2011-02-05

経済破局を超えて、新しい政治経済の仕組みへ 第6回:近代市場社会、市場原理はダマシの理論である

2008年9月のリーマン・ショックによる世界的な金融崩壊と経済大不況は、それまで主張されていたグローバリズム(世界規模で、自由な経済競争を行なうことが富の拡大に役立つと)の理論が、欺瞞に満ちたものであることを明らかにしました。 
 
シリーズ第1回では、スティグリッツ教授の批判展開をみてみました。第3回以降は、グローバリズムの主張に反する現象事実を確認してきました。 
 
今回は、近代市場社会の成立を理論づけ、グローバリズム(自由主義原理)を正当化してきた『経済学』について、その姿勢と欺瞞性を明らかにします。 
 
米国では、政権中枢に座るのが、MBA(経済・経営大学院)出身者です。市場を正当化する『自由主義原理』を信奉しているのが、これらの人種です。 
一方、経済学の歴史には、市場原理を批判的にみる見方も登場しています。市場原理を越える視点から、紹介してみます。 
 
1.経済主体の欲望解放を正当化した、『神の見えざる手』(アダム・スミス) 
2.金(かね)の力を上位にもってきた経済理論で、博打を正当化する(ミルトン・フリードマン) 
3.市場原理を越える経済学(ポランニーとゲゼル) 
 
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1.経済主体の欲望解放を正当化した、『神の見えざる手』(アダム・スミス) 
 
近代市場社会の成立とほぼ同時に発表され、英国で絶大な評価を得たのが、アダム・スミスの『国富論』です。アダム・スミスの主張を端的な表すのが、市場=「神の見えざる手」です。 
アダム・スミスをもって、近代市場社会を理論づける『経済学』が成立しました。

アダム・スミスは、「国富論」として、経済社会の理論を構築しようとした。 
 
アダム・スミスをもって、市場経済学が成立したとするのは、「経済学(エコノミー)」を哲学・倫理学から、欲望(私益追求)肯定の「市場原理学」に転換させた点である。 
ギリシャ古典の常識では、エコノミー(経済)は、国家経営の学であり、政治学・政治倫理学そのものである。その伝統を受け継いだ「キリスト教」でも、エコノミーは教理・倫理の下に規範化されている。(だから、貸付金利が禁止されている。) 
 
アダム・スミスは、市場拡大(国富拡大)の時代を観察し、市場拡大・生産拡大、資本家・企業主、地主・農園主の生産拡大の原動力が、至って私益(欲望)に基づいていることを発見する。決して、社会倫理(例えば社会に必要かどうかの考察)に基づいていないことを見て取る。 
 
「企業家・農園主の行動を決めるのは、儲かるか損するかだけである。そして、儲かるか損するかは市場が決めている。」と見て取った。そして、この企業家・農園主の欲望解放が、国家全体の生産を増大させている。 
 
国富論の骨子は、だから。 
 
1.個々の経済主体は、己の欲望(私益)によって行動する。 
2.欲望行動は、市場における需給関係がもたらす損益を見て行動する。 
3.上記メカニズムにより、国民経済は秩序化され、国富は拡大する。 
 
個別経済主体の欲望を全面的に肯定した上で、市場(需給関係)により、その欲望行動が変化・転換し、結果として国富が増大するとの理論を打ち出した。 
 
アダム・スミスにとって、国富増大が関心事項であった。一方で、その国富増大を担う経済主体は、国富ではなく私益にしか関心がない。 
 
この両者をつなぐ「概念」が、市場という「神の見えざる手」の規定である。「神の見えざる手」によって、私益が国富に転化するとの理論宣言を行ったのである。 
 
リンク

近代市場社会を貫く『市場原理』は、しかし、アダム・スミスが理論付けたようには機能しませんでした。各国経済、世界経済は幾度となく不況局面(マルクスによれば恐慌局面)を経験し、1929年には、最大規模の『世界大恐慌』に見舞われたのです。 
 
大恐慌に対して、ジョン・メーナード・ケインズの経済理論が国家の経済政策に採用され、アダム・スミスの市場原理論にとって代わるのです。公共投資による波及効果を不況対策の切り札とする財政重視の経済理論です。 
 
10の公共投資を行なうと15〜20のGDPの拡大が起こるというのです。公共投資の乗数効果といわれるものです。10の公共投資に対して、15のGDP拡大ならば、乗数効果は1.5です。
(菅首相が、言葉そのものを知らずに、国会質問で立ち往生したのが、この乗数効果ですね。)
ケインズの経済学は、1930年代から1960年代まで、経済理論の主流になります。 
 
ケインズの公共投資による不況対策は、1960年代までの米国では有効に働いていましたが、1970年代になると、公共投資の波及効果がしだいに弱まり(乗数効果が1を下回り)、新たな状況に陥ります。財政出動の効果がGDPには波及せず、物価上昇だけが進む事態です。 
 
この状況下で、市場原理主義の主張が巻き返してきます。その代表学者が、ミルトン・フリードマンです。

  AdamSmith.jpg  Keynes.jpg  Friedman.jpg 
 
  写真は、左からアダム・スミス、ケインズ、フリードマンです。

 
 
2.金(かね)の力を上位にもってきた経済理論で、博打を正当化する(ミルトン・フリードマン) 
 
ミルトン・フリードマンの理論とその意味付けを、J・K・ガブリレイスの「経済学の歴史」からみてみましょう。

M・フリードマンの貨幣政策 
 
フリードマンは、特に英語圏におけるケインズ主義後の空白を埋めるべき政策を熱心に根気よく主唱した。彼は小柄な人だが、口が達者で、討議・討論では独特な一徹さを持っており、弱い学者が時に陥る疑いを全然持たない人である。古典的な競争的市場の主唱者としては、彼こそアメリカの指導的人物であったし、今もそうである。 
 
フリードマンは、愚かな政府介入がある場合は別として、競争的市場がほとんど損なわれることのない形で存在すると主張した。政府規制のみならず政府活動一般にも強い反対の態度をとった。 
 
経済学の歴史に対するフリードマンの貢献の中心は、貨幣的な措置が経済特に物価に対して決定的な影響力を持つと強く主張したことであった。彼の主張によると、物価は、数ヶ月の遅れののち、貨幣供給量の動きを常に反映する。そこで、貨幣供給量を抑えれば、物価は安定的に保たれるだろうということであった。 
 
「経済学の歴史」第20章たそがれ、晩鐘から

貨幣供給量を最重視するため、フリードマンの主張は、「マネタリズム」(貨幣政策)とも呼ばれますね。

貨幣政策は大きな別の魅力を持っていた。 
 
貨幣政策は社会的に中立的ではないということである。貨幣政策は、インフレに対しては、金利引上げによって作用する。金利引上げは、銀行貸出およびそれに伴って預金創造−貨幣創造−を抑制する。貸せるかねを持っている人や機関にとっては、高金利は全く結構なものである。 
 
工業諸国特にアメリカおよびイギリスにおける保守派の人々は貨幣政策に強い支持を与えた。彼らの本能はこの点で経済学者の本能よりはるかにすぐれていた。というのは、経済学者は、一般の公衆とともに、貨幣政策は社会的に中立的であると想定していたからである。 
 
保守派のゆたかな人々はフリードマン教授に大喝采をしたのであるが、この喝采には、彼らの多額なかねの利権がかかっていたわけである。 
 
「経済学の歴史」第20章たそがれ、晩鐘から

フリードマンのマネタリズム(貨幣政策)は、国家の経済運営を、ケインズ時代の財政主導から、金融主導へと転換させる理論的根拠を与えます。 
そして、アメリカを筆頭にして、金融(政策)万能の時代に、1980年代から入っていきます。 
 
金融万能の時代なので、金融工学が花形の学問になり、マネーゲーム(博打)が正当化されていきます。 
 
金融工学を駆使した金融商品が次から次へと登場していきましたね。 
「サブプライムローン」(貧困層に無理やり貸し付ける住宅ローン」、「為替スワップオプション」(日本の大学や自治体が損失を拡大させた為替変動で利益と損失が大きく変動する金融商品)、「CDS=クレジット・デフォルト・スワップ」(企業や国家のデフォルト=破綻の可能性に対して賭けをする金融商品)などなどです。 
 
そして、行き着いた先が、2008年9月のリーマン・ショックと世界的な金融崩壊です。 
フリードマンに代表される『マネタリズム』、それを理論的根拠とする『グローバリズム』が破綻したのです。 
 
金融崩壊の事態に対して、それまで、マネタリズムを信奉し、市場原理絶対、政府の規制撤廃、小さな政府 を主張しいた政策官僚や学者は、一転して、中央銀行による大量な貨幣供給、膨大な政府の財政出動、大きな政府へと転換を行なったのです。 
しかし、彼らは、マネタリズム・金融万能主義の破綻は決して認めようとしません。彼らのゴマカシの言葉は、膨大な貨幣のばら撒きと財政による金融機関救済の政策を、「非伝統的な方法」という訳の分らない言葉で正当化しているのです。 
 
市場原理主義を主張する経済学に、決して、騙されないことが必要です。 
 
ケインズ経済学が有効性を失い、マネタリズム・グローバリズムが破綻した今、政治経済社会を把握する「新しい経済理論」が必要になっています。 
そこで、歴史的に登場している、市場原理を越える、或いは、市場原理を疑う『経済学』を簡単に紹介しておきます。 
 
3.市場原理を越える経済学(ポランニーとゲゼル) 
 
互酬、再配分、交換の3つの経済原理を並存させるカール・ポランニー 
 
まずは、市場経済・交換経済とは違う社会システムの存在を発見、理論付けたポランニーです。 
 
カール・ポランニーは、ウィーン出身で、20世紀前半の経済学者です。経済活動の歴史的な分析を行ない、交換経済(市場社会)以外に、互酬(贈与のしあい)が社会の秩序化を果たしていた時代、朝貢と下賜による再配分の時代を抽出します。ポランニーの業績は、長い歴史時代を俯瞰した、『経済人類学』を確立したことにあります。

社会統合のパターン 
 
社会を統合するパターンとして、互酬、再配分、交換の3つをあげる。互酬は義務としての贈与関係や相互扶助関係。再配分は権力の中心に対する義務的支払いと中心からの払い戻し。交換は市場における財の移動である。 
 
市場社会論 
 
人間の経済原理の一部が肥大化したものが市場経済だとする。市場経済の世界規模での拡大は、人類史において普遍的な状況ではなく、複合的な経済へ戻ると考えた。研究対象としては、古代メソポタミア、古代ギリシア、プトレマイオス朝のエジプト、ダホメ王国、産業革命以降のイギリス、19世紀〜20世紀初頭の国際経済などが選ばれている。 
 
19世紀は、世界規模の市場経済化がすすみ、それまで人類史上に存在しなかった市場社会を生んだとする。市場社会は、市場価格以外には統制されない経済を目的としたが、それ自体のメカニズムが原因で20世紀に崩壊し、市場経済から社会を防衛するための活動(ファシズム、社会主義、ニュー・ディール)も隆盛したとする。 
 
ポランニーはウィリアム・ブレイクの言葉を借りて市場経済化を「悪魔のひき臼」にたとえ、癌という表現も用いている。 
 
また、市場経済は人間(労働)、自然(土地)、貨幣を商品と見なすことにより多くの人間を破局へ追い込んだと指摘した。イギリスの事例として、囲い込みやスピーナムランドを取り上げた。さらに、市場経済化による欧米の破局は、欧米以外の地域における文化接触による破局と同質であると指摘し、インドの村落共同体の破壊、アメリカでのインディアン居留地などを例にあげる。 
 
ウイキペディア、カール・ポランニー参照

ポランニーは、交換経済(市場社会)は、社会統合の一部でしかなく、それだけが肥大化する近代市場社会の病理をみてとり、相互扶助と富の再配分(現在ならば政府の仕事)、そして交換が組み合わさった『秩序ある経済社会』への復帰を見据えていたのです。

   polanyi.gif  Gesell.jpg 
 
   写真左はポランニー、右がゲゼル 

 
金(マネー)の権力を無力化する『減価する貨幣』を提唱したシルビオ・ゲゼル

ゲゼルは、お金の中に矛盾する二つの役割、つまり市場に仕える”交換手段”としてのお金と、同時に市場を支配する”権力手段”としてのお金と、2つの特性を見ていました。そして、どのような方法によって、中立的な交換手段であるお金の特質を損なうことなく、増大する権力手段としてのお金の特性を無力化することができるかを考えました。 
 
ゲゼルは、お金の権力を無力化する方法として、貯蔵性および流動性のメリットを相殺するコストをお金の中に組み入れることを考えました。現金としてのお金に手数料(運輸業における貨物車両の留置料に相当する)が課せられるのであれば、お金は市場に対する優位性を失い、交換手段としての奉仕的な機能だけを果たすことになる。 
 
循環が投機的な行為によって妨げられることがなくなれば、通貨の購買力が長期に渡って安定できるようになり、流通するお金の量を恒常的に物質量に適合させることが可能になるというのです。 
 
忘れられた経済学者シルビオ・ゲゼル①より抜粋

単にお金をもっているだけでは、そのお金は減額される制度を考えたのです。お金は、実際の経済活動に投入される場合だけ、その意味を認めようという意味ですね。 
 
次のるいネット投稿も参考にして下さい。 
 
忘れられた経済学者シルビオ・ゲゼル② 
 

List    投稿者 leonrosa | 2011-02-05 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?5 Comments » 

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