経済破局を超えて、新しい政治経済の仕組みへ 第1回「もう同じ過ちは繰り返すな!2009年に得た厳しい教訓」〜ジョセフ・スティグリッツ〜
今、世界の経済(政治)に何が起こっているのかを検証します。
米国発の市場の暴走は銀行の破綻に端を発し、GMなどの巨大企業をも巻き込んで暴走しつづけた。遂には自ら軌道修正することができず、その後始末は全て国家(国民)に押し付けられた。それは米国一国に止まらず全世界に波及し人々に多大の損害を与えることになった。現在でもその後遺症に苦しんでいる国家(国民)は多い。
先頃、この現実を真正面から捉え市場に警鐘をならす興味ある論文がスティグリッツ氏(ノーベル経済学者)により発表された。その概要がるいネット上で、「もう同じ過ちは繰り返すな!2009年に得た厳しい教訓」〜ジョセフ・スティグリッツ〜①という記事として紹介されているので詳しく見ていきます。
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神の「見えざる手」そんな「手」は存在しない
第一の教訓は、市場は自己修正がきかないということである。まったくのところ、適切な規制がなければ市場は暴走してしまいがちなのだ。2009年、われわれは再び、なぜ(アダム・スミスの言う)「見えざる手」が実際に「見えざる」ことが多いのか、その理由を思い知らされた。なぜなら、そんな「手」は存在しないからだ。
「もう同じ過ちは繰り返すな!2009年に得た厳しい教訓」〜ジョセフ・スティグリッツ〜①
ジョセフ・スティグリッツ氏(bloombergから)
近代市場が人間の飽くなき欲望に依拠している以上、国家の規制がなければ暴走するのは必然であり、従って「見えざる手」など幻想に過ぎず存在しないことは明らかである。
先のサブプライムローン破綻の後「プロでないと分からない。プロでも分からない。リスクがどの程度あるのかさえ分からない商品が販売されている。」「現実には、善い人もいれば、悪い人もいる。そういう人によって善い人が被害がかからないようにするのも、私は政府、国の仕事だと思っている。」(亀井前金融大臣)というように、在りもしない市場の「見えざる手」に全てを委ねるには余りにもリスクが高い。*サブプライムローン:貧しい人たちにローンを組ませて家を売り、それを証券化して投資家が金儲けの材料にしたもの。
巨額の国家資金が金貸したちの手に渡った
銀行が私利を追求しても(=貪欲)、それは社会の幸福にはつながらない。いや、銀行の株主や社債保有者にさえ幸福をもたらさない。もちろん、家を失いつつある住宅所有者、職を失いつつある労働者、老後の蓄えが消滅してしまった年金生活者についても同様だし、銀行救済のために数千億ドルを払わされる納税者にとっても得るところはない。「システム全体が崩壊する」という脅迫を受けて、本来は人生の緊急事態に遭遇した不運な個人を救うためのものであるセーフティネットが、市中銀行に対して、さらには投資銀行、保険会社、自動車会社、さらには自動車ローン会社にまで寛大に差し伸べられた。こんなにも巨額のカネが、これほど多くの人びとから、かくも少数の者の手へと渡った例は過去にない。
「もう同じ過ちは繰り返すな!2009年に得た厳しい教訓」〜ジョセフ・スティグリッツ〜①
「これは金融界(市場全体含む)のモラルハザードの問題で全世界的に起きており、G20(金融・世界経済に関する首脳会合)だって、役員報酬までどうにかしようというようなことをいっている。」(亀井前金融大臣)のように、セーフティネットが本来の意味から外れ少数の金貸し救済のために見事にすり替えられてしまったことに我々は憤りを覚えずにはいられない。
貸し渋りメガバンク「役員報酬」を公開せよ 週刊文春 [ 2009年04月09日号]より
銀行救済は盗人に追い銭
われわれは普通、政府は富裕層から貧困層へと富を移転させるものだと考えている。だがここでは、金持ちにカネを譲り渡しているのは、貧しい人びと・平均的な人びとなのである。ただでさえ重い負担を課せられている納税者は、本来は経済の再生を目指して銀行の貸し出しを支援するために自分たちが払った税金が、巨額のボーナスや配当に化けるのを目にした。配当とは、利益の分け前であるはずだ。しかしこの場合は、単に政府からのプレゼントを分配しているだけなのだ。
「もう同じ過ちは繰り返すな!2009年に得た厳しい教訓」〜ジョセフ・スティグリッツ〜①
この数年、メガバンクは税金を納めていないと聞く。1行で数千億円もの利益を出しながら税金が0というのも合点がいかない。何年にも遡り赤字の繰り越しできることがこれを可能にしているようだが、嘗ても巨額な公的資金を受け、その返済期間中は税金が免除されていたことも含め、一般の納税者からみれば到底納得のいく話ではない。ましてや我々の税金を、銀行の巨額のボーナスや配当に回すことなどは許し難い行為で、当に盗人に追い銭と言わざるを得ない。
「銀行の救済は、どれほど理不尽であろうと融資の回復につながる」というのが口実だった。しかし、融資の回復など実際には起きなかった。起きたのは、平均的な納税者が、多年にわたり自分たちから(略奪的融資や暴利のクレジットカード金利、不透明な手数料を通じて)カネをだまし取ってきた金融機関に、救済資金を与えたという状況なのだ。
「もう同じ過ちは繰り返すな!2009年に得た厳しい教訓」〜ジョセフ・スティグリッツ〜①
なんとも理不尽極まりない仕打ちである。だからこそ、「借り手が健全に発展していく、その為の手助けをする。そういう視点がないと絶対駄目で、今みたいに、集めた金を国債だか、米国債を8割ぐらい買っているようでは駄目である。やはり健全な借り手を育てて良好な関係を築いていくというのが本来の金融機関のあり方であり、それを指導していくのが金融庁(国家)だと思います。(亀井前金融大臣)は当に、時流に的を射た指摘である。
亀井静香、国民党代表・前金融大臣
市場は国家による規制が必要である
救済は根深い偽善を白日の下にさらした。貧困層のための小規模な福祉制度に対しては財政の緊縮を説く者が、いまや世界最大規模の「福祉」制度を声高に要求する。自由市場の長所はその「透明性」にあると主張していた者が、結局は、非常に不透明な金融システムをつくり上げ、銀行が自行のバランスシートさえ理解できないようにしてしまう。そして政府も、銀行に与えるプレゼントを隠蔽するために、ますます透明性の低い救済方式に手を染めるよう誘われている。「アカウンタビリティ」だの「責任」だのと論じていた者が、今では金融部門での債務免除を求めている。
「もう同じ過ちは繰り返すな!2009年に得た厳しい教訓」〜ジョセフ・スティグリッツ〜①
一方でシステムを悪用して暴利を貪る人間がいれば、他方の大多数の人々はその分を毟り取れれることになる。従って、市場には国家による規制が必然であるが、現実は規制すべき側の国家が暴利の分け前に預かろうと規制や監視を不透明なものにしてしまっている。銀行の救済などは収奪の片棒担ぎに過ぎないことは自明であり、銀行の国有化や国家による厳格な管理こそが急務である。
なにより、「国民の95%の人が幸せで、5%の人が困っているときに、政治とはその5%の人を助けなくてはならない。政治家にはその5%の少数への洞察力が必要」(亀井前金融大臣)といった治世(政治)の側の熱い想いや信条なくしてその実現は覚束ない。
因みに我国では2009年12月に中小企業金融円滑化法(マスコミでは亀井法とも呼ばれている)も施行され、小泉政権化で顕在化した企業倒産や自殺者の増加に歯止めが掛けられたことは私たちの記憶に新しい。勿論、増加に歯止めが掛かったというだけで、今でも毎年3万人を超す自殺者はでており、この現実は到底看過できるものではないことは言うまでもない。
第二の重要な教訓は、なぜ市場は、所期の意図どおりに機能しないことが多いのかを理解する、という点である。市場の失敗には多くの理由がある。今回の場合は、「破綻させるには大き過ぎる」金融機関が歪んだ動機を与えられていたことである。ギャンブルを試みて成功すれば、彼らは利益を懐に収めて立ち去る。失敗すれば、納税者が負担することになる。さらに、情報が不完全な場合、市場はうまく機能しないことが多い。
そして、情報の不完全性は金融の世界にはつきものなのである。外部性は至るところに見られる。ある銀行の破綻によりコストが他の者に転嫁され、金融システムの破綻は世界中の納税者・労働者にそのコストを負担させる。
「もう同じ過ちは繰り返すな!2009年に得た厳しい教訓」〜ジョセフ・スティグリッツ〜①
「この成功すれば懐に収め、失敗すれば納税者が負担するといったやり方は、嘗ての経営者と違って日本型の経営を捨て、好況で儲かったときは内部留保を200兆円も貯め込み、不況時に吐き出すこともせず、従業員や下請、孫請を人間扱いもしないで切り捨てる今の経営者のやり方と同じである。」これも亀井さんが経団連の御手洗会長に語ったことであり、情報操作とギャンブルに明け暮れ失敗すれば付を納税者に押し付ける銀行の姿そのものである。
これこそがグローバル化された弱肉強食の市場原理が孕む欠陥であり必然でもある。
(結論)
以上、スティグリッツ氏の見解について我国の事象に引き付けてみてきたが、スティグリッツ氏は一貫して市場が抱える負の側面(金融面の矛盾点)に焦点を当て論じられており、市場の存在そのものの是非を問うスタンスにはない。金融部門の改革の進展に期待を寄せ、進展なくば再び同じ教訓を学ぶ機会に直面すると警鐘をならすが本当にそれで済むのだろうか。
市場は国家に寄生し食潰す存在でしかなく、決して人々に幸福をもたらす存在ではないことを、改めてみていく必要がある。
次回は、現在進行形で起こっている欧州の金融危機問題を見ていく中で、ひきつづきこの問題を扱ってみたい。
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