2013-10-23

支配されるエジプト

今回は、アラブの春以降、政情不安定なエジプトを取り上げてみたいと思います。
原油が高騰しているのはなんで?で取り上げた原油価格上昇とも関連しています。
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■スエズ運河
エジプトはOPECには加盟していません。そして、産油国ではありますが、現在は国内消費が主で輸出に回せるほどのの産油量はないようです。そうした状況で、エジプトの政情が原油価格に影響があるのは何故でしょうか? 🙄
それは、スエズ運河の存在があるからなのです。
在エジプト日本国大使館より

・スエズ運河は地中海側のポートサイードと紅海側のスエズを結ぶ全長約190kmの運河である。
・運行にかかる所要時間は、北行は約12時間、南行は約16時間である。
・運河通航量の推移を見ると、通航隻数は、1982年の2.3万隻をピークに船舶の大型化を背景に減少を続けてきたが、近年の経済活動のグローバル化を受け90年代末以降増加に転じ、2008年は21,415隻と過去最高に迫るレベルに達している。一方、通航総トン数は90年代に一旦落ち込んだもののその後は総じて年々増加しており、特に最近は中国とヨーロッパの貿易量増大の影響も加わり、2008年も過去最高を更新する9億1000万トンとなった。
・運河通航料収入は2008年に過去最高の5,382百万ドルに達し、エジプトの外貨収入源として重要な役割を果たしている。

⇒スエズ運河は、上記のように年間5000億円を稼ぎ出す世界の海運の重要ポイントであるのです。
 2001段階のデータによると、エジプトの外貨収入の2割を占め、世界海運貿易の7%(当時は19億ドル≒2000億円)を占めています。

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■エジプト(スエズ)の政情不安が原油価格に影響する理由
米石油産業が「棚からぼたもち」、エジプト政情不安の影響より

エジプトの政情不安の影響を受けて、米国オクラホマ州でも、原油価格は高騰している。4月中旬から7月初旬で、86米ドルから106米ドルへと23%も上昇した。
 アラブ世界、特にスエズ運河のあるエジプトの情勢が不安定になると、同運河経由での原油供給が中断されるかもしれないとの懸念から、原油価格は上昇する。現在、スエズ運河経由で1日あたり400万バレルが運送されている。
 ブルッキングス研究所(the Brookings Institution)エネルギー安全保障部門のディレクターを務めるチャールズ・エビンガー(Charles K. Ebinger)氏は、「米国の石油生産者は、政治不安から経済的利益を得ようとしています。エジプトに限った話ではなく、シリア、リビア、アルジェリアについてもそうでしょう」と述べた。
 米国の原油価格であるウエスト・テキサス・インターミディエート(West Texas Intermediate、略称:WTI)は、世界の3分の2の原油取引の指標となっている欧州のブレント原油価格の影響を大きく受ける。ブレント原油価格はスエズ運河に不安があると上昇し、それに連動する形で、WTI価格も上昇する。
(中略)
 同氏は、中東諸国の政情不安と米国の利益に明確な相関関係があるかと尋ねられて、「確実にあります。そして、それは、何も今に始まったことでありません。何らかの事情で原油高のとき、直接その原因の悪影響を受けない原油関係者は、いつだって利益を得ることがきるものなのです」と述べた。

⇒スエズは中東(そして、中国、日本)とヨーロッパを結ぶ航路であり、スエズを通過しない場合、喜望峰経由でかなりの費用(航行費と保険代)がかかる為、政情不安でスエズの閉鎖の可能性があると、原油価格に影響が出るのです。
中東とはイスラエル(ユダヤ)とアラブ(イスラム)の宗教対立だけでなく、近代から現代にかけてのエネルギー政策の中心地であり、欧米各国の思惑が複雑に絡み合った地域です。また、スエズという交通の要所を抱えることも、注目される重要な要件となっています。そして、エジプトは重要な位置づけを占める為に、古くから他国の支配を受けて来た土地なのです。
■支配されるエジプト
エジプトは世界4大文明の発祥の地のひとつですが、近代以降、スエズ運河を擁する海洋貿易の拠点であり、石油を巡るアラブの世界の政治上も重要拠点となっています。エジプトは中世から近代〜第2次大戦掛けてずっと被支配の歴史を辿っています。ローマ帝国、ビザンチン帝国、オスマン・トルコ帝国などによる支配が続き、そして、オスマン・トルコ帝国支配の1798年、失敗には終わっていますが、フランスの英雄ナポレオンのエジプト遠征もありました。
その後、1869年11月17日、地中海と紅海を結ぶスエズ運河が完成するのですが、被支配の歴史はスエズ運河が重要拠点であった事もあり、当初からフランス、イギリスの影響を色濃く受けています。そしてスエズ運河をイギリスに買い取られ、イギリス支配により大戦中は一大軍事拠点とされていました。
その後、形の上ではエジプト人による国家が成立しますが、現在に至るまでアメリカの実質支配が続いています
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■アラブの春〜2013政情不安
エジプト独立の立役者であり、スエズ運河国有化に成功したナセル大統領ですが、その貢献は当時の戦勝国であり超大国アメリカの後ろ盾があってのものでした。その流れを汲むサダト大統領〜ムバラク大統領は大きくはずっと親米政権です。そして、親米政権というよりアメリカ傀儡政権と言うべきムバラク大統領によって、IMFのいいなり政策が続けられました。
その結果
 ・自由化政策による外資による収奪⇒国力DN⇒支配層には援助という名目でアメリカより資金注入⇒貧富の格差拡大⇒国民の不満の増大⇒独裁政権への不満・独裁政権からの弾圧  
一方で、民主主義実現を旗印に
・市民運動家の支援⇒アメリカの政治家やアメリカ市民運動家との会談⇒財団を通して活動資金提供
       ↓
  独裁者(ムバラク)がスケープゴートに。。。
  市民の非難は独裁者に集中し、アメリカ批判は出てきません。そして、インターネットを使った大きな政治運動に発展していく過程にアメリカの財団の暗躍もあったようです。
  ⇒こうして「アラブの春」という世界的な出来事になったのです。

さらに、
ムバラク解任→民主主義選挙となりましたが、
 ・イスラム政権誕生←アメリカの財団による資金サポートがありました。
  
 ・ムバラク政権の下で、アメリカの資金提供を受けてきた軍部にも、アメリカからの支援は続きました。
 ・民主主義と自由主義の市民活動家たちへもアメリカ財団による資金提供が行われました。
その結果として、軍部のクーデターによるムルシー大統領からの政権剥奪となりました。現状は、軍部による暫定政権≒アメリカ傀儡政権による支配が続いています。
こうした事情は、誰が見ても軍部クーデターである事件に対して、オバマ大統領からは軍部に対しての支援停止の宣言はあってもクーデターという非難の言葉がなかった事からもアメリカが大きく関与していたものと思われます。
国内に造り出した対立勢力の双方を支援することで、エジプトを自国の思惑通りに操り利を得るやり方は金貸し・商人たちの伝統的手法のようです。
■中東の楔としてのエジプトの悲劇
欧米各国にとって、中東地域が一枚岩となってエネルギー資源を掌握されることが、最も恐れていることではないでしょうか。
そう考えると、イスラエルという国家成立に対する対応や、イスラムとユダヤの宗教対立などを利用しながら、紛争の目を絶やさないことが重要なのかもしれません。
特にOPEC成立以降、エジプトは欧米各国が中東に打ち込んだアラブ諸国に対する楔であり、石油エネルギーに各国の経済が影響される限り、今後も紛争の呪いから逃れることが出来ないのかもしれません。

List    投稿者 bonbon | 2013-10-23 | Posted in 08.金融資本家の戦略No Comments » 

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