2012-01-29

2012年、新興国はどう動く?(3)緊迫度を増すイラン情勢の行方は?

昨年後半から、イラン周辺がにわかにキナ臭さを強めている。
 
イランの核兵器開発疑惑に対して欧米がイラン原油の禁輸などの制裁を決め、これに対してイランが「制裁ならホルムズ海峡を封鎖する」と反発。ホルムズ海峡は中東原油の重要な搬出路で、封鎖されれば世界の原油供給に多大な影響が及ぶ。
 

原油輸送の要衝ホルムズ海峡

これに対し欧米は、ホルムズ海峡封鎖ならイランに対する軍事攻撃も辞さないとし、米英の空母が次々とペルシャ湾に集結。いつ中東戦争が勃発してもおかしくない状況になりつつある。
 
この一連の危機は、存在しない大量破壊兵器を理由に始められた’03年のイラク戦争同様、欧米の金貸し勢によってかなり強引に作りだされている感が強い。だが、アメリカも欧州も経済危機に晒され没落の途にある現在は、当時とは情勢が違ってきている。
 
今回は、この緊迫するイラン情勢が今年どうなっていくかを考えてみたい。
 
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まず今回のエントリーでは、昨年後半~現在までの状況の推移を整理してみる。
 
■イラン核開発疑惑を巡る最近の事件群
今回のイラン制裁の直接的契機は、昨年11月8日のIAEA(国際原子力機関)報告で、「イランが核兵器開発を進めている疑いが濃厚」とされたからだ。イランは「核開発は平和利用=原子力発電のみが目的」と猛反発している。
 
この報告直後の11月28日、イラン中部イスファハンの核施設が何らかの攻撃を受け爆破される事件が起きた。イランでは2010年にもStuxnetというコンピュータウイルスによって核施設の遠心分離機が破壊されるというサイバー攻撃を受けている。このウイルスはアメリカとイスラエルの共同開発らしい。

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イスハファンの核施設の爆発

 
翌12月に、イランは米国CIAのステルス無人偵察機RQ-170を捕獲したと公表した。米国はこれを本物と認め返還を要求しているが、イランは本物の代わりに約300円の模型を返還する、と挑発している。この偵察機は2009年に発表された最新鋭機で、ウサマ・ビンラディンの捜索やイラン核施設の偵察に使われていたと考えられている。偵察機には自爆装置も装備していたが、不作動のまま無傷で着陸させられており、ロシア製の軍事電子システムが使われた可能性が指摘されている。
RQ170.jpgmini-RQ170.jpg
CIAの無人偵察機RQ170(左)とその模型

さらに今年1月には、核科学者が自家用車に仕掛けられた爆弾により殺害された。イランの核科学者のテロによる犠牲は、2010年の1月、7月に続き3人目に上る。
 
佐藤優氏によれば、これらの秘密工作に関与しているのは、米国、イスラエル(モサド)、そして米国以上に英国(MI6)が深く関与しているのではないかという。
 


 
■イランは核兵器開発を行っているのか?
今回の制裁は、イランも非核兵器国として参加しているNPT(核不拡散条約)違反だ。NPTでは、非核兵器国に対して原子力発電など核の民生利用は認めているが、軍事利用(核兵器保有)は認めていない。 
前述の佐藤優氏によれば、仮にイランが核兵器を保有した場合、サウジアラビアが隣国のパキスタンから核弾頭を移転するという秘密協定があるらしい。中東唯一の核保有国であるイスラエルは、イランの核開発に最も神経をとがらせ、軍事利用であろうと民生利用であろうと本気でイランの核開発を阻止しようとしている。イランは、実際に核兵器製造を行っているのか?
 
IAEAの「核兵器開発の疑い濃厚」という報告の根拠は、ウラン濃縮が民生利用にしては高濃度だという点だが、福島原発事故で明らかになったように、原子力発電とは「緩やかな核爆発」であり、原理的に大きな差は無く境界はあいまいだ。現に、今年に入って米科学国際安全保障研究所がイランには核兵器製造に必要なだけのウランを生産する能力を保有していないと報告している。IAEAも、2009年の段階ではイランが核兵器を開発している証拠はない、と報告していた。それが今回、判断を180度転換させている。 
 
今回の報告について、日本の防衛研究所もイランが近年兵器化を積極的に推し進めていることを裏付ける証拠が乏しいと指摘している。
 
イランが軍事転用も視野に入れて核開発を進めている可能性は十分考えられるが、今回のタイミングでのIAEA報告は非常に政治的な色彩が強い。米国、英国、イスラエル、IAEAはおそらく連携しており、報告はイラン包囲網強化のシグナルと考えられる。
 


 
■イランが標的にされる本質的理由
イランがこのように米英から標的にされる理由には以下の3つが考えられる。
 
1.原油埋蔵量世界3位、天然ガス2位のエネルギー大国であること
イランはサウジ、カナダにに次ぐ原油埋蔵量を誇り、輸出量では2位で日本も1割をイラン原油に頼っている。さらに、天然ガス生産量もロシアに次いで世界2位である。
 
金融経済が破綻し現物経済へのシフトが進む中、欧米にとっても、あるいはロシアや中国にとっても、エネルギー覇権を狙う上でイランをどう手中に納めるかが極めて重要になっている。
 
2.イラン支配権の奪還という命題
70年代までのイランは現在と全く逆に、親密な親米国家だった。デヴィッド・ロックフェラーの自伝にも、革命前のイラン最後の皇帝(シャー)=パーレビ国王との親しい関係が記されている。1979年のイラン・イスラム革命の成功は、欧米にとって大きな衝撃だったという。
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イラン革命で失脚したシャー国王一家

 
いわば、米国や欧米金融勢力の世界覇権戦略にとっての重大な失敗例=汚点がイランであり、彼らはイランを再度手中に納めることを絶対命題だと考えているだろう。
 
3.ユーロ建て石油市場創設→ドル体制崩壊の阻止
反米に転じたイランの政策であまり報道されないのが、「イラン石油取引所」と呼ばれるユーロ建ての国際石油先物市場の創設計画である。これが実現すれば現在のドル基軸通貨制を崩壊に導く程の影響力を持つ。ドル体制延命勢力はこれを許すわけにはいかない。
こうして見ると、現在のイラン包囲網は、ドル建ての石油取引を変え米国支配から離脱しようとして追い詰められ、戦争経済の餌食にされたフセインのイラク戦争と非常に良く似た構図だ。米国とドルの凋落がますます進行している現在、今後の世界勢力図のキャスティングボードを握る国の一つがイランだと言える。
 


 
■イラン制裁に対する関係諸国の反応は?
今年に入って、イラン産原油の禁輸などのイラン制裁の同意を求めてガイトナー米財務長官らが各国を走り回っているが、各国の反応はどうか。
 
【EU】1月23日の外相理事会で、今年7月以降のイラン原油の全面禁輸とイラン中銀の資産凍結を正式決定。(リンク)
 
【イスラエル】イランが核開発を強行するなら単独でも軍事作戦に踏み切る姿勢。但しその時期は「間近ではない」と発言。(リンク)
 
【インド】イランの原油輸出先第2位のインド政府は、1月11日段階で一旦輸入削減を石油業者に要請したが、3日後に輸入継続を決定。決済は金で行う方針。
 
【中国】中国外務省は、EUの禁輸措置に関する質問に文書で「単純に圧力をかけ、制裁を課すのは建設的なアプローチでない」と批判。 (リンク)中国はイラン原油の最大輸出先。
 
【ロシア】ロシア外務省は23日発表した声明で、EUの制裁強化は「イラン経済の全部門を(逼迫、ひっぱく)させる試み」であり、「このような圧力下でイランがいかなる譲歩や政策修正にも応じることはない」と述べた。(リンク)
 
【日本】1月12日に安住財務相がイラン産原油の輸入削減を表明。しかし、3日後に野田総理は「あれは個人的発言で政府の見解ではない」とブレーキ。(リンク)
 
という形で、新興大国の中国、ロシア、インドはいずれも制裁に実質的に反対、日本はイラン原油への依存度が高く禁輸はしたくないのが本音だが、例によって欧米の圧力に屈するほかない、という状況だ。
 
今回、イラン包囲網を仕掛けた中心勢力は誰で、何を狙っているのか?そして、もし制裁が実行に移された時、追い詰められたイランは、そして欧・米・イスラエル、さらに中・露・印はどう動くのか?改めてこのシリーズの中で予測してみたい。
 
次回は、民主化運動や資源争奪戦によって市場世界に本格的に巻き込まれ始めた、アフリカの状況を見てみます。

List    投稿者 s.tanaka | 2012-01-29 | Posted in 07.新・世界秩序とは?No Comments » 

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