2009-04-29

食料自立への道を探る3.中国、国家安定の要、農村・農業政策を重視

人口13億人、世界一の食料需要を持つ中国で、大きな政策表明があったので注目したい。 
 
まずは、中国の食料自給率を95%目標へ、と同時に総合生産能力も(現状より8%UP)というニュース記事から。

中国、食糧自給率95%以上の維持を目標に 
 
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国務院常務会議は2日、「国家食糧安全中長期企画綱要」を採択した。この綱要によると、中国は食糧自給率を95%以上に維持すると同時に、2010年には食糧の総合生産能力を5億トン以上に、2020年には5億4000万トン以上へ引き上げるとしている。 
 
(中国情報に詳しいサーチナ経済ニュース2008年7月3日から)

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中国食料自給率95%目標ということ事態、すごいことと思われる。そしてその目標は過大なのか?実現可能なのか?を、中国農業に詳しい農林中金総合研究所阮蔚(RuanWei)さんの報告書から読み解いてみたい。

補助拡大に向かう中国の農業政策 
 
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連続5年の豊作と急増する農業補助 
 
中国の食糧生産は03年まで5年連続の減産基調後、04年から新たな増産の周期に入り、07年まで連続4年の豊作を達成した(第1図)。 
 
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08年も記録的な豊作の年になる見込みである。04年以降の連続豊作は、中国農政の大転換が奏功した結果といえる。すなわち「農業搾取」から「農業助成」への転換である。 
 
まず、農民負担の軽減があげられる。その代表的措置は04〜06年にかけて実施された「農業税」の廃止である。耕作放棄の要因の一つともなっていた農業諸税の廃止は農家にとって年間一人当たり1,335元(約18,700円)の負担軽減となり、07年農家一人当たり純収入の32.2%にも相当する。 
 
同時に、食糧生産を奨励するために各種助成措置を講ずるようになった。第2図で分かるように助成額が近年急増し、08年にさらに前年比倍増となった。 
 
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助成措置では、まず、農家への直接支払いが04年に食糧の主要産地において試行された。基本的に農家の請負農地の面積に比例した額を支払う手法となっている。同時に優良品種の使用を広げるための補助も実施し、さらに、06年から化学肥料等農業生産資材の購入に対する補助も導入した。 
 
特に08年の補助額は前年比159.4%増となった。また、農業機械の購入に対しても購入金額の30%まで助成されるようになった。 
 
上記の助成措置以外に、食糧価格の下支えを目的とする最低買付価格政策も04年に策定され、05年から実施された。食糧価格は基本的に需給関係によって市場で決められるが、食糧価格が下落しコスト割れの状況になった場合、重要な食糧の主要産地に対して最低買付価格政策を発動する政策である。

2004年から連続5年の豊作である。図の中で注目したいのは、食料生産量そのものがほぼ5億トンというレベルに達していることだ。先の目標2010年で5億トンを超える目標を既に達成しているのだ。また8%といえば、4000万トンの増量であり、ここ5年の伸び率を延長して行けば達成可能な数値となる。そして、そのためにはさらに助成を追加するいう、別な意味大変な構造となっていることも見逃せない。さらに報告書では農業助成倍増の理由へと続いている。

08年農業助成倍増の理由
08年にもコメと小麦に対して最低買付価格政策を実施している。ただし、08年の最低買付価格は国際価格より大幅に低く、化学肥料価格の高騰等による生産コストの上昇分をカバーできず農家の増産意欲の向上につながっていない。そこで農家の生産意欲を維持するために政府は補助金を増やしたのである。
中国は農家一戸あたりの耕作面積が小さく、農業インフラの整備が遅れているため、穀物の国際的な価格競争力が弱く、07年までは基本的に国内価格が国際価格より高い状況が続いていた。だが、その後両者は逆転した。それだけではなく、1994〜95年時点の国内価格をも下回っている。
なぜ、中国の食糧価格が世界の動きに影響されずに低い水準を続けたのか。これは、連続4年の豊作という要因もあるが、政府が意図的に誘導した結果でもある。中国は08年の北京オリンピック開催を成功させる目的もあり、物価水準の安定維持を優先課題とした。

08年の北京オリンピックは、あらゆる方策を持って国の内外に安定(世情も物価も・・)をアピールする狙いがあったものと想像する。故に食料品価格の値上げも、トウモロコシのエタノールへの加工抑制や備蓄食料を大量に放出し、穀物輸出も輸出税をかけ抑制した。そのため、生産コストが上昇した一方、生産者価格は低く誘導され、食糧生産の収益性が大幅に低下した。その見返りとして、助成が大幅に増えたことになる。

高い自給率の維持に高投入と高価格 
 
07年からの世界穀物価格の高騰によって、多くの途上国で輸入食糧の高騰、食糧輸入の不足に起因する暴動が多発した。また、中国では輸入大豆価格の高騰は国内植物油と飼料原料の大豆粕の高騰につながり、国内消費者物価の上昇に大きく影響した。
こうした状況は、国内の食糧生産の維持と拡大がいかに重要かを改めて中国に自覚させることになった。そこで、中国は08年に「食糧安全に関する中長期計画」を策定した。2020年に5億4000万トン以上の食糧を生産し、95%の食糧自給率を維持する計画である。
この目標の実現は、04〜07年間のような増産ペースが必要となるが、この期間の増産は国の補助が急速に拡大した時期である。
今後も増産を目指すならば、政府は農地改良や農業インフラ、品種改良・普及、直接支払の拡大など農業への助成を大きく拡大せざるを得ない。しかし、これだけでは増産の保証はない。

中国は、この政策「食料安全に関する中長期計画」(国務院常務委員会で採択された「国家食糧安全中長期企画綱要」)を策定した。その背景には、食料価格高騰や大豆輸入の穀物メジャー戦略を経験した上で、食料安全の重要さを再認識したように映る。 
 
 
最後に、このような農業・農村重視策を固定した、中国共産党の意志決定について、参考記事をあげておきたい。 
 
17期3中総閉会 胡総書記が重要演説 農村改革・発展に関する決定採択 
 
食料自給、農村・農業安定化策に舵を切った、中国共産党(政府) 
 
北京レポート:17 期三中全会の「農村改革推進に関する若干の重大問題の決定」について 
 

List    投稿者 hassii | 2009-04-29 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?No Comments » 

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