2016-08-18

輸出への拘りが日本をダメにしている ~円高で経常収支も赤字でよい~

今年の初め1$=120円弱だったドル・円為替レートは、以降ほぼ円高ドル安で推移してきており、6月24日に英国のEU離脱が確定したときに一時1$=100円を割り、99円10銭台まで下落した。
2011~2016年の短期で見た場合、円/ドル・円/ユーロは若干の円安から2016年より円高へ、円/元は(中国は管理相場制ゆえ)横ばいとなっている(下図)。 現時点では1$=100円前後を推移しており、今後も円高は続くと思われる。
 円と他通貨

「世界経済のネタ帳」より

  「円高」を良しとしない日本政府は、輸出(大企業)を優先するべく「円安」誘導を取る。そして、この自国通貨安の政策は、日本のみならず、今世界の主要国が躍起になって取り組んでいる。

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主要国間に広がる「通貨安競争」で日本の出遅れを指摘する声が出ている。日銀が追加緩和を小規模にとどめたことで、他国の事実上の通貨押し下げ策に見劣りし、円は当面高止まりが続きかねないとの見方だ。

政府は大規模な経済対策を打ち出したが、金融政策に比べて為替相場への波及経路は限られる。従来のような円安/株高メカニズムは起動しづらい情勢に追い込まれている。

<通貨安競争の思惑仕掛け人、米は次期大統領もドル高を警戒>

公にその事実関係を認める当局者はいないが、市場では現在、主要国間で事実上の通貨安競争が行われているとの理解が浸透しつつある。最近顕著だったのは英国で、国民投票で欧州連合(EU)離脱を決めた6月以降にポンドが暴落して31年ぶり安値を更新。

中国人民元も英国発の混乱を避けるように同時期から突然急落し始め、6年ぶり安値圏へ水準を切り下げた。 もともと、「通貨安冷戦」とも呼べる思惑が市場で広がる状況を作り出したのは米国で、

その端緒は2月までさかのぼる。上海で行われた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の後に突然ドルが調整色を強めたことで、当時の市場では「ドル高是正で秘密合意か」との憶測が一気に膨らんだ。 2016年 08月 4日 13:00 REUTERS 〔焦点〕盛夏の円、当面高止まりか 通貨安「冷戦」で後手に回った日本

上記の記事にあるように、主要国間は通貨安競争に入っている。米国を筆頭に各国首脳は自国通貨高を回避しようと必死だ。後手にまわったとの指摘がある日本でも、円高は悪、円安が正という世間の風潮≒定説があるが、それは正しいのだろうか?そもそもなぜ円高になるのか?

●超円高を作り出しているのは財務省

2015年には1ドル120円を超えていた為替相場で円が急騰し、6月15日に1ドル103円をつけました。

財務省を中心に円高を牽制する発言が相次ぎ、為替介入も示唆しています。

しかし、この円高は元々財務省が作り出した経常黒字が原因なので、彼らの経済政策に問題がありました。 2016年初頭に中国株や人民元の下落が起こり、為替相場が円高に進みました。

その後欧州経済が低迷して円高、テロで円高、米経済の低迷で円高と世界で何があっても円高に進んでいます。東京都知事が辞任したら円高という具合で、イギリスのEU離脱の可能性が高まったとして、また円高になっています。おそらくイギリスの国民投票でEU離脱が多数になると1ドル100円を割るでしょうが、

それは理由づけに過ぎないと考えられます。

世界の機関投資家とか投資銀行は円を買う理由を探していただけで、何でも良かったのです。  

円高になっている本当の原因は、過去50年の円高と同じく「経常黒字」でした。

東日本大震災の後、日本は貿易赤字になり「日本は終わった」「稼ぎ力がなくなった」とマスコミが騒いでいました。

「稼ぐ力」というおかしな造語を作ったのは財務省で、貿易黒字や経常黒字が多ければ、稼ぐ力が強いそうです。「貿易黒字」は物の輸出入の収支で「経常収支」は投資など全てのお金の出入りを合計したものです。

●輸出が日本をダメにしている

財務省や政治家、経済評論家らは「日本には稼ぐ力がなくなった」大変だと言って再び経常収支を黒字にしてしまいました。

財務省は経常収支といわず国際収支と言っていますが、震災以来一時的に赤字を出したが現在は大幅な黒字です。2016年4月の国際収支は1.6兆円の黒字で、22ヶ月連続の黒字を達成中です。

財務省に言わせると「稼ぐ力を取り戻した」事になるが、不思議な事に2014年も2015年も経済はゼロ成長でした。稼ぐどころか経常収支も貿易収支も、日本経済には貢献していなかったのです。

経常収支を赤字から黒字に転換させた手法は「円安」で、為替操作を繰り返して1ドル70円台から1ドル120円台にしました。 為替操作では「市場介入」が有名ですが、介入しなくても日本政府は「外貨調達」などの名目で10兆円以上のドルを買っています。

さらに金融緩和で円を余らせて、人為的にドルより安くなる政策を取りました。  

円安になって経常黒字になった結果、その経常黒字はいつか必ず日本に還流して円高を引き起こします。日本企業が輸出で1兆円儲けたら、海外で運用しますが、いつかは日本円に両替するでしょう

従って経常黒字を増やしている国の通貨を買っておけば、いつかは必ず値上がりします

外国の投資機関は日本が溜め込んだ経常黒字が赤字になるまで、円を買い続ければノーリスクで絶対に儲かります。 経常黒字を増やせば増やすほど、為替調整機能で円高になります。  

経常収支(短期)

引用:https://www.mof.go.jp/international_policy/reference/balance_of_payments/preliminary/bpgaiyou201602b.gif

 

●経常収支は赤字で良い

では日本がハゲタカファンドの標的にならないためにはどうすれば良いかというと、「経常黒字」「円安」をやめてしまうことです。 円安にして輸出しても、いつか超円高で吐き出すのだから無駄であり、収支トントンくらいで良いのです。

日本の経常収支をトントンにするには輸入を増やせば良く、国内消費や国内投資が増えれば良いのです。   ところが「財政悪化を招く」として公共事業や減税に反対しているのも財務省で、一層日本経済を苦境に陥れています。

輸出を「稼ぐ力」というような感覚は戦前の考え方で、変動為替相場では輸出で儲かる事などありません。輸入して貿易赤字にした方が、かえってドル安になって輸出を促進できるのは、アメリカが証明しています。

 日本は新興国に投資したりお金を貸しているので、多少の貿易赤字でもトータルでは経常黒字になって丁度良いのです。

大体貿易収支や経常収支が常に黒字なのは、世界でも日中独など限られた国だけで、多くの国は赤字を出しています。 赤字だから低成長で後進国という事は無く、米英仏などほとんどの先進国は貿易赤字で経常赤字です。 つまり貿易黒字や経常黒字は実際には、経済成長と何の関係も無いのです。

 「世界のニュース トトメス5世」(2016年06月17日) より

経常収支 経済成長率・日本

分析をまとめると、

1)財務省が円高を作り出している。「稼ぐ力」つまり輸出重視のためには「円安」が絶対条件

2)ところが輸出を増やしたところで、経常収支(国際収支)が黒字になれば、外貨が貯まり、日本(企業)はそれを売りに出すため必然的に「円高」になる。

3)加えて海外の投資機関は、日本が貯め込んだ経常黒字が赤字になるまで、円を買い続ければノーリスクで絶対に儲かる(いつかは日本が円に換金するため)。2)よりも先に「円高」となる。

4)22ヶ月連続で経常黒字が続いているが、日本全体の経済成長率と相関していない(一部の大企業のみ儲かっているが、それも大手企業の経営難で定説が崩壊しつつある) ※上のグラフ参照

5)その原因は、輸出で経常黒字を生み出すことが「稼ぐ力」=経済成長に繋がるという固定観念

加えて、日本はそもそも外需の依存度の低い内需依存国である。
今一度、現代の構造を捉えて、輸出絶対、円安絶対という呪縛を解き払って、何が日本経済にとって正しいのか、見つめなおすときではないだろうか?
List    投稿者 dairinin | 2016-08-18 | Posted in 05.瓦解する基軸通貨, 10.経済NEWS・その他No Comments » 

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