『世界経済の現状分析』【11】欧州経済の現状②(独・仏 VS PIIGS 格差問題の分析)
前回は、EU主要国の経済動向を概観し、生産、輸出、雇用、消費などで、底堅さが際だっているドイツ、停滞基調にある他の主要国(PIIGS)の格差について調査してきました。PIIGS諸国は財政危機が深刻なままであり、危機は続いているのが現状です。
さて、ユーロ圏域内で景気に二極化の兆しがでてきている背景には何があるのでしょうか。また、ユーロ危機はまだ去ったとは言えないのではないでしょうか。この点をさらに追及するため、今回は、前回記事を引き継ぎ、
●EU内格差が開いたのは何故か?。
●財政危機が深刻なままなのはなぜか?
について分析してみます。
『世界経済の現状分析』シリーズ過去記事は以下をご覧ください。
【1】プロローグ
【2】米国経済の現状(ファンダメンタルズ)
【3】米大統領選の分析その1(両候補の政策の違い)
【4】米大統領選の分析その2(両候補の支持層の違い)
【5】米大統領選の分析その3(米大統領選の行方?)
【6】中国経済の基礎知識
【7】中国経済の現状(ファンダメンタルズ)
【8】中国、新体制・習近平でどうなる?
【9】中国経済のまとめ
【10】欧州経済の現状①(ファンダメンタルズ)
その前に、応援宜しくお願いします。
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さて、ユーロ危機の状況を追求するにあたり、2010年に起こったギリシャ危機はどのような構造で起こったのかを検証します。
『ヤスの備忘録』(るいネット)からの抜粋です。
ギリシャの財政危機は第2のリーマンショックとなるか?①〜死のスパイラルから第2のリーマンショックへ【リンク】【リンク】
金融危機以前、ギリシャなどのPIIGS諸国の国債はかっこうの投資対象として見られていた。こうした諸国の国債は多くの欧米の金融機関が保有している。このため、金融機関の株が大幅に売られ、ユーロとともにニューヨークダウも一日としては史上最大の1000ポイント近い下げ幅を記録した。むろん、下落には誤って出された売り注文が一つの原因になっていたことは間違いないが、ギリシャの財政破綻懸念による金融株の売りが下落の背景になっていたことは間違いない。
ギリシャの財政危機の原因構造をまとめてみたいと思います。
★ユーロ圏・財政危機の原因構造
PIIGS諸国は、ユーロ圏に入ることで、ドイツ・フランスと同じ通貨となり、自国の通貨より貨幣価値が高く変動が少なくなり、安定へ。
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PIIGS諸国は、もともと農業や観光が中心の国々であり収入は少ない。また勤勉でない。(若しくは、生産性が非常に低い。)特にギリシャは、5人に1人が国家公務員、年金は現在の給料の90%が支給される等、非常に財政を逼迫させる国家体制。どの国も国家財政は逼迫。
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金融機関は、金融商品としての投資先を探す。→金融派生商品としてのPIIGS「国債」への投資。
PIIGS各国の国債が、外資の銀行に売れる(ドイツ、フランス、アメリカ・・等)
金融派生商品として、国債にCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)もかける。
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PIIGS各国は、国債が売れ収入増。
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ギリシャ国債の空売り→急落 ゴールドマン・サックスの仕掛け
ユーロ圏各国の国債が売られる。→PIIGS各国の財政危機へ。国債を保有するドイツ・フランスも危機へ。
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ECBが、緊縮財政を条件に、国債買い取り。
これまでの各国の経済危機の状況はどうなっているのでしょうか?
●アイルランド危機:不動産バブルの崩壊【リンク】
●ポルトガル危機:21世紀からの低成長なのに公務員給与等の歳出カット無し
【リンク】
●スペイン国債危機:不動産バブルの崩壊【リンク】
●イタリア危機:国債の半分は国民所有。産業ドイツの次で2位。不動産バブルなし。
→イタリアの国債はスペインのそれと余り変わらない利回り水準で取引されており、投機筋からオモチャにされやすい危険を孕んでる。
以上を各国毎にまとめますと、概ね以下のようになります。
●ギリシャ:産業が観光業、公務員比率高い、給料・年金も高い→財政圧迫⇒国債発行
●アイルランド:不動産投資→サブプライム→不動産バブル崩壊→銀行国有化による財政圧迫
●ポルトガル:低成長なのに公務員給与等の歳出カット無し→財政圧迫⇒国債発行
●スペイン:不動産投資→サブプライム→不動産バブル崩壊
●イタリア:おもちゃにされた。
各国共、共通してみえてきたことは、どれもユーロ統一以降、外資からの投資(国債、不動産等)の売買で大混乱したことによります。更にこの現象を構造化してみます。
■EU内格差が開く構造
『ドイツなど一部の国だけが潤うユーロの構造』(脱グローバル化が日本経済を大復活させる。三橋貴明著より)よりの抜粋です。
生産性が高い国々(ドイツなど)がモノ(車など)を生産する。
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余剰品が、生産性の低い国々(ギリシャなど)に輸出。(※生産性の低い国は他国の製品を買い続ける。)
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①生産性の低い国々の対貿易赤字が拡大
②結果的に生産性の高い国の所得が増大。
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①生産性の低い国の貿易赤字が増えれば増えるほど生産性の低い国の対生産性の高い国の借金が拡大。
②生産性の高い国々の所得(ユーロ)を生産性の低い国々に再投資。
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生産性の高い国の投資先は?
①生産性の低い国が発行した国債の買い入れ
②同国の不動産プロジェクト等にお金を貸す。
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外国からの対内投資でファイナンスする経済モデルが確立してしまう。
※基礎的要因として技術力、資本力、国民の勤勉性等の違いはあるにせよ、根本的な問題は、ユーロの固定相場の弊害すなわち為替調整メカニズムがないことによります。
固定相場制であるために、例えば、ギリシャ人がドイツ車をお手頃の価格で購入できたことにあります。(※変動相場制であれば、ギリシャ人がドイツの製品を買えば買うほど、ギリシャの通貨が、他国通貨に対して、安くなるため、そのうち、簡単にドイツ車を購入する事ができなくなります。)
結果的に、生産性の低い国は、貿易赤字を外国からの対内投資でファイナンスする経済モデルを続けるしかなくなるのです。そして、自国民が、生産しないツケを貿易赤字の拡大と対外債務増大に押しつけ、最終的には財政危機に陥る。
つまり、生産性の低い国が、ユーロに加盟し、自国通貨が他国(ユーロ諸国)通貨に対して下落しない事で、同国は、
①為替レート下落による、自国企業の輸出競争力強化
②為替レート下落による、自国対外債務の実質的な帳消し
の恩恵を受けられなくなるのです。
ユーロという究極的なグローバル化を志向した制度に加盟している事で自由貿易を強制されてしまい、ユーロ以外の国々(日米日)等独自通貨で変動相場制の国から見ても、極めてアンフェアな条件に基づく輸出攻勢をかけられ、所得を奪われることが続いても、それに対抗する手段がないのです。
外国の製品に高関税をかけ、自国の産業の育成を望んだとしても、現実には、他国製品(ユーロ加盟国の製品でさえ)関税ひとつかけられない。
すなわち、生産性の低い国がユーロというグローバリズムに完全に取り込まれ、結果的に、ユーロに加盟したために、観光などを除き外国に輸出可能な製品(産業)が育たないといえます。
■まとめ
以上のような構造的な要因がある限り、財政危機が改善される望みは薄く、ユーロ危機はこれからも続くのではないでしょうか?
このままの財政危機→ユーロ危機⇒緊縮財政が続けば、国民の不満が鬱積し、EU統合の理念が揺らぎ、逆にEU分裂という危機が高まる可能性も考えられます。
さて、昨年(2012年12月)、ヨーロッパ全体で、1000万人規模の大きなゼネストがありました。【リンク】
緊縮財政政策に対して、各国が、もう耐えられないということが、主な原因であるとされています。(このゼネストの状況は、日本ではほとんど報道されていませんでしたが・・・)
一方、このような状況を受けて、最近ヨーロッパ各国では、右傾化の流れが進行しているようです。
※『なんで、PIIGS各国を援助しなければならいのか!!』と・・・・・・・
■EU諸国で何が起こっているのか?③
【リンク】
>全欧州で共通の目的、緊縮財政への抗議
>一層躍進する極右、EU分裂は政治から?
このように、近年、何故か非常にきな臭い動きが見受けられます。
次回は、EU各国の政治状況、極右勢力の構造について調査、分析してみます。お楽しみに!!
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