2012-03-02

『なぜ今、TTPか?』【13】米国経済の現状(経済戦略分析編)

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「なぜ今、TPPなのか?」をテーマに12回シリーズで様々な角度で調査・分析を行なってきましたが、先週からはいよいよまとめということで、アメリカの戦略を分析に入っています。

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表は貿易体制とアメリカ、EU、そして後進国の経済に関する出来事や動きを整理した年表です。
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先週の『なぜ今、TPPなのか?』【12】米国経済の現状(貿易面の分析)をうけ、引き続き今週はアメリカによるTPPを経済戦略の面から分析していきたいと思います。
まずはこれまでの記事を総ざらいして見ましょう。
さっそく記事に行く前にいつものヤツをお願いします。


【1】、【2】TPP基礎知識(まずTPPとは何か?)
・TPP:環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Partnership)は、経済連携協定 (EPA) の一つ。加盟国の間で工業品、農業品を含む全品目の関税を撤廃し、政府調達(国や自治体による公共事業や物品・サービスの購入など)、知的財産権、労働規制、金融、医療サービスなどにおけるすべての非関税障壁を撤廃し自由化する協定。
そもそもは2006年5月にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国が域外への経済的影響力を向上させる(小国同士の戦略的提携によってマーケットにおけるプレゼンスを上げる)ことを目的として発効し、運用。
この取り決めにWTOによる自由貿易経済推進が頓挫したアメリカが目をつけ、環太平洋という枠組みで日本を巻き込んでの締結を目指し、無茶苦茶な要求を突きつけている状況。
TPPは複数国による取り決めとなるが、日米の貿易額が90%を超え、ほぼ日米FTAといってもいい内容。


【3】貿易自由化交渉の歴史(TPPに繋がる貿易自由化交渉の歴史)
・TPPを調べるために、温故知新のスタンスで戦後の貿易自由化交渉・協定の歴史を時系列にまとめて整理。
・見えてきたことは、戦後の自由化交渉・協定の歴史としては、先進国主導(グリーンルームによる密室会議)のWTOが難航。一方で米国、ヨーロッパはNAFTAやEUを発足。
・発展途上国、後進国の猛烈な反対でWTOが事実上頓挫となると、2000年ごろからは小国を中心としたFTA,EPA(2国間経済連携)が活発化。
・この流れの中でTPPの前進であるP4(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド)にアメリカが相乗りし、環太平洋諸国を巻き込んだ現在協議中のTPPにつながっていきます。


【4】世界に広がるブロック経済圏の現状①欧州
常に覇権争いをしているアメリカに対抗するため、ヨーロッパはEUとして統合し、経済圏としても、通貨としても一体となりました。農業については共通農業政策の下、EU予算の4割以上を農業補助に当てて自由市場から保護。数年前まではユーロ高で経済戦略としてもうまく言っていたように見えましたが、EU域内の経済を詳しく分析してみると、構成国間での産業構造の違いから貿易黒字国と貿易赤字国が固定化⇒経済格差の拡大が進行中。ギリシャ危機によるEU経済疲弊の長期化、EU全体の失業率の増加やGDPの低下など構造的にうまく行かない現状が見えてきました。


【5】世界に広がるブロック経済圏の現状②:北中米、南米
●NAFTA(1989年発足⇒1992年メキシコ参加)
・NAFTAはEUブロック経済圏に対抗し、アメリカがあせって計画。カナダとの協定締結後にメキシコが参加して現在の体制へ。
・結果としては巨大多国籍企業に利益が集中し、アメリカ、カナダ、メキシコそれぞれの一般市民はより貧しくなったというのが現実。


●メルコロース(1995年発足)
・アメリカ主導で北米、南米及びカリブの34カ国で包括的なFTAA協定締結を推進していたが、ブラジルやアルゼンチンなどの反対で事実上FTAA交渉は中断。代わりの経済連携ということで、南米においてブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイ、ベネズエラと準加盟国5国で構成したメルコロースが発足。
・一番巨大なブラジル、次のアルゼンチンで域内GDPのほぼ100%となり、小国との国家間格差が拡大。
・結論というわけではないですが、EUに続き、NAFTA、メルコロースもうまく行っていません。


【6】世界に広がるブロック経済圏の現状③:アジア
①ASEAN
・当初は反共主義という位置付けで結びつき⇒経済についての連携へ発展。
・アメリカの過剰消費=購買力をあてに貿易をし、経済成長に結びつけていたアジア地域の国々だが、アメリカ経済の失速と、新興国(とりわけ中国)の台頭による世界経済・貿易のパラダイム転換から、アジア地域の国々も中国、EUなどとの関係が深まっている。
②米韓FTA
・アメリカの圧力の下、泣く泣く締結させられた米韓FTAは、様々な条件がアメリカに有利に作られており事実上の不平等条約。更に現在韓国では対外債務が膨れ上がり経済破綻に陥る直前といわれています。
・本来であれば韓国もTPPに入れてもいいようなものをあえてアメリカと個別にFTAとして締結しているのがミソ!次のターゲットである日本とはTPPで搾り取る戦略。TPPが実質的に日米FTA=かつての日米修好通商条約といわれる所以かもしれません。


【7】、【8】中国はどうみている?
・1992年の改革開放による市場経済への参加は、世界貿易における中国の存在感をアピール。それから約20年後の2010年にGDP世界第二位に上りつめた中国が、TPPをどうみているか?経済実態や人民元の動向を踏まえた中国の経済戦略と併せ分析。
中国は外国から部品を調達し、世界の組み立て工場としての存在感を強烈にアピール。元安を背景に強烈な輸出戦略で外貨を稼ぐ。
また自由主義経済を主張する欧米企業との相性が悪いアフリカ・東アジア地域の国々へも国営企業が人民解放軍とタッグを組んで進出。思想や主義は脇に置き互いに実利を取る戦略で経済発展を追求。上海上海協力機構会議などアメリカ抜きの多極化戦略も視野に。
つまりアメリカ主導のTPPは注意はしているが今のところ参加をするメリットは無いというスタンス。


【9】ロシアはどう見ているか?〜資源大国ロシアの世界戦略〜
・豊富な資源力を背景に、一時の金融危機を克服したロシアは、米国(ロックフェラー)とは対立し、欧州(ロスチャイルド)とは協調し、さらなる資源大国としての影響力拡大と、外国資本による自国産業発展を画策中です。
・よってTPPには参加せず、資源輸出国と連携したロシア中心の資源カルテル→ユーラシア版WTOを確立を目指しています。


【10】EUはどう見てるのか?

・日本がTPP(実質日米FTA)の延長でEUとのFTA締結を期待?しているのとは裏腹に、EUは日本との貿易拡大などよりは、中国・ロシア・インド・ブラジルなどのBRICS諸国との貿易拡大を狙っています。これはEUから日本への輸出に関する工業製品の関税撤廃は既に進んでおり、無理に日本とのFTAなどを締結した場合は、EU圏内の自動車・工業製品産業の衰退や失業率の増加を招き、EU経済に深刻なダメージを与える可能性高いからだと予想されます。(逆に日本からEUへの輸出に関しては高い関税が掛けられており、日本としてはEUとのFTAは期待したいところかもしれません)


【11】コラム:日本は貿易立国って本当?
・日本は昔から「貿易立国」と言われ続けてきましたが、一人当たり輸出額も小さく、かつ輸出総額を引き上げていた理由が、一人当たり輸入額が低いからということを勘案すると、実態は内需大国だということが分かりました。
・この内需大国日本がTPPに参加する必要性があるのか?というのが、貿易の実態から見えてきた事実です。


★まとめ
以上の認識の上に、前回の米国経済の現状分析(貿易面の分析)を踏まえ、米国における経済戦略=TPP戦略の実態を明らかにしてきましょう。


■アメリカの国内事情

・サブプライム問題でアメリカは大きな転換を強いられます。これは過剰消費によるバブルで、全員が豊かさを享受できた時代から、いきなり庶民の多くが貧困へと引きずりおろされ、貧困が慢性化・固定化していくからです。
・雇用の低下、所得の低下と、一方で1%の金持ちは所得を倍増させている事実が、アメリカウォール街発の「99%運動」へとつながり庶民の不満を爆発させ、無視できない動きになっています。
2009年民主党敗北⇔共和党の台頭などアメリカ国内も分裂しており、国外よりまずは国内の火を消す為にも、『国内経済重視政策』を打ち出す必要がオバマ政権にはあったといえます。オバマはインフラ再整備や企業回帰をもくろみ、これが強行な米韓FTA締結などに繋がっています。


■アメリカ抜きの世界経済
・国外に目を向けると、各地域でのブロック経済圏の出現や、中国、ロシアなどの新興国の台頭が、サブプライム以降のアメリカ経済の失速による、脱アメリカの動きを加速させています。
・これまでは金貸しによる騙し=サブプライムで庶民を騙し、基軸通貨としてのドルを刷ることで過剰消費による空前のバブルを演出してきましたが、現在はもう通用しません。
・金融危機後は、FRBも国債発行量の上限を決められた⇒じゃんじゃん国債を刷れなくなったアメリカはもう過剰消費は出来ません。
以上を簡単にまとめてみると4つのポイントに整理できると思います。
①アメリカの雇用・所得の悪化→国民の不満増
②リーマンショック以降、アメリカの過剰消費不可能、米債の発行上限→雇用確保
③先進国主導の自由貿易推進の頓挫(米国覇権の衰弱)
④アメリカ抜きの2国間FTA/EPA、後進国の台頭

日本をTPPに参加させる為に、巻き添えとなている環太平洋の国々ですが、多くの国はアメリカ、日本が参加するTPPには参画したくないというのが本音ではないかと思います。
このように国内・国外ともにニッチもサッチも行かないアメリカは、強力な国内経済政策重視のスタンスと、それを実現すべくなりふり構わないFTA・TPPによる輸出拡大を目指す経済戦略をとっており、金貸し勢力はかなり焦っていると思われます。

List    投稿者 imayou | 2012-03-02 | Posted in 08.金融資本家の戦略No Comments » 

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