GDP信仰からの脱却2〜GDPとは「国内を流れたお金の総量」
第1回では、「GDPという経済指標は旧いのではないか」という問題提起を行い、その出所となった違和感や疑問点、そしてGDPを見直そうとしている世界経済界の動きを書いた。何より大きな違和感は、GDPの大きさが人々の活力や満足感を生み出さなくなっているということだろう。おそらく、戦後貧困の時代から高度経済成長の時代なら、GDPは日本人の活力をよく表す指標として機能していた。
2008年の日本の名目GDPの内訳。
図はこちらからお借りしました。(クリックで拡大)
では、GDPが次第に時代遅れになりつつあるとすれば、どのような点においてなのか?これを明らかにしていくため、まずはGDPの基本的な定義や計算式を数回のエントリーの中で押さえ、その中から本質を探り出してみたい。
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■GDPの定義
教科書的なGDPの定義は、『一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額』である。
すぐに「付加価値って何だ?」という疑問が浮かぶ。おそらくここに、GDPの本質の一つが隠されているのだが、それは実際の算出式を読み解く中で考えていく方が良いだろう。
GDPは、次のように計算される。(内閣府「新しい国民経済計算」中の図より)
国内総支出(GDE)=最終消費支出+総資本形成+純輸出
国内総生産(GDP)=雇用者報酬+営業余剰+純間接税+固定資産減耗
ここで、GDE=GDP
この2つ(支出と生産)がイコールになるのは「三面等価の原則」(生産=分配=支出)が成り立つからだが、比較的実感しやすいのは上の国民総支出(GDE)の方なので、こちらから考えてみる。
国内総支出(GDE)=最終消費支出+総資本形成+純輸出
これをもう少し分解すると、次のようになる。
国内総支出(GDE)=民間最終消費支出+政府最終消費支出
+民間住宅投資+民間企業設備投資+民間在庫品増加
+公的固定資本形成+公的在庫品増加
+輸出−輸入
民間最終消費支出は、車を買ったり、外食をしたり、旅行に行ったりという最も身近な消費行為。“最終”とついているのは、国内の取引行為全体のうち中間投入(例えば飲食店による食材仕入れなど)は全て除かれるためだ。
民間住宅投資、企業設備投資、民間在庫品増加は、個人が家を買ったり企業が生産設備に投資するという支出行為。在庫(売れ残り)も企業が家計の支出(消費)に代わって支出(投資)したものと見做されてGDEに計上される。計上されるのは増減額なので、その後、もし在庫が売れればその分の減少(マイナス)によって帳尻が合う。つまり消費支出の先行計上である。
政府最終消費支出および公的固定資本形成、公的在庫品増加は、いわゆる政府や自治体の歳出で賄われる行政サービスや公共事業で(公的在庫品増加は政府米や政府石油備蓄など)、このうち税収を超える分が、第1回でも書いた膨大な政府借金を生み出す元になる。政府による「景気対策」とは、この部分にお金を投入し、GDPを嵩上げすることに他ならない。
最後に輸出−輸入という経常収支を加えたものが国民総支出になる。経常収支を加えるのは、国内で生産されたものに対応する支出額を導くため。経常黒字が増えればGDPも増える。
■GDPは簡単に2倍にできる?
ところで、るいネットに面白い記事がある。
GDPを倍にする方法より
GDPが極めていい加減な指標であることがよくわかると思います。元のブログには、いくつか反論めいたものがされていますが、説得力のあるものはありませんでした。
経済成長=一人当たり実質GDPの上昇 というところから出発しましょう.
以下のとおりにすれば、GDPはすぐに倍になります。
1. まずは、お隣どおしペアになって下さい。
2. お隣の家事を全てやってあげてください。
3. それに対してお金を払ってください。
これだけです。
反論コメントなども含めた詳細は引用元のブログ記事も読んで頂くとして、これは基本的に可能である。実際には消費税を払うとか青色申告をするetcの付属物がついてくるが、互いに「商売」として成り立てば良い。
ここで何よりも大事なことは、「お金が支払われる」ということだ。
何か新しいモノやサービスが生まれても、それが無償で普及すればGDPには含まれない。どんなに下らないモノやサービスでも、お金を支払えばGDPを構成する。支払われたお金は、売った側の利益や給料となって、再び何かの商品やサービスの購入に使われる・・・という形で循環する。
つまり、何に支払われたかを抜きにして考えれば、GDP(国内総生産)とは『一定期間内に国内を循環したお金の流量』だと言うことができる。名目GDPでも実質GDPでも本質的には同じだ。上記の「家事交換作戦」は、その循環量を2倍に上げる簡便法である。
別の言い方をすれば、GDPとは「お金で処理する生活・社会(お金ワールド)の大きさ」を表すものだ。中国が13億人という日本の10倍の人口を擁しながらもGDPがほぼ同じ(1人当たりGDPは10分の1)なのは、それだけお金の循環とは関わり無く生きている人間が多いからだ(現在は急速にお金ワールドに移行してきたが)。インドはもっと顕著であり、前回例に出したように、それが幸福感や満足度と整合するとは限らない。
この“お金ワールド”において、お金を支払う対象が「生産」あるいは「付加価値」と定義される中身なのだが、この本質はなんなのだろう?次回は、三面等価の原則なるものを確認しつつ、生産面からGDPを見てみる。
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コメント7件
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