中国分析 アジアから世界を伺う中国の真意は?~シルクロード経済構想をどう見る?(1)~
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前回は、BRICS開発銀行を通じてロシアに接近する習近平中国について検討しました。今回は同じく、米国覇権と対立するもう一つの構想「新シルクロード経済構想」について分析します。
まずは、こちらの記事からご紹介します。
中国は西側に進路をとりました。ユーラシア大陸の向こうにはドイツがあります。中国は、近くの日本ではなく、ドイツを経済・産業のパートナーにすることにしたのです。ドイツも中国を経済・産業のパートナーにすることにしました。中国とドイツはユーラシア大陸を横断する鉄道を建設することを検討し始めたようです。ユーラシア大陸の北にはロシア、南にはインドがあります。中国、ロシア、インド、ドイツを4本の柱とするユーラシア協力体制づくりの方向へ進み始めています。
ここでいう中国とドイツ、ロシアを繋ぐ構想として、習近平中国主席が掲げる「新シルクロード経済構想」があります。
2013年9月18日
中国の習近平主席は9月7日、訪問先のカザフスタンの大学での講演会で、「シルクロード経済ベルト」と呼ぶ中央アジア諸国などとの経済協力の構想を明らかにした。「人口30億人のシルクロード経済ベルトの市場規模と潜在力は他に例がない」と述べ、太平洋からバルト海に至る物流の大動脈の整備や、人民元と各国通貨の直接交換取引の拡大を挙げた。
中国と中央アジアのほか、ロシアやインド、パキスタンなども含めた広範な地域を想定しているとみられる。
中国の意図を検討する為にまず、シルクロード経済構想とは何なのか、検討します。
シルクロード経済構想が初めて世界に公表されたのは2006年中国では習近平の前の胡錦濤主席の時代のようです。当時の記事を引用します。
シルクロード経済ベルト 画像はこちらから
「新シルクロード」、上海協力機構加盟国の経済・貿易の発展に大きな役割を果たす(チャイナネット)
2006年6月16日
紀元前、東の長安(現在の西安市)から、西のローマに至る「シルクロード」は、古代の東方と西方の経済・文化交流の重要な架け橋となり、華麗なシルクや中国の磁器、香料を運ぶ商人たちがこのルートを絶え間なく往来していた。 2千年後には、全長数万キロ、中国および中央アジア、ヨーロッパの40数カ国と地域を経由する「新シルクロード」が、「世界で最も長く、最も発展のポテンシャルが秘められた「大きな経済の回廊」と見られるに至った。
この「大きな経済回廊」の要衝地帯に位置する上海協力機構(SCO)加盟国間の経済・貿易協力関係はますます深まっている。東中国海沿岸部から広い中央アジア地域まで、長い石油パイプラインや自動車道路、鉄道が古代のらくだのキャラバンに取って代わりつつある。上海協力機構加盟国間の密接な協力関係の構築は、この地域の経済の発展を促す上で大きな役割を果たしている。
以下長いので要約しますが、
・「新シルクロード」中国区間の整備はすでに完了している。
・新ユーラシアランドブリッジは、東側の東中国海沿海部からカザフスタン、ロシア、ベラルーシ、ポーランド、ドイツなどの国と地域を経由し、最後にオランダのロッテルダムに到達する。
・全長約11000キロで、シベリアランドブリッジより2000キロ短く、所要時間と距離は海上ルートに比べて約半分に短縮される。
・2005年11月中国は初めてパイプライン方式による外国からの原油輸入を実現した
・石油パイプライン、天然ガスパイプラインと鉄道ルートの整備により、中央アジア、東アジアを貫く「エネルギー輸送ルート」が形成されつつある。
・中国とロシアの石油パイプライン建設についても全長4000余キロ、太平洋沿岸のロシア極東地域へ伸びる石油パイプライン工事は2005年4月に着工済み。
・電力などの分野においても、中国と上海協力機構加盟国間の協力も絶えず強化されている。
・2001年6月上海協力機構の創設時の『上海協力機構成立宣言』の中で、加盟国間の経済・貿易協力の巨大な潜在力を生かし、枠組み内の地域経済協力の展開を明記
だそうです。
中露のガスパイプライン 画像はこちらから
ここで登場する「上海協力機構」とは何なのでしょうか?
答えは、江沢民主席の時代に誕生した中露と中央アジア3国の5カ国による各国の国境確定を目的とする緩い軍事同盟であったようです。
中央アジアの地図 画像はこちらから
1996年4月、上海に中国、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンの5カ国首脳が集まり、首脳会議を行った。中国の江沢民主席がイニシャチブをとったもので、上海サミットあるいは「上海ファイブ」と呼ばれた。その構成国は中国および中国と国境を接する旧ソ連構成共和国であり、当初の課題は国境地帯における軍事面での信頼醸成と国境確定を目的としたものであった。(略)注目すべきことは、5カ国すべての首脳が例外なく毎年出席している点で、これは各国ともこの首脳会議を特に重視してきたことを示している。
1996年当時は「上海ファイブ」と呼ばれていましたが、その後加盟6カ国となり「上海協力機構」となります。
胡錦濤時代の上海協力機構(2008年12月)画像はこちらから
習近平時代の上海協力機構(2013年9月)画像はこちらから
上海協力機構は、中華人民共和国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタンの6か国による多国間協力組織、もしくは国家連合。2001年6月15日、上海にて設立(当時は江沢民主席)。1996年4月に初めて集った上海ファイブ(ウズベキスタンを除く5か国首脳会議)を前身とする協力機構で、加盟国が抱える国際テロや民族分離運動、宗教過激主義問題への共同対処の外、経済や文化等幅広い分野での協力強化を図る。2000年の会議にウズベキスタンがオブザーバーとして参加し、翌年に6カ国によって発展発足した。
軍事同盟として
SCO理事会は名目の上では特定の国を対象とした軍事同盟ではないと述べているが、発足から経過するにつれて次第に単なる国境警備の組織としての枠組みを越えつつあると危惧する声は多い。2005年にはロシアが中華人民共和国・インドと相次いで共同軍事演習を行い、2007年には上海協力機構に加盟している6カ国による初の合同軍事演習(平和への使命2007)を行った。
世界の多極化
SCOの加盟国、もしくは準加盟国の領域は地球上の陸地の約25%に達する。中華人民共和国の国境対策機構から、中華人民共和国・ロシア・インドといったユーラシア大陸における潜在的超大国 (BRICs)、モンゴル、インド、アフガニスタン、イラン、パキスタン、東南アジア諸国連合 (ASEAN) もオブザーバー加盟を申請するなど、北アジア、西アジア、南アジア、東アジアの連合体に発展する可能性を持つSCOは、いずれNATOに対抗しうる非欧米同盟として成長することを、アフリカや南アメリカの発展途上国・資源国から期待されている。
警戒感を強めるアメリカはSCOにオブザーバー加盟を要求したが、2005年にSCO理事会はこれを却下している。SCOはほかにもアフガニスタンのカルザイ政権が半ば「アメリカの傀儡」である事を理由に加盟申請を拒否したり、加盟国ウズベキスタンからの米軍撤退を要求するなど、アメリカとの対立路線を形成しつつある。過去のサミット(2007年のビシュケク・サミットを含む)では、たびたび間接的に「ワシントンへの反感」が示されている。
加盟審査
SCOへの加盟の希望については上述の理由から年々増加の一途をたどり、2004年にモンゴル、2005年にインド・パキスタン・イランがオブザーバー出席の地位を得た。特に印パ両国の加盟申請は中印パ3国間の対立の解消が期待されたが、2006年6月の会合では4カ国の正式加盟は見送られオブザーバーに留まっている。とはいえ、将来的な正規加盟国の増加は十分に考えられる想定であり、オブザーバー国の多くも正規加盟を希望している。
上記の様に、当初は加盟国の紛争調整のための機関が、次第に周辺国の欧米覇権主義に対抗したいとの期待を集めて変質している様子が伺えます。中国もこれを「利用」して、交通インフラやエネルギーのパイプラインなどを関連国との協力の中で実現していきました。
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■まとめ
シルクロード経済ベルトは、かつての中露(旧ソ連の諸国含む)間の国境紛争調整組織→中央アジアの緩やかな軍事同盟を下敷きに登場した国家間の経済協力機構の様です。経済構想に格上げしたのは、現主席の習近平とロシアのプーチン大統領と思われますが、その意図は何なのでしょうか?
引用した記事にある通り、中央アジアからの加盟申請が相次ぎ、アフリカ、南アメリカからも今後の展開を期待される上海協力機構は、明らかに米国一極支配の対抗組織として期待されているのでしょう。
恐らく、中露はやはり米国覇権主義に抵抗する意図があると見てよいと思います。対して、背後に居る西欧金融勢力(=金貸し)はこれをどう見ているのでしょうか?
この間、ウクライナ、ISISなどの紛争を見ても、ユーラシアの台頭をある程度容認している様に見えます(当然出すぎた杭は打たれるでしょうけれど)。その意図は米国やドルの一極支配に対して多極的に展開すること=ドル一極支配にリスクがある、と考えているのではないでしょうか?
次回ウクライナ問題を通じて更に検討したいと思います。
※ウクライナは新シルクロード経済構想の西の端、ドイツの手前に位置する国です。今年この地でロシアによるクリミア併合、マレーシア機撃墜事件などが起きました。これらの事件を通じて中国の中央アジアの構想を更に検討します。(続く)
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