2010-05-14

日本の税システムを考える6〜日本の税制の問題点 その3〜

前々回の記事に多くのコメントが入った。輸出大企業優遇の税制とされる『輸出戻し税』。これは何が問題なのか?はたまた何ら問題ではないのか?


表はこちらからお借りしました(クリック拡大)

今回はこれを整理してみる。
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●輸出戻し税の問題?
この問題はネット上でも様々なところで議論になっており、検索すると多数ヒットする。消費税の導入以来、たびたび取り上げられてきた典型的な論点であり、これが最近、人々の中で違和感を広げているのは事実だ。
誠天調書の考察
ブログ晴耕雨読「【国家犯罪にも等しい消費税還付制度】 「輸出戻し税」という還付は誰が受けるべきものか」
「日本の論点PLUS」でも議論が取り上げられている(会員しか見れないけど)
コメントでも議論されたが、問題だとされるポイントの一つは、下記のるいネットの記事にもある。

「10社に約1兆円の輸出戻し税」:問題の本質は、価格決定権を大企業が握っていること
○純粋税法上の問題だけでいうと、別にトヨタが儲けているわけではありません。
(中略)
○問題は価格決定権を大企業が握っていること
> 経済取引は、強い企業が単価を決めます。トヨタが「消費税を払っています」といくら言ってみても、下請け単価を叩きに叩いているわけだから、実際には払っていないのと同じです。形式的に払ったといわれているものを税務署から返してもらっているのです。< 165252
こっちの方が問題の本質を捉えています。
(中略)
販売価格に転嫁することは、独占的シェアを獲得していなければ難しいかもしれませんが、仕入価格の値切り=下請け企業たたきはトヨタをはじめ大企業では当たり前になっています。
⇒税法は「価格決定権を大企業が握っている」という事実を考慮していないので、結果として大企業に利益が集中する仕組みになっているのです。

大企業による下請け叩きによって、輸出戻し税が実質的な大企業の利益に転嫁されているという指摘だ。しかし、これは本質的に税制自体ではなく下請け支配の構造問題であり、税率や徴収のルールを多少いじったところで叩き方が変わるだけじゃないか?という疑問も残る。
だが、少なくとも言えるのは、輸出大企業は消費税が上がっても痛くも痒くも無い、ということだ。だから彼らは軒並み消費税増税に賛成し、それに共産党系団体や消費者団体etcが反発する、という構図が出来上がる。
●消費税は本当に“最終消費者が負担する税”なのか?
★阿修羅♪でのあっしら氏らの論争(こちらこちらこちらなど)は、より本格的だ。論争を見ていると、現在の税法を是とした形式論vs輸出免税の正当性や消費税の思想にまで踏み込んだ本質論のスレ違い、という趣がある。
その中で、この記事が正確に問題点を掴んでいるように思われた。要約すると、

○日本の消費税は、法文から解釈すれば、事業者に課されるある種の「事業税」である(注:国税庁の説明は違う)。
○消費税は最終消費者が負担するとの政治的説明も不可能ではないが、これは価格転嫁が完全に行われるというフィクションの下に限る。
○トヨタと下請業者の関係で、消費税相当額が下請価格に転嫁されると考えるべきではない。
○「外国需要者に税負担を求めない」などは、消費税に限って輸出を免税とすべき理由にはならない。
○「不完全な価格転嫁」という現状に照らすと、輸出免税の本質は、輸出奨励の補助金である。

輸出免税は「消費税・付加価値税は輸入国側でかけるという国際慣行があるため」と国税庁HPでは説明されている(確かに、日本でも海外から輸入する場合は消費税がかかる)が、これも決して消費税に限って採用される必然性はない、という。トヨタetcの最大輸出先である米国には消費税がない(州によってはある)こと、同じく仕入れでは税を払っているのに医療品や家賃などの「非課税」品目では一切の還付が無いことなどを考え合わせると、輸出免税制は輸出産業にアドバンテージを与える制度だと言える。
輸出戻し税の是非を巡る論争の最大の争点は、そもそも「消費税は最終消費者が負担する税なのか?事業者が負担する第二事業税なのか?」という点にあるようだ。前者が一般的理解であるが、そうではないとの主張もしばしば見られる。輸出戻し税批判の急先鋒である関東学院大学教授湖東京至氏(税理士)によれば、

消費税は預り金、買い物をした庶民がお店に預けたもので、預かったお店は税務署に納税するものと考えられていますが、消費税はそんな税金ではありません。法律的には一〇〇%事業税、赤字でもかかる事業税です。仮に価格の中に入れたとしても、売り上げ金、物価の一部なんです。そういう税金です。

納税の金の動きだけ見れば、実はどちらに取ることも可能なのだ。最終価格が105円の場合、これを消費者が5円負担する税込み価格と解釈することも、105円は単なる税抜き価格で、事業者が売上から合計5円を分担納付する事業税と解釈することもできる。そして、消費税法には「負担者は最終消費者である」とはどこにも書いていない。
「でも、どっちにしろ結局は最終消費者が負担してるじゃないか!」との反論がすぐ浮かぶが、それを言えば法人税だって最終的には消費者が負担している。付加価値税は(あるいは他の多くの税も)そもそもそういうグレーな部分を持っている。このことが理解できれば、輸出戻し税の論争が見えてくる。
前者の解釈に立って「消費税」という名称を採用し、その後の論理を組み立てたのが、現在の輸出戻し税をはじめとする消費税関連の各種制度である。そして、このような消費税導入の出発点まで遡って批判しているのが、輸出企業優遇論の主張である。
●問題の背景にある「輸出立国」基盤の弱体化
消費税の導入依頼、輸出戻し税は取られてきたが、今ほど目立って取り上げられる印象はなかった。それは、日本は「輸出立国」であり、トヨタ等の輸出企業は外貨を稼ぎ国内を潤してくれる存在、という通念が強く根付いていたからだ。実際、経済的にもそれでうまくいっているように見えていた。
だから、輸出企業が海外競争で不利にならないような税制設計を経団連は政府に働きかけ、政府官僚もそれに応えてきたのであり、それに疑問を感じる人間も少なかった。
しかし今や、主要顧客だった米国経済をはじめ世界経済がガタガタになり、日本は「輸出立国」からの脱却が迫られてきた。そして、輸出立国を維持するための円高介入による政府借金は返済不可能な水準まで来た(実際、これこそが国民の血税を使った最大の大企業優遇かも知れない)。しかも、稼いだと思っていた外貨=ドルは、米国債を買って母国に還流するだけの殆んど使えないカネであり、不変と思われてきた基軸通貨の地位も風前の灯火であることが明らかになってきた。
そんな中で、輸出大企業は自社利益優先=下請け叩きに走り始めてしまった。愛知出身の知り合いに聞いても、地元下請企業からのトヨタ本社への不満は非常に大きくなっているという(もちろん表立っては言えない)。輸出戻し税問題が人々の目を引くようになってきたのも、こうした庶民の意識状況が背景にある。
税制は決して「こうにしかならない」という類のものではなく、経済や国民生活の実態に合わせて変えていくものだ。大企業優遇税制批判の声の高まりは、税制の本来の機能のうち、とりわけ“富の再配分”機能の歪みを人々が感じ始め、その是正が求められ始めたことを示しているのだ。
次回以降は、現在の日本の税制に対して、「一般取引税への一本化」というドラスティックな提言を行っているブログを取り上げ、それがどういうものなのかを紹介していきたい。

List    投稿者 s.tanaka | 2010-05-14 | Posted in 01.世界恐慌、日本は?No Comments » 

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