2012-09-15

米国はどのように衰退してゆくのか?(14)米国産業の行く末は?その3 60年代以降の産業衰退と新しい支配の仕組

前回、米国が二度に渡る世界大戦を経て、様々な分野で発展を遂げてきたことを明らかにしました。
しかし、60年代後半にさしかかった頃から米国産業は著しく衰退しだしました。
今回は、米国産業がここまで衰退したのは何故か、その中身に迫ってみたいと思います。
boroboro-1.jpg
いつも応援ありがとうございます。
るいネット
メルマガ

にほんブログ村 経済ブログへ


第二次世界大戦の末に勝利を手にした米国は、様々な市場に手を伸ばします。
第13回でも紹介した、「米ドル決済圏の拡大」がその具体的事例のひとつです。
自国通貨ドルを基軸通貨にすることで、他国間の貿易にドルを使用させ、ドルによる支配・拡大を強固なものにしようとしたのです。
そしてまた、その国力を背景に反発する勢力は徹底的に押さえ込んできました。
米国は、ドルを世界の基軸通過とすることでドル時代を謳歌しようとしたのです。
%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%80%80%E3%83%8E%E3%83%AA%E3%83%8E%E3%83%AA.jpg
 
しかし、そう容易くはいきませんでした。
 
 
■基軸通貨→通貨高の構造

 
それは、自国の通貨が基軸通貨となれば、通貨高(通貨の価値が上がる)を招いてしまうからです。
基軸通貨になれば、前述したように貿易取引でドルを使用する必要があります。
世界中がドルを使うことにより、ドルの信用は上昇します。
すると同時に、人々はドルという通貨自体を欲しがり、ドルの価値はドンドンと上がり、通貨高の現象を招きます。
 
 
■通貨高→モノが売れない→産業衰退
 
一見、通貨が高くなると聞くといい事のように思えますが、そうではありません。
1ドル=100円の時、100ドル(10000円)のモノを輸出した場合と、
1ドル=200円の時、100ドル(20000円)のモノを輸出した場合では、日本で売れるモノの量が違ってきます。
同じ性能ならば私たち日本人は迷わず前者の時期に購入するでしょう。
自国の通貨価値が低い時(通貨安)の時に輸出国は儲かります。一方で、
自国の通過価値が高い時(通貨高)の時に輸出国は損をする、という関係になっています。
現に、円高ドル安の現在、自動車メーカー最大手であるはずのトヨタは赤字続きとなっています。
つまり、基軸通貨になるということは、自国のモノが売れないということと同義なのです。
(注:現在の円高ドル安の現象は、ドルの信用低下と各国のドル離れの加速による。)
 
 
■ドル通貨高→輸出赤字→他国の輸出戦略が激化

 
米国の通貨価値が上がれば、日本を含め他国にとっては輸出すれば売れ易い状況となります。案の定、途上国の日本やドイツがこの状況を利用して世界の産業界に打って出ました。日本では、あの有名なシャープやトヨタなどの大企業が次々と海外進出し、外国で安く売ることで成長を遂げてきました。
%E3%83%88%E3%83%A8%E3%82%BF%E3%81%A8%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%97.jpg
 
 
■他国間貿易摩擦→他国に圧力
 
繊維(69年〜71年)、テレビ(〜77年)、自動車(〜81年)など、他国間での貿易摩擦が起きました。
他国が貿易で成長することは、市場を独占したがっている米国にとって非常に面白くありません。そこで、米国はそれらの国に対して圧力をかけるようになります。
 
< 法 案 >
 
・日米構造協議
その具体的な事例として、まず日米構造協議が挙げられます。
 
日米構造協議(SII)とは、アメリカと日本の間で、「日米貿易不均衡の是正」を目的として1989年から1990年までの間、計5回も開催された2国間協議のことです。
実は、それ以前からもありました。
1985年にも米国の対日貿易赤字を食い止めるため、円安ドル高是正を図ったプラザ合意がありましたが、プラザ合意以降の円高にあっても日本企業は合理化や海外への工場移転などで高い競争力を維持していたために、なおアメリカの対日赤字は膨らむ一方でした。
それでも、米国議会は相手国に対する強力な報復制裁を含めた新貿易法・スーパー301条を通過させたり、政府に対し対日強行措置を迫ったりもしていました。
要は、基軸通貨になって自分達のモノが売れなくなったばかりに「お前たち(日本)のものばかり売れるのは不公平だ!もっと縮小しろ!」ということを長年に渡って提示し続けてきたわけです。
 
・ミニマム・アクセス
ミニマム・アクセスとは、最低輸入機会ともいわれ、輸入禁止を撤廃する事が目的で作られたものですが、要は、米国のモノを一定量他国に輸入させる為に、輸入の最低限度を決めたものです。
 
・TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)
近年、世間を騒がせているTPPも、実はこれらと同様の要求です。
TPPには「2015年までに農産物、工業製品、サービスなど、すべての商品について、例外なしに関税その他の貿易障壁を撤廃する」事が定められており、これは金融・投資・法律・医療などを含め、一切の貿易障壁が無い「完全な日米自由貿易圏」が実現することとなります。日米自由貿易圏で「米国が輸出するもの」は、農産物や工業製品だけではなく、本当の狙いは金融サービス、法律サービス、医療サービスこそが中心であり、これらのサービスを日本へ輸出するにあたって、「貿易障壁となる法律や制度は、撤廃される」ことを意味するのです。
リンク
 
上記のような彼らが次々と打ち出す国際法案の目的は、単純に「米国のモノを買わせる為の策」でしかないのです。
自分たちの都合のよい決まりごと勝手に作り、他国に押し付けることで生きながらえようとしているのが実態なのです。
 
< 市 場 の 独 占 >
 
・知的所有権の拡大
他にも、知的所有権を拡大することにより自分達の縄張りを強固なものにしようとする動きが目立ちます。
簡単にいうと「特許取得」です。
下のデータを見ても解る通り、アメリカの特許取得への動きは世界一です。
 
○特許国際出願件数国別ランキング(2011)
1:アメリカ(48,596件)
2:日本  (38,888件)
3:ドイツ (18,568件)
リンク
 
○特許等使用料収支国別ランキング(2010)
1:アメリカ(105,583百万米ドル)
2:日本  ( 26,680百万米ドル)
3:ドイツ ( 14,384百万米ドル)
リンク
 
知的所有権で市場独占を狙いやすい産業があります。
それが「製薬産業・IT産業・バイオ産業」です。
 
得に、米国の製薬産業は、事実上世界でトップのシェアを誇っています。
更に、米国はこの産業の勢いに拍車をかけるため、前述したTPPでジェネリック法の撤廃を目指しています。薬には時効があり、ある期間が経てば他社でも同じ薬を作ってもよいといった制度が確立していますが、真似薬(ジェネリック医薬品)を法的に禁止することで完全に米国製薬産業の市場独占を達成しようとしているのです。
 
IT業界では、独占禁止法への抗議を行ったマイクロソフト社の特許数が世界のトップを占めています。当初マイクロソフト社はワードやエクセル等のオフィスソフトをウィンドウズでしか対応できない仕様とし、OS市場の独占を狙い売上を伸ばしました。
 
近年では、多国籍企業モンサントが、消えることのない需要「植物の種」に目をつけ、人々の食を完全支配しようとしています。
—————————————————————————–
アグロバイオ(農業関連バイオテクノロジー〔生命工学〕)企業が、特許をかけるなどして着々と種子を囲い込み、企業の支配力を強めています。究極の種子支配技術として開発されたのが、自殺種子技術です。この技術を種に施せば、その種子から育つ作物に結実する第二世代の種は、自殺してしまうのです。次の季節にそなえて種を取り置いても、その種は自殺してしまいますから、農家は毎年種を買わざるを得なくなります。
この技術の特許を持つ巨大アグロバイオ企業が、世界の種子会社を根こそぎ買収し、今日では、出資産業が彼ら一握りのものに寡占化されています。彼らは、農家の種採りが企業の大きな損失になっていると考え、それを違法とするべく活動を進めているのです。
リンク
—————————————————————————–
 
 
■回復しない貿易赤字→金融博打
 
また、貿易取引で勝ち目が無い米国は、金融博打に躍起になります。
その金融市場(株式・債権・為替・先物商品)に手を出せば、必要なものが売買される実体的市場にはお金が回らず、企業の倒産・失業者の増加が相次いでしまいます。
そして遂に08年、リーマンショックを皮切りに金融市場は崩壊します。
それは、産業衰退に拍車をかけることとなり、今や米国産業は市場のドン底に堕ちるはめになってしまいました。
%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%83%E3%82%AF.jpg
 
 
今では、すっかり信用が失墜したドル。生産力もすっかり低下し、無理矢理でしか産業派遣を維持してこれなかった米国に、今後どのようなことが待ち受けているのでしょうか。
次回は、今の米国に残された産業基盤を整理し、今後の可能性を探っていきたいと思います。

List    投稿者 kuwamura | 2012-09-15 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?No Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.kanekashi.com/blog/2012/09/1919.html/trackback


Comment



Comment