2013-02-13

大恐慌の足音・企業は生き残れるか? 第6回〜大不況の中、躍進する製造業3社〜

アベノミクスが束の間の景気回復を演出しているが、いつものミニバブルであり、長続きはしないだろう。本格的に始まった市場縮小の流れは変わらない。一方、アベノミクスに頼らずとも、リーマン・ショック以降、製造業が軒並み苦境に陥る中、好調に業績を上げ続けている企業もある。
 
今回は、そのような企業の中から東レ、ファナック、オムロンの3社を取り上げ、その強さの理由を考察してみる。

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3社の2007年、2011年、2012年上半期の業績は以下。

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流動比率は120%、自己資本比率は40%を大きく超え、かつ上昇傾向。さすがに売上高は低下傾向にあるものの、経常利益率は大きな落ち込みもなく、従業員も2007年に比べても増加していっている。
中でもファナックというロボットの企業は、あらゆる指標が超優良レベルにある。
これらの企業はなぜ高い業績を上げ続けられるのか。
 
●東レ〜超長期の視点で技術開発に取り組む〜
東レは大正15年創業の三井グループの中核企業。大ヒットしたUNIQLOのヒートテック素材、世界シェア3割を占める航空機の機体に使われる炭素繊維(強度は鉄の10倍、重さは4分の1)などは東レの開発成果として知られる。現在は、繊維技術から発展した膜技術を活かして、水処理ビジネスに進出していく戦略を進めている。

東レの強みは、新たな需要に対応する先端技術を常に持ち続けていることであり、それは彼らが「超継続」と呼ぶ長期の研究開発体制によって実現されている。

ミッキーのシニアトークより
 繊維産業の東レは、新技術を次々に開発することで、時代の変化を乗り切ってきた。ヒートテックも炭素繊維もそうだ。しかし100に1ヒットすれば大成功と言われる発明がそんなに都合よく出来るわけではなく、それを見込んだ「超継続は革新」の経営方針があり、超長期の研究開発体制が整備されていたからこそ可能になった。研究者は20%の労働時間は好きな研究をして良く、しかも失敗は追求されず加点主義だという。「深は新なり」というキャッチフレーズのもと、新しいものを生むべく、一旦成功した開発もそこで終わらせずに更に深めるのだという。そういう自由闊達な風土がいろいろな新素材を生んだ。炭素繊維も最初は使い道が分からず、釣竿やゴルフクラブに使われ、現在の航空機の機体に使われるようになったという。

確かに、よくしなる「カーボンファイバー製」の釣竿はかなり昔からあったが、逆に釣竿くらいでしか見ることがなかった。それが、「軽く」「強い」航空機の機体としてジュラルミンに置き換わるところまで用途を広げて初めて、強力な経営の武器に育った。そこまで研究者の成果を「待つ」風土があることが東レの強みだろう。
しかし、その裏には全く日の目を見ずに消えてゆく新商品も無数に存在する事が容易に予想でき、三井の巨大な財力があって初めて可能な事なのかもしれない。
 
●ファナック〜質を追求するため国内生産宣言〜
ファナックは、1972年、富士通のNC(数値制御)装置部門が分離・独立することで誕生した。冒頭に示したように、超優良経営を続け、工作機械の制御装置で世界トップシェアを占める。ファナックは、山梨県忍野村に本社・主要工場・開発センターを集約させ、全ての製品は日本国内で製造される。

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富士山麓の国立公園内に集積するファナックの中枢施設群

日経新聞2011年1月12日記事「ファナックの国産宣言」より。
工作機械の頭脳となる数値制御(NC)装置で世界シェア6割を握るファナック。富士山のふもと、山梨県忍野村に本社を置く同社は有価証券報告書の事業リスクの項目に「富士山噴火」を挙げる。よほどの天変地異でも起きない限り、この地を、そして日本を離れるつもりはない。(中略)
「少ない部品でつくればコストは下がり、信頼性は上がる」。実質的な創業者で名誉会長の稲葉清右衛門(85)はこの言葉にもの作りの基本方針を込める。
まず価格を決定
 清右衛門は「ありきたりの設計を製造段階で改善しようとしてもどだい無理」と言い切る。円高を乗り切るために、多くの日本企業が工場でのコスト削減に血道をあげる。対するファナックの発想は「利益は開発時点で決まり、製造段階では生まれない」
 ありきたりではない製品をどう生み出すのか。決めるのはまず価格だ。内外約200カ所に置いた保守サービス拠点を通じて市場の変化や顧客の要望を吸い上げ、競合他社に負けない価格を探る。価格から一定の利益を引いて製造原価を算出する。この原価に収めるのが設計の絶対条件。原価に利益を上乗せし価格を決定する手法の逆を行く。(中略)ファナックの海外売上高比率75%を超えるが、円高の逆風下でも昨年7〜9月期の売上高営業利益率が43.8%と過去最高を更新した。
「1ヶ所でつくる」
 清右衛門の長男で社長の稲葉善治(62)は「1カ所でつくるのが一番いい」と強調する。国内工場は自動化が急速まで進み、少ない部品による設計が生産性を高める。なにより「研究者がすぐに製造現場に行ける。現場から得るものは多い」と善治はいう。
価格、開発期間、仕様——。様々なハードルを越える研究者には重圧がかかる。昼夜を問わない研究者の働きぶりは業界の誰もが知る。(中略)国内でのもの作りを宣言するファナックの姿はむしろ日本企業の一つの可能性を示す。」

 
●オムロン〜創業者が打ち立てた『未来予測理論』〜
オムロンは昭和5年創立。社名は創業地(立石電機)京都市右京区の御室(おむろ)からきている。体温計や健康器具で知られるが、実は自動改札機、ATM(現金自動支払機)なども開発している。
オムロンの企業経営において注目すべきは、創業者・立石一真が1970年の国際未来学会で発表し、彼らが現在も戦略立案の軸に置く未来予測理論=「SINIC理論」である。

SINICとは“Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution”の頭文字をとったもので、「SINIC理論」では科学と技術と社会の間には円環論的な関係があり、異なる2つの方向から相互にインパクトを与えあっているとしています。ひとつの方向は、新しい科学が新しい技術を生み、それが社会へのインパクトとなって社会の変貌を促すというもの。もうひとつの方向は、逆に社会のニーズが新しい技術の開発を促し、それが新しい科学への期待となるというもの。この2つの方向が相関関係により、お互いが原因となり結果となって社会が発展していくという理論です。
オムロンHPより。

この理論の恐るべき所は、1970年くらいというなんと40年前に(少なくとも)現在までの社会の構造をかなり正確に予想してしまっているところにある。
PlantEarthの日記より

この理論によれば、現代は「工業化社会」(〜2005)と「自律社会」(2025〜2032)をつなぐ「最適化社会」にあるという。

よっさんの言いたい放題より
「最適化社会と言うのは「工業化社会」と「自律社会」に架かる橋のような時代です。
人々の意思と智恵によって、生きがい、働きがいのある生活を実現しようとするパラダイムが少しずつパワ−を増していくようになります。一方、工業社会のパラダイムも支配力を残しており、その葛藤する中で最適のバランスを獲得する過渡的な社会です。「橋」を渡り終わるまで、二つのパラダイムは変化しながら並立していくことでしょう。」最適化への葛藤はあらゆる分野で行われるでしょう。
〜中略〜
『これからは軍事競争の時代(冷戦)が終焉して、経済競争の時代に入るだろう。そして経済競争の行き着くところは、地域社会より,あるいは、個々の生活より企業が優先する(企業エゴの増大)。その先は企業経営の哲学の競争に入る』(立石一真)

上記のように、オムロンを興した立石一真は、70年の段階で、武力競争から経済競争を経て、共認闘争(経営哲学の競争)の時代が到来するであろうことを、自身の言葉で予測している。確かに、ここまで時代潮流が的確に読めていれば、技術開発の照準も企業経営も、かなり精度の高いものになるだろう。
 
興味深いことに、この理論では、科学と技術と相互作用しながら発展する社会の行き着く先が「自然社会」と想定していることだ。
  
●3つの企業の共通点
今回紹介した企業の強みは三者三様であるが、底流には共通点があるように思う。

◆卓越した創業者の思想・理論、あるいは創業時の経営哲学を保持し続けている。
◆超長期的な視点に立って、社会や時代の動きを捉えている。
◆確固とした企業哲学や経営理論の上に、生産活動の自在さが実現している。

こうした特徴からは、バブルに踊り、バブル崩壊〜リーマン・ショックに泣いた多くの企業とは異なり、市場原理に翻弄されない共同体的な企業風土の存在が感じられる。富士山麓の雄大な国立公園内に集められたファナックの建物群などは、かつての村落共同体のような風情すらある。
 
21世紀に入って、従来の労使関係や株主利益第一主義ではなく、生産を担う社員が社内や顧客との共認充足を原動力に主体的に経営を担っていく共同体的企業が増えている。現在は時代の空気を受け感覚的に共同体的経営にシフトしているところが殆んどだが、こうした企業群が、今回紹介した3社が持つような明確な時代認識あるいは経営理論を獲得することで、新しい社会の展望が開けていくのかも知れない。

List    投稿者 s.tanaka | 2013-02-13 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?No Comments » 

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