2013-10-15

中央銀行支配からの脱却(1)〜銀行を潰して復活したアイスランド

リーマンショックから5年経ったが、世界経済の不安定さは一向に収まる気配が無い。米国は再びデフォルト危機に見舞われ、表向き株価やGDPが上がったように見える先進国でも、財政破綻の懸念が強まっている。しかし、これは必然の構造である。
 
70年に先進国では既に市場拡大を停止してしまった。にも関わらず、先進国では、毎年膨大な国家資金をカンフル剤として市場に注入し、無理やり市場拡大を演出してきた。しかし、既に人々の物的欠乏は衰弱に入り、注入資金は新たな投資や消費には向かわず、株や土地に向かい、バブルを生んでは崩壊を繰り返した、挙句、遂には国を超えて飛び交う金融バクチ商品を生み出し、実体経済の数百倍の規模にまで膨張した末に破綻した。それが2008年の世界金融危機だった。

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すると今度は、金融バブルの崩壊で空いた大穴を埋めるべく、国家財政の出動が余儀なくされた。国債発行は加速度的に増加し、中央銀行は無限の量的緩和でマネーを供給し続けている。結局、尻拭いは全て国家の借金に押し付けられていった。
 
そもそも、こうした破滅的事態を先導したのは、中央銀行を頂点とする金融勢力だ。にも関わらず、そのツケは国家が銀行に借金をして埋め合わせる。この構造が明らかになるにつれ、中央銀行支配に抗する新たな動きがリーマン・ショック以降登場している。
 
今回から数回、マスコミではほとんど報道されない、中央銀行支配からの脱却を試みている国や社会の動きを追ってみる。
 
 
1回目は、リーマンショックの翌々年に国家破綻し、その後見事に復活したアイスランドの事例を取り上げる。

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■アイスランドの「無血革命」
漁業と観光の小国アイスランドがどのように金融国家となり破綻したかは、本ブログ記事でも当時紹介したが、補足してみる。

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アイスランドの首都レイキャビクの街

金融バブル崩壊後のアイスランドが短期間で奇跡の復活を果たした理由 より。
 アイスランドの「バブルの戦犯」は元演劇青年の政治家ダヴィード・オッドソンで、1980年代に新自由主義の経済学者ミルトン・フリードマンに感化され、91年に首相になると大胆な民営化政策を実行した。04年に首相の座を降りると自ら中央銀行総裁に就任し、こんどは徹底した金融自由化に着手する。こうして、北極に近い小さな島にまれに見る金融バブルが発生した。
 それがどのようなものだったかは、次のようなデータを並べるだけでわかる。
 アイスランドの3大銀行(カウプシング銀行、ランズバンキ銀行、グリトニル銀行)の総資産は、2003年にはGDPとほぼ同じだったが、約3年半でGDPの10倍の14兆4370億クローナ(当時の為替レートで約28兆円)にまで膨らんだ。
 
 03年から07年にかけて不動産価格は3倍、株価は9倍になり、通貨は対ドルで60%上昇した。それにともなってアイスランドの平均的世帯の収入は、わずか3年半で3倍に増えることになる。年収500万円の世帯がいきなり年収1500万円になるのだから、これはものすごいことだ。

  
その後、3大銀行が膨らませた巨額の金融商品がリーマン・ショックの煽りで無価値となり、これらの銀行は国有化。それでも海外からの債務が国家にのしかかり、国家破綻の事態に陥った。 
 
しかし、その後数年で、アイスランドは見事に復活を遂げたのである。

同上 より。
 
 アイスランドというDIY国家が面目躍如なのは、実はバブルが崩壊してからだ。3大銀行がGDPをはるかに超える負債を抱えて国有化されると、その債務をどのように処理するかが問題になった。
 アイスランド政府は当初、銀行を破綻処理して債務を帳消しにすることを検討したが、預金者の多くは高金利に魅かれたイギリスやオランダの個人投資家たちで、両国政府は、アイスランド政府が元本返済の責任を放棄するなら国交を断絶すると通告した。アイスランド国民は、このままだと未来永劫、借金を返すためだけに税金を納めつづけなければならなくなり、国外への移住希望者が殺到した。まさに国家存亡の危機だ。
 ところがその後、数年のうちにアイスランド経済は奇跡の復活を遂げることになる。その理由は、2度の国民投票によって、ファンドや年金基金、金融機関や事業法人など“プロ”の大口債権者からの借金を踏み倒したことだ。こんな離れ業が可能になったのは、ギリシアのようにユーロ圏に入っておらず、スペインやイタリアよりもはるかに経済規模が小さいため、ヨーロッパを襲ったユーロ危機のなかではとるに足らない話だと扱われたからだろう。そのうえ通貨クローナの価値が対ドルでほぼ半分になったことから、輸出産業が息を吹き返した。
 アイスランドは11年8月に国際通貨基金(IMF)の支援プログラムから脱し、12年2月には国債の信用格付が投資適格のBBB-に戻った。恒常的な財政赤字に苦しむ南欧諸国とちがって、DIYの国アイスランドには過剰な福祉制度がないからだ。

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バブルの遺産と言われた文化施設HARPAも完成

 
■「大きすぎて潰せない」は嘘
アイスランドの教訓は2つある。
1.危機に陥った銀行は潰してもよい。「大きすぎて潰せない」は嘘。
2.プロの大口債権者の債権より国民の預金や債権を守るべき。

 
こんな当たり前認識が先進国では通用せず、過剰に大銀行が守られているのは、国家の上に中央銀行を頂点とする金融勢力が居座っているからに他ならない。従って、「アイスランドは小国だからこれができた(大国ではできない)」という論調も、アイスランドの例が先進国へ波及しないための嘘だと考えた方が良いだろう。
 
その証拠に、彼らはアイスランドを十分警戒している。二度と今回のようなことを起こさないように、アイスランドをユーロ通貨圏に引き入れようとしているのだ。
 

国際通貨研究所レポートより
 
2010年7月にはEUがアイスランドの加盟に向けた協議を開始。同国では、EU加盟是非の判断を国民投票に委ねることとし、2013年にも実施を予定している。但し、主要産業である水産業への影響などにより国民からは反対の意見も大きく、当政策の実現には時間が必要と思われる。
※EUは共通漁業政策が採られ、加盟国に漁獲量制限を設定している。

 
アイスランドは、このままEUに加盟せず独立路線を貫くことが、国民のためにも、世界が金貸し支配から脱却していく上でも賢明な選択であろう。

List    投稿者 s.tanaka | 2013-10-15 | Posted in 09.反金融支配の潮流No Comments » 

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