2010-03-04

環境から経済を考える5〜番外編:アメリカのフードスタンプ

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これまで4回に亘って宇沢教授の「「社会的共通資本」について勉強してきました。
その中で、実践事例と思えるものを見つけましたので、報告したいと思います。

>人々にとって最低限必要なモノやサービスを社会全体として保障し、提供することになります。この際、社会保障を現在の生活保護やベーシックインカム理論に見られるような「お金(現金)」の供給によって行うのではなく、物資やサービスそのものの充実によって実現することになります。(環境から経済を考える2〜お金より環境でしょ〜)

お金ではなく、物資提供に近い制度を実行している国があります。
1964年から制度化されたこの制度は実に2009年11月時点で3818万人となり、人口の12%で8人に1人が受給を受けているのです。
その制度とは、『フードスタンプ制度』で、実施している国は何とあのアメリカなのです。

フードスタンプ制度とは、食糧配給制度ではないのですが、通貨と同様に使用できる金券みたいなもので、登録している店で使用できます。昨年11月にはコストコ(会員制の大型スーパー)でも利用できるようになりました。
対象商品は食料品であり、タバコやビールなどの嗜好品は対象外となります。

所管省は農務省ですが、基準の設定は運用は州毎に任されていることから受給資格はまちまちです。概ね4人家族で月収2500ドルを下回る場合に対象になる事が多く、最大1人当たり月100ドル相当のスタンプが支給されます。

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そもそも始まりは、1964年、リンドン・B・ジョンソン大統領の貧困対策の一つ。
当時アメリカ国内は、社会的に保障されず、差別に悩む黒人が、公民権を獲得する為の運動(公民運動))を行い、急速に盛り上がっていました。
特に1963年は南北戦争の奴隷解放宣言から100周年であり、黒人のデモが相次いで白人と衝突し、銃撃戦に発展する地域もありました。一方で、指導者的存在であるキング牧師はインドに学んだ非暴力闘争を主張し、支持を拡大していました。この公民権運動に加え、フランスを中心にしていた学生運動が飛び火し、学生によるストライキやデモによって、ほとんどの都市が騒然とした状態となっていました。
そこでジョンソン大統領(民主党)は、拡大しつつあった「貧困との戦い」と、公民権運動の最終的な解決を目指し、「偉大な社会」計画を提示。その柱の一つとしてこのフードスタンプを制度化したのです。
当初、利用人数少なかったようですが、2000年から受給者が拡大し2004年2160万人→2006年2620万人→2007年2800万人→2009年11月3818万人と推移しています。

「フードスタンプ・プログラムがアメリカを強くする」

これがアメリカ農務省のキャッチフレーズのようです。
確かに低所得者向けの生活保護システム(アメリカでは栄養補助プログラムと呼んでいますが)は社会的共通システムとして可能性を感じます。


しかし、実体はどうなのでしょう?

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実は低所得者がフードスタンプで手に入れる食糧は安い所謂ジャンクフードが多く、それが原因で肥満が多いと言われています。アメリカでは肥満は”豊かさの象徴”ではなく、“貧困の結果”と言われているのです。
肥満人口の比率が30%を超えるのは、ルイジアナ州、ミシシッピ州、ウエスト・バージニア州ですが、ミシシッピ州とルイジアナ州は全米で1番目と4番目に貧しい州なのです。
1964年から比べて現在のアメリカは圧倒的に豊かになっているはず。でも満足に飯が食えない人々が増えている。つまりこれはアメリカの貧富の格差が拡大(豊かなものはより豊かに、貧しいものはより貧しく)に他ならない。一体どうして?

貧困の圧力        フードスタンプ
生存圧力 ⇒どうする?⇒(社会的共通資本)

一見正しそうなこの方針も、結果から見ると実は答えになっていない。
低所得者層は単に空腹を満たす以上に、食事に刺激的な『快』を求めているのです。だからこそ、ジャンクフードを食べ、結果として肥満になっているのです。
これは、アメリカの格差を生み出している私権の強力な圧力と、「個人主義」という観念の挟み撃ちにより、仲間や社会とのつながりを感じられない共認不全がアメリカ社会に横たわっていると考えられます。そしてその不全を捨象するために食欲以上に「食」に収束しているのです。
そして肥満は様々な病気を引き起こし、公的健康保険制度のないアメリカでは満足な治療も受けられず→さらに働けなくなり→益々貧富の格差が拡大していくのです。

格差社会⇒人工的な貧困圧力⇒フードスタンプ→ 格 差 拡 大
  ↓           ↓         ↓            ↑
共認不全⇒ 代 償 充 足 ⇒ジャンクフード→肥満化→病気

みなさんも経験のある仕事や人間関係に上手くいかなかったときの「やけ食い」「やけ酒」の常態化と思われます。
これは単に社会的共通資本を整備して、皆に提供すれば済むというわけではないということを示していると思います。つまり重要なのは前回の

>共認充足の場を基盤とした集団の再構築と、市場システムの介入する範囲を制限するということが、社会的共通資本を管理していくための中心軸になるのではないかと思います。(環境から経済を考える4

ということです。
今回、社会的共通資本を勉強して、最も重要な社会的共通資本とは実は「共認形成の場」であることが鮮明になったと思います。

List    投稿者 goqu | 2010-03-04 | Posted in 07.新・世界秩序とは?3 Comments » 

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コメント3件

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