2012-06-14

世界を操る支配者たち(5)〜スパイ組織タクシス家

こんばんは。
これまでこのシリーズでは「世界を操る支配者たち」を紹介してきました。
第1回〜ロスチャイルド家
第2回〜20世紀を支配したロックフェラー家
第3回〜イギリス大英帝国繁栄の歴史
第4回〜欧州貴族ハプスブルグ家
今回はその第5回です。
 
突然ですが、ドイツのレーゲンスブルクの町には、コミック本を片手に町を歩く日本人女性の姿があるそうです。
彼女たちが手にしているのは、池田理代子さん作の漫画「オルフェウスの窓」 という少女漫画だそうです。
その「オルフェウスの窓」の舞台となった城が、レーゲンスブルクにあるトゥルン・ウント・タクシス一族の居城エメラム城だったのです。そして、エメラム城は、部屋数が500室、規模は英国王室のバッキンガム宮殿よりはるかに巨大なのです。
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現在エメラム城は、トゥルン・ウント・タクシス家の子孫が膨大な税金の支払いのために、宝物を州に売り、それらが展示してある博物館となっています。(税金を払ったと言えるのか疑問ですが。。。
このエメラム城を居城にしていたタクシス一族の9代目当主ヨハネス・フォン・トゥルン・ウント・タクシス侯は、1990年12月14日に亡くなっていますが、彼の私有地の森林はもちろん、公有林の「払い下げも次々と買収し」、ヨハネス単独でヨーロッパ最大の森林所有者=土地所有者となっていました。さらにヨハネスは、ビール会社、銀行、不動産会社等、50企業を支配し、ドイツ国内だけで3万2000haの土地、海外に7万haの土地を所有していたそうです。そしてさらに、欧州各地に散らばったタクシス一族全体の財産は、これとは全く別にあるのです。
 
代表的な欧州貴族ハプスブルグ家に続き、今回は日本人女性のあこがれ?はたまた貴族のイメージ代表格?の欧州貴族タクシス家をご紹介します。
それでは、続きはポッチとしてからお願いします。

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■郵便事業で財をなしたタクシス家
オーストリア、スイス、ドイツなど欧州の多くの国の郵便局のマーク にはポストホルンというラッパ(下の写真)が採用されていますが、その起源を遡ってゆくと最後には下の絵の紋章にたどり着きます。この紋章はイタリアのベルガモ出身のド・ラ・トッレ家が今から約900年前に使っていたものでした。苗字のトゥルンは元のイタリア名のトッレ(塔の意味)がドイツ語のトゥルムになりこれがさらに訛ったもので、タクシスのほうは同家が税金(Tax)の徴収を請け負っていたことの名残りです。
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                 タクシス家 紋章  フランツ・フォン・タクシス
同家の郵便事業の始祖はドイツ名でフランツ・フォン・タクシスという人でした。その参入のきっかけは、1489年にハプスブルク家の神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の郵便物を請け負ったことにあります。これを契機に、郵便事業の独占と世襲の権利を神聖ローマ皇帝から与えられ、ベルギー、フランス、ドイツ全域、からイタリアの南端まで、ヨーロッパの各地を結んだ郵便事業で巨大な富を得たのです。
タクシス一族の成功の秘訣はA地点からE地点への郵便物を、A地点→B地点→C地点→D地点→E地点と経由させ、馬車で手紙をリレーするというものでした。この方法は目的地まで同じ馬車で行くより、馬の消耗が少なく、ハイスピードで配達でき、区域も従来の飛脚便よりはるかに大きかったのです。
ただし、タクシス郵便の料金は非常に高かったのですが、ハプスブルク家の下で貴族や諸侯、役人、商人の通信までも独占し、郵便ビジネスは成功を収め、やがて貴族の称号も得るのです。16世紀初めには一定の料金と引き換えに市民の私信も配達する郵便事業も展開し、この広範囲な通信連絡網は「タクシス郵便」と呼ばれました。
 
しかし、1800年ごろからヨーロッパの国々は郵便事業の国営化を開始します。その波の中で、タクシス郵便は、郵便事業を次々に切り売りし続け、1867年にプロイセンに郵便権を売却したのを最後にその事業の幕を閉じることになります。イギリスのローランド・ヒルによる国営の郵便制度の改革(1840年)の影響で、近代的な郵便制度が広がったことも、タクシス郵便の終焉を早めた一因となったといえるでしょう。
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エメラム城(現在博物館)には、当時の郵便馬車が約60台陳列されています。これを見ると、トゥルン・ウント・タクシス家の郵便事業がいかに大がかりなものであったかがよくわかります。
■郵便事業だけではなかったタクシス家−ヨーロッパを統一した「スパイ組織タクシス」
タクシス家には、こんな一面もあります。
元々、ドイツで王侯貴族お抱えの霊媒師として、予言の的中率が高いと大人気であった「占い師」がトゥルン・ウント・タクシス家であったのです。
タクシス家は、郵便事業だけでなく貴族や聖職諸侯、外交官、商人の通信を扱う特権も得ていましたので、ヨーロッパ全体に広がったネットワークを駆使し、情報を手に入れていたタクシス一族にとっては、予言を的中させることは「簡単なこと」であったのです。
 
つまりタクシス家は単なる郵便事業だけではなく、同時に生業として諜報活動を行っていたらしいのです。
 
そして、ヨーロッパは16世紀後半から17世紀末まで戦争の時代に入ります。ドイツの諸侯(貴族)たちがプロテスタント側とカトリック側に分かれて戦争を始め、それにスウェーデンやデンマークなど北欧も参戦し拡大したのが三十年戦争です。同時にイギリス・フランス・オランダ・スペインなどが支援・介入を始めヨーロッパ全域にわたる大戦争となったものです。表向きは宗教戦争のように語られますが、実態は、カトリック国であるフランスがプロテスタント側のスウェーデンを支援したことにみられるように、本質はヨーロッパ世界における覇権闘争です。
 
そうした激動の中、タクシス一族は、対立する2つの勢力に雇われ、諜報活動を商売として行っていたのです。当時は通信もなければインターネットなどもありませんから、遠方との全ての情報のやりとりは郵便事業を独占するタクシス家の手中にあったのです。
全ての市民の封書を「自由に開封出来る」郵便事業を支配する事は、タクシス家にとって当然の「ビジネス・スタイル」であったのです。
現在でも電子メールがどれ程主流になろうと、直筆署名の要求されるビジネス契約書類は、封書による郵送を必要としています。郵便事業の支配とは金融と物流の支配をも意味していたのです。
 
■戦争屋としてのタクシス家
郵便事業を撤退したタクシス家ですが、兼ねてからの諜報活動と合わせて武器輸送という商売にも手を付けていました。 戦争のための情報を持ち運ぶタクシス一族は、決して「手ぶら」でヨーロッパ各地に出かけたのではなかったのです。情報と共にタクシスの運んだ「荷物」は、ベルギー製の武器であったのです。 その為、現在タクシス家はベルギーに本拠地に置いています。
この当時の「ベルギー製の武器」とはもちろん「銃」です。ライフル銃のメーカーとして有名なモーゼル社の銃は、元々、西南ドイツのオーベルンドルフの山村に住む銃器職人が開発し、マーゼル社という会社が製造を開始した物でした。このモーゼル社の銃を大量生産し世界中に販売したのがのFNハースタル社(ファブリック・ナショナル・デルスタル、かつては国営企業)です。 FNハースタル社は、創業以来、ベルギー東部のリエージュ近郊のハースタルの町に存在していて、リエージュ一帯は、何世紀も前から欧州の火器製造の中心地のひとつであり、当時は火器職人の工房がいくつも集まっていました。
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タクシス家の軌跡が、ベルギーから世界中に拡がるスパイ情報と共に、小火器の製造・販売ルートになっていたのです。
言い換えれば、当時世界最大のスパイ組織であり、武器商人でもあったのです。
■EU統合にも一役買っているタクシス家
EUの統合は、欧州石炭・鉄鋼共同体と言う、あらゆる産業の基本物資であった石炭と鉄鋼の生産・流通を一体化させる事から始まったと言われています。これがEUの原型ですが、その時既にタクシス家によって物流が握られ、情報面での統一が行われていたのです。
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設立時の欧州石炭・鉄鋼共同体
 
30年戦争の時代に諜報活動を行うタクシス家は、情報の統合にも手を付けたのです。何をしたかというと、タクシス家は、ヨーロッパ各国の王・貴族に、メートル、kgといった測量単位を統一させる ということも行っているのです。
何故、その様なことをしたのかというと、各国の情報を入手した場合、それを売るには情報を正確に伝えることが必要となります。例えば、「敵軍が全長50mの戦艦を建造している」というスパイ情報を提供しても、情報を提供された地域・国で、メートルという単位が使われていなければ、敵軍の戦艦の全長が相手に分からず、その対策も立てる事が出来ません。そのためヨーロッパを統一した「スパイ組織タクシス」は、kg、メートルといった単位をヨーロッパ全体で統一する必要があったのです。
 
その為、基本物資の精算流通の統合からスタートしたEU本部はベルギーにあります。EUの中心国フランスでもドイツでもなくベルギーです。それはEU統合が、ベルギーが本拠地のタクシス一族の暗躍と、ベルギーが欧州の火器製造の中心地であることが理由だと推察できるのです。
 
■情報戦の支配がタクシス家の力の源泉
現在でも、「情報」は様々な価値を生みますが、特に市場経済に於いては「情報戦」は必須事項です。
郵便事業撤退するまでのタクシス家はヨーロッパ中の情報を集積し、都合良く情報を売るというのが中心でしたが、1800年代以降は郵便事業の撤退と時期を同じくして通信事業に関わり出します。
ロイターなどの通信社との関わりによって、様々な情報を発信する側にまわったのです。所謂「情報操作」というものです。
通信社などから発信される情報は、多くの人の話題に上るため、複数の人々から同じ情報を聞いた人はそれが間違った(ウソの)情報であっても、信じてしまいます。
通信技術の発達によって、情報戦は情報集約に情報発信が加わったのです。
情報の意味に精通していたタクシス家は、ここを逃しませんでした。
ニュースを支配できる理由より

情報は、通信社が発信元となります。世界初の通信社「アヴァス」(フランス)は、ハンガリー系ユダヤ人だったシャルル=ルイ・アヴァスによって創設されました。この通信社には、その後花開く「ヴォルフ」のドイツ系ユダヤ人ベルンハルト・ヴォルフや、「ロイター」の同じくドイツ系ユダヤ系ポール・ジュリアス・ロイターが翻訳スタッフとして働いていました。その後、この3社「アヴァス」「ヴォルフ」「ロイター」は、世界を席巻する企業に成長します。
 1856年、この3大通信社は、主に経済ニュースを相互に交換する暫定協定を締結、その3年後には、それは一般ニュースの分野にも広がりました。そして、この3社で独占的に取材・配信できる地域が定められました(wikiより)。
アヴァス:フランス、スペイン、イタリア、地中海東部沿岸地域
ヴォルフ:ドイツ、ロシア、北欧、スラヴ諸国
ロイター:イギリス帝国、非ヨーロッパ圏
 特に“ロイター”が重要。この通信社にはものの見事にロスチャイルド家が絡んでいます。詳しく述べますと、まず、アヴァスが誕生する前、ロスチャイルド家はドイツ南部のバヴァリア地方を拠点に、郵便制度を作り上げたことで知られる郵便王テュルン=タキシス家と共謀してヨーロッパの様々な情報を網羅していました。このテュルン=タクシス家とロイターの創業者ポール・ジュリアス・ロイターが家系図で結ばれるのです。 この事実を裏付けるかのように、ロイターの最初の顧客はライオネル・ロスチャイルドであり、また、ロイターの大理石像が公開された時、除幕式の紐を引いたのが、エドマンド・ロスチャイルドでした。
 この、一民間企業から発生した情報網が今日の諜報機関の創設に関わっています。現在主要マスコミのほとんどはロイターと契約しています。

タクシス家と同様にハプスブルク家との繋がりの深いロスチャイルド家も加わり、両家が1800年以降のヨーロッパにおいて金融、流通、戦争など様々な場面で暗躍をしていた基盤の一つは間違いなく「情報支配」にあったのだと思います。
タクシス家 ちょっと長かったです が、如何だったでしょうか?
旅行会社のネーミングでロマンチック街道というのがあります。その一角を担うエメラム城。そして、その城主だったタクシス一族ですが、冒頭紹介したような優雅な貴族というイメージからはほど遠いですね。
その実態は、ヨーロッパの裏の世界と情報戦を牛耳ってきた「怖い」一族なのです。
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現在の当主 ビクトリア
タクシス家HP(日本語訳はありません)
    ↓↓↓
http://www.thurnundtaxis.de/
次回は、所謂バチカン・ローマ教皇庁を扱います。激動の欧州でキリスト教総本山が果たした役割とは。。。。。お楽しみに

List    投稿者 bonbon | 2012-06-14 | Posted in 08.金融資本家の戦略No Comments » 

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