2011-04-06

シリーズ「食糧危機は来るのか?」9 〜兼業農家の必然性——世界に冠たる担い手システム〜


シリーズでお送りしている「食糧危機は来るのか?」
前回の記事では、一般的に経済効率が高いと考えられてきたアメリカ型の大規模農業の実態を明らかにし、市場原理に乗ったまま日本の農業を大規模化しても自給率の改善には貢献しないことを扱いました。
今回は、日本の農業のあり方を再度捉え直し、持続的な自給率改善の実現基盤がどこにあるのか探ってみたいと思います。
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改めて日本の農業の現実を数字でとらえ直してみると以下のようになります。
■日本の農業にそぐわないアメリカモデル
るいネット兼業農家の必然性— 世界に冠たる担い手システム より引用

戦後日本はアメリカモデルにすっかり毒され、これが固定観念化してしまっているといわざるをえない。戦後一貫してのアメリカ追随が、わが国に高度経済成長をもたらしたことは事実だが、多くの歪みをもたらしたことも確かである。さらには自由化・グローバル化による経済至上主義を極端に推し進めた小泉構造改革によって、ひと握りの“勝ち組”に富が偏重する「格差社会」がもたらされつつある。
 農業の世界でもアメリカモデルを暗黙の前提にして近代化が進められてきた。すなわち、戦後、大農機具導入と農薬化学肥料使用によって大規模化・専業化・生産性向上が推進されてきた。だが結果的には、1960年度に一戸当たり0.66haであった平均経営面積は、2002年度で1.88haと2.8倍に増えるにとどまった。
また農家の専兼比率をみると、60年度に専業農家34.3%、第1種兼業農家33.6%、第2種兼業農家32.1%であったものが、02年度では専業農家20.1%、第1種兼業農家13.1%、第2種兼業農家66.8%となっている。大規模化・専業化の歩みは遅々としたものであった。
 

戦後、日本の農業はアメリカをモデルとして近代化(大規模化・専業化・生産性の向上)を推進してきましたが、結果的に見れば思うようには進んでいないのが実態です。
そもそも、農地が本土より遥かに巨大(4倍から10倍)な北海道ですら、国際競争の力がないといわれています。例えば、広大な土地を持つ北海道と、ニュージーランドでの生乳の価格の比較してみると、なんと4.5倍もの格差があります。

恐ろしいことに、流通飼料費と牧草費のエサ代だけで、NZのコストを超えています。北海道十勝の農家は平均39ヘクタール。NZが平均、100ヘクタールぐらいらしいのですが、3倍にしたとしても、NZに勝てるとは思えません。単純に今の高コストなビジネスモデルのまま規模を拡大しても国際競争では勝てないということになります。
【米】
 北海道のコメ農家は、だいたい5〜10ヘクタール。それに対して、本土は約1.3ヘクタールくらいです。北海道の農家の方が大規模ですが、コストは3割くらいしか削減できていません。仮に、本土の農家の面積を5倍にしても、3割くらいしか削減できないので、やはり単純に今の高コストなビジネスモデルのまま規模を拡大しても国際競争では勝てないということになります。
さらに、日本が参加を表明しているTPPが実現されれば、関税障壁のない国際競争の土壌ではまったく歯が立たないことは目に見えています。
 
しかしこうした現実をよそに、大規模化・近代化を阻害してきたのは多くの兼業農家のせいだとされ、農政はひたすら大規模化・専業化を促進していきます。
 ■矛盾する農政 大規模化・専業化が進まないのは兼業農家のせいではない!

このため農業は日本の産業の中で“劣等生”と刻印され、兼業農家はわが国農業の大規模化・近代化を阻害する張本人だと揶揄されてきた。
こうしたなかで、実質的に手つかずのままきた構造政策の柱である担い手対策が、品目横断的経営安定対策として実行に移されている。まさに小泉構造改革の農業版である。
 多くの兼業農家の存在が大規模化・専業化を阻害しているとの議論には、「百姓を馬鹿にするのもいい加減にしろ」と声を荒らげざるをえない。 
      
 専兼比率とは若干異なるが、作物・畜種別の主業農家比率なるものをご覧願いたい。これによれば02年、米では主業農家比率37%、準主業農家27%、副業的農家36%となっているのに対して、米以外での主業農家比率は、野菜83%、果樹68%、花き86%、生乳96%、肉用牛93%、豚92%となっている。これらの数値は、専業化・規模拡大のメリットのある作物・畜種については、日本でもすでに専業化・規模拡大が進行していることを雄弁に物語っている。
 逆にいえば、米では専業化・規模拡大のメリットが得られがたいがゆえに専業化・規模拡大がすすまなかったと理解するのが素直であろう。「百姓の知恵」が兼業化を志向してきたともいえる。現に、大規模専業米生産農家ほど所得確保に苦労するという「農政の矛盾」を露呈してきた。水田稲作が装置産業化し、土日中心の農作業で生産対応が十分可能になったことが大きいとはいえ、農外収入によって生活費を確保し、赤字覚悟でも米を生産することによって、兼業農家は水田を守り、地域を守り、お墓を守ってきたのである。
それなのに、所詮、国際競争力を獲得できるはずもない規模の4ha以上の認定農業者か20ha以上の集落営農を担い手とし、これに絞って支援しようというのである。

つまり、専業化・規模拡大のメリットがある分野はすでに拡大しており、メリットがない分野は、兼業化することでなんとか地域の農業を守り維持し続けているのが現実なのです。日本全国の兼業農家比率を見てもあきらかですが、日本の農業は圧倒的に兼業農家の比率が高い ことがわかります。

にもかかわらず、日本の農政は、国際競争力を獲得できるはずもない規模の農業者か農家を組織化し、大規模化する方向にばかり支援を行ってきました。仮に大規模化、専業化したとしても、農産物の価格は工業製品に比べれば圧倒的に安く、市場を拡大しても国土の狭い日本は、国際競争力では勝てません。国内では、収穫量が多すぎると価格調整が行なわれ値段が下がってしまいます。さらに収穫量が多すぎれば廃棄処分も行なわれます。頑張って豊作になっても安易に喜ぶことは出来ないのです。
また別の側面として、日本農業は70歳以上の農業者が数が大きいことがわかります。高齢者の定義である65歳以上で見てみると農業従事者の37.8%、農業就業人口の58.2%は高齢者なのです。 日本の食料自給率の向上が目指されているが、こうした農業の担い手の高齢化も最大の課題でもあります。

 さらに食料・農業・農村白書から、農業者の年齢構成の国際比較も見てみると、日本の農業者の高齢化は他国と比較しても著しいことが分かります。

これらをふまえれば、いかに専業化・規模拡大するかが問題の解決策に繋がるのではなく
・農業の担い手をどのように増やしていくのか?
・農業だけでは食べていけない現実をどのように乗り越えていくのか?

ということへの方針がなければ、根本的な問題の解決に繋がらないのです。
では、日本の農業の持続的な自給率改善の実現基盤 はいったいどこにあるのでしょうか?
■必要なのは、多様な農業の担い手=農業の『兼業化』に可能性あり! 

国民一人当たりの米消費量が減少を続け、人口は減少に転じ、現状約4割もの生産調整がさらなる強化を余儀なくされるなかでの規模拡大は、たいへんなリスクを農家に強要することになる。むしろ国際競争力云々ではなく、耕作放棄地等が増加するなかで農地を集積してくれる人を支えていくというのが、実態に即した整理なのである。できるだけ兼業農家にも頑張ってもらい、地域農業を守っていくなかで、作付けできない農地を主たる担い手が助成を得ながら集積をすすめ、農地として維持していくことが求められているといえる。
 ここで、とくに2つのことを強調しておきたい。第一に、現状は絶対的な担い手不足の状況にあるのであって、そもそも「小農切り捨て」などはもってのほかであるということ。第二に、多様な担い手によって地域農業を守っていくという前提を抜きにした議論は、農村・共同体のつながりを弱体化させ、農業生産の停滞ばかりか暮らしの貧困化をもたらしかねないということである。兼業農家にできるだけ頑張ってもらい、さらに退職後は企業等での経験も生かし、専業農家として地域のリーダーとなって活躍してもらうことが、現実的には最大の担い手対策であろう。
(後略)

 
行き詰る日本の農業のなかで、今まで疎まれてきた農業の『兼業化』 というシステムこそ、実は持続的な自給率改善の実現基盤が隠されているのです。
他業種との『兼業化』が可能になれば、今まで不足していた農業の担い手問題も解決できます。多様な担い手で農業を支えることができれば、そこから新たな農業の可能性の追求へ発展する可能性もあります。
ただ、ひとりひとりが兼業農家として取り組む形態だと、もう一つの仕事との調整が困難になるケースも多分に想像され、なかなか実現しないことも考えられます。
しかしその問題も、一個人(家庭)ではなく、企業集団が兼業農企業として取り組むことができれば可能性が開けてきます。集団として取り組んでいることが、人員配置の弾力性を生み出し、持続性を高めることに繋がります。
最後に、市場縮小で逆境に立たされた地方の建設会社が、企業として農業に取り組み、軌道に乗り始めている事例や、企業における農業参入の事例を紹介して終わりたいと思います。
■持続的な自給率改善の実現基盤=農業の担い手としての企業参入の可能性
るいネット:「市場原理から脱却した兼業農企業が“万人が農業を担う社会”を実現する」より引用
 

松山市に本拠を置く愛亀は愛媛県を中心に舗装業を手がける地方建設会社である。売上高は36億円(2008年3月期)。無借金経営で自己資本比率は80%を超えている。この愛亀、実は50ヘクタールの水田でコメを作るコメ農家でもある。その生産量は年120トンに達する(2008年産の見込み)。
〜中略〜
今の時期、10人の作業員が水田に張り付いて作業している。彼らは普段は舗装で使う重機を動かしているオペレーターである。時期によって異なるが、10〜20人の作業員が代掻きや田植え、雑草刈り、稲刈りなど水田での作業に専念する。
 作業員は、近隣農家や住民との間に信頼関係を築くという役割も担う。「彼らはホントによくやってくれる」と西山社長が何度も口にするように、新参者が地域に受け入れられ、順調に規模を拡大し、さらに作ったコメが地元で売れているという背景には、従業員一人ひとりが地域とのコミュニケーションを大事にしてきたという面も大きい。
 「コメの収支はトントンで構わない」と西山社長は言い切る。愛亀はコメで儲けるために農業を始めたわけではない。コメを作っているのは、あくまで本業である舗装業を強化するため。舗装工事の閑散期の人件費が出れば、それで十分ということだ。
 公共事業が存分にあった時代は舗装だけで雇用を維持できた。だが、これからの時代に同じだけの公共事業を望むのはナンセンス。ならば、別の事業で繁閑の波を乗り切る——。西山社長の発想は至極真っ当である。

変わる農業の姿 〜企業の農業参入の現状について知る!より引用

 参入企業の業種はさまざまですが、突出して多いのが地方の建設業の参入です。農地リース方式により参入した企業のうち、建設業は125社と3割以上を占めます(2009年)。この背景には、公共工事の減少で仕事の受注が減り、本業だけでは経営が厳しくなってきたことがあります。
また、「農業と繁忙期が重ならない」「もともと労働集約型産業のため、農作業に必要な労働力を自前で確保しやすい」「保有するパワーショベルなどの重機を農地の開墾に活用できる」といった好条件が揃っていることも、建設業の農業参入が進む大きな要因となっています。

最近では大企業の参入も増加しています。目立つのはスーパーや外食など流通・サービス業界からの参入です。例えば、居酒屋チェーンを展開するワタミは2002年、農業生産法人を設立して農業分野に参入しています。2008年には大手流通グループのセブン&アイ・ホールディングスが千葉県に農業生産法人を設立し、自社店舗で販売する野菜を栽培していますし、2009年にはイオンも茨城県でリース方式により農業分野に乗り出しています。

もともとこうした業界は品質が高い農産物を安定的に調達する必要から、産地と契約を結び全量を買い取る「契約栽培」に取り組んできました。卸売市場などの中間流通を通さずに産地と店舗を直接結べば、新鮮な野菜や果物をより迅速に消費者に届けることができ、流通コストの削減にもつながります。流通企業が自ら農業を手掛けるのは、こうした産地直送体制をさらに拡充するためです。また、企業が持つ経営や商品開発のノウハウを農業に持ち込めば、より生産性を高めたり、消費者ニーズに合致した付加価値の高い作物を作ることも可能になります。さらに、自社で栽培を手掛けることで、食の安心・安全を確保する姿勢を消費者にアピールする狙いもあります。

持続的な自給率改善の実現基盤が、多様な担い手を生み出す『兼業化』というシステム にあること、そしてそこに企業が参入していくことで可能性がさらに拡がることが見えてきたのではないでしょうか?
シリーズでお送りしている「食糧危機は来るのか?」もいよいよ大詰めとなってきました。
次回もお楽しみに!

List    投稿者 d0020627 | 2011-04-06 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?2 Comments » 

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コメント2件

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