2012-10-18

米国はどのように衰退してゆくのか?(18)〜米国人の精神構造は?その3銃社会から見えるアメリカ人の疑心暗鬼と分裂の予感

 前回の記事では、侵略・虐殺を通して形成された人工国家アメリカにおける人々の精神構造に宗教がどのような役割を果たしているのかについて扱いました。そして、キリスト教への収束の強さは、彼らのお互いへの不信感や自分たちの侵略・虐殺の歴史への罪悪感(不安?)の裏返しであるということがわかりました。
 今回は少し視点を変え、アメリカの特徴である銃社会とそこから見出されるアメリカ人の精神構造に焦点をあてたいと思います。
■倍増する銃売上


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 このグラフは、アメリカの最大手銃メーカースミス&ウェッソンの売上高の推移を示しています。10年前からみるとなんと5倍以上にも伸び、2011年は年間で約4.4億ドル(約350億円)の過去最高値を記録しています。これは、銃価格の平均が32万であることを考えると年間10万丁ものスピードで増えていることがわかります。また、アメリカ全体では2.4億丁の銃が存在し、1.28人に1丁、約4分の3の国民が銃を保有しているそうです。(VMAX未来予想
 2010年のクリスマスにはクリスマスプレゼントとして銃をプレゼントするという光景が多く見られたとのこと。(WEDGE Infinity)日本人の私たちには驚くべきことですが、アメリカではいまや当たり前のよう。
 アメリカ人にとって、銃とは何なのでしょうか?
 また、何故ここ最近急激に銃保持が伸びているのでしょうか?

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■6日に1度の銃乱射事件



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 この図は、2005年からの州別の銃犯罪統計を示しています。イギリスのMail Onlineでは、この地図を「アメリカでは6日に1度、銃乱射による大量殺戮事件が起きている。米国社会での銃暴力の「アウトブレイク」を示す地図」として紹介しています。記事を一部引用します。

 非営利の銃規制団体「プリベント・ガン・バイオレンス」は、2005年から米国で起きた431件の公衆での銃乱射事件に関しての、広範囲のデータを編纂して、地図データを作成した。
 このデータには、2005年以降、アメリカでは 5.9日に1度の割合で銃乱射事件が発生しており、そして1日平均としては、毎日 87人が乱射事件で死にかけていることを示している。
 乱射による大量殺傷事件で、アメリカでもっとも危険な都市はシカゴだ。シカゴ市だけでも 2005年から 17件の乱射事件が発生し、30人が死亡。72人が負傷しているのだ。被害者のうち 13人は公共の場所にいて乱射に巻き込まれた。
In Deepより)

■銃がたくさんあるから発砲事件や乱射事件が起こるのか?

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 では、銃が増えたことで、発砲事件や乱射事件が増えたのでしょうか。この問題に深く切り込んだのが、1999年のコロンバイン高校乱射事件を扱ったマイケル・ムーアのドキュメンタリー映画『ボーリング・フォー・コロンバイン』です。マイケル・ムーアは、カナダはアメリカ以上に銃の普及率が高いのに、銃犯罪の発生率が低いのはなぜなのか?という疑問を持っていました。また、事件の原因として家庭崩壊、貧困、暴力的な映画やゲームなどがやり玉に挙がっていましたが、家庭崩壊についてはイギリスの方が多く、カナダの失業率はアメリカの2倍でした。ゲームに関しては日本が最高。しかし、銃による死者の数はアメリカが、年間1万人台なのに、これらの国は数十〜数百人だったのです。彼は映画の中で、アメリカの銃社会の特殊性を「アメリカ建国の経緯に大きくまといつく先住民族大虐殺・黒人奴隷強制使役以来、アメリカ国民の大勢を占める白人が彼等からの復讐を未来永劫恐れ続ける一種の狂気の連鎖が銃社会容認の根源にある」と結論づけています。
 この映画が発表されてから10年たちましたが、カナダも依然として銃保有率の高い国のひとつですが、2012年の治安のいい国ランキングでカナダは4位、アメリカは88位。(newsclip)動画にもありましたが、どうやらアメリカにおける銃保有の拡大はこの他人・他民族への恐怖が大きい要因とみてよさそうです。(なお、現在ではアメリカの銃産業がカナダの銃規制緩和に圧力をかけている模様。(ふれいざー))
■銃社会の歴史
 上で述べたように、マイケル・ムーアによればアメリカ銃社会の根本には国家形成から続く他人への恐れといったものがあるようです。ここで、アメリカ銃社会の歴史をみてみたいと思います。

[内容]迫害を恐れた欧州の清教徒は新天地アメリカへ行きましたが、インディアンを恐れて皆殺しにしました。しかし安心できない彼らは次は互いを恐れ始め、魔女狩りが起こります。イギリスに勝ち独立に成功するもやはり不安だった彼らは、1787年に憲法を改正し合衆国憲法修正第2条を追加して銃所持を合法化しました。そして奴隷制を編み出して世界一になりますが、200年の間に黒人が増えすぎてしまいます。そして黒人の反乱を恐れたところに、S・コルトが1836年に世界初の回転弾倉式銃を開発しました。その後1865年南北戦争で北部が勝利すると、奴隷が解放されます。疑い深い白人は同年にKKK団を組織しますが、1871年に違法化されるとほぼ同時に全米ライフル協会を設立します。そして初の銃法では黒人の銃所持を禁止しました。その後1950年頃から公民権運動が盛り上がると、白人の黒人に対する恐怖は再燃し、白人は大量の銃を購入しました。
 黒人労働力を利用した三角貿易で発展したアメリカでは、黒人の数が増え、その反乱を恐れて銃の所持が拡大したのです。他人への恐れや疑心暗鬼がアメリカ銃社会をここまで大きくしたということです。だとすれば、黒人やヒスパニック等白人以外の占める割合が拡大している現代でも、その傾向は止まらなさそうです。
■銃規制の議論は?
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 大きな乱射事件が起こるたびに、銃規制の議論が出てきます。しかし、一向に銃規制が進まないのは何故なのでしょうか。日本の政治が脱原発に向かわない裏に原子力村の圧力があるのと同じように、アメリカで銃規制が進まない理由には全米ライフル協会(NRA=National Riffle Association)の存在があります。全米ライフル協会は南北戦争に勝った北部出身者や銃販売者、銃愛好家によって設立されました。ジョージ・W・ブッシュをはじめとして政治家会員も多く、米国有数のロビー団体となっています。その会員数は全米で400万人、年間の政治献金は約7000万ドルにものぼるといわれており、その影響力ははかりしれません。彼らはアメリカ合衆国憲法修正第2条「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であり、国民が武器を所有し携帯する権利は、損なうことができない」を根拠に銃規制に反対し、反抗する政治家には徹底的な圧力をかけています。(Sma-STATION2
 また、アメリカでは銃乱射事件が起こるたびに銃を求める人が増えるという現象があります。日本人の感覚だと、銃の乱射事件が起これば当然世論は規制の方向に進むと考えてしまいますが、アメリカでは逆に、「危険だから自分も持とう」と銃を購入する人が増えるようです。
■何故ここ最近急増しているのか?
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 ここ数年銃の売上の伸び率が高い原因はどこにあるのでしょうか。ひとつは、オバマ政権が見せる銃規制の姿勢からの駆け込み需要だという見方があります。ロイター通信によれば、オバマが初当選を果たした2008年でも、新政権が銃規制に乗り出すと疑心暗鬼になった銃のバイヤーが買いだめに走り、銃の販売額が増大しました。確かに、冒頭のグラフを見てみれば2008年あたりにもひとつの山ができています。そして、2011年からも2期目のオバマがまた銃規制に動くとの思惑から、販売額が増大しているようです。株式市場でも、銃関連銘柄が注目を集めて上昇しているとロイターは報じています。
 しかしVMAX未来予想の筆者は、確かに共和党タカ派でのブッシュから黒人のオバマ大統領に代わったことは、白人至上主義団体である全米ライフル協会や国民にとっての大きな環境変化であるが、それは米国銃社会の一側面でしかないと批判します。

 本当の理由は、長年銃社会で生きてきた米国人の嗅覚が、何かを感じ取っているからでしょう。 
  それは08年に世界を襲った金融津波によって、元々貧富の差が大きかった米国社会が、更にパワーアップして超ウルトラ格差社会に陥ったことが原因ではないでしょうか。ウォール街のOccupy運動に参加するのはごく一部の者たちですが、あれは米国で既に消滅しつつある中流層の人々や、貧しさの無間地獄から抜け出すことのできない貧困層たちの、”憎悪の縮図”なのでしょう。
 貧しい者は、富める者たちに自分の資産をこれ以上収奪されないように武装する。富める者たちは、貧しい者たちが、いつ自分たちの資産を強奪しにくるか知れないから武装する。富める者と貧しい者との間には接触する機会もなく、従ってお互いの疑心暗鬼だけがひたすら増幅していく悪循環に陥っています。
(中略)
 ハリウッドが矢継ぎ早に放った、『ノウイング』や『2012年』といった滅亡モノ映画も、米国人の武装欲求を掻き立てていることに違いありません。食料や飲料水を買い込んで、いざとなったら武装して自宅に立てこもる準備を、たくさんの米国人が進めています。

 これまでの流れを踏まえれば、ここで言われている「貧しい者や富める者の増幅する疑心暗鬼」は白人により強く見られる傾向なのではないでしょうか。上で扱ったコロンバイン高校銃乱射事件や、2012年に起こったシーク教寺院の銃乱射事件コロラド州映画館銃乱射事件を見てもわかるように、銃乱射事件の犯人は相対的にみて、貧しい黒人よりも白人に多いようです。特に、市場原理が拡大する中で増えはじめたプアホワイトと呼ばれる白人の低所得層は、労働市場では黒人やヒスパニック等と競合します。そして貧困層からの強奪を恐れているのもおそらく白人でしょう。そして2008年のリーマンショックはこの状況を更に加速させました。この状況の中で、白人の不安や自我が拡大し、それが銃の売上や乱射事件の増加につながっているのではと考えられます。
■銃社会はアメリカの内戦をひきおこす?


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 米国内にはミリシアと呼ばれる白人至上主義の大規模民兵組織が存在し、民間軍事会社の拡大も進んでいる今、アメリカ国内で内戦が起きる可能性もにわかに論じられています。

 これら一般市民に流通する銃器類は、全米で2億挺にも達するといわれている。 購入の最大の理由は自己防衛だ。
 そして全米には自主的な大規模民兵組織も存在する。ミリシア(市民ミリシア)と呼ばれる人々だ。彼らもまた白人至上主義を標榜しているといわれている。この組織と深く関わっていた人物がテロ事件(オクラホマシティ連邦政府ビル爆破事件。1995年)を起したともいわれている。
 ありていにいえば、彼らは武装集団だ。来るべき第三次世界大戦の勃発に備え、自主的に防衛組織を立ち上げ、日々鍛錬を怠らない。
 所持する銃器類も恐ろしいほど豊富で多様だ。日本人の感覚からは想像も出来ないほど、その仕様も重武装だ。
(中略)
 彼らが本格的な武装蜂起を決意したとき、アメリカはいよいよ未曾有の内戦状態となるかもしれない。

アメリカ分裂と内戦の可能性 (4)さまよえる2億挺の銃より)

 これまで述べてきたように、アメリカ人の精神構造の奥深くに根付いているのは他人への恐怖・疑心暗鬼です。今後、他民族がスピードを増して増加していく中で、また貧富の格差が拡大していく中で、彼らの恐怖は増していくに違いありません。そしてその恐怖が彼らに銃を握らせ、何かをきっかけにして内戦状態に突入することも可能性としては十分あるといえます。そしてひとたび内戦状態になれば、その機会を利用して儲けようとする民間軍事会社はいくらでもいるでしょう。
 今回は銃社会の分析を通じてアメリカ人の精神構造に焦点をあててきましたが、歴史的に見ても彼らは常に何かに強い不安を抱いており、同じ国民さえも信用できず、だからこそ自分を守ってくれる銃に強く執着しているのだということがわかりました。そして近年急速に増加している一種のテロ行為である乱射事件をみると、何かを機に対立が激化し、分裂や内戦に至る可能性も十分に考えられます。あるいは人びとはそれを潜在的に予感しているから銃を求めるのかもしれません。
 次回は、映画などのアメリカ文化から精神構造を分析したいと思います。上での引用文でも、

ハリウッドが矢継ぎ早に放った、『ノウイング』や『2012年』といった滅亡モノ映画も、米国人の武装欲求を掻き立てていることに違いありません。

とあったように、文化が彼らに与える影響もはかりしれません。
その後、今シリーズのまとめを行い、アメリカが今後どのように崩壊していくかを予想していきたいと思います。
おたのしみに

List    投稿者 banba | 2012-10-18 | Posted in 07.新・世界秩序とは?No Comments » 

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