2011-03-16

シリーズ「食糧危機は来るのか?」6〜食糧主権を憲法に規定する動き(1)新自由主義からの脱脚(その1)

 シリーズ1〜4では、食糧危機という問題の捉え方や現状の把握を行いました。
 (バックナンバーは、この投稿の最後を参照ください。)
 シリーズ5からは、この食糧危機という問題にどう立ち向かって行くのか、その可能性を模索して行きます。
 シリーズ6回目の今回は、先進国から搾取され続ける途上国から生まれてきた、「食糧主権を憲法に規定する動き」に注目し、2回に分けてその可能性を探って見たいと思います。
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 食糧主権を自国の憲法に規定する動きが南米諸国の農民運動から生まれはじめている。食料危機のなか、自国の農業生産を大事にし自給率を高めることを国民の主権として位置づけるこの動きは、アジアやアフリカの小規模な農民にも影響を与え「今こそ食糧主権を」の声が広がっているという。
るいネットより引用)

●食糧主権とは?
 「食糧主権」という言葉は、世界69カ国、148の中小農業者・農業従事者組織により構成される国際的な農民運動組織「ビア・カンぺシーナ」(1992年設立)が最初に提唱したと言われている。
 各国が、輸出のためではなく自国民のための食料生産を最優先し、実行ある輸入規制や価格補償などの食料・農業政策を自主的に決定する権利のことを指している。

※緑色はビア・カンペシーナ加盟組織がある国を示す。
ウィキペディアより)
 1996年11月、史上初めて世界規模で食糧問題を論議するために、ローマで開かれた国連主催の会議「世界食糧サミット」において、FAO(国連食糧農業機関)に加盟する170以上の国の代表が参加し、途上国における飢餓、先進国と途上国間での食糧供給の不均衡などの問題を討議した。
 そこで、開催当時、世界で八億人とされた栄養不足人口を、2015年までに半減させるという「ローマ宣言」が採択されたことにより、それ以後、NGOや国連などを中心に「食料主権」の考え方が広がっていった。
 「食料主権」の考えが広がった背景には、1994年の関税貿易一般協定(GATT)のウルグアイ・ランド交渉の妥結と、翌95年の世界貿易機関(WTO)の発足を経て、この間に、先進国や多国籍企業に有利な貿易自由化の進展に伴い、発展途上国をはじめ、世界で飢餓や貧困が拡大したことがある。
 国連人権理事会「食料に対する権利」に関する特別報告書(2008年1月)は、新自由主義は貿易自由化で飢餓を根絶できると主張したが、逆に新自由主義に基づく自由化で飢餓が広がったと批判し、飢餓の根絶は、貿易自由化でなく、(増産)など、本来の対策によらなければならないと指摘している。また、世界の食糧と水を支配する多国籍企業の活動を規制するため、各国が「食料主権」を行使するよう勧告している。

 昨年(2008年)9月に南米、エクアドルで新憲法が成立した。
 別掲のように同国の憲法では「食糧主権」の項目を設け「食糧主権は個人、コミュニティ、国家、民族の文化にあった安全な食糧自給を永続的に保証する国家の戦略及び義務である」と規定した。
 真嶋副会長によると、同国では新憲法制定のために国民から2800項目にのぼる提案が出され、それを憲法制定委員会が検討したのだという。その結果、新憲法案では「新自由主義と対米従属からの脱却」を掲げ、国による市場管理の強化、不安定雇用の禁止、教育と医療の無償化などに加えて、食糧主権を明記。国民投票では7割近い賛成で成立した。
るいネットより引用)

●食糧主権導入後の変化
 途上国で食糧主権を憲法に規定する動きは、その後どのような効果をもたらしたのか?
 エクアドルを例に詳しく見ていこうと思う。
1.エクアドルの概要

○国土面積・・・25.6万k㎡(本州と九州をあわせた広さ)
○人口・・・1,400万人(2010年)
○主な輸出品目・・・(工業製品)石油
(農水産品)バナナ、エビ、生花、カカオ・同加工品、コーヒー・同加工品、マグロ等魚類。

・エクアドルの農産品目別輸出額(2008年:FAO(国連食糧農業機関)のデータベースより)

※青色が輸出額(左目盛)を示す。
※左端の棒グラフが「バナナ」の輸出額を示す。
○主な輸入品目・・・(工業製品)石油製品、自動車、鉄鋼
(農水産品)小麦、大豆・大豆油、トウモロコシ

・エクアドルの農産品目別輸入額(2008年:FAO(国連食糧農業機関)のデータベースより)

※青色が輸出額(左目盛)を示す。
※品目は、左端から小麦、大豆、大豆油、食料品(未分類品目)、トウモロコシを示す。
 国土面積の約56%が森林地帯、約20%が放牧地となる自然草地、約12%が耕地面積
 耕地面積の約50%がバナナ、コーヒー、カカオを中心とする永年性作物(数年間植換えの必要がなく、長期間にわたり栽培・収穫ができる作物)を生産している。
 国内の自然環境は、大きく分けて3つの地域に分類される。
・西側の海岸低地(コスタ地域)
・中央アンデス高地(シエラ地域)
・東側のアマゾン低地(オリエンテ地域)

 輸出農産物であるバナナ、コーヒー、カカオ等を生産しているのは、主にコスタ地域で、大規模経営農家によるものである。
 一方、国内向け農産物である主食のトウモロコシや米、野菜類を生産しているのは、主にシエラ地域で、小規模農家によるものである。
 農業就業人口は約330万人で、総就業人口の約30%を占めているが、その63.5%が農地所有面積5ha以下の小規模農家で、200ha以上の大規模農家は0.8%に過ぎない。
 しかし、農地面積の割合は、5ha以下の小規模農家が52%に対し、200ha以上の大規模農家は16%を占めている。
 この状況が生み出す、コスタ地域とシエラ地域の地域間格差は、エクアドルの伝統的な問題となっている。
 エクアドル経済は輸出農産品と石油によって支えられており、世界銀行の途上国分類では中所得国に位置づけられているが、国内の貧困率は全体で58.4%に達する。
 同じ中所得国である近隣のコロンビア、ブラジル、チリ国はそれぞれ、17.7%、27.2%、20.5%であり、これらの国と比較するとその高さが理解される。
 シエラ地域は、この国内貧困率よりもさらに悪く、その数値は80%近くに昇る。
2.新政権誕生後の状況
 WTOが推し進めた新自由主義に基づく貿易自由化と、IMFや多国籍企業に支配される大規模農業経営によって、搾取され続けてきたエクアドルは、反米感情の高まりを背景に、2007年コレア大統領の下に革新政権が誕生した。
 コレア大統領は反米を旗印に自主外交を進め、ベネズエラのチャベス政権をはじめとする世界の反米政権との友好的関係の構築や、石油輸出国機構(OPEC)への再加盟などに尽力した。
 国内では、2008年9月の国民投票で、7割近い圧倒的な支持を受けて承認された新憲法にもとづき、食糧主権の確立を目指して「大土地所有制」を禁止した。
 それを受けて、2009年7月に2年以上未使用の土地は政府が接収できるとする政令を発効した。それにより、政府は、企業や大土地利用者が所有している未使用地を小規模農家に配分した。
 このように、食糧主権を掲げ、大きな一歩を踏み出したエクアドルの経済状況はどのように変化したのだろうか?
・輸出総額の推移

在エクアドル日本国大使館:エクアドル情勢−主要経済指標2010年4月より)
 農産物の主要輸出品目は、「バナナ」を筆頭に項目の変化は無く、輸出額も上昇を続けている。
 輸出農産物主体の構造には、変化がなさそうである。
・原油輸出量の推移

在エクアドル日本国大使館:エクアドル情勢−主要経済指標2010年4月より)
 先の輸出総額とあわせてみると、輸出の主力である石油の輸出量に大きな変化は無いのに、輸出額が大きく変動している。
・原油輸出価格の推移

在エクアドル日本国大使館:エクアドル情勢−主要経済指標2010年4月より)
 原油価格の変動と、輸出総額の変動はほぼ一致している。
 輸出に頼るエクアドルの国内経済は、市場の価格変動をもろに受ける不安定な構造であると考えられる。
・失業率のグラフ

在エクアドル日本国大使館:エクアドル情勢−主要経済指標2010年4月より)
 失業率は改善されていない。
 貧困率の状況をあわせて考えれば、危機的な状況は続いていると考えられる。
(注釈)
 完全失業者とは、国際労働機関(ILO)の定義によると(1)仕事をしていない、(2)仕事があればすぐ就くことができる、(3)仕事を探す活動をしている、という3つの条件を満たした失業者のこと。
 不完全失業者という言葉は本来は無く、明確な定義があるわけではないが、上記の3つの条件のいずれかを満たさないことによって、統計上、失業者数から除かれてしまう失業者をさす場合が多い。
 上記の内容を踏まえると、エクアドルの状況は、輸出品目を主体とした農業生産に大きな変化は無く、国内経済は輸出貿易状況に大きく左右される不安定な状況は続いており、食糧主権を憲法に規定して以降も大きな変化があったとは言えないようである。
 なぜ、国内状況が改善されていかないのか?
 次回は、その原因について追求してみたいと思う。
(バックナンバー)
シリーズ「食糧危機は来るのか?」1〜食糧危機問題の捉え方〜
シリーズ「食糧危機は来るのか?」2 〜食糧危機と市場経済は両刃の剣〜
シリーズ「食糧危機は来るのか?」3 〜輸出補助金というカラクリ〜
シリーズ「食糧危機は来るのか?」4〜日本経済は再び国際収支の天井を迎えるのか〜
シリーズ「食糧危機は来るのか?」5〜食糧高騰は脱市場をもたらす契機となりうるか〜

List    投稿者 minezo | 2011-03-16 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?3 Comments » 

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コメント3件

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