経済破局を超えて、新しい政治経済の仕組みへ 第10回:幻に終わった鳩山・小澤民主党の脱米入亜構想
戦後の日本は、アメリカと官僚・学者・マスコミによって牛耳られて来ました。
アメリカは日本に対して露骨な内政干渉を行い、官僚は己の特権的身分を守るためにアメリカの言いなりになり、マスコミは官房機密費の威力か世論操作のための情宣機関と成り果てました。
第7回『日本の政治を動かしているのは政治家ではなく官僚だ!』
第8回『特権身分に収束すれば無能と失敗に陥る!』
第9回『国民にとって重要な情報ほど報道しないのが大手マスコミ』
ここ数年、そんな官僚やマスコミに対する不信感が急激に高まり、ネットを中心に「本当は何が起きているのか?」と国民自らが判断しようとする動きが出てきました。‘09年8月、そうした国民の意識潮流に立脚した民主党が、官僚・マスコミを改革すべく政権に就きました。
(国連総会で会談する鳩山首相と胡錦濤主席)
しかし、国民からの支持は1年も続かず、早くも行き詰まりの様相を示しています。
そこで今回は、民主党はなぜ変質して行き詰ってしまったのか、を扱います。
1.アジア共同体の推進は、鳩山・小澤民主党の政策だった
2.脱アメリカ、アジア共同体のもとで日本はどうなるのか?
3.幻想的アジア共同体の限界
4.民主政権は何故変質して、行き詰まったのか?
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1.アジア共同体の推進は、鳩山・小澤民主党の政策だった
るいネット「報道されないアジア経済圏の始動【その1】」より。
日本では不気味なほど報道が差し控えられているようだが、2010年1月1日をもってCAFTA(中国ASEAN自由貿易協定)が始動した。これは昨年の8月、中国とASEAN10カ国が調印した「中国ASEAN自由貿易区投資協定」の合意を受けて設立されたものである。
CAFTAは、中国とASEANで現在取引されている製品の90%にあたる7000品目の関税を域内で全廃し、完全な自由貿易を実現するとする協定である。
最初は、中国、タイ、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、フィリッピン、シンガポールの7カ国でスタートし、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの4カ国は2015年に参加する予定だ。
CAFTAは中国と東南アジアがEUのように1つの域内市場として統合される経済共同体です。域内貿易の決済通貨はしばらくはこれまで通りドルが使用されますが、将来的には元に変更され、2015年前後には、中国と東アジア、そして東南アジアの全域をカバーした元基軸通貨経済圏が誕生する見込みです。
民主党前政権の鳩山内閣は、こうした動きに非常に前向きで、世界の多極化の動きをにらんだ政策を提示していました。
2004年に同党が提示した「創憲案」といわれる新憲法草案の序文などを読むと、民主党は東アジアーASEAN共同体を経済のみならずEU型の政治的な統合体として発展させることも念頭にあるようである。そのためには、EUのように一つの共同体全体として防衛や外交にあたれるように、国家の独立性の前提となっている主権を制限し、これを「縮減」する方向を明確に示している。以下が「創憲案」の序文の一部である。
「21 世紀の新しいタイプの憲法は、この主権の縮減、主権の抑制と共有化という、『主権の相対化』の歴史の流れをさらに確実なものとし、これに向けて邁進する国家の基本法として構想されるべきである。国家のあり方が求められているのであって、それは例えば、ヨーロッパ連合の壮大な実験のように、『国家主権の移譲』あるいは『主権の共有』という新しい姿を提起している」
つまり、東アジアーASEAN共同体をEU型の政治経済共同体にまで発展させ、それに日本を埋め込むといういうのが民主党のかねてからの政策だったのです。
2.脱アメリカ、アジア共同体のもとで日本はどうなるのか?
それでは、民主党(小澤・鳩山)の路線で脱米が実現し、アジア全域が巨大な共同体に統合された場合、日本はどうなるのでしょうか?
引用は「報道されないアジア経済圏の始動【その2】」より。
【成長する輸出型企業】
たとえば、いま中国では車の販売が世界で一番伸びており、日本車も軒並みシェアを大幅に伸ばしているが、すべての外国車には100%の関税が課されている。つまり、中国では売られている日本車は日本の国内価格の2倍である。日本の東アジアーASEAN共同体への参加でこうした関税も撤廃となるため、日本車のような日本が比較優位をもつ製品は、東アジアーASEAN共同体でシェア率を大きく伸ばすことができ、そうした製品を製造する日本企業は大きく成長することができるだろう。
【いっそう開かれる労働市場】
さらに、域内関税の撤廃とともに、各国の国内規制の撤廃が促進し、労働力市場も広く開かれたものになる可能性が出てくる。つまり、アジア圏全域で労働力の安い地域に生産拠点を移動させ、そこで生産するというグローバルな生産体制の構築がはるかに容易になるということだ。これにより、国際競争力のある日本企業は、現在よりもさらにいっそう国内に残存している生産拠点の海外移転を行い、競争力の強化をはかるだろう。
日本が中国とともにアジア経済圏を構築することに対して、日本を最大の金蔓としているアメリカが許すはずがありません。
実際、鳩山内閣の脱米入亜構想に対して、アメリカは日中の分断工作を仕掛けてきて、鳩山政権は、米国戦争屋の工作にまんまと引っかかってしまいました。
「新ベンチャー革命」〜普天間問題:オバマ・鳩山vs米国戦争屋・悪徳ペンタゴンの代理戦争(1)より。
2010年5月4日、鳩山首相が沖縄を訪問、首相公約(党公約ではない)に反して、普天間米軍基地の県外移設が実現できそうもないと表明、県民に陳謝しました。米国との交渉が不成功に終わったというのが、その理由です。当然、鳩山首相の責任問題が浮上するわけで、反小沢・反鳩山の悪徳ペンタゴン(民主党内親米派含む)が狂喜しています。
3.幻想的アジア共同体の限界
その後、民主党は鳩山政権から菅政権に移行し、すっかり従米政権へと変質してしまいました。
その直接的な原因は、アメリカによる日中の分断工作にやられたためですが、民主党政権が行き詰まった原因は、もっと根底的なところにあります。
民主党(鳩山・小澤)が目指した、アジア共同体は前述したように、国際的競争力を持っている大企業にとってはチャンスですが、大半の企業=国内型の企業にとっては、状況が全く違うのです。
【危機に瀕する国内型企業】
しかし、輸出で比較優位をもたない国内型の企業はどうだろうか?こうした企業にはまったく反対の現実が待っている。
東アジアーASEAN共同体の形成で域内関税が撤廃されるか、または低率になると、アジア圏全域から製品が怒涛のように日本市場に輸入されてくる。それらの製品は低価格で品質の高い製品であることに間違いない。国内型企業は、アジア製のそうした製品に圧倒され、多くの分野で企業の淘汰が進む可能性が大きい。
【加速する2極分化】
海外に生産拠点を移した国際競争力のあるグローバル企業とは大きく異なり、生産拠点をいまだに日本国内にもつ国内型企業は、雇用のもっとも重要な受け皿である。
しかしながら、こうした企業の停滞と淘汰で雇用は悪化して国内の失業率は増大し、また賃金も下落する可能性が大きくなる。
また、日本国内でいくら賃金が下落したとしても、中国や東南アジア諸国の水準まで賃金が下落するとは考えにくい。なので、アジア圏の他の国の企業が日本の労働力市場を目当てにして生産拠点を日本国内に移転させる可能性は非常に低い。すると日本では、高失業率と停滞が恒常的な状態として定着する可能性が出てくる。
すでに日本の経済は、
1)国際的な競争力のあるほんの一握りのグローバル企業が主導する領域と、
2)国内市場をメインにした国内型企業の領域とに2極分化しつつあるが、
東アジアーASEAN共同体への参加で、ほおっておくとこの2極分化がいっそう拡大する可能性が出てくる。そうなると、多くの若年層にとっては、国内で就職の当てがほとんどないので、賃金が安くても生活費がはるかに低い他のアジア圏の地域に移民することすら一つの選択となってもおかしくない。
アジア共同体への参加は、日本にとってはこれだけではバラ色の未来を拓く選択ではないことは明らかです。
4.民主政権は何故変質して、行き詰まったのか?〜本格的な答えを持たないが故に
東アジアーASEAN共同体の創設は、世界の環境がさらに変化することを意味する。そのような激変する国際環境の中で、かつては「製造業大国」として自らをアイデンティファイしていた日本だが、新しい環境の中で生き残り、成長するためには「どのような国になるのか」国家戦略を再定義しなければならないだろう。
もし、その再定義に失敗し、これまで通りの「テクノロジーが優秀な製造業大国」というアイデンティティーから抜け出せないのであれば、CIA系のシンクタンク、「ストラトフォー」の「2010年〜2020年予測」にある以下のような予測が的中してしまう恐れがある。
「日本はこれから人口の減少に基づく消費需要の低迷と労働力人口の減少に見舞われ、これまで以上の低迷期に入る可能性が大きい。<中略> この結果、2020年までに何を国是にした国なのかという本格的な存在の危機、いわばアイデンティティークライシスに直面せざるを得ない。つまり、自分たちはなにものであり、結局日本はという国はなんなのかという存在論的な問いである」
予測が現実味を帯びてきている現在、日本は、今までの「製造業大国」というアイデンティティー=経済成長のパラダイムから抜けだして、成熟した国家モデルを世界に示すことが期待されていますが、鳩山はもちろん、小澤にもそのような力はなかったし、そもそも新しい状況に対する答えを、民主党は持っていないのです。
「これからの日本は、どのような国になるのだろうか」という国民の疑問・不安に対して、民主党政権には答えが出せなかった、これが短期間で行き詰まった根本的な原因です。
次回は、民主党が敗北した原因構造について、掘り下げます。
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