2012-01-20

『なぜ今、TPPなのか?』【8】中国はどう見ているか?(なぜ中国はTPPに参加しない?分析編)

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前回は公表データーを基に中国の経済の実態と、通貨『元』の経済圏拡大を図る現状をお伝えしましたが、今回は前回を踏まえ、中国の経済戦略の分析からTPPに対するスタンス、すなわち「なぜ中国はTPPに参加しないのか?」の整理をしてみたいと思います。

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1)国家主導の経済発展(人民解放軍と企業との連携)
前回記事のようにNAFTA,EU、日本、ASEAN、メルコスールとの貿易拡大を進める一方、ここ数年中国は、アフリカや東南アジアにおいて農業用地の取得や人民解放軍と企業が連携して海外進出を行なう例が散見されます。
そもそも人民解放軍は中国共産党から基本的に独立した組織であり、製造業や不動産事業などを行なう、国家企業といってもいい存在のようです。
*****以下引用*****

●中国・人民解放軍は、軍産複合体
連載!『中国は誰が動かしているのか?』 10 中国軍(人民解放軍)についての分析
中国軍が独立採算ということはない、装備などの莫大な費用は国家予算から出ている。
しかし、驚いたことに中国軍(人民解放軍)は、軍需産業と様々な業種の子会社を抱え自動車なども作っている、軍自体が一大財閥化していることは確かなようだ。軍は一つの組織であり、複合企業であり、財閥である。アメリカの軍産複合体と異なるのは、トップが金貸し・金融資本ではなく軍であるというところ。
当然、軍独自の諜報機関も持っており、政府・国務院の諜報機関とは別にある。(参照:るいネット)
この人民解放軍が例えばアフリカの欧米の影響力が比較的低いいわゆる問題国に、着々と進出しているというのです。
●中国のアフリカ資源獲得戦略
アフリカにおける中国戦略的な概観 2009年最近中国がアフリカに急接近しているのは、慈善的な理想主義とはほとんど関係がな
い。それは、急成長する自国経済と、その輸出品に対する新しい消費者市場に対応す
るために、必要不可欠な原料、とくに石油および鉄鉱石にアクセスすることを最大の
関心事としているからである。21 世紀の終わりまでに原料の輸入を加速する必要に
直面しているため、中国の政策決定者は全地球規模でのエネルギー・資源の分散供給
を確保するための戦略的決定を行った。
P5
本報告書は、欧米諸国が見落としがちな、市場原理に基づかない中国の投資決定の基
本的な考え方について明らかにする。それには、今日アフリカで、中国の天然資源企
業と競争する欧米企業が直面する難題が関連している。それは、中国企業の主要株主
が私人や企業ではなく国家であるため、利潤よりも中国の国家安全保障を優先すると
いう思考パターンである。中国企業には、政治的支援から補助金交付や資金支援にわ
たる、国家による、制度化された、十分な、数々の支援が提供されている。よって中
国企業は市場開放を厳格に要求したりしない。このことは、欧米企業が直面する伝統
的なリスク・ファクターから中国の企業を保護し、アフリカでの資源獲得競争におい
て大きな競争優位となっている。
P9
中国の外交政策の最終決定要素は外交目標である。ふたつ目標が発表されている。す
なわち、「ひとつの中国」政策を支持し台湾を孤立させることと、国際関係における
米国の覇権に対抗してバランスをとることである。「欧米諸国に対する反帝国主義者
の均衡勢力」としての役割において、中国は低所得者層の多い資源大国と外交関係を
結び、多くの必要な資源を中国に流入させている。ここで、アフリカは再び重大な役
割を果たす。

*****以上引用*****
上記の内容から見て取れるポイントは大きく2つ
①内政不干渉
欧米諸国が民主主義や正義の立場から関係性が悪化している国とも取引。思想や主義はおいておいて実利をとっているのが中国だから面白い。
②国家主導の経済発展
中国企業の主要株主は「国家」であり、利潤よりも国家の安全保障を優先する思考パターン。自由主義による市場開放という観念は微塵も無い。

2)このような経済戦略の中国がTPPをどうみているのか?

前回の記事も踏まえ、上記のような中国がTPPをどうみているのかについて?は以下のサイトが参考になります。
*****以下引用*****

■ニュース
【経済ニュース】 2011/11/18(金) 10:36日本がTPPへの交渉参加に向けて関係国と協議するとの方針をAPECの場で表明したことを契機として、TPPに対する中国の警戒感が強まっていると内外で伝えられている。本件については、すでに5月26日の本コラム「中国は日本のTPPへの関心をどう見ているか」で、中国はTPPを米国の「戻ってきたアジア太平洋戦略」と見ている旨指摘した。APEC会議前後の中国メディア、中国の研究者等の本件の取り上げ方を見ると、こうした見方に基本的に大きな変化はないが、中国国内でも様々な意見が出てきているようにも見受けられるので、現時点で整理しておくことが有益と思われる。
11月14日付中国広播網は、社会科学院世界経済政治研究所研究員の分析を引用しつつ、米国の「APECを骨抜きにし(打架)、中国に圧力をかけようとする(打圧)意図は実現できるのか?」として、米国が中国をTPPに招き入れる意図があるかどうかは重要でない、中国抜きのTPPは実質的な意味を持たず、中国は急ぐ必要はない、米国はTPPの見通しについて意味もなく楽観的だが、日本の農業問題などを考えると疑問符が付く、米国はTPPを経済問題として捉えるだけでなく、米国の価値観をもってアジア太平洋地域を統一しようとしているが、これは極めて非現実的なことあると論評している。同じく14日付联合早報訊(香港)も、環境保護関連製品の関税引き下げ、GDP比エネルギー消費量の抑制、国有企業も民間企業同様の商行為とすべき等、最初から中国の影響力を抑え、中国を排除することを意図したものであることは明らかだが、中国の貿易額や市場規模から考えて、中国抜きのTPPにどれだけ意味があるかの疑問であるとしている。さらに、TPPの交渉参加国は体制や発展段階などが大きく異なっており、米国はこれを無視してAPECを分断すべきでない、仮にTPPが進んでも、これと中日韓FTA,ASEAN+3、+6等は矛盾せず、同時並行的に進められるべきもの(并行不悖)だとしている。
中国の入らないTPPはあまり実質的な意味はないとする見方の一方で、中国への影響を深刻に捉える見方も散見される。たとえば14日付経済参考報は、TPPは疑いもなく米国が改めてアジア太平洋地域への影響力を強化しようとする試みで、中国としてもその影響を重視すべきで戦略的対応が必要であるとし、中国自らが巨大な市場であるという優位性を活かし、日中韓FTAの推進や内需主導型成長への転換を促進し対外依存度を下げていくことが必要とする。またその影響を深刻に捉える論者からは、中国としても主体的にTPPに関与していくべきとの主張も展開されていることが注目される。上記経済参考報は、自ら主体的・積極的にTPP交渉に入っていく必要があり、そうしなければ、TPPが出来上がった時には、中国はこの地域で新たに大きな障壁に出会うことになると警告、また中国国際経済交流中心の研究者は、17日付第一財経日報評論の中で、アジア太平洋地域での中国の発展・影響力の拡大を阻止しようとする米国の戦略は明らかだが、TPPが将来的に同地域の自由貿易の基礎になる可能性があり、中国としても早い段階から交渉に参加すべきである、中国抜きでTPPの交渉が進められるのは、アジア太平洋地域にとっても望ましくないとしている。
TPPをむしろ中国にとっての挑戦・機会と捉えるべきとの論者も見られる。上海国際問題研究所の研究者は、17日付第一財経日報評論で、ASEAN諸国の半数近くがTPPに交渉参加し、その中国への影響は無視できないとしても、これら諸国の購買力から見て、TPPによって、直ちに米国のこれら諸国向け輸出が急増すると考えるのは楽観的すぎる、米国がASEANを重視してこなかった間に、中国とASEANの貿易投資関係は大きく拡大強化してきており、むしろTPPを挑戦・圧力と捉え、対米国との関係でさらにこの地域での中国の競争力を高める機会にすべきとしている。
中国は、従来から多国間経済連携の枠組みを進める上で、以下のような原則を掲げてきている。すなわち、
開放性(参加する意思のある経済体すべてに開かれていること)、
実質性(実質的な自由化基準を具備していること)、
平等性(交渉ステータスが平等で、連携によって相互に利益を享受できること)、
漸進性(交渉分野の範囲や自由化の程度は、段階的に拡大・深化)、
包容性(異なる経済体の個々の事情・特殊性に配慮、特に発展段階の低い経済体や小国に配慮し柔軟な対応をとること)である。
中国商務部部長はAPEC会合時、「TPPに関してはどこからも招待がない」と発言したが、その際、同時に「そうした招待があれば真剣に研究する」とし、「TPPのような多国間枠組みは、包容性、開放性、透明性を持つべき」とも発言し、こうした中国の原則にも言及している。

*****以上引用*****
つまり中国は米国のアジア太平洋地域での影響力拡大の動きに注視しており、ドル一極集中の終焉から多極化に向う世界の中で、東アジアでは元を中心とした経済圏の確立を目指している背景がある。

中国人民元とは言い換えれば国家紙幣。FRBのように金貸しの言いなりで動く銀行ではない
中国は社会主義国家=民主主義戦略からは外れる。金貸しとは対極の経済戦略=国家主導の経済政策が可能。

上記のような中国人側からTPPを俯瞰してみると、どう見えるか?
そのそも自由貿易を推奨するアメリカのルールで作られるTPPに参加することは、相手のフィールドで戦うこととなり、中国の国家主導の経済戦略は不利。またこのTPP参加が中国の民主化を推進すする流れを作る可能性もあり、国家転覆の可能性すらある。つまり金貸しのルールでTPPに参加したら、国家統合が危うい。
また実利を追う中国は国を豊かにする方策を検証していると思われる。市場主導より国家主導での経済成長が可能性あり(むしろ中国の政策のほうが市場に任せるよりも可能性がある)と自信があるに違いない。

List    投稿者 imayou | 2012-01-20 | Posted in 08.金融資本家の戦略No Comments » 

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