2009-12-13

GDP信仰からの脱却1〜プロローグ

Gross Domestic Product(国内総生産)。言うまでも無く、国の経済を計測する世界で最もポピュラーな指標である。これまで世界各国はGDPを最大化すべく経済成長を争い、国内の政府・マスコミは四半期ごとのGDPの上昇・下降に大騒ぎしてきた。20世紀は、GDPが国の力を表す最強のモノサシだった時代だと言える。

左は世界各国のGDPの構成比(クリックで拡大)

しかし、先進国では1970年頃から市場が縮小を始めていた。だからこそ、先進国は軒並み膨大な公的債務を増やし続け、実体経済ではなくカネがカネを生む金融資本主義が台頭してきた。その意味で20世紀後半は、役割を失いつつあった経済指標を盲目的に信奉し続けた“GDP信仰”の時代だったと言える。そして、昨年からの金融危機=この金融資本主義の崩壊で、先進国ではGDP縮小が不可避の事態となり、同時にGDPという指標そのものへの疑念の声も少しずつ上がり始めている。
新しいシリーズでは、「GDPという指標はもはや旧いのではないか?」という問題意識に立ち、その意味を改めて問い直してみたい。そして、これから確実に訪れる市場縮小の時代にふさわしい指標とはどういうものなのか、そのヒントを探ってみたい。

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GDPという指標への疑問・違和感は、次のようなところにある。
■「GDP信仰」が国家の膨大な借金を生み出した

借金をすると、GDPが上がるって、本当??  2より
借金するのは、消費、投資などに、お金を使うためです。そして、お金を使えば、GDP(国内総生産)は上がります。でも、豊かになってモノが行き渡ってしまったので、みんな「今まで以上にモノを買おう」とはしません。それではGDPが下がってしまいます。GDPが下がり続けるということは、市場が縮小してゆくということです。
そこで、経済界の人や、政治家や官僚(国家公務員)が、「借金してでも無理やりお金を使わせて、GDPをあげよう」と誘導しました。その結果、40年にわたる借金が雪だるま式にふくれ上がって800兆もの借金になってしまった訳です。

日本の公的債務残高の推移(クリックで拡大)

今や900兆に膨れ上がった日本の借金は、65年以降減ったためしがない。日本は40年以上も政府借金で需要をムリヤリ人工的に水脹れさせ続けてきたのだ。人工的=実は誰も本気では求めていない、ということであり、突き詰めればGDPを維持するためだけと言える。先進国は多かれ少なかれこの“病”に罹り、国家債務は増え続けている。
■幸せや生活の満足感はGDPに比例していない

GDPを信奉する政府は盲目より
単純な事実として、幸せや生活の満足感はGDPに比例していない。日本のGDPは戦後ほぼ一貫して拡大し、国民1人当たりで世界一の水準となったが、世界で一番幸せな国かと言えば、そうではない。実感としても、子どもの頃よりも住みにくくなっていると思う。
価値観国際比較調査(各国18〜69歳男女約700人、電通総研)によれば、今の暮らしに満足している人の割合は、インドでは約9割、タイでは約7割で安定しているのに対し、日本は5割に留まり、近年減少傾向にある。1人当たりのGDPではインドは日本の80分の1、タイは20分の1である。

これは多くの人が実感することではないかと思う。中国・インドに先立って成長してきた韓国も、かつてに比べて明らかに精神荒廃が進んでいる。GDPは、人間の活力や満足度を表すものでは全く無い。
■GDPを絶対視するから強引な移民政策も正当化される

経済危機で変わる?GDP信仰より
GDPを決める大きな要因は“人口”なので、少子化の進む先進国では、台頭する巨大人口国家に負けてならじと強引な移民政策が発動される。

“台頭する巨大人口国家”とは、言うまでも無く中国・インドのことだ。かつての覇権国米国が中南米からの移民をどんどん受け入れてきたのも、民主党が外国人参政権を認めようとしているのも、GDP拡大の意識が間違いなく働いている。しかし、10億を超える人口を擁する中国・インドにGDPの大きさで張り合おうとしてももはや無意味だ。
■世界でもGDPに対する疑問の声が上がり始めた

米ドル暴落の可能性を探る〜「国内総生産(GDP)」では計れない「富」と「幸福」より
ノーベル経済学賞受賞の経済学者、米コロンビア大学のジョゼフ・スティグリッツ教授は、世界の指導者に対し、国内総生産(GDP)の検証で思い悩まず、繁栄を測るより広範な指標を重視するよう呼び掛けた。スティグリッツ教授は、「GDPは社会の幸福と経済構造の変化を測る指標として利用されることが増えてきた。われわれの社会はGDPをますます貧弱な指標にしている」と指摘した。
「富」を測る現在の指標をめぐってはサルコジ大統領、オバマ米大統領や英保守党のデービッド・キャメロン党首も疑問を呈しており、「生産」だけではなく「幸福」の度合いも考えることが必要だとしている。
これから世界経済の再生と気候変動の抑制に取り組んでいくには、統計の幅を広げることが肝心だと述べ、「個人にとって重要な多くのことがGDPには含まれていない」と指摘した。
GDPモデルの欠点として、政府の貢献度の評価を挙げたほか、自動車などの製品の量だけではない質的な改善を評価することの難しさにも言及。家計債務の伸びが生産を押し上げる可能性があるが、これは富の本物の伸びを意味しないと付け加えた。同教授はGDPの完全排除は勧告しなかったものの、各国政府にこうした課題を環境問題などとともに検討するよう要請。「われわれの報告書から一つ取り上げてもらうとすれば、各国政府がGDP崇拝を避けることだ」と語った。

彼等がGDPという指標を見直そうとしているのは、従来のGDPでは新興諸国に太刀打ちできないから、優位に立てる別の土俵をつくりたいとの邪心からかも知れない。理由はどうあれ、先進国はGDP絶対視から離脱しようとしている。
では、GDPの一体何が時代遅れになりつつあるのか?
次回からはまず、経済学で当たり前のように習う定義や、国民経済計算で決められている計算式を読み解き、掘り下げる中から、GDP(国内総生産)という数字の本質的な意味を探っていきたい。

List    投稿者 s.tanaka | 2009-12-13 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?5 Comments » 

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コメント5件

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