2011-03-09

シリーズ「食糧危機は来るのか?」5〜食糧高騰は脱市場をもたらす契機となりうるか〜

農林水産政策研究所(農林水産省)が、先月18日に公表した「2020年における世界の食料需給見通し」によれば、価格高騰した2006年当時に比べて高い水準で食糧価格は上昇基調に推移すると見込まれている。
実際、私たちの生活にも徐々にその影響が出ている。例えば「東京のくらしWEB」にあるように、生鮮食品であるレタス、たまねぎ、卵のほか、小麦(パンやパスタ)、食用油などの価格も上がっており、これら日常的な食糧品の価格上昇をスーパーで実感される方も多いのではないだろうか?
今後この食糧価格はどの程度高騰するのか?
先のレポートでは2020年までに世界の穀物が、なんと2008年に比べ名目で24〜35%、実質で3〜14%上昇するという予測結果となっている。(以下)

主な要因として、
・アジアを中心とした新興国・途上国の人口の増加
・同地域における食用・飼料用需要の拡大
・バイオ燃料の原料用
が挙げられている。
現在の日本はデフレ真っ只中。当ブログでは、開設当初から「1970年以降(日本の)市場は縮小した」と述べ続けてきたが、もはやこの現象事実は、誰もが認めるところだろう。
そのデフレ日本社会における食糧価格の高騰、これはやはり食糧危機の前兆なのか?
(否、その危機にこそ日本社会や農業が変わる契機が隠されているはず!)
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◆1.食糧高騰の要因は? 〜市場取引による価格決定〜
一般的に食糧価格の高騰は天候による不作が原因とされるが、食糧を輸入に頼る国(日本)では市況の影響も大きい。
生鮮食品には鮮度があるため輸送時間・距離に限界があるが、保存の利く穀物はそうではないため、輸出入が可能な食糧となる。
下は、穀物価格が決定される世界最大の商品先物取引所「シカゴ商品取引所」の穀物・大豆等先物(期近)価格の長期推移のグラフである。

  小麦・トウモロコシ・大豆(ドル/ブッシェル、05年1月以降?11年3月第1週):06年までは各月、07年からは各週の最終取引日終値)
昨年あたりから価格が上昇基調に転じているのがわかる。日本を始めとした先進国の経済が振るわない中、マネーが現物に向っていると推測される。
この食糧価格の高騰は、既に諸外国でも顕著に影響を与えている。

中国の1月の食料価格、前年比10.3%高 穀物、卵、果実が高騰

 中国の1月の消費者物価指数(CPI)が前月に比べて0.2%上昇、前年同月比4.9%の上昇となった。CPIは今年1月から食料品のウエイトを減らす方向で計算方法を変えたが、食料品価格上昇が激しく、思ったほど下がらなかった。食料品価格は前年同月に比べたて4.9%上昇した。この1年で穀物は15.1%、卵は20.2%、果物は34.8上昇した(野菜は2%の上昇)。GDPは日本を追い越し、世界第二位になったと報じられているが、通貨政策はさらなる引き締めを迫られそうだ。

(2011年1月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
食品価格、年率で18.32%上昇
インドに食品インフレをもたらしているのは、多くが小麦や大麦など世界の農産物価格を過去最高に押し上げたのと同じ要因だ。インドの食品価格上昇は、発展途上国により広範な危機が訪れる懸念が増していることも浮き彫りにしている。国連食糧農業機関(FAO)は今週、世界の食品価格が2007〜08年の水準を上回ったと警鐘を鳴らした。
《中略》
この上昇率は1年以上にわたり食品価格が2ケタの伸びを記録した際の上昇率を上回っている。インドではなお何百万人もの国民が家計収入の50%以上を食費に充てている。
 ムンバイのコラバ市場で日々買い物をしている17歳の学生は、最も安価で手ごろなポテトカレーでさえ今や高価な食事になっていると話し、「ポテトの代わりの野菜を見つけなくてはなりません」とため息をつく。
日本経済新聞 

日本も対岸の火事では済まない状況だ。
◆2.輸入依存の原因は、食糧支配
価格が上昇・下落するのは市場経済に則っているからといえば当然といえば当然のこと。さらに自国にない食糧を輸入するのも至極当然。
本当か?
下記は、日本の自給率の推移である。

総合食料自給率(カロリー・生産額)、品目別自給率等
日本の食料自給率は、大局的にみて戦後一貫して低下している。教科書的には、工業国→先進国へと転換したためと説かれるが、この自給率の低下には、米国との因果関係がある。

参考)『アメリカ小麦戦略』(食生活史研究家の鈴木猛夫著)より抜粋
■昭和20年代(1945年〜)—アメリカで農産物の過剰生産、過剰在庫
 戦後日本人の食生活が急速に欧米化した裏にはアメリカの存在があった。アメリカは昭和20年代、小麦、大豆等の過剰生産、過剰在庫が深刻化し、その余剰農産物のはけ口として標的にされたのが日本である。
■昭和29年(1954年)—余剰農産物処理法(PL480)成立。
 昭和29年、アメリカは余剰農産物処理法 (PL480)を成立させ、日本に対する農産物輸出作戦に官民挙げて本格的に乗り出した。当時の日本側栄養関係者も欧米流の栄養学、食生活の普及、定着が必要だとしてパン、畜産物、油脂類などの普及を意図した「栄養改善運動」に取り組み、日米共同の食生活改善運動が推進された。

るいネット 〜日本の「食」もアメリカに支配されている〜

今では、当たり前となったパン食(小麦)も、戦後60年に渡ってアメリカによる食の支配によるものだという点を忘れてはならない(戦前は学校給食もパンと牛乳は出なかった)。ゆえに輸入せざるを得ない状況に追い込まれてたのだ。
そして、今では立派な小麦の輸入国→消費国となっている。
◆3.迫る食糧価格の高騰をどう捉えるか
冒頭で紹介した農林水産省のレポート「2020年における世界の食料需給見通し」では、経済発展・人口増加する新興国の食糧消費が生産においつかず、輸入量が拡大するとの見通しだ。
確かに、新興国が先進国のような消費スタイルを手に入れるとしたら、この見通しは正しいだろう。つまり、このまま日本が何もせずとも、あるいは菅内閣がTPPへの参加を表明し、日本の農業が壊滅的になったとしても、いずれ世界的に食糧危機問題に直面することになる。
しかし、この食糧危機は違う視点からみると、大きな契機と捉えることができるように思う。

食糧高騰はバイオ燃料の台頭や干ばつの影響以上に先物市場への投機資金の流入の影響が主要因と言われている。
そして、その影響は飢えや貧困に苦しむ途上国に深刻な問題を引き起こし、日本でも食料品の値上げが家計を圧迫すると問題視する報道も多い。
しかし、生産者の立場から見ると状況は一変する。今まで農業は市場の末席に押し込められ搾取同然の労働条件を強いられてきたが、価格高騰が生産性(労働単価)を上昇させ生活基盤を与えることで、自然収束・本源収束から生じた農業回帰を加速させる。
それは消費者にとっても食糧(+原油)インフレにより消費が抑制され、半ば強制的に必要か否かの判断を迫られる。その結果、快適・快美といった幻想製品〜産業群は衰退していくであろう。
消費意識の変化は、それが潜在思念に合致していれば一過性とはならず、結果的に農業を中心とした労働集約型の生産の台頭(復活)を促し、工業生産がもたらした資本による支配を無力化する契機となるだろう。食糧高騰は、たとえ投機発であっても市場原理を変えるチャンスと言えるのではなかろうか。

るいネット 〜食糧高騰は脱市場をもたらす契機となりうるか〜

これまで日本の農業は、工業製品やサービスとの「価格格差」により、経営的に苦しめられてきた(いくら農作物を生産→販売しても、工業製品による利益の足元にも及ばない)。
ゆえに、戦後日本において農業は社会的基盤を持ち得なかったが、デフレ経済により所得や消費が抑えられる中で、この食糧価格の高騰は、農業生産を成立させるチャンスとなりえる。

可処分所得、食料費
これまでのシリーズ・・・
シリーズ「食糧危機は来るのか?」1〜食糧危機問題の捉え方〜
シリーズ「食糧危機は来るのか?」2 〜食糧危機と市場経済は両刃の剣〜
シリーズ「食糧危機は来るのか?」3 〜輸出補助金というカラクリ〜
シリーズ「食糧危機は来るのか?」4〜日本経済は再び国際収支の天井を迎えるのか〜
・・・でも述べてきたように、食糧問題は経済問題と表裏一体の関係にある。
この食糧高騰を危機と捉えるのか、日本が変わる契機と捉えるのか?
食の安全性に対する人々の意識は、ここ日本だけでなく諸外国でも向上している。安全性や健康といった面からも日本の農業における品質管理の高さが注目されている、今こそ、農から日本社会への再生へと踏み出すときではないだろうか。

List    投稿者 pipi38 | 2011-03-09 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?No Comments » 

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