「ユーロ統合」どうなる? 第1回 〜ユーロ統合したのはなんで?〜
みなさんこんにちは。今回から新シリーズ【「ユーロ統合」どうなる?】をスタートします。
ギリシャ危機に端を発したユーロ問題は、ギリシャに対する支援策が各国の思惑や事情から足並みが揃わずモタモタしているうちに、スペインやイタリアへと波及し、今やユーロ統合の危機へと拡大しています。
このシリーズでは、
そもそもなぜユーロ統合したのか?
ユーロ統合の構造的欠陥
ユーロ各国の現状
を抑えた上で、
今後ユーロはどうなっていくのか?
を扱う予定です。
それでは早速、
「そもそもなぜユーロ統合したのか?」
からはじめます。
いつも応援ありがとうございます
なぜ、ユーロ統合をしたのか?を考えるためには、その前身である欧州連合について押さえておく必要があります。そこで、今から約60年前、戦後間もない1950年代のヨーロッパの状況をみてみます。
鉄のカーテンの向こうにはソビエトを中心とする社会主義陣営、大西洋の向こうには超大国に成長したアメリカという間において西ヨーロッパ諸国では、ウィンストン・チャーチルが「ヨーロッパ合衆国」構想を唱えるなど、ヨーロッパを統合させようとする機運が高まっていった。またロベール・シューマンは1950年5月9日にシューマン宣言を発し、その中で経済と軍事における重要資源の共同管理構想を掲げ、ヨーロッパの安定と経済の発展を図った。このシューマンの構想を基礎にして欧州石炭鉄鋼共同体設立条約が策定され、1952年7月23日に欧州石炭鉄鋼共同体が設立された。
欧州石炭鉄鋼共同体が設立され、西ヨーロッパ諸国では統合の効果とその重要性が認識されるようになり、1957年には経済分野での統合とエネルギー分野での共同管理を進展させるべく2つのローマ条約が調印され、翌年1月1日に欧州経済共同体と欧州原子力共同体が発足した。当初これら3共同体は個別の機関・枠組みで活動していたが、1つの運営機関のもとでそれぞれの目的を達成することでヨーロッパの統合を効率的に進めるべく、1965年にブリュッセル条約が調印され、1967年に欧州諸共同体という1つの枠組みの中に3つの共同体をおくことで統合の深化が図られた。
(ウィキペディア「欧州連合」より文章と図を引用。図はクリックすると拡大します。)
近代市場誕生以降、第一次世界大戦までは市場社会の中心はヨーロッパでしたが、二度の大戦によってヨーロッパは疲弊し、大戦後は米ドルが機軸通貨となりました。
戦後の冷戦構造化で、米ソ大国に対抗すべく’50年代から経済と軍事を中心にヨーロッパの統合が図られてきました。
この当時は、劣勢に置かれた欧州の生き残り戦略だった欧州統合でしたが、’70年頃に転機が訪れました。
アメリカも基軸通貨の弱点構造(為替が高止まりしてしまうことによって、貿易赤字が拡大する)にハマってしまう。そこで、’71に固定相場制を廃止、金ドル兌換を廃止してしまう(’71 ニクソンショック)。その後も、アメリカが基軸通貨特権を使って、露骨な市場介入を繰り返す。
この頃(’70年代ごろ)から、ドイツ、フランス、イギリスを中心に、ヨーロッパ通貨統合案が浮上する。基軸通貨特権を振りかざすアメリカに対して、ヨーロッパ経済圏を確立し、ドルに対抗しうる第二の基軸通貨を構築しようとしたのである。
るいネット『ユーロ危機1 ヨーロッパ各国が抱える「歯止め」を外すことになったユーロ導入』より
ユーロが誕生したのは’99年ですが、その30年近くも前からヨーロッパ通貨統合への動きが始まっていました。’60年代の黄金時代を満喫していた頃のアメリカは、既に消費大国と化し、’71年には貿易赤字国へと転落、ニクソンショックで大幅な為替切り下げを行なうものの、貿易赤字が解消されるどころか拡大の一途を辿ります。それどころか財政収支まで悪化し、’80年代レーガンの時代には三つ子の赤字(貿易、財政、家計)という状況に陥りました。
(アメリカの貿易収支推移:国債貿易投資研究所より。)
こうしたアメリカの弱体化に対して、欧州各国が再び世界の覇権をヨーロッパに取り戻すべく画策した戦略の要が、ユーロ統合だったのです。通貨を統合することによって、ドイツやフランスなどの大国にとっても、ギリシャなどの小国にとっても、次のような経済的なメリットが期待されました。
○ドイツなどの輸出大国にとっての、メリットは?
ユーロに先立って実現されたECC,ECなどにおいて、関税などの貿易障壁が撤廃された。このことによって、ユーロ圏内でドイツ製品が売れやすくなる。ユーロ加盟国の中には、製造業が発展途上で、活発な消費が期待できた。
また、アメリカやアジアでの輸出にしても、ドイツ・マルクを使っていれば、輸出増によってすぐにマルク高になってしまうが、ユーロを使えば為替変動が抑えられるため、為替リスクが大きく縮小する。ドイツの輸出が盛んになり、経済成長が望むことができた。
○ギリシアなどの経済規模の小さい国にとっての、メリットは?
人が国境を越えて移動する際の制約が低くなり、観光客をかき集めることが可能になる。
財政規模以上に国債を発行すると、金利が上昇しすぎるため歯止めが掛かるが、ユーロ建てであれば通貨リスクがほとんどなくなるので、ほぼ無限に国債を発行できる。
るいネット『ユーロ危機1 ヨーロッパ各国が抱える「歯止め」を外すことになったユーロ導入』より
しかし、通貨統合はメリットだけではなく大きなデメリットがあり、実際には思うようには進みませんでした。そもそもヨーロッパという広大な地域を、しかも国民性や経済力が異なる国を17カ国も人工的に統合すること自体に、無理があったのです。
続きは次回、「ユーロ統合のデメリット=構造的欠陥」をお楽しみに
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.kanekashi.com/blog/2011/11/1752.html/trackback
コメント3件
くまな | 2013.08.30 2:40
ショコラさん、うれしいコメントありがとうございます。
アメリカの実態、興味深いアメリカのサイトなど、ならではの情報も発信していただけたら、うれしいです。
usa hermes bags | 2014.02.02 5:03
hermes bags lindy 金貸しは、国家を相手に金を貸す | 金貸し、窮地の暴略 その3 〜窮地に陥る必然構造
ショコラ | 2013.08.27 0:44
今回の内容を読ませて頂き 再確認に役立ちました。
欧米在住ですが、経済がすさんだアメリカ中を
旅行するにになりませんね。
毎回 心待ちして読ませて頂いております。