世界経済破局への長い序章? 8.オバマの金融規制強化案は本気か!?
今回は、アメリカの金融規制強化案(通称ボルカールール)を扱いたいと思います。
年明けの1月21日に、オバマ大統領は、昨年12月11日に下院で成立した「金融規制改革法案」に対し、新たな枠組みを含めた一層の強化案を発表しました。
写真は、ファイター・ボルカー元FRB議長
『ウォール街への宣戦布告』とも言われるこの強化案は、ウォール街の金融業界からの反発はもとよりダボスでの世界経済フォーラムでも論議を引き起こしました。果たしてオバマは本気なのかどうか検証してみます。
1.オバマ政権の金融規制改革の経緯
2.金融業界では高額ボーナス復帰、一方失業率は2桁台。オバマ政権への批判は高まるばかり
3.オバマ大統領がウォール街に宣戦布告
4.世界の反応は?今後の行方?
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1.オバマ政権の金融規制改革の経緯
<2009年2月/金融規制改革案の策定を経済チームに指示>
オバマ米大統領は金融規制制度の抜本的な改革案をまとめるよう経済チームに指示し、議会と数週間以内に法案作成を図る考えだ。
オバマ大統領は経済チームに指針としていくつかの原則を提示。ホワイトハウスで25日中に概要を発表する。オバマ大統領はガイトナー財務長官、フランク下院金融委員長、下院金融委員会のスペンサー・バッカス議員(共和、アラバマ州)、ドッド上院銀行委員長、リチャード・シェルビー上院議員(共和、アラバマ州)と会談する予定。 リンク
<2009年6月/米政権の金融規制改革案、銀行監督業務を合理化へ
FRBは改革案のもと、財務省が主導する他の規制当局で構成される委員会と協力し、「システミックリスク」の監視に取り組む。経済成長をけん引できないほど企業を厳しく規制することなく、2008年初め以降、世界経済に打撃を与えている深刻な金融・資本市場危機のような問題が今後生じることを防ぐのが狙い。 リンク
2009年12月11日/米下院、金融改革法案を可決=大恐慌以来70年ぶり−危機防止で監視組織など設立
【ワシントン時事】米下院は11日の本会議で、金融危機の再発防止を目指す包括的な金融規制改革法案を賛成多数で可決した。
法案の主な柱は
(1)不正な金融商品・サービスから消費者を保護するための「消費者金融保護庁(CFPA)」の設立
(2)その破綻が金融システム全体にリスクをもたらす巨大金融機関を監視する「金融安定協議会」の設立
(3)破綻した大手金融機関の秩序だった清算を行う枠組みの策定 リンク
2.金融業界では高額ボーナス復活、一方失業対策は2桁台。オバマ政権への批判は高まるばかり
オバマ政権は7000億ドルもの公的資金を投入し経済の建て直しに注力してきましたが、2009年の失業率は10%に達し、この1年で416万人の雇用を減らしてきました。
金融業界には手厚く、国民生活は一向に改善されず、政権発足時は68%もの支持率が今では50%を切ってしまっています。
オバマ政権にとっての打撃は民主党の牙城であったマサチューセッツ州の上院補選で敗北を喫したことです。
米民主、安定多数割れ 上院補選敗北 医療保険改革暗雲
【ワシントン=伊藤宏】19日にあった米マサチューセッツ州の連邦上院議員の補欠選挙で、共和党のスコット・ブラウン同州議会上院議員が、民主党のマーサ・コークリー同州司法長官を破り、議席を奪取した。
民主党は、上院での議事妨害阻止に必要な安定多数の60議席を維持できないことになり、オバマ大統領が進める医療保険制度改革の先行きも不透明になった。全米有数の民主党の地盤だった同州での敗北は、就任から1年を迎えたオバマ氏に大きな打撃となる。 リンク
3.オバマ大統領がウォール街に宣戦布告
2010年に入ってオバマ大統領は金融業界に対する規制の姿勢をより鮮明にしてきました。
まずは、公的資金を投入した金融機関に対し、発生する損失を負担させる計画を発表しました。
「金融危機責任料」を正式発表、公的注入資金の損失補てんで
ニューヨーク(CNNMoney) オバマ米大統領は14日、ホワイトハウスで演説し、金融危機対策として2008年秋に投じた公的資金の損失を補てんするため、大手金融機関から今後10年で少なくとも900億ドル(約8.2兆円)の「金融危機責任料」を徴収する計画を正式発表した。 リンク
そして、1月21日に、金融規制強化案を発表しました。この21日は、最強の投資銀行であるゴールドマン・サックスの決算説明会でもありました。
大統領は演説の中でこう言っています。
「この経済危機は金融危機として始まった。銀行や金融機関が短期的な利益を追い求め、そして巨額のボーナスを獲得する為に、大きなそして無謀なリスクを取った事から始まった」
「ウォールストリートに対して、国民にその救済資金を返済させようとしているのだ。金融システムを殆ど崩壊させかけた行き過ぎと濫用を管理するためにこの改革案をとおす」
ウォール街に宣戦布告が行われたのです。
(左)大統領の後ろに控えるのがボルカー氏、左脇はフランク下院金融委員長、隣がガイトナー財務長官。(右)中央後ろが、ハイデン副大統領、その隣がドナルドソン前SEC委員長、ドッド上院銀行委員長、その奥がサマーズ国家経済会議議長
金融規制強化案はオバマ大統領自身が『ボルカールール』と表現しているようにポール・ボルカー氏の考え方を全面的に採用したものです。
窮地の大統領ついに宣戦布告 オバマ政権の「ウォール街叩きの本気度」
1月21日朝、オバマ米大統領は大手金融機関の事業規模を制限し、商業銀行のリスク投資を原則として禁じることなどを柱とする金融規制強化策を発表した。
奇しくも、大統領のテレビ演説は、2009年10−12月期の決算で至上最高益を叩きだした米金融大手のゴールドマン・サックスの決算説明会の真っ最中に行われた。あたかも、ウォール街に宣戦布告をするかのようなタイミングだった。
新提案のポイントは2つある。
第1は、伝統的な預貸業務を営む商業銀行が、ヘッジファンドやプライベートエクイティファンドなどに投資することを禁じる。さらに自己勘定で高リスク商品を売買することも原則認めない。
第2のポイントは、金融機関の負債規模に対する上限設定だ。負債のうちの預金については、市場シェア10%という枠が既にはめられており、その発想を負債全体に広げるという。巨大金融機関の破綻がただちに金融システム危機につながる事態を防ぐため、既に肥大化した金融機関が絡む合併・統合を認めない。 リンク
今回の規制強化案を主導したボルカー氏の考え方が、ニューヨーク・タイムスに寄稿されています。その寄稿文の要約を小笠原誠治さんがアップしてくれています。
<ボルカー氏の主張のポイント 2010/1/30 NYタイムズ紙>
・オバマ大統領は、10日前に金融規制改革案を発表。金融危機の影響は極めて甚大であり、こうした改革の必要性については誰も反対できないはず。
・金融システムが安定化しつつある今、当局による金融規制案が検討されている。例えば、適切な資本比率や流動性比率、当局の監督手法の改善、銀行のリスク管理手法の改善等。但し、大統領は重要なものが欠けていると考えている。
・最大の懸念は、銀行の救済が広範囲に行われたことからモラルハザードが蔓延していることだ。
・“too big to fail”(大きくて潰せない)ということが日常でも言われるようになった。これは、大規模で複雑で、そして国際的に活動をしているような銀行は政府の支援を当てにすることができるということを意味している。国民が、そうした不平等の扱いに憤りを感じるのは当然だ。
・大統領が提案しているのは、銀行の自己勘定取引の制限だ。具体的には、ヘッジファンドや未公開株式ファンドの所有・運営及び自己勘定取引の禁止である。こうした活動をしている機関は、国内には4つか5つしかなく、また国際的にみても25〜30程度である。
・商業銀行がそうした活動に従事することは、顧客との間で利益相反を起こす。また、そうした利益相反は、チャイニーズウォールでは防ぎようがない。
・世の中には、何千というヘッジファンドや未公開株式ファンドが存在しているが、商業銀行がそうしたファンドを所有することになれば、公平な競争条件を阻害するだけで何ら有益なことはない。
・メガバンクが保有するヘッジファンドなどは、大きすぎるから潰せないと思われる一方で、独立した多数のヘッジファンドなどは、経営に失敗すれば現実に破綻しているが、マーケットには何も深刻な影響を与えていない。
・もし破たんしたら経済に深刻な影響を与えるだろうと思われている投資銀行や保険会社などは、限られてはいるが幾つか存在している。そうした機関に対しては、資本や負債に制限を課することが重要だ。
・規制緩和の圧力は今でも存在しているが、我々は規制改革に着手し、それを法律として成立させることが必要なのだ。
ボルカー氏の考え(NYタイムズ紙の記事)
ボルカー氏は1927年生まれの83歳。1979年にFRB議長に就任し「ボルカーショック」と呼ばれる金融引き締め策を行いインフレを沈静化させました。インフレ・ファイターと呼ばれています。
ボルカー氏は大統領選期間中からオバマ陣営の経済政策のブレーンを務め、経済回復諮問会議の議長に就任しています。
2009年2月の金融規制検討チームは、ガイドナー財務長官とサマーズ国家経済会議議長が主導してきましたが、今回、主役が交代したのです。
だから、オバマ大統領が本気で「ウォール街に宣戦布告した」との見方が強まっています。
4.世界の反応は?今後の行方は?
今年の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、欧州首脳から、ボルカールールに対する賛意が表明されました。もちろん、金融業界は反対表明していますが。
ダボス会議:金融規制巡り温度差
スイス・ダボスで31日まで開かれた世界経済フォーラムは、会議直前にオバマ米大統領が打ち出した新たな金融規制案が主要な論点となり、賛否両論が続出した。
フランスのサルコジ大統領が「投機と規制緩和の時代に戻ってはいけない」と賛同。欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁も「われわれの考えと同じ方向にある」と支持を表明し、欧州の当局側からは賛意が相次いだ。
だが、金融市場では「過度の規制は金融機関の投・融資を必要以上に抑制しかねない」との懸念が根強く、英金融大手バークレイズのダイヤモンド社長は「雇用にも国際経済にも有害」と主張。ほかの米欧の金融機関幹部からも「ウォール街に対する核攻撃だ」「大きな失敗を犯したと後世に批判される」と反発が相次ぎ、当局との対立を露呈した。 リンク
一方、米国上院銀行委員会の公聴会には、ボルカー経済回復諮問会議議長とウォリン財務副長官という組み合わせで出席し、規制強化案を説明しています。
ガイトナー、サマーズからボルカーとウォリンのコンビへ主役交代が、鮮明になりました。
引退表明して、選挙の思惑から自由であるドッド上院銀行委員会委員長の手腕を含め、米国議会での審議が注目されます。
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