世界経済破局への長い序章? 7.GCC諸国のオイルマネーはいつまで米国に還流するか?
前回は、天然ガス価格の低落でアジア(中国)シフトを迫られているロシアを扱いました。
今回は、原油と天然ガスの大産出地域であるGCC(湾岸協力会議)諸国を扱ってみます。
GCC諸国とは、サウジアラビア、クウェート、UAE(アラブ首長国連邦)、カタール、バーレーン、オマーンの6カ国です。
図は日本GCC学生友好協会からお借りしました。
今回は以下の点を扱ってみます。
1.GCC諸国には、どれぐらいのオイルマネーが蓄積しているのか?
2.蓄積マネーの分散投資(米国離れ)を進めるクウェート
3.米国に忠誠を尽くし、貢ぎ続けるサウジアラビア
4.サウジアラビアの秘められた火薬庫
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1.GCC諸国には、どれぐらいのオイルマネーが蓄積しているのか?
みずほ総合研究所・経済調査部の「みずほ欧州インサイト」というレポートがあります。その2009年12月1日号が中東オイルマネーの分析です。
『中東オイルマネーの現状と行方 〜金融危機の中東SWFへの影響と将来像〜 』 リンク
みずほのレポートでは、GCC諸国のオイルマネー(原油収入の蓄積分)を、6カ国の経常収支黒字の累積額としてみています。
それによると、2008年末で、6カ国合計で1兆2000億ドルが蓄積していると推計されています。サウジアラビアが4500億ドル、クウェートが4000億ドル、UAEが2000億ドル、その他3カ国で2500億ドルです。
2004年段階では、6カ国合計で3000億ドルでしたので、原油価格が1バーレル40ドルを超えた2005年からのオイルマネーの蓄積スピードはすごいですね。
GCC諸国の経常収支黒字額の累積
図はみずほレポートからお借りしました。(以下の図も同じです。)
2.蓄積マネーの分散投資(米国離れ)を進めるクウェート
では、このオイルマネーは何処に投資しているのか、米国への資金還流でドルを支えているのか見てみます。まずは、クウェートです。
クウェートのネットの対外投資は、2007年が350億ドル、2008年が500億ドルとなっています。(下図) *ネットとは対外投資総額から対内投資総額を引いたものです。
クウェート一般政府のネット対外証券投資とWTI
次に、対外投資の大半を占めている証券投資の中身を見てみます。(下図)
2007年のネットの対外証券投資は300億ドルです。投資先をみると、約1/2の150億ドルをGCC地域に投資しています。そして、米国向け投資は50億ドル程度にとどまっています。
証券投資のうち、株式投資が圧倒的に多く、長期債(米国債等)は1/4程度です。
クウェートは、オイルマネーを域内(GCC地域)投資にシフトし、米国離れを基本的にしています。
クウェートの07年対外証券投資の地域別・証券別内訳
米国向け投資を行う場合でも、したたかです。
クウェート投資庁が、米国シティグループの株式投資を行い、一時多額の損失を抱えましたが、昨年12月に優先株の普通株転換を行い、その普通株を売却して11億ドルの利益を出しています。
保有するシティ株を売却し11億ドル(約990億円)の利益を得た政府系ファンドのクウェイト投資庁
クウェイトの政府系ファンド(SWF)であるクウェイト投資庁(KIA)は、2009年12月6日、声明を発表し、保有するシティ・グループの優先株を普通株に転換後、41億ドルで売却したことを明らかにした。
クウェイト投資庁(KIA)は同声明で、「売却により11億ドル(約990億円)の利益を得た。当初の投資に対する回収率は37%であった」
リンク
産油国の中で、最も商売人といわれているクウェートは、オイルマネーを米国に還流させながらも、したたかに儲けています。決して、米国に資金が釘付けにならないように行動しています。
同じく、UAEもドル・米国投資一辺倒ではありません。
3.米国に忠誠を尽くし、貢ぎ続けるサウジアラビア
次はサウジアラビアです。
下図は、サウジアラビア通貨庁の対外資産の推移です。06年1月から09年10月までの月別推移です。
*サウジアラビア通貨庁は、通貨発行・為替管理・政府資金の管理を行っています。日本でいえば日銀と財務省国際金融局(外貨管理を行っている部門)をあわせたものです。
WTI価格が急上昇した2008年に、対外資産は4300億ドルまで拡大しました。その後、リーマンショックと原油価格下落で、資産は減少していきますが、09年10月には再度増加しだしています。
09年10月段階で、対外資産総額は、3900億ドルです。
3900億ドルの内訳は、対外証券投資(株式や債券)が2800億ドル、海外貯金が800億ドルです。
サウジアラビア通貨庁の対外資産
サウジアラビアの対外投資(オイルマネー運用)は、保守的といわれています。保守的の中身は、ドル資産運用・米国債運用です。
対外証券投資の中心は米国債投資であり、外貨預金はJPモルガン・チェース銀行(旧チェース・マンハッタン銀行=ロックフェラーの銀行)預金とみてよいでしょう。
サウジアラビアは、1986年以来、自国通貨・サウジリアルを対ドル固定制にし、現在1ドル=3.75サウジリアルです。
ドル固定制ですので、ドル表示(或いは自国通貨表示)では為替差損は出ませんが、ドル価格がSDR及び他国通貨(ユーロや円)に対して下落しているので、SDR表示を採用すると大幅な為替差損(対外資産の目減り)が生じます。
サウジアラビアは、対ユーロ、対SDRでの資産目減りを我慢しながら、対ドル固定制で米国に忠誠を尽くし、オイルマネーを米国還流させ、貢いでいます。
4.サウジアラビアの秘められた火薬庫
GCC諸国の共通通貨づくり(固定ドル相場制からの離脱)では、クウェートとUAEが積極派です。対して、サウジアラビアは依然として対米追随です。中国、日本に次いでドル資産をもつサウジアラビアが、ドル離れをしていませんので、GCC共通通貨づくりは進んでいきません。
中東地域での、ドル覇権の維持、ドル下支えは、サウジアラビアの動向如何にかかっています。
巨額の資金を誇り、経済的には安定しているサウジアラビアですが、実は、大きな爆弾を抱えています。
それは、隣国イエメンの政情不安です。図の黄色の部分がイエメンです。
イエメンには、サウジアラビアとの国境地帯・山岳部にシーア派の反政府武装勢力が存在します。この武装勢力は、サウジアラビア内のシーア派部族地域へ進出する動きを見せ、サウジアラビア軍と戦闘行為を繰り返しています。
11月2日:シーア派武装勢力が、サウジ軍の一人を殺害し、11人を負傷。
11月4、5日:サウジアラビア空軍が、シーア派武装勢力の拠点を本格的に空爆。
11月27日:シーア派武装勢力が、9人のサウジ兵を捕虜にしていることを発表。
この動き伝えているのが、サウジアラビア兵9人が捕虜になるなど依然続くイエメンとの国境地帯でのフーシ民兵勢力との戦闘 です。
イエメンの反政府勢力は、米国(CIA、ペンタゴン)によって、北イエメンが南イエメンを武力統一する際に育てられた武装勢力です。その意味では、アフガニスタン情勢と似た構造で、イエメン内部がより分裂し戦闘が拡大する可能性をもっています。
ドル覇権を支えているGCC諸国の盟主サウジアラビアにとって、隠れた火薬庫と云えます。
サウジアラビアの王族内部に、或いは国民世論の中に、親米と非米・反米の軋轢が始まっていると見ることが出来ます。
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コメント5件
s.tanaka | 2010.08.31 16:48
くるる さん
紹介ありがとうございます。
原田武夫氏の「日華の金塊」と、吉田繁治氏の「通貨とゴールドの本質」は、取り上げようと思っていた候補の一つでした。
折角ですので、分析候補の一つに加えたいと思います。
むむむ | 2010.09.04 23:26
確かに金って何であんなに重宝されているんでしょうね?性質が変わらないとか、工業品として有効だとか色々あるみたいですけど、何か他にもありそうですね。金貸しさんに思い込まされているとか・・
s.tanaka | 2010.09.05 22:16
むむむさん コメントありがとうございます。
今読んでいる鬼塚英明氏の書籍の最後に、
「黄金は本当に美しいのか」という項があります。
人間にとって、ゴールドの価値は永久不滅なのか?ある時代や意識に固有のものなのか?
という点についても、シリーズの後半で扱うことができればと思っています。
hermes handbags uk | 2014.02.01 15:35
cheap hermes flats 金貸しは、国家を相手に金を貸す | ゴールドの真相に迫る−1 プロローグ
くるる | 2010.08.30 18:46
原田武夫氏の
「狙われた日華の金塊~ドル崩壊という罠~」
を是非とも紹介してください。
東アジアにリリーコネクションによって隠された金塊ということでたいへんよかったので。