世界を動かす11の原理-4~「基軸通貨」を握るものが世界を制す~
しばらく期間があいてしまいましたが、前回シリーズの続きです。今回は、『第6の原理:「基軸通貨」を握るものが世界を制す』から引用します。
3つ子とも4つ子とも言われるアメリカの赤字ですが、そういう状況にもかかわらず、アメリカ経済が崩壊しない理由を解説しています。
それは大きく以下の2点で説明ができるとのこと。
①「ドルが還流している」
②「ドルが基軸通貨」
但し、ドルの価値はこれまでも今後も確実に下がり始めている。
どのような展開になるのか?
以下、「クレムリン・メソッド」~世界を動かす11の原理~(北野幸伯著)からの紹介です。
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■ドルが「基軸通貨」でいられることが、アメリカの全てを支えている
どうしてアメリカだけは、こうして「世界最大の貿易赤字国」「世界最大の貿易赤字国」「世界最大の対外債務国」であり続けることができるのか?
★一つ目の理由は、「ドルが還流している」こと。
これは、一度アメリカから出て行ったドルが、再びアメリカにかえってくることを意味します。
どうやって?
まず、アメリカは貿易赤字超大国。
たとえば、日米貿易収支は2013年、日本が6兆1134億円の黒字になっています(アメリカは、同額の赤字)。
つまり、その分アメリカからドルが日本国内に入ってきた。
ところが、そのドルは、日本国内に留まらず、アメリカに戻っていく、還流するわけです。なぜ?
①アメリカの高金利政策
ここ数年、アメリカでも低金利が続いていますが、リーマン・ショックによる今回の世界経済危機が始まるまで、アメリカは常に日本より高金利でした。
もし日本の金利がゼロで、アメリカが5%であれば、日本の銀行にお金を置いておくより、ドルでアメリカの銀行に預けた方が、より高い利息が付いて儲かります。
だから日本人は、ドルを買って、それをアメリカの銀行に預ける。
つまり、貿易赤字で日本に来たドルを、またアメリカに戻すわけです。
「アメリカの銀行にドルで持っていたほうが儲かる」という理由で。
②アメリカ国債
日本、中国を筆頭に、世界中の国々が、世界で最も信用のある(あった)アメリカ国債を買っています。
たとえば、中国は、対アメリカで膨大な貿易黒字を計上している。
そして、米中貿易はドルで行われるため、中国側にどんどんドルが増えてしまいます。
しかし、中国は、そのドルでアメリカ国債を買い、ドルをアメリカに戻して(還流させる)いるのです。
③アメリカ株
最もいい例は、1990年代後半。ITバブルが起こった95年から2000年1月まで、ダウ(米主要業種の代表的な30の優良銘柄で構成される平均株価指数。日本の日経平均株価指数のようなもの)は3900ドルから1万1900ドルまで、5年間で300%も上昇しました。ナスダック(アメリカにある世界最大のベンチャー企業向け株式市場)の株価は、同じ時期に5倍になっています。貿易赤字超大国アメリカからドルはどんどん外国に出て行く。しかし、皆が「アメリカ株を買う」ために、自国通貨を売ってドルを買う。そのドルを売って、アメリカ企業の株を買う。この過程で、一度出ていたドルが、アメリカに戻ってきます。(還流)
★アメリカが破産しないもう一つの理由は、「ドルが基軸通貨」だから。
通貨の上がり下がりは、商品と同じで需要と供給で決まります。
普通、貿易赤字の国では、自国通貨の需要が外貨よりも少なく、どんどん下がっていきます。
これはどういうことか?
貿易赤字というのは、国として、買い(輸入)が売り(輸出)よりも多い状態です。
そして、普通の国は、自国通貨でものを買う(輸入する)ことができない。
まず、自国通貨を売って貿易決済に使える外貨(しばしばドル)を買わなければならない。ところが、この国は貿易赤字国で、買い(輸入)が売り(輸出)より多い。外貨をどんどん買う、つまり、外貨の需要が増えているということですから、外貨はどんどん高くなります。その一方で、自国通貨はどんどん売られ、需要がないということですから、どんどん下がっていくのです。
しかし、「基軸通貨」である「ドル」の需要は常に世界中にあります。
では、どんな需要?
①アメリカと他国(世界共通)の貿易決済通貨として
たとえばアメリカとロシア、アメリカと中国が貿易をするとき、理論的にはルーブルや人民元で取引をしてもいいはずですね。ところがそんな話は聞きません。
ロシア企業がアメリカ製品を輸入する(買う)時、一旦ルーブルをドルで買い、その後、ドルで支払をする。
ロシア企業がアメリカに何かを輸出する(売る)とき、その代金はルーブルではなく、ドルで受け取る。
②他国と他国の貿易決済通貨として
たとえば、日本が中東から石油を買う。その取引に、アメリカは全く関係ありません。ところが、どういうわけか、その支払に使う通貨は、円でも中東の通過でもありません。日本の会社はまず一旦ドルを買い、そのドルで石油の代金を支払う。
③外貨準備として
世界の国々の中央銀行が、外貨を保有することを「外貨準備」といいます。
そして、その額のことを、「外貨準備高」といいます。
因みに日本の外貨準備高は2013年、1兆2668億ドル(約126兆円)で、世界2位でした。
そして、世界中の中央銀行が、外貨準備として「ドル」を保有しています。
④世界中の民間人がドルを保有している
これは、なかなか日本人にはわかりにくいですね。
しかし、事実として経済が不安定で、自国通貨が信用できない発展途上国の人達は、自国通貨ではなく、ドルを貯めていることがよくあります。ロシアも10年くらい前までは、そうでした。
(中略)
長期的には、アメリカの膨大な貿易赤字により、ドルは下がり続けていく。
いかに「ドルが還流している」とはいえ、また以下に「基軸通貨」とはいえ、ドルを世界中にばら撒き続ければ価値は下がっていく。
しかし、ドルがいまだに「基軸通貨」の地位を保ち続けているがゆえに、その下落過程は緩やかなのです。嘗てのクリントンのように「ドル還流」を効果的に行えれば、資金がアメリカに集中し、ドル高になることもある、となります。
(中略)
さて、私たちは、「アメリカの弱点」の話をしていました。
それはなんでしょうか?
確かに、ドルは現在「基軸通貨」ではあります。
しかし、それは、「国際法」で決められているわけではない。
理論的には、ドルが基軸通貨のポジションから転げ落ちる可能性もある。
因みに、ドルの前の基軸通貨は、英ポンドでしたが、第一次世界大戦後から徐々に米ドルにとってかわられました。
では、ドルが基軸通貨でなくなると、どうなるの?
輸入品の支払をドルでできなくなる。ドルを売って(貿易決済に使われる)外貨を買い、支払わなければならなくなる。すると、アメリカは、普通の貿易赤字大国となり、ごく普通の恒常的貿易赤字国と同じ危機に陥ります。ですから、
理論的にアメリカを没落させる方法は簡単なのです。
ドルを基軸通貨の地位から引き摺り下ろせばいい。
どうやって?これも簡単。
ドルの使用料を減らし、他の通貨で決済するようにしてしまえばいい。
因みに、このことは、世界の上層部では「常識的な」話です。
しかし、私たちは、「そんなことできるの!?」と思いますね。
これを実際に「やっちゃった人たち」がいるのです。
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