経済破局を超えて、新しい政治経済の仕組みへ 第2回欧州の国家・金融危機、背後にある構造(金貸しと国家の攻防)
このシリーズの第1回は、2008年9月のリーマンショック・世界の金融崩壊が明るみに出した、中央銀行・金融機関(金貸したち)の身勝手と欺瞞を扱いました。
第1回「もう同じ過ちは繰り返すな!2009年に得た厳しい教訓」〜ジョセフ・スティグリッツ〜
第2回は、11月末に一応の決着をみたアイルランドの金融危機・国家財政危機の様相を扱います。
何故、ギリシャやアイルランドという欧州周辺国でバブルが巨大に膨らみ、その破綻が顕在化したのか。
バブルを演出したマネー(投機資金)と投機家は、どこを拠点にしているのか。
ギリシャとアイルランドの通貨は、欧州共通通貨である『ユーロ』、国家の枠を超えた『ユーロ』です。一方、危機への対処は、国家単位で行うことになります。
そこで、超国家・共通通貨『ユーロ』と国家主権の問題点を最後に扱います。
写真は、ロンドンのカナリーワーフ(シティの出先の金融街)です。
写真出典:Canary Wharf
1.通貨ユーロの辺境国家、アイルランドの危機
2.危機は、金貸し達の第2拠点、ロンドン(シティとカナリーワーフ)からやってくる
3.国家主権(通貨発行権)とそれを超えるユーロとの矛盾
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1.通貨ユーロの辺境国家、アイルランドの危機
アイルランドとアイスランド、似たような名前の国があってややこしいですね。
まずは、アイルランドに関する基礎知識から。
欧州大陸の海側に、ブリティン島(イングランド、スコットランド、ウエールズ)があり、その隣にアイルランド島があります。
このアイルランド島の8割位が、国家としてのアイルランドです。そして、北側の2割位が、英国の北アイルランドです。下の図がアイルランド島で、薄い色の所が国家としてのアイルランドです。
アイルランドは、1801年に英国に併合されて、大英帝国の一部になります。
しかし、アイルランドはケルト人の国、カソリックの国であり、アングロサクソンでプロテスタントの英国とは融合できませんでした。
だから、英国に対する独立運動が過激に戦われ、1931年に英国と対等な国家となり(但し英連邦王国内の国家)、1949年に英国とは縁を切り、完全な独立国家となりました。
アイルランドの国土面積は7万平方キロメートル、人口450万人、GDPは1857億ユーロ(約20兆円)です。
北海道は、面積8万平方キロメートル、人口560万人、GDP19兆円ですから、アイルランドは北海道が独立国になったと考えたらよいでしょう。
このアイルランドが奇跡の経済成長をします。
低い法人税と安い賃金は重要であった。それに惹かれて外国企業、とりわけアメリカの多国籍企業は生産基地とヨーロッパ事業本部をアイルランドに立地した。アイルランドの国語は英語であることもアメリカの企業にとって重要である。時差の結果、アメリカ本部とアイルランド支部との仕事分担で、24時間体制の恩恵も得られる。エレクトロニクス、製薬のようなハイテク産業や、金融サービスなどにおける外国投資はアイルランド経済の原動力となっている。外国からの投資でアメリカは80%という圧倒的なシェアを占めている。アイルランドで活躍しているアメリカ企業は600社で、その従業員は10万人である。アイルランドはまさにヨーロッパ市場を狙うアメリカ企業の基地となっている。
(ウイキペディアより)
この繁栄は、1990年代から始まる「グローバリズム」の流れに乗るもので、アイルランドに大いなる幻想を植え付けました。
1980年代以来、アイルランドは「アイルランドの奇跡」ともてはやされてきた。それは、まさに「ネオリベラリズム」のモデルであった。極端に低い法人税、極端な労働市場の流動性、企業の労組に対する絶対的な優位性などという政策であった。
20年来、アイルランドでは不動産価格が高騰し続けた。不動産価格の高騰は、貧しい家屋所有者たちにも、金持ちになったと錯覚させた。そして銀行の“繁栄”は、富の幻影を生み出した。この幻影があまりにも真実のように見えたため、すべての人がこの幻影を事実だと錯覚した。
過去25年間、アイルランドの銀行は、フリーで、オープンな国際資本市場で、グローバルに借り入れ、不用意に融資し、とりかえしが出来ないほどリスクを拡散させてきた。
政府が金融部門の規制緩和と公的資金での救済を確実に保証したことが、銀行や投資ファンドなどが、非常にリスキーな投資をすることを許した。
アイルランドとヨーロッパ版緊縮政策(北沢洋子の国際情報・世界の底流)から
そして、2008年9月のリーマンショックを契機にして、アイルランドの幻影・バブルが破綻します。
アイルランドの銀行は完全に破産した。
そこで、カウエン首相は、無条件に、すべての銀行を救済することを決定した。ネオリベラリズムにとって、これは皮肉なことだ。政府が、銀行の損失を“社会化”することになったのだ。銀行の返済不可能な民間債務を、返済不可能な公的債務に書き換えたのだから。そのカラクリは銀行の債務を、付加体税やサラリーマンの所得税でもって、支払われるのだ。
アイルランドはすでに3年の不況が続いている。2007年以来、1人当りの収入は20%下落した。失業率は3倍に増え、14%を記録している。かつて30年前のアイルランドの「暗い雨の日」がまた戻っていたようだ。
アイルランドとヨーロッパ版緊縮政策
これがアイルランドで起こったことです。
2.危機は、金貸し達の第2拠点、ロンドン(シティとカナリーワーフ)からやってくる
アイルランドの銀行が、莫大な借り入れを行い、無謀な投資をするには、資金がなければいけません。資金の出所は、関係の深い米国からもありますが、お隣の英国・ロンドンのシティとその出先であるカナリーワーフが見逃せません。
カナリーワーフとは、ロンドン東部にある大規模ウォーターフロント再開発地区です。植民地時代にカナリー諸島との貿易埠頭(ワーフ)があった場所なので、カナリーワーフと呼称されています。
この地区には、ロンドン中心部の古くからある金融センター「シティー」に対抗する様に、イギリスの三大高層ビル(ワン・カナダ・スクウェア、HSBCタワー、シティグループ・センター)が建設されました。
ワン・カナダ・スクウェア(写真中央)にはニューヨークメロン銀行や金融サービス大手のCFA社が入居しています。HSBCタワー(写真右)は、HSBC(香港上海バンク)の世界本社です。シティグループ・センター(写真左)は説明不要ですね。
カナリーワーフには、HSBCやシティグループに加えて、クレディ・スイス銀行、投資銀行(証券会社)のモルガン・スタンレー、野村證券、そして、破綻したリーマン・ブラザーズ、ベア・スターンズが拠点を置いていました。また、大手の会計事務所KPMGや法律事務所が立地しています。
図は、ポップアップです。銀行員.comの山本金融大臣インタビューから拝借しました。
ロンドンのシティとカナリーワーフを拠点とした投機家達が、通貨ユーロの登場で、ユーロ通貨圏の辺境であるギリシャやアイルランドで、投機活動を加速させたのです。
ギリシャ・アイルランドに金を流し込み、国家バブル、不動産バブルを演出しました。そして、投機家・金貸し達が資金を引き上げ、バブルが崩壊し、国家不安が顕在化していったのです。
3.国家主権(通貨発行権)とそれを超えるユーロとの矛盾
アイルランドの危機は、以下のように進んで行きました。
11月に入って、アイルランド国債のドイツ国債に対する上乗せ金利(スプレッド)が急拡大します。一方、アイルランド国家は、200億ユーロ(約2兆円)の資金をもっており、当面、大規模な資金調達の必要もなく、金利の高騰は、単に金融市場(投機市場)の出来事です。
図は再燃するユーロ圏危機から
しかし、アイルランドの金利高騰、金利の大幅変動は、投機家達には格好の儲け場となり、一層不安を煽っていきます。金利の変動幅が大きいほど儲けのチャンスも大きくなるので、投機家達が、アイルランド国債取引に殺到していきました。
マスコミも危機を扇動します。危機が扇動されればされる程、アイルランドから資金が逃避し、現実の危機につながってしまいました。
この事態に対して、アイルランドという国家と通貨ユーロの矛盾が露呈します。
アイルランドは単独で対処できないかと模索します。一方、欧州委員会とECBは、欧州共通の条件をアイルランドがのむことで救済する策を提案します。ユーロ大国であるドイツは国内世論の批判を恐れ、明確な態度を取れません。
この混乱状況は、実は、投機家達の金儲けの時間を増やす結果になります。
そして、自国財政の削減を条件として、最大850億ユーロ(約9億5000万円)の救済措置を欧州連合とIMFから受けることとなった。この救済策は、欧州単一通貨ユーロ圏(16カ国)財務相会合、EU財務相理事会での承認を経て発効された。
アイルランドの危機(そしてギリシャで生じた危機)は、国家単位を超えた欧州通貨ユーロと国家主権、国家による秩序維持の間に、隙間があることを露呈させたのです。
欧州共同体は、加盟国が27カ国です。そして共通通貨ユーロ導入国が16カ国、自国通貨国が11カ国という構成です。
図の紺色がユーロ導入国、紫色がEU加盟国で自国通貨国。
露呈したユーロの弱点は以下のように整理できます。
個別の国家主権は、超国家通貨ユーロによる投機を規制できない。ユーロ流入でバブルが起こるが、それを規制する手段を、ギリシャ政府やアイルランド政府は持たない。
投機家(金貸し達)にとっては、国家の規制のかからない「ユーロ・マネーゲーム」は、私益の天国でした。例えば、ギリシャの国債投資を加速させたゴールドマンサックスはその代表です。
バブルが崩壊し、銀行倒産の危機になると、しかし、個別国家が支えるしかない。
国家主権と投機家(マネー市場)との関係は、片務的です。投機家達は、投機市場で儲けられる間は自由を謳歌し、崩壊しかけると全てのつけを国家に押し付けるのです。
この関係の中で、ユーロ諸国の金融崩壊は、負担が、単に個別国家に押し付けられるのではなく、EU加盟国27カ国全体の負担としてのしかかるのです。
そのため、何故、他国の不始末を自国が引き受けるのかという声が、ドイツを中心に起こります。
『ドイツ政府やドイツ国民が関与できない、ギリシャやアイルランドの不始末の救済を、何故、ドイツは多額の税金を投じて行うのか?!』 と。
ギリシャ、アイルランドの金融危機、そして、現在進行形のポルトガル、スペインへの波及は、通貨での国家主権を放棄したユーロ加盟国家、中途半端な通貨主権しか執行できないECBと欧州委員会と投機家(金貸し達)との攻防なのです。
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