2012-02-28

なぜ今、TPPなのか?【12】米国経済の現状(貿易面の分析)

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最近の米国の経済は緩やかに持ち直しており、失業率も低下しているという報道がされています。
そこで、今回は、現状の米国の国内事情、貿易の実態、オバマ大統領の経済戦略ということに焦点をあて、米国が、TPPを推進している理由を分析していきたいと思います。

今回は、基礎編という事で、米国の実態を調査し、次回は、分析編と都合二回に分けてお送りします。
今までの記事は以下をご覧ください。
【1】プロローグ
【2】基礎知識の整理
【3】貿易自由化交渉の歴史
【4】世界に広がるブロック経済圏の現状(1):欧州
【5】世界に広がるブロック経済圏の現状(2):北中米、南米
【6】世界に広がるブロック経済圏の現状(3):アジア

【7】中国はどう見ているか?
【8】中国はどう見ているか?(なぜ中国はTPPに参加しない?分析編)
【9】ロシアはどう見ているか?〜資源大国ロシアの世界戦略〜
【10】EUはどう見ているか?
【11】コラム:日本は貿易立国って本当?
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●まずは、米国の国内事情について調査しました。
■子供の貧困が急増【リンク
貧困者が急増しているアメリカ社会ですが、その貧困者の中でも年齢が若いほど貧困に陥る割合が拡大する傾向にある。65歳以上の老人の貧困者は10人に1人(9.5%)に対して、18歳以下の子供は5人に1人(19.2%)が貧困者となっている。
■仕事があっても所得が少なすぎて、フードスタンプ登録者が急増【リンク
就業しているフードスタンプ受給者が増えているということは、貧困ラインから抜け出す仕事(所得)がない。
■1%の高所得者は収入増、税率減。見かけ上彼らは高額納税者【リンク
93年以降、高所得者の税率減。
トップ1%の所得増は275%、下は18%(79〜07年)
■連邦所得税を支払わないアメリカ人(扶養家族として納税された場合は数えない)の割合は、1984年の14.8%から2009年には49.5%まで増加した。
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■反格差運動の支持者は、若く・働いていて・高学歴・収入が少ない
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このように、現在の米国の国内事情は、非常に過酷な状況にあると言えます。
●次に現在の米国の貿易実態について調べてみましょう。
■近年の米国の貿易相手国(2000年〜2009年)【リンク
・輸入:①中国、②カナダ、③メキシコ、④日本、⑤ドイツ(2009年)
・輸出:①カナダ、②メキシコ、③中国、④日本、⑤英国(2009年)
■近年の米国貿易額と主要品目【リンク
・貿易額(2010年、財貨のみ)
輸出:12,887億ドル(前年比+20.6%)
輸入:9,357億ドル(前年比+22.9%)
・主要貿易品目
輸出:自動車、同部品、半導体、コンピューター関連製品、航空機、電気機器
輸入:自動車、同部品、原油、コンピューター関連製品、医薬品、衣料品
■近年の日米間の米国貿易額と主要品目
・貿易額(2010年財貨のみ)
輸出(日→米):1,229億ドル(前年比+25.9%)
輸入(米→日):616億ドル(前年比+17.1%)
・主要貿易品目
輸出(日→米):自動車、自動車部品、原動機、映像機器
輸入(米→日):航空機類、半導体等電子部品、科学光学機器、穀物類
■日米貿易構造【リンク

日本の対米輸出のうち、実に4割は自動車である。自動車産業にとって米国市場の重要性は、日本の自動車の輸出のうち、4割が米国向けであることに示されている。自動車以外に日本企業にとって米国市場の重要性が認められる産業としては、医薬品、一般機械、電子・電気機械、精密機械などが挙げられるが、それらの産業の輸出額は自動車産業のそれと比べると極めて小さい。
日本の米国からの輸入については、工業製品、その中でも機械製品が大きな位置を占めているが、農産物・食料品の割合も極めて高い。実際、日本の米国からの輸入のうち、13%は農産物・食料品である。機械製品の中では、電子・電気機械やその他の輸送機械(航空機および航空機エンジンなど)が大きな位置を占めている。
日本は機械製品に競争力を持つのに対し、農産物・食料品、飲料・たばこにおいて競争力がないことが分かる。

■変容する米国貿易【リンク
東京三菱UFJ銀行がこれからの米国貿易変容について、考察しているレポートを紹介します。
米国貿易の構造変化(拡張的な輸出>抑制的な輸入)を通じて、米国の貿易赤字は縮小していくとみられる。仮に世界経済の回復が遅れたとしても、米国の内需にバブル時の成長力がないため、輸入が輸出を大きく上回って伸び、赤字額がかつてのような水準(ピークでGDP比6%弱)に戻る可能性は低い。米国は、世界経済回復の起点にはなるが、かつての牽引役としての影は薄れ、新興国等への外需依存を高めていくことが予想される。
結局、米国が、これまでの過剰消費を続けられなくなり、米国内の消費力が低下し(→抑制的な輸入)、新興国への外需依存度が高くなる(→拡張的な輸出)という構造変化が起きているということになります。。
●オバマ大統領のオバマ米大統領 一般教書演説の内容
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ここで、今年のオバマ大統領の一般教書演説の内容について整理します。
オバマ大統領の演説の内容をそのまま転記します。

日本語訳:我々は改善に取り組まなくてはならない。米国はかつて大陸横断鉄道網を建設し、農村に電気を引き、各州をつなぐ高速道路網を建設した国だ。こうした仕事はレールや舗装道路を敷いただけではない。新しい鉄道駅や高速道路の近くの町から、新たな仕事が生まれた。
過去2年間、我々は21世紀の再建作業を始動した。これは衰退した建設業界に数千もの仕事を与える事業を意味する。今夜、私はこうした努力を倍増することを提案する。壊れかけた道路や橋を修復する仕事に、さらに多くの人をあてるようにする。そのための給与や民間投資を保証し、政治家のためでなく、経済にとって最適な事業を選択するようにしたい。
日本語訳:我々は2014年までに輸出を倍増する目標を掲げた。輸出を増強すれば国内で雇用を創出できるからだ。すでに輸出は増えている。最近、インドと中国との間で、米国内において25万人の雇用創出につながる合意に署名した。先月は、7万人の米国人の雇用を支える自由貿易協定について、韓国と最終合意した。この協定はビジネス界と労働者、民主党と共和党からこれまで例がないような支持を受けている。上院にはこれを可能な限り承認するよう求める。

オバマ米大統領 一般教書演説のまとめると
■米企業の海外利益に最低限の課税を提案、国内で雇用創出した企業には税優遇措置
■海外へ製造拠点を移した企業に対する税優遇措置の廃止を検討
■住宅所有者の低金利でのローン借り換え支援を議会に要請
■富裕層に最低30%の税率を課し、住宅とヘルスケアの控除を限定
■不公正な通商慣行を行う国を対象とした新機関を設立
■米国はイランの核兵器入手を阻止することを決意、目標達成のためにはあらゆる選択肢を排除しない
■海外派兵撤退によるコスト削減で、財政赤字削減とインフラ整備を提案
■国内製造業底上げに向け、ハイテク製造業への税率控除増を提案
さて、ここでオバマ大統領が、今年の一般教書演説で、大企業を中心とした経済政策→国内企業の活性化→FTA、そしてTPPに積極的に参加するに至った経緯を紹介している記事がありましたので紹介します。
●TPP、オバマと企業とアメリカ人【リンク

オバマ大統領が当初、米韓FTAに反対していたのは有名な話だ。2008年、同氏が米民主党の大統領候補として登場した頃、当時のブッシュ大統領に公開書簡を送りつけ、問題のある協定内容ゆえ議会に対する批准案上程を見合わせろと主張した。米韓FTAは貿易拡大に繋がらず、単に雇用の悪化を招くだけで労働者にとって何らメリットなしと断じて、労働組合から拍手喝采を浴びた。選挙向けアピールの意味合いもあったろうが、額に汗する労働者の味方だと云うポーズが新鮮だった。
ところがこのポーズは大統領就任後、僅か2年しかもたなかった。2010年の中間選挙で歴史的な大敗を喫し、再選のチャンスが薄くなったオバマ大統領は悟ったのだ。労働者に媚びても景気は上向かないし、株価も下がる一方だ。票も伸びない。よっし、アメリカを代表する大企業に選挙協力をお願いするしかない。企業に儲けさせて景気回復に繋げよう。

●まとめ
国内事情としては、高所得者と低所得者の所得格差は、ますます開き、既に所得税を支払えない国民が50%にも上がっているのが現状のようです。
こうした国民の状況下で、今までのような過剰消費は続けられなくなり、米国内の消費力が低下、新興国への外需依存度が高くなるとう構造変化が起きつつあります。
一方、貿易に目を向けると、電子・電気機械やその他の輸送機械(航空機および航空機エンジンなど)等のハイテク機器の割合が、日本を含めて各国に輸出されています。
こうした国内事情と貿易における有利な輸出品目を足がかりに、オバマ大統領は、今年の一般教書演説の中で「公共投資拡大」「所得税減税」「建設業支援」「規制の強化(規制緩和ではない)」「雇用創出を目的とした輸出倍増」そして「アメリカの雇用創出のための貿易協定(TPPなど)推進」を経済政策としてかかげました。
要するに、オバマ大統領は新たな「ニューディール政策」を実施し、建設業を中心に国内で需要を生み出そうとしており、「衰退した建設業界に数千もの仕事を与える」とまで明言しています。
さて、次回は、過去の米国の自由化貿易の経緯そして今後の経済戦略、貿易戦略はどうなっていくのかを扱います。お楽しみに

List    投稿者 orisay2 | 2012-02-28 | Posted in 07.新・世界秩序とは?No Comments » 

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