食糧自立への道を探る7.2008年米国農業法は何を先取りしたのか?
2008年米国農業法成立の経緯
2008年米国農業法は昨年6月18日に成立した。今後2013年9月までの農業政策の基本となる。ブッシュ政権は2007年9月末に期限の切れる「02年農業法」に代わる次期農業法案を2007年1月に議会に提案した。その内容が、補助金引き下げを含んでいたので、農業団体からの強い反発にあった。そして政府案ではなく、下院では2007年7月に、上院では2007年12月にそれぞれ現行農業法の根幹を維持した法案が可決され、大統領府(拒否権)との攻防を経て、最終的には2008年6月に農業法が成立したのである。
(米国連邦農務省のビル)
2008年農業法とはいかなるものなのか?
強力な力を発揮した、農業団体は何を先取りしようとしているのだろうか?
1.2008年米国農業法は、ACRE(平均作物収入選択)というプログラムを導入
ACRE(Average Crop Revenue Election)、日本語に直訳すると「平均作物収入選択」だ。
穀物生産保護では、前回紹介した価格支持融資、直接固定支払い、価格変動対応型支払という、2002年農業法の枠組みはそのまま温存された上に、ACREという新たな方式も選択できるようにした。
それ以外では、
・環境保全対策は、補助対象面積を拡大し森林を事業対象に追加。
・エネルギー関連ではトウモロコシエタノール税額控除の単価引き上げ、バイオエタノール燃料精製施設の建設事業者への借入保証や租税減免措置を新設。
・綿花補助金はWTO違反と裁定された為に目標価格やローンレート(融資支持価格)を若干引き下げたが抜本的には修正せず。
・貿易を歪めると指摘されている酪農製品や砂糖の支持価格制度も維持。
そして、補助金総額は、5年間で約2900億ドル(約30兆円)に上り、2002年農業法段階よりも、約100億ドル増えている。
2008年農業法は、色々の観点から見ることができますが、ACREプログラムに注目した。
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2.ACREプログラムとは
ACRE(平均作物収入選択)プログラムは、下のような式で、農業者の収入を保証する。
ACRE保証額=0.9×【過去5年平均州単収】×【過去2年平均全国価格】
*但し、5年平均は最大最小の年を除く3年平均
特徴1.単収(単位収量:面積当りの作物の収穫量)の変動リスクを減じる。
毎年の作物の単位収量は、気候条件等で変動します。豊作・不作は農業の宿命だ。
2002年農業法までは、収穫された作物の価格を保証していた。実収穫量を基準に収入保証していた。
しかし、今回のACREは、作物の収量を含めて、保証をするものだ。具体的には、ある州である作物を作付けすると、作付け面積に対して、収入が保証される。
保証総額=作付面積×(CRE保証額=0.9×過去5年平均州単収×過去2年平均全国価格)
特徴2.直近の実績価格を基準に採用することで、高水準の収入保証を行う。
特徴3.ACRE支払は実際の作付け面積に基くので、価格高騰した作物に切り替えても、保証される。
2002年農業法までは、保証対象の作物は、過去作付け実績のある作物として、制約をうけていた。小麦作付けの実績をベースに、次の年の小麦保証が行われる。小麦作付けの実績ベースでは、とうもろこし転作への保証はかなり制約を受けていた。
このARCREプログラムの図式について、少し専門的になりますが、「米国2008年農業法」から紹介しておきます。
(ポップアップ!)
3.ACREプログラム=作物の単位収量の低下を先取りした保護政策
今後、米国農業が作物の単位収量を低下させていく。そのことを、農業者、農業団体が見越しているのである。その理由は何点かあげられる。
①化学肥料による多肥多収農法の限界
アメリカ農業は広大な農場で大量の化学肥料を投入し小麦、大豆、トウモロコシなどを単作で収穫する多肥多収型農業である。
1960年代から耐肥性に優れた品種改良が続き多肥多収を可能にした。1950年から30年間で穀物生産力は2.5倍になったと言われる。一方、化学肥料の使用は8倍に増えた。
今、その肥料効率は著しく落ちているといわれている。化学肥料による小麦やトウモロコシの多肥作物の連作は土壌疲労につながり、収穫率の低下を招くのである。
②オガララ帯水層の枯渇の恐れ
肉食が地球を滅ぼす(2012年の黙示録さん)から引用です。
アメリカが世界に誇る穀物生産国になったのは、ひとえに地下水のおかげである。アメリカの穀倉地帯として知られるグレートプレーンズ(大平原地帯)は、年間降雨量が日本と比べて4分の1も少ない乾燥地に広がっている。にもかかわらず、トウモロコシやコーリャン、小麦など、全米の大半の穀物を生産して収益を上げてきた。これはロッキー山脈の雪解け水が何千年もの間蓄えてきた巨大な地下水脈に支えられているからだ。
しかし、このまま穀物の生産を維持するのはむずかしいといわれている。というのも、(ここの)オガララ帯水層は雨水の補充がきかない化石帯水層だからだ。
2020年頃には完全に枯れてしまうことが予想される。その兆候はすでに始まっており、テキサス州の一部の地域では井戸が枯れかかって雨水頼みになりつつある。
地下水の枯渇は灌漑農地面積を減少させ、穀物の生産量を低下させる。テキサス州では、この10年の間に穀物生産高が11パーセントに落ち込んだ。オガララ帯水層が枯渇するということは、アメリカ農業に大きな打撃を与えるだけでなく、世界の穀物輸入国にも深刻な影響をおよぼすのだ。
グレートプレーンズ・大平原地帯(ロッキー山脈東側のオガララ帯水層エリア)
(ウイキペディアより借用)
③地下水のくみ上げによる塩害
農業問題とは何か─日本、そして世界の農業に今何が起きているのか?から引用します。
水がいかないところに水を引いて農業を行う灌漑農業というのは世界の農地の17%くらいを占めますが、工業用水、家庭用水などすべてを含めた世界の水の需要の70%を使っています。
灌漑農地で問題なのは、ちゃんとした灌漑農法ならいいのですが、実は砂漠みたいなところで水をまいているわけです。そうすると、岩塩という言葉を聞いたことがあると思うのですが、上から注いだ水が蒸発しようとする時に、土の下のほうにある塩分が毛細現象で上がってくるわけです。
ところが塩は蒸発できませんから、水だけ蒸発して、土の上が塩で覆われてしまうわけです。こうなると植物が生育できませんから、農地として使えなくなってしまう。これを塩害、サリナイゼーションと言います。これがオーストラリア、黒海周辺、アメリカなどでかなり大きな問題になってきています。
2008年米国農業法は、今後生産量(単位収量)が落ちていく危機感を強く抱き、従前の価格保証に加えて、生産量(単位収量)が減じても、収入総額が保証される制度の実現を図ったものだ。
この観点でみると、アメリカ農業は、2002年の枠組みを堅持したことにより、引き続き輸出余力を維持するとは思われますが、中期的には、生産総量が低下する危険を孕んでいる。
食料輸入を大きくアメリカに依存する日本にとって、大きな問題点だ。
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コメント11件
kaku | 2009.12.17 19:33
>当たり前のように無料で行われていたのが、もはや家庭内では処理しきれなくなり、集団の外に溢れ出てきています。
処理しきれなくなったのは、核家族化などで大集団がバラバラになったからだと思います。
とすると、とりあえずは活力再生事業として事業化しつつ、最終的には集団を再生していくことが必要なのかな、と思いました。
沙羅 | 2009.12.17 19:34
京都市の取組みは驚き(-o-:!)です。
既に高齢者が育児・保育に参画する取組みがあるんですね。
65歳で退職してもまだまだ元気ですもんね。
そんな人たちが働ける環境をつくっていくのは、高齢者のやりがいづくりにもなるし、賛成です!
でも・・・その財源はどうなっているのだろう?(・_・:?)
minezo | 2009.12.17 19:36
>『心の潤い』からさらに『活力再生』を求める需要
これって重要なキーワ−どだと思います。
今人々が求めているのは、活力再生なんだということに気づければ、国の行く末も大きく変わっていけそうな気がします。
午後の紅茶(ストレート) | 2009.12.17 19:41
筆者の書かれている具体的な方針①〜④をもっと議論⇔構築できる場が、私の常駐しているるいネットだったりこういったブログなんだと思う。
こういった発想は、今の統合階級には到底思いつかない発想なんだろうな。
shushu | 2009.12.17 19:43
公立保育所の賃金が年齢が上がるほど馬鹿高いという話は大阪府内の保育所でもあると聞いたことがあります。そういう人ほど活力を持って保育の仕事をしていないらしいです(もちろん、全てというわけではありませんが。。。)
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ふぇりちゃん | 2009.12.17 13:12
トップ画像の【非充足】だらけの表情と、最後の画像【充足】いっぱいの表情。とても印象的です。
>『過剰設備・過剰債務・過剰雇用』=『供給過剰』
みんな(社会)が求めていることと、特権階級が考えることとのズレは大きいんですね。
それだけ、特権階級は社会全体を捉えられていないということ。
そして、その一方で国民はただの『過剰期待(=不満)』になっているようにも感じました。
「国は何もしてくれない。何の役にも立っていない」って不満に思っているだけ。
ただ期待し続ける・不満を感じるのではなく、社会の当事者として自ら何らかの形で動いていくことが、国民には求められるのではないでしょうか?