食料自立への道を探る5.域内自給を確保している欧州連合
EU(欧州連合)は2004年5月に東欧10カ国が加盟して25カ国になり、2007年1月にブルガリアとルーマニアが加盟して27カ国となっています。
国土面積は432万平方km、人口は4億8千万人と、米国と並ぶ巨大な市場と世界経済への影響力をもっています。
この欧州連合の農業部門は、基本的に食料自給を確保し、一部余剰農産物をアフリア・中東諸国に輸出しています。
まずは、主要国の農業状況です。
EUの最大農業国はフランスです。カロリーベースで自給率122%。穀物自給率は173%ですね。
穀物自給率でみると、イギリス、ドイツ、デンマーク、ポーランドがほぼ自給している。
農業国としても有名なオランダは、特殊で、酪農や花生産に特化しているので、穀物自給率が低いのです。
表で特徴的なのは、国土面積の半数程度が農用面積になっている点です。欧州の農業は、森林を牧草地や小麦生産地、或いはブドウ畑に転換していった歴史を反映していますね。
欧州連合は、歴史的にEU共通農業政策(CAP)として、食料自給を確保する政策をとって来ました。
主要国の農業概況と政策の動向をみてみます。
本文を読む前に、クリックを!
イギリスの農業特徴と政策
【農業概況】
農業経営体あたりの平均経営面積は57haと広く、農業が企業体経営となっている。
農用面積は、国土面積の67%と高い。
農業人口の割合は1%とEUでは最低の比率。大規模で効率的な農業を営んでいる。
スコットランド高地の農地風景、山の中腹まで牧草地が広がる
【政策スタンス】
第二次大戦前に自由貿易主義の考えかたから放任主義と呼ばれる農業政策をとり、食料の大輸入国となった。そのために第二次大戦中には食糧不足に陥った。
その反省から1947年の農業法では農産物の価格と市場に保証を行った。
1973年にEC加盟。1978年EC共通農業政策を完全適用。
ECの価格が英国価格より高水準だったことから生産量がUPし、40%にまで落ち込んだ自給率が今では70%以上にまで回復している。
近年では労働党内閣により環境問題や田園地域問題への取り組みを強化している。
<EU共通農業政策へのスタンス>
1戸当たりの平均経営面積が大きく大規模で効率的な農業を営んでおり競争力を有している。したがって農産物価格や輸出補助金の引き下げを主張している。
EU共通農業政策(CAP)改革では、価格の引き下げにより、CAP支出(農業予算)を年々削減していくことを主張している。
フランスの農業特徴と政策
【農業概況】
EU(15カ国)の総生産額の21.3%を占める欧州第一の農業国。
アメリカに次いで農業輸出額は世界第2位。
国土面積の54%が農用地(本国の国土面積54.9万平方kmに対し、農地面積29.4万平方km)。
経営規模は小さく、家族経営が中心で、8割が専業農家となっている。
小麦、大麦、牛乳、肉類が主な農産物でEUに占める比率が最大である。
フランス平地の農地風景
【政策スタンス】
EU最大の農業国として農業を重要な輸出産業として位置づけている。
98年新農業基本法で、経営に関する国土契約(CTE)を導入。
CTEとは、国との間で契約を結ぶ農業経営体に対して財政的助成を与える制度。
02年CTE予算が急増したため、CTEに代え「持続型農業契約(CAD)」を創設。
EU最大の農業国として国際競争力強化を図る観点から、CAP改革推進する立場ではあるが、小規模農家を多く抱える事情もあり急進的な改革にはやや慎重。
英国がCAP負担金を下げるべく価格の大幅な引き下げ等を主張するのに対して、価格維持などを主張してきた。
フランスはCAPの最大恩恵国である。
ドイツの農業特徴と政策
【農業概況】
国土面積35.7万平方km、農地面積17.0万平方km(48%)。
EU最大の工業国だが、農業は中部・南部を中心に零細農家が多く英国・フランスに比べて競争力が弱い。
牧草・飼料栽培を基礎とした酪農・肉用牛飼育が多い。
旧東ドイツ地域を中心とした平坦な地域では、穀物・馬鈴薯・飼育作物と畜産の複合経営が多い。
【政策スタンス】
CAPに関しては零細農家を多く抱えていること、第一次、第二大戦後の深刻な食料不足を経験した事等を背景として、一貫して手厚い農業保護を進めてきた。
CAP改革を求める英国とは対立する立場を取ってきた。
しかしながら、98年に発足したシュレーダー政権は、農産物価格の引き下げと直接所得補償への移行の促進を進める立場から欧州委員会を概ね支持する中で、EU最大の予算拠出国として、拠出額の軽減を求める形で交渉を行った。
ポーランドの農業特徴と政策
【農業概況】
ポーランドの農地面積は19.1万平方kmで、EUの中ではフランス、スペインに次いで、第3位の規模。このうち、実際に農業生産に利用された土地面積は16.3万平方km、全国土面積の52.2%を占めている。
農地の95%以上は民間部門によって利用されており、そのうち88%は個人農家(家族農家)による利用で、個人農家の比率が伝統的に圧倒的に高い。
また、農家の経営規模では、1ヘクタールから数千ヘクタールまで大きな相違があることもポーランド農業の特徴となっている。大規模農家経営は旧国有農場をベースとして行われている。
農業作物は、穀物、飼料用作物、牧畜生産(牛乳、肉牛など)であるが、EUの価格支持政策で増産が加速し、農業輸出国の立場を確立している。
【政策スタンス/EU加盟の恩恵】
ポーランドのEU加盟は、農業に割り当てられる財政支援金額のかなりの増加をもたらした。これは主として、共通農業政策(CAP)の枠内で行われたEU予算からの直接支払い補助とEUの基金からの投資補助が行われたことによる。
また、EU加盟に伴い、農業に対する資金供与は、農業生産者に直接与えられる補助金が増加し、間接的な補助金のシェアが減少した。
2004年の農業部門の国家予算とEU予算をみると、国家予算46億ズロチ(200臆円)に対しEU予算から21億ズロチ(95億円)であり、EU予算からの支援が大きい。
ポーランドの農業部門は、EU加盟により市場(主にドイツ)と支援予算を確保し、欧州全体の自給余力の拡大に貢献していると結論づけられる。
EU予算の拠出額が大きい、ドイツも、域内農業保護(域内食料自給)を共通政策として認めており、欧州連合の農業基盤は、安定しているのである。
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.kanekashi.com/blog/2009/05/910.html/trackback
コメント4件
緑一色 | 2009.11.17 22:55
引用されている内閣府国民生活局総務課調査室が実施している『国民生活選好度調査』
1978年から3年ごとに実施されていたのに、今回で廃止されるそうです。
生活満足度及び1人当たり実質GDPの推移など、時系列になっているデーターは有用だなと思っていたのですが残念です。
確かにこの推移データーを見ると、実質GDPと生活満足度は全く関連がないことがよく分かりますね。
ミネトンカ サイズ | 2013.09.25 12:17
シチズン 掛け時計
wholesale bags | 2014.02.10 11:27
金貸しは、国家を相手に金を貸す | 「経済学って、本当に正しいの?」 7 〜GDPと生活満足度の関係は?〜
jyujyu | 2009.11.16 2:47
確かにGDPっていつもだいた成長していて、しかし生活実態とはかけ離れている気がしてならなかったんです。
GDPを無理矢理成長させていたって言う事は、現在の国の赤字はこのせいでしょうかね?
連動している気がしますが。