2012-09-20
米国はどのように衰退してゆくのか?(15)米国産業の行く末は?その4〜そして何が残るのか〜
前3回の記事で、建国以来の米国の産業の隆盛と衰退がどのように進んだのかをみてきました。
その1 その2 その3
広い国土の中で開拓時代の内需を満たした「大陸産業」の時代、1900年前後の電気と自動車と航空機という3大発明以降、技術力で世界の先頭に立つと同時に、二度の大戦を通じて超大国へのし上がってゆく「覇権産業」の時代、第二次大戦後の日本や欧州の技術力・生産力の急速な発展に対し、知的所有権や国際政治的圧力、金融によって覇権の維持を目論んだ「支配産業」の時代。
しかし、2000年代初頭のITバブルの崩壊、2008年のリーマン・ショックとそれに続く世界市場の急収縮を経て、現在、米産業界は再起不能に近い大ダメージを受けています。
今後、米国産業界にはどのような道が残されているかを考察してみます。
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●増え続ける非労働力人口
9/5に発表された米国の失業率は8.3%と改善しました。しかし、これが「職探しを諦めた人は失業者から除く」という数字のトリックであることは既に知られている通り。正社員になれずやむなくパートタイマーに甘んじている数を含めると実質的な失業者は20%に上り、さらに、ここ数年の非労働力人口の増加は、加速度的といっても良い勢いです。
米国における6月のフードスタンプの利用者が過去最高の4,670万人
米国民の約7割が「給料ぎりぎりの生活」
この余剰労働力を吸収する需要を、米産業界は果たして生み出せるのでしょうか?
●空洞化した支配力はもう世界に通じない
米国政府は、量的金融緩和(QE1〜3)というカンフル剤で、株価と金融機関の延命を図る一方、現在もTPPや為替操作、訴訟という支配の方法論を行使して、米国産業をなんとか浮上させようとしています。
<米国>量的緩和第3弾 資金供給枠は月3兆円
米国、中国をWTOに提訴 「自動車産業補助金は不当」
しかし、リーマン・ショック以降、米国の金貸しの指揮系統はガタガタになり、かつての神通力はもはや失われつつあります。支配が行き届いているのは、米国政府の意向を“忖度”して、自らTPPを推進したり、欠陥軍用機オスプレイを積極的に導入している日本の官僚だけです。
今後、金貸しのお墨付きを失い「実力」だけで勝負しなければならなくなった時、米国産業界には何が残っているのでしょう。
●豊かな土地・資源は健在
最近、米国内でのシェール(頁岩)オイル、シェールガスの開発が話題になっています。米国での生産量は中東を超えると言われています。
シェールガス、シェールオイルは、以前からその存在は分かっていましたが、採算が合わないため開発が見送られていました。現在のシェールガスブームは、急速に研究が進みコストが合うようになったというよりも、産業構造的にここに可能性を求めるしかなくなり、開発を強力に推進したためだと考えられます。それでもなお、米国の資源の豊かさはいまだに健在なのは事実です。
●米国の創造性(?)は発揮されるのか?
昔から、米国には新しいものを創造し社会を牽引する才能が誕生する土壌がある(日本には無い?)。だからアメリカは不死鳥のように復活する、という論調があります。しかしそれは本当でしょうか?
確かに、前々回の記事でみたように、20世紀初頭の電気の実用化(エジソン・テスラ)・自動車(T型フォード)・航空機(ライト兄弟)の発明によって、米国は世界一の産業国家に躍り出ました。しかし、同記事にあったように、テスラの発見はモルガンの支援によって日の目を見ることが出来たし、エジソンが設立したGE(ゼネラル・エレクトリック)社は、ロックフェラー系の巨大コングロマリットです。
これは、天才を生み出す土壌が米国にあるのではなく、「100万人に1人の天才を見つけて利用する」金貸しの方法論があるかないかの違いだと考えられます。
●アメリカの残る産業は?大陸産業への回帰か?
現在、米国の力がまだ強いと言える産業群は、以下のようなものです。
・アップル、インテル、インターネット・プロトコルなどのIT・情報産業
・航空機(ボーイング・ロッキード・グラマン)、NASAなどの軍事・宇宙産業
・ハリウッド、ディズニー、ラスベガスなどのエンターテインメント・カジノ産業
・食糧、ナイキ、マクドナルドなどの生活産業の一部
しかし、これらの産業群の大半は、戦争や対立を煽り、ドルに支えられた資力によって他国を従属させる、金貸し支配の力があってこそ成り立ってきた産業群です。従って、金貸しが自滅してゆくことによって、これらの産業群もその力を失っていくと予想されます。
それでも米国に残る産業は、おそらく、IT・情報産業の一部と、前段でシェールガスなど、米国という広大で資源豊かな国土が要求するエネルギー産業と食糧産業、そして、移動手段としての航空産業などになるでしょう。かつ、他国への支配力が衰えていく以上、それらは、他国に対して優位性を発揮するグローバル産業としてではなく、米国の内需を基盤としたものにならざるを得ないでしょう。即ち、金貸し支配終焉後の米国産業界は、建国時に近い「大陸型産業」に縮小回帰してゆく道しか残されていないと考えられます。
これは、米国を中心に回ってきた世界市場がソフトランディングできた場合の話です。世界的に危険水準まで来ている国債の暴落などにより経済破局が起これば、一気に国家秩序崩壊まで至らないとも限りません。経済破局→秩序崩壊が起きるか否かは、金貸しによる生き残り競争の趨勢、さらには米国民の民族性が最後のカギになります。
そこで次回からは、これら米国の民族性を政治や宗教、文化の面から見ていきたいと思います。
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