大恐慌の足音・企業は生き残れるか?第15回 〜地域に役立つ金融機関こそが生き残れるその2/協同組合精神で地域密着に徹している城南信用金庫〜
前回は、都市銀行と地方銀行の比較を行い、マネーゲームに傾斜している都市銀行の実態と伝統的な企業貸出を守っている地方銀行をみてみました。
大恐慌の足音・企業は生き残れるか?第14回 〜地域に役立つ金融機関こそが生き残れるその1/地方銀行は本来の銀行の役割を担っている〜
今回は、地域密着に徹している城南信用金庫を取り上げます。
城南信用金庫は、福島第一原発事故の直後に脱原発宣言を出し、『脱原発首長会議』を支援(会場提供)し、首相官邸・国会・霞が関周辺での「脱原発デモ」のヘリコプター取材を支援しています。
日本の大企業・大銀行は、福島原発事故に関して、「原発がないと電気が不足する、安全性を確保した上で、再稼動を急ぐべきである」との姿勢です。何故、城南信用金庫は、『脱原発宣言』を行ったのでしょうか。その背後にある企業精神をみてみます。
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3.本来の金融機関の役割に徹している城南信用金庫
城南信用金庫は、本店を東京都品川区に置き、港区から神奈川県厚木市までをカバーしている信用金庫です。2001年に合併で京都中央信用金庫が誕生するまでは、預金・貸出金ともに、全国の信用金庫で第一です。
その企業特徴を確立したのは、1956年(昭和31年)に三代目理事長に就任した小原鉄五郎氏で、信用金庫の経営理念を徹底させていきました。
『カードは麻薬』、投機的資金は貸し付けない
まずは、城南信用金庫について、ウイキペディアから紹介します。
「貸すも親切、貸さぬも親切」という原則に徹し、バブル期において株式やゴルフ場地の購入などの投機的な資金を貸さなかったことから、バブル崩壊後の金融危機でも健全経営を維持。
また「カードは麻薬」という小原哲学にもとづき、消費者向けのカードローンは現状では一切扱っていない。クレジット・信販会社とのATM提携も一切おこなっていない。投資信託や保険、デリバティブなど顧客にリスクのある商品(国債や地方債等の公共債を含む)も一切扱っていない。サブプライム関連の投資も一切取り扱っていない。
2010年11月に新体制(吉原毅理事長)が発足し、信用金庫は英国のロッチデール先駆者協同組合に端を発する相互扶助のための協同組織運動であるとの認識に立ち、「信用金庫の原点回帰」「小原哲学の復活」を方針とし、「地域を守り、地域の方々を幸せにするための社会貢献企業」をめざして、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の復興支援や地域の福祉作業所の援助などのボランティア活動に力を注いでいる。
2011年4月1日に「原発に頼らない安心できる社会へ」というキャンペーンを開始し、5月2日には各種の節電商品サービスを開始、12月2日には原子力発電を使わない電力会社へ切り替えるため2012年1月よりエネットから電力を購入することを発表するなど、最大の環境問題である原発からの脱却を訴え積極的に行動している。
城南信金のエピソード(ウイキペディアより)
信用金庫は、会員による協同組織、非営利法人
信用金庫は、都市銀行や地方銀行とは違う組織原理で設立し、運営されています。組織原理は、地域住民・地域企業・地域勤務者の会員による協同組織です。以下は、該当する法の部分です。
信用金庫法第十条((会員たる資格)
信用金庫の会員たる資格を有する者は、次に掲げる者で定款で定めるものとする。ただし、第一号又は第二号に掲げる者に該当する個人にあつてはその常時使用する従業員の数が三百人を超える事業者を除くものとし、第一号又は第二号に掲げる者に該当する法人にあつてはその常時使用する従業員の数が三百人を超え、かつ、その資本金の額又は出資の総額が政令で定める金額を超える事業者を除くものとする。
一 その信用金庫の地区内に住所又は居所を有する者
二 その信用金庫の地区内に事業所を有する者
三 その信用金庫の地区内において勤労に従事する者
(以下略)
*上記の法人の資本金制限は、資本金9億円までです。
預金は、会員以外からも集めることができますが、貸出は、会員に限定されています。但し、会員が資本金制限を超えて会員資格を失った場合(会員卒業)に、継続して貸出を行うことは可能です(卒業生貸出)。
資金の原資は殆どが預金、貸付は中小企業
城南信用金庫の貸借対照表、損益計算書をみてみます。
事業資金の殆どは、信用金庫の会員を中心とした預金です。平成24年度で、総資金の94%となっています。
地域の中小企業、商店などへの貸出金は、平成24年度末で1兆9242億円、総資産の52.5%です。有価証券運用は17.1%、現金預け金は26.1%です。預け金は、余剰資金を信用金庫の全国組織である「信金中央金庫」への預金です。
収入は、資金運用収入(地元貸付と中央信金への預金)が86%を占め、マネーゲーム収入(その他業務収入)はわずかです。
貸付先の金額区分が公表されています。これをみると、1000万円〜5000万円の貸付先が46%、1000万円未満が30%強と、大半が中小企業向けの貸付になっています。
お金の本質は、個人主義が生んだ最大の妄想
2010年に、信用金庫の原点回帰を掲げて吉原毅氏が理事長に就任しました。この吉原理事長のもとで、経営理念を改めてまとめています。
ディスクロージャー紙「城南信用金庫の経営内容・24年度版」の国際協同組合年の頁から紹介します。
2012年は「国際協同組合年」
本年、2012年は、国連が定めた「国際協同組合年」です。信用金庫も協同組合にルーツを持つ金融機関ですが、その他にも、労働組合や生活協同組合、農業協同組合など、さまざまな協同組合が、日本で、そして世界で独自の活動を展開しています。
では何故、国連が今、「国際協同組合年」というものを定めたのでしょうか。
協同組合こそ、よりよい経済、社会の建設に貢献できる
2008年にリーマンショックが起きた際に、アメリカの国家戦略である金融資本主義を担っていた大手証券会社が、サブプライムローンの影響で、相次いで倒産し、世界中が大混乱に陥りました。その結果、市場原理主義や資本主義経済のメカニズムが、人間の幸福にとってプラスにならないのではないかという疑念が湧き起こったのです。
「お金がすべて」という考えが蔓延した資本主義社会は、「人の幸せとは何か」「国家社会とは、そして人間同士の関係とは本来どうあるべきか」といった人間社会の本質的な問題から外れていく性格を持っています。人々の間にさまざまな格差を生み、人と人とのつながりを断ち切ってしまいます。
市場原理ではなく「協同組合の原理」が必要だとの展開です。
しかし、こうした問題は、何も今、初めて分かったことではありません。古くは、プラトンが「国家論」の中で指摘し、またアダム・スミスが「諸国民の富」の中で、「上場している株式会社は株主の利益のみを追求するため、これが増えすぎると、国家社会にとって望ましくない」と警告しています。マルクスもケインズも「市場を野放しにすることは危険だ」と警鐘を鳴らしていたのです。
人間とは、元来、わがままで自分勝手な生き物です。だからこそ、お互いに話し合い、道徳や倫理、良識を持ち、健全な社会、健全なコミュニティをつくらなければなりません。そうした健全なコミュニティの中でこそ、お金も健全に使われるのです。
逆に、人と人がお金だけの関係になり、市場を野放しにすると、お金は人の心をバラバラにし、孤独にし、狂わせ、暴走させます。良識やモラルが崩壊し、拝金主義に陥り、バブルや多重債務、犯罪など、悪いことでも止まらなくなります。
現代社会の問題は、要はお金の暴走です。そして、お金の本質は、実は個人主義が生んだ最大の妄想であり、一種の麻薬です。
こうした観点から、「人と人とのつながりや助け合い、コミュニティを大切にして、皆の幸せの実現をめざす協同組合こそ、よりよい経済、社会の建設に貢献できる」という考えのもとに、今年が「国際協同組合年」に指定されました。つまり、世界中の人々が、協同組合の精神と活動に大きな期待を寄せているのです。
現代社会の問題は、お金の暴走だと本質を言い当てています。
市場原理に代わる「協同組合の原理」という経営理念をしっかりもっているので、原発事故後素早く、「脱原発宣言」を発したのです。
なお、吉原毅理事長は、慶応義塾大学で、加藤寛氏の教え子です。加藤寛氏は、JR民営化を進めるなど、政府審議会の有力メンバーでしたが、原発事故後、脱原発政策へと転換しています。
『大恐慌の足音・企業は生き残れるか?』のシリーズは、今回が最後です。
主に、企業分析として進めて来ましたが、明らかになったことは、以下の通りです。
市場原理に依拠して、変動の激しい需要変化を追いかけていては生き残れない。
大恐慌の足音・企業は生き残れるか? 第1回 〜パナソニック〜
AV市場の急縮小で、倒産危機にまで陥ったパナソニックです。
大恐慌の足音・企業は生き残れるか?第13回〜テレビ局・新聞社の苦境〜
新聞離れ、テレビ離れ賀進行し広告費が縮小しているテレビ局・新聞社は、蓄積した資産で生き延びているのです。
対して、市場原理に代わる企業理念、企業ビジョンを確立している企業は、確実に大恐慌でも生き延び、逆に社会の主流に躍り出ていくと考えることができます。
大恐慌の足音・企業は生き残れるか? 第6回〜大不況の中、躍進する製造業3社〜
3社ともに、確かなビジョンをもって企業経営をしています。東レは、超長期の視点で技術開発に取り組み、ファナックは、質を追求するため国内生産宣言を行い、オムロンは、創業者が打ち立てた『未来予測理論』が存在します。
そして、3社に共通しているのは、以下の3つでした。
◆卓越した創業者の思想・理論、あるいは創業時の経営哲学を保持し続けている。
◆超長期的な視点に立って、社会や時代の動きを捉えている。
◆確固とした企業哲学や経営理論の上に、生産活動の自在さが実現している。
今回の城南信用金庫にも共通したものがあります。そして、金融部門の企業なので、市場原理・お金の本質まで認識が辿りついています。
このシリーズは、今回で終了です。長いお付き合い有り難うございました。
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