じお金が何度も市役所と町の人達との間を流通し、たった千シリングしか発行していないのに5100シリングもの税収増という効果をもたらしたのです。もちろんヴェルグルの人たちもこのお金で生活必需品などを買ったことでしょうから、その経済効果は5100シリングをはるかに上回るものだったことでしょう。
この労働証明書がどのような効果をもたらしたかについて、もう少し詳しく見てみることにしましょう。
この労働証明書の平均流通額は5400シリングでしたが、当時を知る人によると町役場には同じお札が週2回ほど戻ってきていたそうです。
もちろん町役場に戻ってくるまでの間には、たとえば建設業者から労働者に、労働者から雑貨屋に、雑貨屋から農家にという形でいろいろな人にお金が渡っていたことを考えると、その経済効果はさらに大きなものであると考えられます。たとえば町役場を出てから町役場に戻ってくるまでのあいだにこの労働証明書が3回持ち主を変えたと考えると、

建設業者→支払い→労働者→支払い→雑貨屋→支払い→農家→支払い→町役場

労働証明書が流通していた1年ちょっとの経済効果を大雑把に計算してみると

5400シリング×支払い4回×2回/週×60週(1932年8月〜33年9月)=259万シリング

となり、250万シリング以上の経済活動が行われたと考えられます。
研究によれば 通常の14倍の流通速度のことです。
そして、このお金のおかげで新しい雇用が生まれ、当時の厳しい経済状況の中で失業者が4分の1も減ることになりました。またお金が絶えず流通したことから経済がよみがえり、それまで滞納していた税金が納められるようになりました。減価しないうちに、税金を前払いする人まで現れたのです。
ヴェルグル町役場はこの「労働証明書」を使って、道路や学校の補修や建設などの公共事業を合計で10万シリング程度発注しました。以前はボロボロだった町の目抜き通りがきれいに補修され、経済水準は改善しました。
この成功を目の当たりにして1933年6月までに200以上の都市がこの制度の導入を検討し始めました。
しかし、 「通貨発行は中央銀行の特権であり、これは国家通貨制度を乱す」という訴えがオーストリア中央銀行から起こされ、翌1933年の9月にこの 労働証明書は禁止されてしまいます。
当然アメリカの自治体次第に導入され、このスタンプ通貨システムを法案化する動きまで出ました。
1933年3月、当時のルーズベルト大統領はスタンプ通貨の使用および発行を禁止し、中央集権化されたニューディール政策を実施したのです。
*たかだが5000人の町での施行は許容範囲だったのでしょうが、これが拡大傾向にあると見るやとあっという間に禁止する手際のよさ。このスタンプ通貨が通貨システムの根幹を覆すものとしての危険性を金貸しは十分把握したのだと思います。
ということは、新体制としての可能性を秘めているかも?
by goqu
 

List    投稿者 goqu | 2009-08-14 | Posted in 03.国の借金どうなる?, 09.反金融支配の潮流14 Comments » 

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コメント14件

 marumo | 2010.02.20 20:10

存在が当り前すぎて、まったくもって疑問に思わなかったお金や利子のことを改めて考えると、無いお金が増えてゆくこの世界大丈夫か?と思います。
また、金のコインの引換券から始まったお金(お札)が一部またコインという形になっていることが何だか面白く感じました。

 wacky | 2010.02.20 20:14

今に繋がるお金のシステムを歴史を振り返る形でみてみると、おかしな点に気付きます。
貸すという行為、受領書の所有が豊かさを示す・・・横領という行為で儲けを出すことが当たり前となる事に違和感を覚えました。
現代の複雑にみえるお金の仕組みを理解するには原型を知る事がとても役に立つんですね!

 まるも | 2010.02.20 20:17

存在が当り前すぎる利子やお金のことを改めて考え、無いはずのお金がどんどん増えていく実態を知るとこの世界大丈夫か?とか価値ってなんだろう?と思います。
また、お札が受領書として始まったと知ると原価が恐ろしく安い紙が価値を持つことも納得できました。
あんまり関係ないですが、金のコイン⇒受領書⇒お札とコイン というように形としてコインが戻ってきたのも面白いと思いました。

 おやじ | 2010.02.20 20:19

紙幣が信用創造という基盤の上に成り立っているということは、その紙幣=お金を巡り経済活動を営む現代社会の秩序そのものが、如何に危ういものかと感じさせてくれるものです。
さりとて、金本位に戻す事などもはや金保有量と貨幣発行量の比較上、不可能であるとすれば、さて貨幣はどこに信用の基盤を置いていけばよいのか。或いは原油取引のドルペッグ制の引き締めなどで担保し続けられるのか。
いずれも可能性が低いとすれば、やはり紙幣=お金のあり方を根本的に考え直さないといけないのだと思います。

 fish | 2010.02.20 20:19

「お金を発行する際に利子がかかる」
どう考えてもおかしいです。
だって、これなら世界中の借金が膨らんでいくだけですもんね。
銀行が100兆円のお金を発行したとして、利子を0.1%つけたら、みんなは100兆1000億円を銀行に返さなきゃいけない。
世界中に流通してる紙幣が100兆円ぶんしかないとしても100兆1000億円返せって?
ふざけてます。
日本も欧米諸国も借金まみれとか、世界から貧困がなくならないとか。
この仕組みなら当然ですよね。

 ふぇりちゃん | 2010.02.23 20:03

横領に騙しに崩壊・・・
「何やってんだか」って思っちゃいました。。

 HIMA | 2010.02.28 21:56

安部 芳裕(あべ よしひろ、1964年 – )は日本の環境活動家、作家。神奈川県横須賀市出身。関東学院大学文学部卒業。ひらがなのあべよしひろの表記を使うことが多い。地域通貨グループレインボーリングを主宰している
WATやLETS-Qなどの地域通貨グループにも参加している。 反ロスチャイルド同盟の管理人であり、ロスチャイルド財閥をはじめとする国際金融資本家を批判している。(wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E9%83%A8%E8%8A%B3%E8%A3%95
戦争屋の6区ふぇ〜〜ら〜〜側の人間かもw
政府紙幣にご注意www

 HIMA | 2010.02.28 22:50

森喜朗元首相は「日本は神の国」と発言してマスコミからバッシングを受けましたが、この認識は決して間違ってはいないと思います。日本人は古来、八百万の神を崇める神道の思想を持ち、森羅万象に神が宿るという考え方でした。その神道の祭司が天皇であり、天皇による国家統治が国体でした。世界標準ではなくとも独特の伝統と文化、世界観と価値観を持った貴重な存在です。その日本がグローバリゼーションの波に飲み込まれ、遠くない未来に滅亡するかもしれません。そして、この地を統治するのは中国共産党になるでしょう。できればその事態を阻止したいというのが今回の著書を執筆した目的のひとつです。
http://d.hatena.ne.jp/rainbowring-abe/
うようよ発言に聞こえますw

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