2007-07-15

グローパリズムを正せ、世界の動向

『世界に格差をバラ撤いたグローパリズムを正す』(ジョセフ・E・スティグリッツ氏)を手がかりにしながら、グローバリズムに対抗する世界の動きを紹介してみます。
まずは、グローバリズムの核心部分を、スティグリッツ氏への国際ジャーナリストである大野和基さんのインタビュー記事から。
ジョセフ・E・スティグリッツ/Joseph E. Stiglitz
世界で最も有名な経済学者が問う「アメリカの横暴」と「ニッポンの覚悟」
「格差社会」解消の処方箋(月刊現代 2007年4月号)

リンク

アンフェアな『世界の支配者』
−グローバリゼーションは世界中に不幸だけをもたらしたのでしょうか。(大野)
Joseph E. Stiglitz グローバリゼーションは本来、先進国と発展途上国の双方に利益をもたらすはずのものだが、この「ゲームの支配者」は発展途上国に対して非常にアンフェアだった。そのためこれらの国のほとんどで失業率が上昇し、先進国と途上国の格差は増大した。さらに先進諸国における国民の貧富の差すらも拡がった。金持ちはより金持ちに、貧困層はますます貧困になっていったのである。グローバリゼーションが不平等をさらに拡大させたことは事実だ。
−ゲームの支配者とは誰で、どこが誤りだったのですか。
S たいていの場合、このゲームを動かしているのはアメリカに代表される先進工業国や先進国内の特定の利益集団で、ルールは彼らによって決められており、自分たちの利益を増大させるようにつくられた。たとえばウルグアイ・ラウンド(1986〜95年、貿易における障壁をなくし、貿易の自由化や多角的貿易を推進するために行われた通商交渉)では、途上国が関税の引き下げと知的財産権や投資やサービスの新しいルールを受け入れる代わりに、先進国側は農業・繊維分野の貿易自由化を約束したが、先進国はその取り決めをなかなか果たそうとしなかった。
−あなたは、グローバリゼーションの中できわめて大事な要素である貿易の自由化と資本市場の自由化に関わる攻策枠組みをつい最近まで決定してきたのはIMF、世界銀行とアメリカ財務省だったと指摘しています。だが、いま彼らの間で結ぱれた合意(ワシソトン・コンセンサス)は、ほとんどの途上国からすっかり信頼を失っています。その政策の誤りは何に起因するのですか。
S 最も基本的な間違いは市場原理主義への信奉によって生まれた。つまり、市場そのものがあらゆる問題を解決してくれるから、政府の役割を最小化していくべきだという考え方だ。民営化と貿易の自由化と規制緩和を重要視したのだ。だが大事なのは、政府の役割と市場の役割のバランスである。私は開発促進や貧困層保護で政府に大きな仕事をさせるべきだと考えている。産業界を成長させて雇用を創出するには、その環境を政府が整えてやらねばならないのだ。
二つ目の間違いは、公平性の問題を無視したことだ。つまり富の配分について考慮しなかった。コンセンサスを支持する者の中にはGDP(国内総生産)さえ伸びていけば最終的には皆がおこぼれにあずかれるという、「トリクルダウン理論」を信じる人もいた。だがそれは誤りだった。ラテンアメリカの国々ぱかりでなくアメリカでさえ、経済がよくなったのに、貧しい人が増加するという現実に直面することになった。そして、こうした不平等が広がり、格差が大きくなると社会や政治の不安定につながり、それが経済成長の障害にもなった。重要なのは、各国が公平性の実現に重点を置き、成長の恩恵が広く共有されるように手を打つことなのである。

スティグリッツ氏が批判するワシントン・コンセンサスがもたらした被害をウクライナとマリ共和国からみてみます。
IMFと世銀の市場原理主義、民営化、貿易の自由化が、豊かな穀倉地帯をもったウクライナをがたがたにした。

94年、ウクライナはIMFと協定を結び、IMFの処方に沿って改革を開始した。
まず新しいウクライナ通貨を発行。その結果、労働者の実質賃金は急落した。
インフレ抑制のため、ドルに連動した価格を設定。これによってパンは1夜のうちに300%値上りし、電気代は50%値上り。ガソリンと燃料代が急騰したため、公共交通は900%と暴騰した。1ヵ月の収入が10ドル以下というウクライナの人々は悲鳴を上げた。
政府補助金の撤廃、金融引締めというおなじみの政策も、もちろんセットだった。これによって国営・私営を問わず、企業の破産が相次ぎ、穀倉地帯は荒廃した。
世界銀行もウクライナの破滅に加担した。94年11月、ウクライナがIMFの要請によって貿易の自由化を行うと、世銀はアメリカの余剰穀物で「食糧援助」を行った。
アメリカは、他の国には貿易自由化、補助金撤廃を求めているが、自国の農業には補助金を出して保護している。そして、IMFの援助協定が結ばれるや否や、発展途上国に「余剰穀物」を恵んで回るのである。競争力のない国の農業はひとたまりもない。
世銀によって「恵まれた」小麦がウクライナの市場になだれ込み、世界で最も豊かだったウクライナの小麦農業は壊滅した。
さらに98年、穀物市場の規制緩和を実施。結果、ウクライナの小麦生産は1986-90年の生産量に比較して45%も減少したという。

ウクライナの破滅とIMF諸改革リンク
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次は、アメリカの農業補助金。そのダンピング輸出により、綿花農業に壊滅的な打撃を受けているマリ共和国。

綿花補助金、南北で対立
先進国の農家が補助金を受けて農産物を大量に生産・輸出する結果、綿花や砂糖などの国際相場が低迷し、外貨獲得を農産物輸出に頼る途上国が貧困から抜け出せない状態が続きます。
米ミシシッピ州の綿花農家には、米国政府から数種類の補助金がでます。農家に保証される手取りは綿花1ポンド(約454グラム)あたり72セント強(約80円)と、近年の国際相場より2〜3割高い、このほか米国産綿花を買う国内紡績業者にも、年間で総額2億ドル以上の補助金が払われています。
一方、西アフリカ・マリの綿花農家では、政府系企業が今年(2005年)秋に買い上げる公定価格は1キロあたり160CFAフラン(約33円)、昨年より24%安い。米農家の手取り保証額の5分の1です。
マリの主要な外貨獲得手段である綿花は、政府系企業が全量買い上げます。公定価格は国際相場を参考に、世界銀行などとの協議で決まります。最近の綿花相場は、米国などの大量生産・輸出もあって低迷しています。
マリにとって綿花は、人口の約3分の1が携わる基幹産業、しかし、国内の農業生産者団体AOPPの綿花委員長は「このままではマリの綿花生産は消えるだろう。米国の補助金廃止に向けて、国際社会の動きに期待をかけたい」と話ます。

特集 世界の貧困問題・綿花補助金、南北で対立
ワシントン・コンセンサスは、米国内綿花農家と事業者に途上国の基準からみたら膨大な補助金を投入する一方、IMFは、マリの債務返済の為に、補助金削減(綿花の買い上げ価格の値下げ)を要求し、世界銀行が補助金付の国際綿花価格を前提にして、マリ共和国の農業政策を指導する。
結果は、マリ共和国の綿花生産の壊滅である。

再度、スティグリッツ氏へのインタビューから。

日本はアメリカともっと戦え
−日本はグローバーリゼーションの流れの中でどのように戦えぱいいのでしょうか。同盟国アメリカに対してどのように振る舞うべきですか。
S もっと独立して行動すべきだ。たとえば1997年の東アジア通貨危機のときに、日本はアジア通貨基金の創設を提案し、経済回復に必要な資金を拠出するという、とてもいいアイデアを申し出た。だがアメリカとIMFは、アジアでの自分たちの影響力が弱まることを懸念して、それに猛反対した。結果、日本の計画は頓挫して、インドネシア、韓国、タイに景気後退という悲劇をもたらした。残念なことに、日本は、アメリカの低抗に遭ったとき、アジア全体のために反論して、十分に戦おうとはしなかった。日本がアジア通貨基金の設立のためにもっとがんぱっていれば、それはアジアのためにも世界のためにもなっただろう。日本はさらに自信を持って独立して行動してほしいと思う。

今、IMF及びアメリカと最も戦っているのが、ベネズエラである。戦い方は、IMFからの脱退。

IMF・世銀、ベネズエラが脱退表明するなか、衰える権威に直面
IMF〔国際通貨基金〕と世界銀行から脱退するというベネズエラの今週の決定は単に、ウゴ・チャベス・ベネズエラ大統領とブッシュ政権との間の進行中の反目の一例である、と米国ではみなされるであろう。しかし世界の他の地域ではおそらく異なった見方がされるであろうし、開発途上諸国において近年その権威と正当性が減少の一途をたどっている両機関に影響を与える可能性がある。
他の諸国が後に続くこともあり得る。エクアドルのラファエル・コレア大統領は世界銀行代表を国から追放する、と先週公表した。それは前例のない行動であり、コレア大統領は「我々はこの国際的官僚政治の強要にこれ以上耐えることはない」と明言することでそのことを強調した。2005年に世界銀行は、それ以前に承認されていたエクアドルへの1億ドルの貸付金を保留した。政府が思いがけなく手に入った石油歳入を政府の選択である社会的支出にではなく、負債返済に使うよう仕向けるためであった。
これが両機関が数十年の間行ってきた運営の仕方である。IMFを統率者として、そして米財務省の拒否権の所有と共に、彼らは「債権者のカルテル」を指揮してきたのであり、それは非常に様々な経済問題に関して諸政府に莫大な圧力を加えることができてきた。この圧力は広範囲に及ぶ憤りを引き起こしたのみならず、IMFと世界銀行が最も影響を与えた諸国や地域にしばしば経済破綻をもたらしもした。
ベネズエラの決断は、IMFと世界銀行に加盟しており、重大な改革を要求している開発途上諸国を力づけるであろう。現在世界人口の5パーセント以下を構成する米国がIMFで、惑星の大多数を代表する諸国よりも多い数の投票権を有している。両機関の誤りの矢面に立つ世界の開発途上諸国は、その意思決定において発言権をわずかしか、あるいは全く持っていない。ベネズエラの動き——およびそれに続く他の諸国——はIMFと世界銀行に、両機関から完全に脱退するという選択肢は現実のものである、ということを示すであろう。

リンク
ワシントン・コンセンサスが最も恐れるのは、開発途上国のIMF・世銀からの相次ぐ脱退と、ドル外貨巨大保有国の日本・中国がIMF改革に動き出すことである。
imf3.jpg
700 19th St. NW, Washington, DC 20431 IMF本部

List    投稿者 leonrosa | 2007-07-15 | Posted in 09.反金融支配の潮流5 Comments » 

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コメント5件

 ゆかりん | 2007.08.21 14:58

これ、すごい表ですね!
こんなに各国の防衛費を詳細に見たのは、初めてです☆
それにしても、ここに出てくる国はみんな防衛費が上がっているのに、何で日本だけ下がってるんでしょう??そこが気になるなぁ(・・。)ゞ

 匿名 | 2007.08.22 13:37

防衛費はGNPの1%以内などというキチガイじみた主張をする売国左翼のせいで日本の軍備は立ち後れています。
北朝鮮など、GDPの30%が軍事費であり、これは日本も見習うべきだと考えます。

 watasin | 2007.09.01 20:29

>何で日本だけ下がってるんでしょう??(ゆかりんさん)
これは、バブル崩壊後の財政赤字により緊縮財政しいたことが原因と思われます。
当初橋本内閣が発端となり、その後も小泉内閣になっても削減がつづいています。それが上図。
でも、日本の防衛費が下がっているのに対して最近アメリカが口を出しているようです。困ったものです。狙いはなんでしょうかね。
>北朝鮮など、GDPの30%が軍事費であり、これは日本も見習うべきだと考えます。(名無しさん)
うーーーん、いかがでしょうか。
北朝鮮を見習って軍備を整備して、どうなるのでしょう。恐らく喜ぶのはアメリカだけなのではないでしょうか?

 匿名 | 2008.03.14 20:41

>北朝鮮など、GDPの30%が軍事費であり、これは日本も見習うべきだと考えます。(名無しさん)
30%は多すぎるよ
でも日本のGDP1%ってのも奇跡に近いけどね
よく攻められないなぁ

 schweiz hermes | 2014.02.02 7:22

hermes idar-oberstein 金貸しは、国家を相手に金を貸す | 日本の防衛費、世界2位ってホント?

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