2012-05-27

近代市場の成立過程(7)〜大航海時代を実現した金貸したち〜


(2)近代市場の誕生前夜・富豪の台頭
(3)ルネサンスの先駆者ダンテが金貸したちにもたらしたものは…
(4)メディチ家はなぜ栄えたか?
(5)ルネサンス芸術:金貸しによる恋愛観念の布教
(6)マキアヴェリの思想とその影響

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「近代」の出発点とされるのが15〜16世紀のヨーロッパです。大航海時代は世界規模の市場拡大・市場経済への転換点となりました。
なぜ、この時代に遠洋を目指したのか?、その必然性とはなんだったのでしょうか。そして、この大航海時代を支えたのは誰だったのでしょうか。そして実現した思想とは何だったのでしょうか。今回は、大航海時代について考えます。
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●なぜ、遠洋を目指したのか?

(マルコ・ポーロ)
約20年にわたって行われた旅行体験を口述し、ピサが「東方見聞録」として著しヨーロッパに広まる。イスラム諸国、インド、中国、ジパングについての記述がヨーロッパ人の世界への好奇心を掻き立てた。あのコロンブスもマルコ・ポーロに憧れていた。
⇒貧者や下層民であっても富を手に入れる可能性
(技術)
アジア・イスラム圏からの技術流入もあり軍事技術が発展。3大発明(火薬・羅針盤・活版印刷)。
⇒長距離航海が可能に
(国家)
長い間イスラムからの圧迫を受けていたポルトガル、スペインでは民族主義が沸騰し、強力な国王を中心とした中央集権制度を確立。いち早くレコンキスタ(国土回復運動)を実現した。
⇒強力な権力をもつ王の出現
⇒イスラム勢力の駆逐、北アフリカに進出

(ローマ教皇)
海外侵略を強力に後援。宗教改革の嵐に晒されていたカトリック教会は相次いで成立したプロテスタントに対抗するために海外での新たな信者獲得を計画。
⇒占領した領土で布教活動
(商人)
大航海初期、国家や商人が大航海へ出るには教皇の許可が必要であったが、宗教改革による教会権力の失墜。
⇒独自で大航海が可能に
⇒教会を通さず直接国家に金を貸す(国家と結託)

香料貿易は「アジア→地中海→ヨーロッパ」という経路の地中海貿易しかなかった。イスラム教オスマン帝国がキリスト教ビサンティン帝国を滅ぼし、地中海の制海権を支配し高い関税をかけた。
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⇒胡椒などの香料をオスマン帝国を介さず、アジアとの航路を開拓して手に入れることは莫大な利益を約束した⇒(地中海を経由しない)新たな交易ルートの開拓が渇望された

このように外圧・意識・技術・市場のターゲットが見事に一致し、大航海時代がスタートしたのです。
・・・・
●大航海時代を支援したのは誰か?
東インド航路を発見した「ヴァスコ=ダ=ガマ」、新大陸への航路を発見した「コロンブス」、世界一周をなしとげた「マゼラン」・・・など無数の航海者が熱気を帯びて大航海へ船出している。新市場開拓と探検が相半した遠征航路では莫大な経費を必要とする。では、誰が彼らを支援したのだろうか?
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コロンブスであれば「イザベル王女」、マゼランであれば「カルロス一世」、ヴァスコ=ダ=ガマであれば「マヌエル一世」という王家の支援を受けて・・・と思われているが、実のところ遠征の許可や認可はするものの金銭的な支援はほとんどなかったのです
この頃のスペイン、ポルトガル王国ともにレコンキスタ(国土回復運動)で戦争続き。その軍費は国王が商人や金融業者から調達しており、借金まみれでした。

■スペインへ
(中略)
 どれもが、スペイン王室とキリスト教会の『利』にかなっている。反面、コロンブスは、彼らに大きな借りを作ることになった。ところが、まだ機嫌を取らねばならない相手がいた。ジェノヴァの商人である。スペイン王室は、探険の許可は出せても、カネは出せなかった。770年におよぶレコンキスタで、スペインの国庫は空っぽだったのである。ということで、ジェノヴァ商人こそがコロンブスの隠れたスポンサーであった。
(中略)
 じつは、ジェノヴァ商人は、スペイン王室や貴族に多額の資金を貸し付けていた。その見返りとして、さまざまな特権を得ていたのである。その中には、免税、徴税権、領地の課税権まで含まれていた。まさに領主なみの権限である。たかが商人、されど商人。古今東西、大商人は歴史を変える力をもっている。裏を返せば、コロンブスは、それほどの実力者から、期待され、信頼されていたことになる。机上の歴史からはうかがえない、特別な何かがコロンブスにはあったのだ。1492年4月、コロンブスはスペイン王室と正式に契約した。コロンブスの人生、ここまでは順風満帆であった。
大航海時代Ⅷ〜コロンブスの真実〜

■フッガー家の暗躍
(中略)
 マゼランの世界周航は、5隻の船と265人の乗員で達成されたが、王たるもの、これっぽちの資金も用立てできない?そう、この頃の国王は意外に貧乏、というか、借金まみれだった。この時代、軍費は、国王個人が金融業者や商人から調達していた。中央銀行が設立され、銀行券を独占的に発行し、軍費調達が王個人を離れるのは、18世紀に入ってからである。マスケット銃の発明で軍費が暴騰し、王個人ではまかなえなくなったからだ。
(中略)
 カルロス1世は、1516年にフェルナンド5世が死去すると、後を継いでスペイン王となった。つづいて、1519年にマクシミリアン1世が死ぬと、カール5世として、神聖ローマ帝国皇帝に即位。ただ、このときは、選帝侯を買収するため、ドイツのフッガー家から莫大な借金をしている。ちなみに、選帝侯とは神聖ローマ皇帝やドイツ王の選挙権をもつ有力諸侯のことである。さらに、フッガー家は、マゼランの大航海にも多額の資金を用立てた。フッガー家は、カルロス1世(カール5世)を影で操る大商人であり、スペイン王室の事業に融資するのは当然なのだが、別の理由もあった。
大航海時代Ⅹ〜マゼランの世界周航〜

もうお分かりのように、大航海を支援(≒実現)したのは「商人=金貸し」です。
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大航海時代以降、侵略交易、戦争(植民地抗争)が常態化し、商人は莫大な富を蓄積していきます。また、封建制度下での農業主義から、中央集権体制による市場主義への転換点となり、大航海時代の後期では商業国家オランダ、イギリスが台頭していきます。こうして経済を市場中心で動かす市場経済が確立していきます。株式会社や保険の原型もこの頃に登場してきます。
・・・・・
●征服や略奪を正当化する思想とは?
大航海時代は、新大陸の征服、略奪という征服事業でもあった。メキシコ(アステカ帝国)を征服したコルテス、ペルー(インカ帝国)を征服したピサロらがその代表として有名です。先住民の惨状をみた修道士ラス=カサスが書いた『インディアスの破壊についての簡単な報告』に以下の惨状が記されています。

 「この40年間、また、今もなお、スペイン人たちはかつて人が見たことも読んだことも聞いたこともない種々様々な新しい残虐極まりない手口を用いて、ひたすらインディオたちを斬り刻み、殺害し、苦しめ、拷問し、破滅へと追いやっている。例えば、われわれがはじめてエスパニョーラ島に上陸した時、島には約300万人のインディオが暮らしていたが、今では僅か200人ぐらいしか生き残っていないのである。」(染田秀藤訳、岩波文庫)
第56回  アメリカの征服とヨーロッパの変容

では、このような虐殺を正当化できる思想とは何なのでしょうか?
スペインが新大陸を征服したときに、先住民を酷使することを正当化するために古代ギリシャの哲学者アリストテレスの権威をかりました。アリストテレスは奴隷を「生命ある道具」と定義しています。インディオは「野蛮人」で他人から支配され、統治される必要がある奴隷としてつくられた存在である。それに対してスペイン人は政治生活や文化生活をするようにつくられている。したがって、インディオが奴隷とされるのは当然である、という考えでした。
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⇒ヨーロッパ人が「文明」「理性」に対置して「野蛮」な住民を統治・支配するのは当然、という思想は植民地支配や略奪を正当化し、市場拡大に都合のよいものだったのです。
・・・・・
次回は教会の権威を失墜させ、大航海時代を加速させた「宗教改革」について扱います。

List    投稿者 mago | 2012-05-27 | Posted in 08.金融資本家の戦略No Comments » 

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