2013-02-27

大恐慌の足音・企業は生き残れるか? 第8回 〜イオンホールディングス〜

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 政権交代後、安倍政権下で緩和政策、いわゆるアベノミクスが行われています。アベノミクスで円安が進めば、輸入商品を多く扱う小売業は確実に影響を受けるでしょう。安倍政権の狙い通り、これで景気がよくなれば後に回復することも考えられますが、長期的に見てそううまくいくとも思えません。
 今回は、前回に引き続き多角化する小売業のイオングループを見ていきたいと思います。

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◆イオンの経営状況


 イオンの流動比率は最新値で87%となっています。前回のセブン&アイの分析でも見たとおり、日銭の入る小売業では、流動比率が100%をかなり下回っても健全と見ることができます。(製造業などでは120%程度が求められる)しかしそうはいっても、2007年の113%から見て20%程度落ちているのは目に付きます。まず2008年に落ち込んだのはここ数年の拡大戦略で、地方スーパーの買収を含む設備投資による現金流出でフリーキャッシュフロー※が大幅に赤字になっていることが原因と考えられています。しかし2009年にこの拡大路線も見直されて圧縮路線に切り替えたことが功を奏し、持ち直しました。
※フリーキャッシュフロー=営業キャッシュフロー—投資キャッシュフロー

まず効果を表したのは大胆なコストカット。09年度は、なんと1年間で771億円もの経費を削減。その傾向は翌年度も続き、2年間で削減した販売管理費は1307億円にも上る。
圧縮経営の2番目は設備投資の抑制である。11年度も増益基調が続いているが、これは「圧縮経営がタイムラグをもって効いてきている」(正田雅史・野村證券金融経済研究所主席研究員)ためだ。経費カットは、損益計算書に即、効いてくるが、「設備投資は長期資産のため、効果が出るのに1年かかる」(同)。
08年度までは、営業キャッシュフローを上回る投資を行い、常にフリーキャッシュフローは赤字状態(図②)だったイオンだが、09年度以降は投資を営業キャッシュフローの範囲内に収め、フリーキャッシュフローが黒字に転換するようになった。
図③に見られるように、09年度以降は、出店を過去の3分の1以下に抑え、逆に不採算店の閉鎖は加速して直営売り場面積は縮小している。流通大手の自らが、面積を減らすことで、供給過剰状態を調整したといえる。だが、1平方メートル当たりの売上高は依然として下がり続けており、効率を重視するなら、さらなる店舗のスクラップが必要といえよう。
3番目が在庫の圧縮である。たとえば、10年度第2〜4四半期は衣料品の在庫を、前年同期に比べて2ケタパーセント絞った(図④)。
在庫を絞れば、季節の境目での値引きセールによる処分が少なくなり、粗利益率の改善につながる。衣料品の粗利益率は、09年度の35.9%から10年度は37.5%と1.6ポイント改善した。衣料品の既存店売上高は1%落ちたが、利益率が改善したため、これだけで粗利益高は36億円増えた。
ダイヤモンドオンライン

 しかし、その後2011年から再度90%を割り、そのまま落ち込んでいます。上の引用記事にあるようなさまざまな圧縮経営の効果は長続きしませんでした。
 また上の表で、自己資本比率は30%前後で安定していることがわかります。製造業では20%、商社では15%が最低条件とされていることを考えれば、特に問題はなさそうです。


 経常利益率はリーマンショックの影響で一時落ちましたが、上で見た圧縮路線の効果もあり一度持ち直しました。しかしやはりこちらも、今年度に入って3%台まで落ち込んでいます。
 では、今年度落としている原因を見るため、売上の内訳(セグメント別)を見てみましょう。



※赤色は2011年に比べ2012年で減少したもの、青色は増加したもの
GMS事業………………… 総合スーパー ex)イオンモール
SM事業…………………… スーパーマーケット ex)マックスバリュ、マルナカ
戦略的小型店事業………… コンビニエンスストア、小型スーパーマーケット、弁当惣菜専門店
総合金融事業……………… クレジットカード事業、フィービジネス
ディベロッパー事業……… ショッピングセンターの開発及び賃貸
サービス事業……………… 総合ファシリティマネジメントサービス業、アミューズメント、外食
専門店事業………………… ファミリーカジュアルファッション、婦人服、靴等を販売する専門店
アセアン事業……………… アセアン地区における小売事業
中国事業…………………… 中国における小売事業
その他事業………………… ディスカウントストア、ドラッグストア、Eコマース等
ここで、大きく数字が変動しているのはGMS部門と金融部門です。GMS部門は売上は1兆9千億から1兆9564億とあまり変わりませんが、利益は162億から64億とかなり落としています。金融部門は、売上は1243億から1334億と伸ばし、利益も142億から208億まで伸ばしており、GMSを抜いています。業務の多角化が進んでいるとはいえ、GMSはイオンの核となる部門です。ここが落ちていくことはイオンの経営に大ダメージを与えるでしょう。では、イオンはGMSの売上を落としている中で、どのような取り組みをおこなっているでしょうか?

◆ネットスーパーの拡大
 前回の投稿で見たセブン&アイではスーパーや百貨店の利益減をコンビニでカバーしていましたが、イオンのミニストップは店舗数からみてもそこまでの力があるとは思えません。
イオンが小売事業をなんとか維持させようと取り組んでいるのが、ネットスーパーです。そこでまずは、ネットスーパー市場の現状をおさえてみたいと思います。


富士経済よりお借りしました)

 このように、市場規模は確実に拡大傾向にあり、新規参入の企業も増えてきています。スーパーがネットスーパーに参入する動機としては、「店舗の補完」。スーパーの売上は天候や地域に左右されますが、ネットスーパーならば育児中の女性や近所にスーパーのない人など「買い物弱者」と言われる層を獲得できます。また、これまで生協や食品宅配企業を利用していた顧客も狙えます。
ただし、企業にとってはデメリットも多いのが現状です。熾烈な競争の中で顧客に選んでもらうため、次々に配送料を下げるなどのサービスを拡大しています。

日経新聞よりお借りしました)

「注文画面の連絡欄に、例えば『豚の切り落とし 脂身が少ないもの』『バナナ 小さめの房』などと書いてもらえれば、売り場担当者が要望に応じて商品を選びます」
(イオンネットスーパー担当者)
YOMIURI ONLINE

 また、店舗においては重要になる「ついで買い」の効果が薄れてしまうのも現状です。
 このように、競合に勝つため身を削っていくと利幅が小さくなってしまうため、諸刃の剣といえます。しかし、上で書いたように今までGMSの顧客とならなかった層まで手を広げることができるので、チャンスと見ることもできます。

◆まとめ
 以上見てきたように、イオングループの中心である小売事業。小売で勝ちを狙うなら、他のスーパーやコンビニだけでなく生協やネット販売サイト(楽天やアマゾン等)との熾烈な競争の中、ネットスーパー事業でどこまで客をとれるかがカギとなりそうです。その中で、地方志向のイオンは、過疎化とどのように向き合っていくか。小売以外の業務を拡大していくならば、地方志向の利点を生かして金融部門で地銀と戦うのもありえそうですし(ダイヤモンドオンライン)、現在徐々にですが拡大しているディベロッパー事業での収益を拡大していくという路線もあるかもしれません。地方経済の盛衰はイオンの動向にかなり左右されますから、ある意味ではイオンが日本の経済構造に与える影響は大きいです。今後も注目していきましょう。

List    投稿者 banba | 2013-02-27 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?No Comments » 

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